ウチのメイドがお嫁に出るので、没落貴族の俺が死にかけ奴隷を購入したら記憶喪失でなんだか様子がおかしくて…?

蔓巍ゆんた

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本編

15 残念です…。

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 約束の時刻よりも幾分早くその馬車は到着した。
 華美では無いが造りがしっかりとした頑強な馬車であった。
 そこから茶髪のひょろりと背の高い、優しげな人物が降りてきた。
 その姿をみてセレスは嬉しそうに名を呼んだ。

「ポール様!」

 久しぶりの再会に喜ぶセレスに水を掛けるような声が隣から上がる。

「あははははははははははははっ」

 ポールを初めて見たレドは盛大に笑った。
 セレスの腹を見て感じていたものが予想通りで可笑しくなったのだ。
 セレスは驚きと困惑でレドを振り返り、駆け寄ろうとした足を止めた。

「素晴らしいですね。人間にしか見えません」

 2人の姿を視界に入れ近づいてきたポールは、圧倒的強者がアルヴィンがわについたとみて諦めの表情を浮かべた。
 レドがポールの正体を理解したのと同じように、ポールもまたレドが何者であるかを理解したのだった。

「…こう来ましたか。もう少しだったのになぁ。本当に残念です」
「おや、ここまできて諦めるのですか?随分と長い時間をかけてきたようですけれど」

 分かりきった事なのに挑発する言葉をレドは放った。
 ポールは呆れながらも首を振る。その仕草はとても人間らしかった。

「貴方のような者が現れてしまってはとても私では敵いません。それに目的も大分変わってきてしまったので。彼はおまけ程度の価値になっていましたから。本命の邪魔さえしなければ潔く諦めます。二兎を追う者は一兎をも得ずと言いますしね」
「それは良かった。まだ本調子では無いので助かります」

 ポールが自分自身の力量を鑑みて無謀な事はしないであろうと納得したレドは満足げに笑った。ポールは苦笑する。

「なにを仰るのやら。貴方ならばどの様な事も望みのままでしょう」
「そうでもありません。受肉したのは初めてで、中々慣れずに腐りかけました。隷属紋まで刻まれてご主人様の意のままです」

 レド程の者でも肉に降されると苦労するのだな。と知見を広めたポールはうやうやしく頭を下げた。

「それはそれは。大変でございましたね。…これも彼の能力なのでしょうか。幸運なのか、悪運なのか。とうとう食いっぱぐれました。完敗です」
「上質な肉はそれだけで意味があると言う事です。聖女の加護を受け貴殿のわざわいからも逃げてきたそうではありませんか。その様な幸運の者が上質な肉になるのか、はたまた上質な肉だからその様な幸運に恵まれるのかは分かりませんがね」
御尤ごもっともです。やれやれ、ままなりませんなぁ」

 人外達の世間話は続く。

「あははっ。でも、楽しいでしょう?」
「ええ、そうですね。…1番面白いのは、私が彼女に夢中だと言う事実ですが」
「おや!そうなのですか!それは面白い」
「姦通すれば聖女の力も消えると思いましたがこの有様です。どうやら肉体の持ち主の感情に引きづられるみたいですね。厄介だった聖女の力も、私の子が大きくなるに連れ流石に弱まっている様ですがね」

 そうしてようやく聖女の加護が無くなろうという時に、厄災を連れてくるとは。恐れ入る。そうポールは思った。

「彼女の加護が無くなった所で彼をパクリとするつもりだったのですか。これはとんだ邪魔をしてしまって申し訳ない」

 謝罪の言葉をレドは口にしているが、形だけであり、全く本心でない事をポールはレドの表情を見て理解していた。

「口だけの謝罪など必要ありませんよ。…ただし、彼女との事は邪魔しないで頂きたい」
「そうですね。お互いの領域には不可侵と言う事で手打ちに致しましょう」

 それを聞き、安堵の息を吐いた。
 長年その肉を口にしようと画策してきた獲物はポールの手からこぼれ落ちた。
 しかしその過程で強く欲しいと望んだは手に入るのだ。
 それだけでポールは満足だった。


「……さっきからお二人は何のお話をしているのでしょうか…?…まるで、2人とも、人では…ないかのような…」


 ポールが望んだ女が困惑し、か細い声をこぼした。
 それに笑みを浮かべ、答える。

「何でもありませんよ、愛しい人」

「大した話ではないですよ、セレス。それよりもそろそろ昼食にしましょうか」

 2人の瞳が怪しく光り、セレスの瞳孔が開いた。数秒後、彼女の中では彼等の不穏な会話の内容はなくなった。

「…ふふっ。2人とも初対面なのにそんなに楽しそうにお喋りして。さぁさぁ、準備は整っていますからどうぞこちらに。アルヴィン様もお待ちですわ」

 朗らかに笑いセレスはポールの手を引いた。

「愛しいセレス。君の料理はこの世で最も美味しい物だから、楽しみだ」
「まぁ!ポール様ったら!」
「あはは。仲良きことは美しきかな」

 例えその胎の中身が化け物の子であろうとも。


 
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