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それが始まりだった
ポール 1
しおりを挟むポールの眼前には美しい庭園が広がる。
今日はお得意先のヴェストルフ家に訪れていた。
今年18歳になるポールは成人として両親と共に商談に参加していた。しかし、まだまだ未熟者なポールは話が深まってくると「この屋敷は庭園にとてもこだわっているんだ。少し見てきたらどうかな?」とていよく追い出されてしまった。
密談から追い出された悔しい気持ちが湧いたが同時に少しだけホッとしていた。学院から卒業したばかりで家業を継いでいくのだという覚悟はまだ決まっていない。
小さい頃から薄ぼんやりと自身の未来はわかっていた。だが実際に大人として仕事を任せられるようになるとこのまま一生をここで終えるのかと考えてしまう。
そんな悩みを抱き風に揺れる花々を眺めていた時だった。
ガサッと黒い何かがとてつもない速さで目の前を横切った。
黒猫かと驚き目で追うと、微かに屋敷の中に消えていく黒髪の少年の姿が写った。
「……なんだ?」
「アルヴィン様!アルヴィン!!待ってーー!!……きゃあ!?」
「!?」
頭上から悲鳴が聞こえる。
驚いて上を見上げた。
ポールの目に、ふわりと広がるスカートが軽やかに舞った。
木の上から小さな少女が落ちてくる。
ゆっくりと広がる銀髪が太陽の光を受け、キラキラと輝いた。
驚きに見開かれた、その広がる青空を小さく詰め込んだような瞳がポールの姿を写す。
一瞬のことなのに、永遠に続いていくかのような気がした。
しかし、その体が思いっきりポールにぶつかり地面に倒れた衝撃で現実に意識が帰ってきた。
「ひゃはぁぁ!!」
「っ!?うわっ!!」
思いっきり地面に頭をぶつけ、痛みで目の前がチカチカする。そんなポールの腹の上には、上から降ってきた少女がとても申し訳なさそうにこちらを見つめていた。
「も、申し訳ありません!お客様の上に落ちるだなんて!…あぁ!お怪我をされてしまいましたか!」
「…いや、…」
腹の上に乗っていても大層軽いこの少女はいったい何歳ぐらいだろうか。
罪悪感に潤ませる目がとても可愛いと思った。
小さな手がポールの頭を確かめるように撫でる。じんわりと何か心地よい感覚が広がったが、相変わらずズキズキとした痛みは続いた。
少女の服装はよく見ると、侍女のものだ。
「痛いですか?痛いですよね?…あぁ!私のせいで申し訳ありません!!」
立場的なものではなく、ただただポールの身体を心配している。その様子になぜだか心が疼いた。
「大した事はないよ…君は怪我してないかい?」
「わ、わたしはどこも痛くありません…その…受け止めていただいたので…」
膨れ始めたたんこぶを隠すように少女の手を取った。特に受け止めた訳ではなかったが下敷きになった事が、少女にとって助けてもらったと言う解釈になったようだ。
ポールが半身を起こすと脚の上に少女がずれ落ちる。
見下ろす少女は恥ずかしそうに頬を赤く染め、ポールを見上げた。
「その…助けていただいて…ありがとうございました」
はにかむように微笑んだ彼女の笑顔がポールの脳裏に焼きついた。
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