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カメラが写す景色~キミと視るセカイの在り方~
カメラが写す景色
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秋が終われば冬が来る。
卒業式、春と言うよりは冬の行事に分類されるだろう。
三年生である俺は当然見送られる側になる。
卒業式はなんてことなく終わった。泣くこともなく、感慨深いとも思わなかった。ただ過行く時に身を任せていただけだ。
卒業叢書を入れた筒を地面に置いて、俺はカメラを構える。卒業生も、在校生もみんな帰ってしまって。残っているのは教員しかいない。静かな学校をファインダー越しに見つめる。
枯れ木が風に揺れ、時折吹く強風で落ち葉が舞い上がる。暗色に包まれた世界で、ファインダーが真っ暗になった。
カメラから顔を上げると、そこには後輩がいた。
「なんだ、帰っていなかったのか」
「そう言う先輩こそ。まだ残ってるじゃないですか」
「俺は人間が誰も居なくなるのを待ってたらこんな時間になっただけだ。お前はなんでいる」
「私も写真を撮るためですよ。先輩と違ってもう撮っちゃいましたけど。見ます?」
「興味ない。と言うか写真を撮る邪魔をするな」
「先輩が写真を見てくれたらどいてあげます」
「はぁ。わかった見せろ」
「はい」
後輩から差し出されたカメラのデータを見る。今日保存された写真はたったの一枚だけ。
後輩のことだ、玄関から出てくる卒業生の写真でも撮ったんだろう。
一枚だけある写真を、選択し表示する。
表示されていた写真には、大勢の生徒の姿や親の姿がぼやけて写っていた。ピントは大勢いる生徒には向けられていなかった。
写真の中ではっきりと写しだされた、後輩のピントを向けた人物。それは、枯れ木のそばでつまらなさそうに空を眺める俺だった。
撮った人間も、季節も構図も違うが。それは俺が春に取った、後輩を写した写真に似ていた。
「どういうことだ」
「どういうことも何も、先輩を撮ったんですよ」
「俺を?」
「今日撮りたかった思い出は先輩との思い出だったから」
後輩のカメラを返す。
「俺を撮ったって、思い出にならないだろ」
「これからなるんですよ。ねぇ先輩、好きです」
好き。その言葉の意味は分かる。だからこそ状況が分からい。後輩が俺を好きだという状況が理解できないのだ。
「入学式の日、私先輩が写真撮ってるの見たんです。ただ風景の写真を撮る先輩の姿がすごく印象に残ってて。もっと近くで先輩が見たくて、写真部に入部したんです。丁度カメラもありましたし」
俺は黙って後輩の話を聞く。
「一年間、ずっと先輩の側にいて。先輩の写真を撮って。どんどん先輩のことが気になるようになって。昨日一年間撮った先輩の写真見て気づいたんです。私先輩のことが好きなんだなって」
自分のカメラに保存されている写真を見る。入学式、体育祭、文化祭。三枚しか保存されていない、風景以外の後輩の写真。
墜ちる桜の花を見つめる、切ない表情の後輩。
体育祭のカメラを構える、真剣な表彰の後輩。
文化祭の友達と話してる、楽しい表情の後輩。
どんな景色の写真よりも、見とれてしまう写真。後輩の表情から目が離せなくなる。名もなき感情の名が分かった。
「先輩、興味とかなさそうだし断られてもいいんです」
後輩の声が震えている。
「それでも、思い出に、なるから」
カメラを構え、ファインダーを覗く。後輩は悲しみの表情を浮かべ目を瞑っている。目じりから涙のしずくが流れ落ちる。
その瞬間を、
『カシャ』
写真に残す。
「え?」
ファインダーから見える後輩の顔は困惑に満ちていた、
『カシャ』
その表情を思い出として写真に残す。
「俺は醜い人が嫌いだ。だが、後輩。お前だけは、嫌いじゃない。俺のカメラが写す人は後輩だけがいい。どんな景色よりも、後輩の写真が撮りたい」
「せん、ぱい」
「俺もお前が好きらしい」
俺のカメラが写す景色は、これから先ずっと後輩が写っていく。
卒業式、春と言うよりは冬の行事に分類されるだろう。
三年生である俺は当然見送られる側になる。
卒業式はなんてことなく終わった。泣くこともなく、感慨深いとも思わなかった。ただ過行く時に身を任せていただけだ。
卒業叢書を入れた筒を地面に置いて、俺はカメラを構える。卒業生も、在校生もみんな帰ってしまって。残っているのは教員しかいない。静かな学校をファインダー越しに見つめる。
枯れ木が風に揺れ、時折吹く強風で落ち葉が舞い上がる。暗色に包まれた世界で、ファインダーが真っ暗になった。
カメラから顔を上げると、そこには後輩がいた。
「なんだ、帰っていなかったのか」
「そう言う先輩こそ。まだ残ってるじゃないですか」
「俺は人間が誰も居なくなるのを待ってたらこんな時間になっただけだ。お前はなんでいる」
「私も写真を撮るためですよ。先輩と違ってもう撮っちゃいましたけど。見ます?」
「興味ない。と言うか写真を撮る邪魔をするな」
「先輩が写真を見てくれたらどいてあげます」
「はぁ。わかった見せろ」
「はい」
後輩から差し出されたカメラのデータを見る。今日保存された写真はたったの一枚だけ。
後輩のことだ、玄関から出てくる卒業生の写真でも撮ったんだろう。
一枚だけある写真を、選択し表示する。
表示されていた写真には、大勢の生徒の姿や親の姿がぼやけて写っていた。ピントは大勢いる生徒には向けられていなかった。
写真の中ではっきりと写しだされた、後輩のピントを向けた人物。それは、枯れ木のそばでつまらなさそうに空を眺める俺だった。
撮った人間も、季節も構図も違うが。それは俺が春に取った、後輩を写した写真に似ていた。
「どういうことだ」
「どういうことも何も、先輩を撮ったんですよ」
「俺を?」
「今日撮りたかった思い出は先輩との思い出だったから」
後輩のカメラを返す。
「俺を撮ったって、思い出にならないだろ」
「これからなるんですよ。ねぇ先輩、好きです」
好き。その言葉の意味は分かる。だからこそ状況が分からい。後輩が俺を好きだという状況が理解できないのだ。
「入学式の日、私先輩が写真撮ってるの見たんです。ただ風景の写真を撮る先輩の姿がすごく印象に残ってて。もっと近くで先輩が見たくて、写真部に入部したんです。丁度カメラもありましたし」
俺は黙って後輩の話を聞く。
「一年間、ずっと先輩の側にいて。先輩の写真を撮って。どんどん先輩のことが気になるようになって。昨日一年間撮った先輩の写真見て気づいたんです。私先輩のことが好きなんだなって」
自分のカメラに保存されている写真を見る。入学式、体育祭、文化祭。三枚しか保存されていない、風景以外の後輩の写真。
墜ちる桜の花を見つめる、切ない表情の後輩。
体育祭のカメラを構える、真剣な表彰の後輩。
文化祭の友達と話してる、楽しい表情の後輩。
どんな景色の写真よりも、見とれてしまう写真。後輩の表情から目が離せなくなる。名もなき感情の名が分かった。
「先輩、興味とかなさそうだし断られてもいいんです」
後輩の声が震えている。
「それでも、思い出に、なるから」
カメラを構え、ファインダーを覗く。後輩は悲しみの表情を浮かべ目を瞑っている。目じりから涙のしずくが流れ落ちる。
その瞬間を、
『カシャ』
写真に残す。
「え?」
ファインダーから見える後輩の顔は困惑に満ちていた、
『カシャ』
その表情を思い出として写真に残す。
「俺は醜い人が嫌いだ。だが、後輩。お前だけは、嫌いじゃない。俺のカメラが写す人は後輩だけがいい。どんな景色よりも、後輩の写真が撮りたい」
「せん、ぱい」
「俺もお前が好きらしい」
俺のカメラが写す景色は、これから先ずっと後輩が写っていく。
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