【短編集】世界が見た恋の話

幽美 有明

文字の大きさ
5 / 26
カメラが写す景色~キミと視るセカイの在り方~

後輩のファインダーを覗く理由

しおりを挟む
 春の入学式、夏の体育祭が終わり。秋の文化祭がやって来た。部員数が少なかろうと、写真部展をしなくてはいけない。去年までは俺一人の写真しかなかったが、今年は後輩の写真も混ざっている。
 風景写真の中に混じる人間の写った写真。
 去年まではありえなかった光景で、夏までの俺なら見ることすら苦痛だった写真だが。
 今は嫌な気分にはなるものの普通に見ることができていた。後輩に、

「それは先輩が人間の醜い部分しか見ようとしてないからなんじゃないですか?」

 と、言われてから。嫌々ながらもファインダー越しに人間を見るようにしていた。
 ファインダー越しに見える景色は、感情の機微によって多少彩られ見られるようにはなった。
 が、やはり人間は醜くく見えて仕方がなかった。

「お昼はステージ発表がありますし、今のうちにご飯食べちゃいませんか?」
「そうだな。今なら空いてるだろうし」

 体育館の屋台、教室でやってる喫茶店。後輩が落ち着いて食事をしたいというので、喫茶店に足を運んだ。

「ナポリタン二つに、ケーキ二つお願いします」

 後輩に注文を任せ、俺は窓の外の景色を眺める。

「先輩、何見てるんですか?」
「空だ」
「目の保養ですか」
「そんな感じだ」

 後輩と会話が長く続いたことはない。部活動中は無言で写真を撮るだけだからな。行事でもなければ、一緒に行動して話すことはない。
 後輩は撮った写真の確認をし、俺は窓の外を眺める。
 ふと、後輩はなぜ写真を撮るのか気になった。体育祭の時は聞きそびれてしまったからな。

「後輩」
「はい、なんですか先輩」
「お前なんで写真を撮るんだ。聞いてなかったと思ってな」
「私の理由ですか。単純ですよ、写真なら思い出は消えないからです」
「思い出?」
「はい。写真を見返せば、その時の思い出が蘇ることってよくあるじゃないですか」
「そうだな」
「もし忘れてしまっても、もし今失ってるものでも。写真だけは思い出を記憶し続けて、写真の中の物は失われません」
「写真があれば私は一人じゃないんです」

 その瞬間、後輩の顔が悲しみの色を見せた。
 人間の感情の機微を見るようになったから、気づいたものだろう。

「それに、悲しい時でも。楽しかったときの写真を見れば、思い出して楽しくなりますから。思い出を残すために私は写真を撮るんです。なので人物写真が多めですね」
「そうなんだな」
「そうなんです。ってどうしたんですか、先輩暗い顔して」
「何?」

 俺が暗い顔をしているだと。窓に映る俺の顔は確かに暗い表情をしていた。だが何故だ?

「自分でもわからないんですか?」
「ああ、わからない。もしかしたら、人を見すぎたかもな」
「なんですかその理由」

 クスクスと笑う後輩の姿は、窓の外の景色と同じくらい綺麗だった。
 文化祭で撮った写真の中で、一番綺麗だったのは。風景写真ではなく遠くで友人と笑いあう後輩を写した写真だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

処理中です...