ウチのメイドがお嫁に出るので、没落貴族の俺が死にかけ奴隷を購入したら記憶喪失でなんだか様子がおかしくて…?

蔓巍ゆんた

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本編

13 懇願

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 それは夜半過ぎのことだった。

 セレスとの別離を考えると落ち着かず、ついつい酒に逃げ夜中にもよおした。
 かわやで用を済ませ部屋に戻る時に何処からか苦しみ悶える声が聞こえてきた。

「…なんだ?」

 疑問に思い確めるためその声が聴こえる場所にアルヴィンが足を向ける。
 そこはレドに与えた部屋だった。使用人用のこじんまりとした部屋だがそこそこ広く、生活必需品しか置いていないその部屋は整理されて清潔だった。
 暗闇の中、手元の燭台でベッドを照らす。
 そこには全身から汗を噴き出して苦痛に身悶えるレドがいた。

「…!?………レド、レド。どうした?何処が苦しい?痛い所でもあるのか?」

 あまりの苦しみようにアルヴィンは心配になりキャビネットの上に燭台を置くとレドを揺さぶり起こした。

「レド…起きろ…レド…」
「…っ!?……は…!?あっ…!?…ご、ご主人様…!?」

 目を覚ましたレドは瞳を大きく開き、滂沱の涙を流した。夢に引きづられているのか、胸を掻きむしり震えている。

「どうした、過去の夢でも見たのか?」
「う、うぅっ…。…あぁっ…お、俺は…恐ろしいのです…!ご主人様…!」

 怯え、掠れた声のレドを見兼ねて、その涙を拭う。しかしそれは止まる事なく流れ、枯れ果ててしまうのではとアルヴィンは思った。

「よしよし…そんなに辛そうに泣くな、レド。ここにはお前を脅かすものなど存在しない」

 アルヴィンはベッドの縁に座ると哀れな奴隷を膝に抱き寄せた。
 優しく頭を梳いてやる。レドは震えながら顔を両手で覆った。

「いいえ、いいえ…っ!この身に何かが巣食っている…!…俺は生きていては駄目なのです…あの場で…死んでいなければ…いけなかった…」

 悲痛な声だった。何かにとても怯えていた。
 そんなレドを落ち着かせるためにアルヴィンはゆっくり優しく声を落とす。

「そんな事はない。俺はお前が生きていてくれて嬉しいぞ?…何がいると言うんだ。此処には俺とお前しかいないじゃないか」

 その言葉を聞き、レドはアルヴィンに強くしがみついた。
 まるで溺れる者のように。

「恐ろしいものです…とてもっ、恐ろしい…。ご主人様、どうか、どうか、俺を……殺してください…」

「!?」

 搾り出すような声だった。
 その眼には強い決意が宿っていた。

「今ならまだ……この身の支配者である貴方ならば、俺を、殺せます…。殺せる、はずです!どうか、お願い致します…ご主人様っ…」

「ならん」

 考える前に言葉が出て、アルヴィンはレドの必死な言葉を跳ね除けた。
 むしろ自身のものであるその身を勝手に死にやろうとしている事に強い怒りを覚えた。

「!?…どうして、…ころしてください…。ころして…」

「お前が死ぬ事を俺は許さない」
 
 涙に濡れた金眼を見開き、レドはアルヴィンを見上げる。

「お前になんの罪があるんだ」

「………わかりません。思い出せない…。でも、何か、とてつもなく悪いことをしたのかも…」

「お前はそんな事はしないよ。見れば分かる。お前は悪くない。悪くないんだ」

「………そうだ。…俺は悪くない。なのに、アイツら…おれに……無実だったのに…。あんな…ひどい、ひどい」

 アルヴィンの言葉にどこかぼんやりとした雰囲気になったレドはボソボソと喋った。
 レドの涙は止まらない。
 その様子にどんな事が行われたのかは想像に難くなかった。
 アルヴィンは夢の中を彷徨っているかのようなレドに憐れみと愛おしさが湧いた。

「よく耐えたな。生きていて偉いぞ。よく俺の元に来た」

「………」

 純真な曇りのない眼で見上げてくるレドにアルヴィンは強く言葉を放った。

「お前は俺のものだ。死ぬまで………死んでも、側にいろ」

「あぁ…」

 レドの口から溢れたその声には深い絶望と歓喜が含まれていた。

「俺の側から離れる事は許さない」

「あは。…ご主人様……ごしゅじんさまぁ…。嬉しいです…。嬉しい…」

 先程までの悲壮感を消し、レドは涙でぐちゃぐちゃの顔をほころばせた。
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