聖女召喚ほのぼの異世界救済旅|アルマジロは白ユリを背負う

むくちなえみこ

文字の大きさ
1 / 3
第一章

1 休みの日は昼まで寝たい

しおりを挟む
「聖女様」

眠りの底に沈んでいた意識が、半ば強制的に立たされる。

「聖女様、お目覚めください」

頭上から降り注ぐやけに良い男の声。しかし、ユリは、ふわふわのお布団を引っ張り、頭の天辺まで覆い被せると、不機嫌そうな呻き声を漏らした。

「うるさい。今、何時だと思ってんのよ」

感覚的には、まだ早朝である。重い頭が、今日が休日であることをズキズキと訴えてくる。

「どうか、お願いいたします」
「だから、まだ眠いんだってば。今日は日曜よ」
「・・・・・・我が名は、ファオラーン・ゾシュカ・ルーストルーニャ。ルーストルーニャ大聖国第一王子にして、この度のルーストルーニャ大聖国及びアヌバベッ魔王国両国間における聖女様御召喚の儀検討議会の認証を受け、ルーストルーニャ大聖国国王レヴォーヴ・ミロ・ルーストルーニャにより聖女様御召喚管理官の任命を承った、貴殿の・・・・・・」
「あああ!」

ユリは叫びながら布団を足で跳ね除けた。跳ね除けただけで未だ大の字に寝ころびながら、眠気眼で声のする方をぎろりと見やる。
見知らぬ男が、じっとこちらを見下ろしていた。

「いやぁあぁああ!!」

金切り声と共に響き渡る激しい破裂音。気づけば、ユリは利き手に力を込めて、男の顔面目掛けて思い切り振りかぶっていた。
眩しいほどに輝く金髪に、青空のように澄み切った碧眼。くっきりとした目鼻立ちは、絵に描いたように美しく、膝をついていてもかなり背の高いことがわかる。彼が着ている堅苦しい服に飾られた勲章や金糸をふんだんに使った飾緒からして軍人だろうか。鍛え抜かれているであろう屈強な身体と太い首のおかげか、ユリの全力の張り手でも、その美しい顔は全くぶれなることがない。それどころか、男はユリの両肩に手を置き、ぐっと押し込んだ。

「落ち着いてください、聖女様」
「いや! 変態!」
「我が名は、ファオラーン・ゾシュカ・ルーストルーニャ。ルーストルーニャ大聖国第一王子にして」
「離して!」

ユリは暴れた。手足をばたつかせ、男の拘束から逃れると、脇目も降らずに走り出した。部屋の扉に向かっているつもりだった。

「どこよ、ここ!」

見慣れた六畳一間はない。異様に明るく開けた空間、一面に広がる磨き上げられた大理石の床、巨大な柱や壁に施された本物と見紛うほどの繊細な彫刻、溜息が出るほどに美しい絵画と金細工に覆われた天井・・・・・・。
走りながらユリは目を疑った。

「わたしの部屋じゃない!」

写真や映像でしか見たことのない、まるで西欧にある大聖堂のようだ。
しかも、部屋にいるのは男だけではなかった。他にも知らない人間が遠巻きに何人も自分を見ているではないか。

「聖女様!」
「お待ちください、聖女様!」
「聖女様・・・・・・!」

逃げ回るユリを抑えようと、何本もの腕が伸びてくる。
ユリは拳骨を突き出し、肩をぐるぐる回して、地団太を踏んだ。その間に、真白に光る四角く象られた出口を視界の端に捕らえると、再び走り出した。

ぺたぺたぺたぺた。
ぺたぺたぺたぺた。

遠くに見える出口に向かって、ユリは身廊をひたすら裸足で走り続ける。寝ぐせで跳ね散らかった髪を振り乱し、叫びながら、パジャマ姿で走りに走った。

「どこよ、ここ! 出口、遠過ぎ!」

目前にやっと近づいてきた重苦しい扉は優に10メートルは越えていそうだ。見上げてもまだ全容がわからないほどに大きく頑丈なそれは、幸運にも開かれている。その向こうに垣間見える晴れ渡った大空に、ユリは大声で叫んだ。

「早くここから逃げ出さなきゃ。きっと、寝てる間にかどわかされたに違いないわ。何とか知っている人を見つけて、通報してもらうのよ。そして、全身隈なく病院で検査してもらって、あの男から慰謝料をむしりとってやるんだ。 頭髪からケツ毛にいたるまで一本残らず!」

と、外気が頬を撫でた。その瞬間、うなじに衝撃を感じたかと思うと、ユリはあっけなく意識を失った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...