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エピソード②
しおりを挟む「…お二人は、何故私が天使だと分かったんですか?」
鴇色の髪が顔にかかる。頭が桃色、毛先が亜麻色のグラデーションが全体を鳩色に見せている。そんな綺麗な髪は、なかなか見ない。
目は薄く、澄んだ青色。肌の色は不自然な程白く、それでいて唇は髪の鴇色より濃い赤。
着ている服も、白を基調とし、アクセントカラーに鴇色を混ぜた、いい素材の服だ。
天使でなければ、いい所のお嬢さんだと思うのが普通だろう。
「ここいらでは人外が多いんからかなぁ。ここのお隣さんは猫又やし、動物と喋れるやつとか、空飛べるやつとかおるし。」
それに少女は何も言わず、話を逸らすようにして二人の名前を聞いた。
「俺はクロウ。ただの人間や。この村の長をしとる。ほんで、コイツが親友のレイン。こいつも…人間やけど、身体能力はピカイチ。力仕事ならレインに頼んでやー。」
レインはあれっきり何も話さなくなり、目線も合わない。クロウとは違って、取っ付き難いレインを少女はすこし怖く感じた。
「んで、天使さんの名前は? もしかして聞いたら俺…消される?」
「ま、まさか! 私の名前は…リイエルです。」
クロウは大仰な質問をした割に、ふーん、と生返事だけして、軽快な電子音を鳴らしたオーブンへと駆け寄り、その箱から甘い匂いを放つアップルパイを取り出した。
「アツアツやから、ちと冷やそうな。」
出されたものについ目線で追っていたリイエルに、クロウは笑ってそう言う。
粗熱をとってる間、さっきの続きと言わんばかりにクロウはまた椅子に座って話し始めた。
「リイエル様はここいらに林檎がなくて倒れてもうたん?」
「様なんて、リイエルとお呼びください。恥ずかしながら体力には自信がなくて…訳あってこの辺に来たんですが、どこにも街が見つからずこの様です。」
レインはリイエルの話の途中で立ち上がり、何も言わず扉の向こうへと消えてしまった。
クロウはそれを目で追っていたが、気にしないでとでも言うかのように、リイエルの話に相槌を打つだけだった。
「それは災難やなぁ。ここいらは森が深すぎるからな。」
暫くクロウはここら辺のことについて話し、話終えた頃にはもうアップルパイは冷めていた。
「ほな、紅茶でも淹れて食べますか。」
自分の分まで取り分けて、目の前で食べてみせることで毒の心配はないという証明をするクロウに、リイエルは心を溶かしはじめていた。
「いただきます。」
天使の好物は林檎だ。人間のように生きるために必要なものではないが、聖なる力が溢れる楽園へと帰れない天使はこうして体力を戻していく。
「美味しい…!」
思わずそう言ってしまうほどの美味しさにリイエルの手は止まらなかった。
気付けば殆どを平らげ、時間が経てば経つほど、体に力が戻ってきているのを感じる。
(…最初にクロウさんが私を挑発したのも無理はない。だって、私の方が得体が知れないんだもの。)
リイエルが何かしらの元凶になるかもしれないのに、それでも助けてくれた二人は心の強い人間だ。
「ありがとうございます。とっても美味しかったです。」
リイエルは皿を下げているクロウに声をかけると、クロウは笑ってどういたしまして、と答えた。
「まだ昼時やけど、寝とく? この部屋は寮だからいくらでも好きに使ってくれて構わんから。」
完全に力が戻ってきたのを感じたリイエルは、出ていこうとするクロウを引き留めた。
急に引き留められて不思議そうにしているクロウを他所に、リイエルは立ち上がりいきなりその場に風を起こさせた。
「っ!?」
驚いて思わず目を瞑ってしまったクロウの前に、リイエルは自分の背中に四つの大きな翼を生えさせた。
「これが、私の本来の姿です。私は訳あって人間の傍にお付きしている天使です。見えても死んだりはしません。それに、力も殆ど使えません。なので、安心してください。明日には出ていきます。今日はありがとうございました。」
クロウのように、取って喰ったりはしないと証明するためにとった行動だった。
それに、得体が知れないからと攻撃されてしまえば…リイエルもそうするしか無くなるのが、嫌だったからだ。
「いやー…驚いた。ほんまに天使やんか。えらい大きい羽根やな…普通の天使ちゃうやろ。」
「…はい。大天使と言う位に就かせて頂いています。皆さんの知る天使はその一個下、一介天使です。」
人間にあまりこの姿を見せたことが無い上、関心されてしまい、気恥しさを覚えたリイエルは視線を逸らした。
「…そっか。顔色も良くなったみたいやし、もう一晩泊まっていきゃあよ。俺は、居てくれた方が嬉しい。目の保養やし、村の人々もこんな癒しが欲しいやろ。明日はちと外に出てみ。」
やけに柔らかい笑顔を見せるクロウはお人好しなのだろう。
何にせよ、リイエルはそのクロウの人情深さに救われたのだった。
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