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エピソード③
しおりを挟むその後、クロウが出ていって暫く経った。
睡眠を取って回復したリイエルは、ベランダにでて夕暮れ時の空を見つめた。
「…綺麗。」
橙と、少しだけ紫がかった空。夕日は燃えるように赤く、昼に見た時よりずっと大きくて、見ていると惹き込まれそうだった。
「…あかつきに、燃える花
咲き笑う石楠花に
手を伸ばせば染まる…」
リイエルの鴇色の髪が風に靡く。
鴇より濃い赤色の口から放たれるその歌は、誰をも魅了する。
鈴を転がしたような、綺麗で繊細な歌声。
「…芍薬も 貴方の前では花開く
人知れず 緋色に留まる…」
人目を気にしていないのか、はたまた人がいると知らないのか、リイエルはベランダの手すりに腰をかけ、大きく羽根を伸ばす。
少女のように足を揺らしているその姿に似つかわしく、歌声は酷く悲愴的で…それでいて、とても優しい。
そんな歌声につられてやってきた巣へ帰る途中の小鳥が、差し出したリイエルの指に留まる。
「森へ帰る時間じゃないの? 置いていかれたら大変よ。」
指に乗っかった鳥は甘えるように隣の指に頭を擦りつけ、リイエルの目を見た。
「私? わたしのお家はここなの。ほら、みんな呼んでるわ。それじゃあね、可愛いことりさん。」
鳥は小さく鳴くと、その指から飛び立った。
鳥は山へと消えて、夕日もすっかり沈んでしまっていた。
歌った反動か、また少しだけ疲れてしまいそっとベランダから降りると大人しく部屋へ戻るリイエル。
…カタッ、
何かにぶつかる音が聞こえたが、リイエルからではない。
不審に思ったが、人がいるとは思っていなかったリイエルは、気の所為だろうと窓を閉め、再びベットへ潜り込んだ。
「クロウさん、優しい人。明日は彼に歌ってあげようかな…って、怒られちゃうよね。」
怒ってくれる相手も居ないのだけれど、と呟いた言葉は押し付けた枕に吸収されて、誰にも届かなかった。
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