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初恋を捨てられない俺は、もう恋などできないと思ってた。

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 ん……今、何時?

 何か、久しぶりにゆっくり眠った、かも──。

「目が覚めたか?」

「……え?あ、リュウ……?嘘、まだ膝枕してくれて……あ、足、痺れちゃったでしょう!?」

「まぁ。でも、そんなの気にしなくていい。お前がよく眠れたなら。」

「あ、りがとう。」

 リュウ……俺の事、男の癖に誰かに抱かれた気持ち悪い奴とか、そうは思わないのかな。

 いや、あえて触れないようにしてくれてるのか……。

「わ……もう十一時じゃないか。リュウ……学校は?」

「……サボった。」

「やだ、それ俺が原因じゃん。あ、でもその前にお酒……女の人……あ~……。」

「……ヒロが困るなら、もう酒と女は辞める。学校も……昼から行くよ。家には……。」

「帰りたくない感じ?」

「嫌だが……夜にはちゃんと帰るようにする。」

 眉を顰め、ムスッとした顔でそう話す彼に……体つきはよっぽど俺よりも逞しくて、背も高くて大人っぽいのに、やっぱりまだ十八で、俺より年下なのだと思い知らされた。

「じゃあさ、学校が終って夜暗くなる前まで……ここに居る?どこかでブラついてお金使うくらいなら、ここにおいでよ。」

「……いいのか?」

「うん。父さんも、文句言わない。あの人は、どんなお客さんも受け入れる人だから。」

「じゃあ、そうさせて貰う。」

 そう言って笑みを浮かべた彼を見て……何故だか、俺の心がトクンと震えた──。

※※※

 そしてその日から、高校を卒業するまで……彼は夕方ふらりと店に現れては、本を読んだり、俺や父さんと話をしたりして過ごした──。

「お前……最近、顔色が良くなったな。ここ数年は、暗い顔して……いや、店にいる間は笑ってるが……でも、心からの笑顔は見てなかったからな。それが、最近ちょっと変わって来たな。」

「父さん……。俺、そんななったんだ。」

「俺はこの店のマスターで、お前の父親だからな。そうなったのも……あの子のおかげかな。」

「……どう、だろうね。」

 あの子、とは……リュウの事、だろうな。

 でも最近、リュウがここに顔を出す事は、めっきり減ってしまった。

 仕方ないよな……大学、忙しいんだろうな。

 あと、早く自立してあの家を出たいから、バイトいくつも掛け持ちしてるって言ってたし。

 まぁ、変な女と遊んでないなら、俺は、それで──って、彼がどんな女の子と付き合おうが、そんな事、俺が口を挟める立場じゃ……。

 ちょっと仲良くなった、ただの年上のお兄さんで……俺はあいつと違って学生じゃない、この店の手伝いをしてる……半端な社会人みたいなもので立場も違うし……。

 あんまりしつこくして、彼に嫌われるのも……ん──?

 何で……リュウに嫌われるのが嫌だと思ったんだ?

 あ……駄目だ。
 もうこれ以上、この事考えるのは辞めよう。

 何か……俺が、俺じゃなくなっちゃいそうだから──。
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