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第一章
1 休みの日は昼まで寝たい
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「聖女様」
眠りの底に沈んでいた意識が、半ば強制的に立たされる。
「聖女様、お目覚めください」
頭上から降り注ぐやけに良い男の声。しかし、ユリは、ふわふわのお布団を引っ張り、頭の天辺まで覆い被せると、不機嫌そうな呻き声を漏らした。
「うるさい。今、何時だと思ってんのよ」
感覚的には、まだ早朝である。重い頭が、今日が休日であることをズキズキと訴えてくる。
「どうか、お願いいたします」
「だから、まだ眠いんだってば。今日は日曜よ」
「・・・・・・我が名は、ファオラーン・ゾシュカ・ルーストルーニャ。ルーストルーニャ大聖国第一王子にして、この度のルーストルーニャ大聖国及びアヌバベッ魔王国両国間における聖女様御召喚の儀検討議会の認証を受け、ルーストルーニャ大聖国国王レヴォーヴ・ミロ・ルーストルーニャにより聖女様御召喚管理官の任命を承った、貴殿の・・・・・・」
「あああ!」
ユリは叫びながら布団を足で跳ね除けた。跳ね除けただけで未だ大の字に寝ころびながら、眠気眼で声のする方をぎろりと見やる。
見知らぬ男が、じっとこちらを見下ろしていた。
「いやぁあぁああ!!」
金切り声と共に響き渡る激しい破裂音。気づけば、ユリは利き手に力を込めて、男の顔面目掛けて思い切り振りかぶっていた。
眩しいほどに輝く金髪に、青空のように澄み切った碧眼。くっきりとした目鼻立ちは、絵に描いたように美しく、膝をついていてもかなり背の高いことがわかる。彼が着ている堅苦しい服に飾られた勲章や金糸をふんだんに使った飾緒からして軍人だろうか。鍛え抜かれているであろう屈強な身体と太い首のおかげか、ユリの全力の張り手でも、その美しい顔は全くぶれなることがない。それどころか、男はユリの両肩に手を置き、ぐっと押し込んだ。
「落ち着いてください、聖女様」
「いや! 変態!」
「我が名は、ファオラーン・ゾシュカ・ルーストルーニャ。ルーストルーニャ大聖国第一王子にして」
「離して!」
ユリは暴れた。手足をばたつかせ、男の拘束から逃れると、脇目も降らずに走り出した。部屋の扉に向かっているつもりだった。
「どこよ、ここ!」
見慣れた六畳一間はない。異様に明るく開けた空間、一面に広がる磨き上げられた大理石の床、巨大な柱や壁に施された本物と見紛うほどの繊細な彫刻、溜息が出るほどに美しい絵画と金細工に覆われた天井・・・・・・。
走りながらユリは目を疑った。
「わたしの部屋じゃない!」
写真や映像でしか見たことのない、まるで西欧にある大聖堂のようだ。
しかも、部屋にいるのは男だけではなかった。他にも知らない人間が遠巻きに何人も自分を見ているではないか。
「聖女様!」
「お待ちください、聖女様!」
「聖女様・・・・・・!」
逃げ回るユリを抑えようと、何本もの腕が伸びてくる。
ユリは拳骨を突き出し、肩をぐるぐる回して、地団太を踏んだ。その間に、真白に光る四角く象られた出口を視界の端に捕らえると、再び走り出した。
ぺたぺたぺたぺた。
ぺたぺたぺたぺた。
遠くに見える出口に向かって、ユリは身廊をひたすら裸足で走り続ける。寝ぐせで跳ね散らかった髪を振り乱し、叫びながら、パジャマ姿で走りに走った。
「どこよ、ここ! 出口、遠過ぎ!」
目前にやっと近づいてきた重苦しい扉は優に10メートルは越えていそうだ。見上げてもまだ全容がわからないほどに大きく頑丈なそれは、幸運にも開かれている。その向こうに垣間見える晴れ渡った大空に、ユリは大声で叫んだ。
「早くここから逃げ出さなきゃ。きっと、寝てる間にかどわかされたに違いないわ。何とか知っている人を見つけて、通報してもらうのよ。そして、全身隈なく病院で検査してもらって、あの男から慰謝料をむしりとってやるんだ。 頭髪からケツ毛にいたるまで一本残らず!」
と、外気が頬を撫でた。その瞬間、うなじに衝撃を感じたかと思うと、ユリはあっけなく意識を失った。
眠りの底に沈んでいた意識が、半ば強制的に立たされる。
「聖女様、お目覚めください」
頭上から降り注ぐやけに良い男の声。しかし、ユリは、ふわふわのお布団を引っ張り、頭の天辺まで覆い被せると、不機嫌そうな呻き声を漏らした。
「うるさい。今、何時だと思ってんのよ」
感覚的には、まだ早朝である。重い頭が、今日が休日であることをズキズキと訴えてくる。
「どうか、お願いいたします」
「だから、まだ眠いんだってば。今日は日曜よ」
「・・・・・・我が名は、ファオラーン・ゾシュカ・ルーストルーニャ。ルーストルーニャ大聖国第一王子にして、この度のルーストルーニャ大聖国及びアヌバベッ魔王国両国間における聖女様御召喚の儀検討議会の認証を受け、ルーストルーニャ大聖国国王レヴォーヴ・ミロ・ルーストルーニャにより聖女様御召喚管理官の任命を承った、貴殿の・・・・・・」
「あああ!」
ユリは叫びながら布団を足で跳ね除けた。跳ね除けただけで未だ大の字に寝ころびながら、眠気眼で声のする方をぎろりと見やる。
見知らぬ男が、じっとこちらを見下ろしていた。
「いやぁあぁああ!!」
金切り声と共に響き渡る激しい破裂音。気づけば、ユリは利き手に力を込めて、男の顔面目掛けて思い切り振りかぶっていた。
眩しいほどに輝く金髪に、青空のように澄み切った碧眼。くっきりとした目鼻立ちは、絵に描いたように美しく、膝をついていてもかなり背の高いことがわかる。彼が着ている堅苦しい服に飾られた勲章や金糸をふんだんに使った飾緒からして軍人だろうか。鍛え抜かれているであろう屈強な身体と太い首のおかげか、ユリの全力の張り手でも、その美しい顔は全くぶれなることがない。それどころか、男はユリの両肩に手を置き、ぐっと押し込んだ。
「落ち着いてください、聖女様」
「いや! 変態!」
「我が名は、ファオラーン・ゾシュカ・ルーストルーニャ。ルーストルーニャ大聖国第一王子にして」
「離して!」
ユリは暴れた。手足をばたつかせ、男の拘束から逃れると、脇目も降らずに走り出した。部屋の扉に向かっているつもりだった。
「どこよ、ここ!」
見慣れた六畳一間はない。異様に明るく開けた空間、一面に広がる磨き上げられた大理石の床、巨大な柱や壁に施された本物と見紛うほどの繊細な彫刻、溜息が出るほどに美しい絵画と金細工に覆われた天井・・・・・・。
走りながらユリは目を疑った。
「わたしの部屋じゃない!」
写真や映像でしか見たことのない、まるで西欧にある大聖堂のようだ。
しかも、部屋にいるのは男だけではなかった。他にも知らない人間が遠巻きに何人も自分を見ているではないか。
「聖女様!」
「お待ちください、聖女様!」
「聖女様・・・・・・!」
逃げ回るユリを抑えようと、何本もの腕が伸びてくる。
ユリは拳骨を突き出し、肩をぐるぐる回して、地団太を踏んだ。その間に、真白に光る四角く象られた出口を視界の端に捕らえると、再び走り出した。
ぺたぺたぺたぺた。
ぺたぺたぺたぺた。
遠くに見える出口に向かって、ユリは身廊をひたすら裸足で走り続ける。寝ぐせで跳ね散らかった髪を振り乱し、叫びながら、パジャマ姿で走りに走った。
「どこよ、ここ! 出口、遠過ぎ!」
目前にやっと近づいてきた重苦しい扉は優に10メートルは越えていそうだ。見上げてもまだ全容がわからないほどに大きく頑丈なそれは、幸運にも開かれている。その向こうに垣間見える晴れ渡った大空に、ユリは大声で叫んだ。
「早くここから逃げ出さなきゃ。きっと、寝てる間にかどわかされたに違いないわ。何とか知っている人を見つけて、通報してもらうのよ。そして、全身隈なく病院で検査してもらって、あの男から慰謝料をむしりとってやるんだ。 頭髪からケツ毛にいたるまで一本残らず!」
と、外気が頬を撫でた。その瞬間、うなじに衝撃を感じたかと思うと、ユリはあっけなく意識を失った。
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