ミッション――捜査1課、第9の男 危機そして死闘へ――

TOZO

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第3話 仮面の男(8)

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 ところがここで、ふとした気配があった。ヘリから離れた、岩場でうごめく存在。それはゆっくりと立ち上がり、炎の光に照らされて顔を天に向けた。
 何と……東だ! 彼はどうにかこうにか衝突の一瞬、ヘリから飛び退いて難を逃れていたのだ。それと、崖の先端にも人影が見えた! その容姿から判断して……厳鬼か? 奴も生き延びたみたいだ。つまり東と厳鬼だけが、この場所で助かったことになる。
 としても、この地は海に面した切立った崖だ。50メートル以上もの高さがあるのだから、もし足でも滑らせたら真っ逆さまに落ちて命はない。戦うとすればとんでもなく危険な所だった。
 そんな中、厳鬼が急いで逃げる仕草を見せた。東に気づいたのか? ただ彼の方も、即座にそれを察知したため「待て!」と叫ぶとともにガンホルダーから銃を抜いた。
 その声で、厳鬼は硬直したかのように立ち止まる。次に降参したとでも言いたげに、じわじわと両手を上げた。銃はないが右手にステッキを持っている。
 これで、勝負あったのでは?……
 ちょうど夕日が沈み、空は薄暗くなっていた。東は奴の様子をより明確に捉えるようと徐々に近づいていく。やっと極悪人を逮捕できるという喜びを抱きながら。
 そして厳鬼は? と見れば、うしろ向きでステッキを握り直している。もうどこにも逃げられないと重々分かっているのだろう、覚悟を決めた感じが窺い知れる。
……が、何故かその杖の先端を少しずつ東の方へ向けた?
 次の瞬間! 東、横っ跳びだー。
 途端に――1発の銃声!――ステッキから発射された。しかも、その弾丸は東の左腕を貫く!
 対して――発砲音!――東が撃つ。回転しながらステッキを撃ち落とした。
 間一髪、危なかった! その杖は仕込み銃だ。気づくのがもう少し遅れたら、殺られるところだった。相手の妙な動きに瞬時に反応した、彼の眼力が勝っていたとしか言いようがない。
 東は身を横たえようとも、厳鬼に銃を突きつけていた。傷も、どうやら血は出ているけれど、上腕を掠った程度で心配いらない。続いて彼は、すっくと立ち上がり、「もう諦めろ!」今度こそ悪足掻きは無駄だと諭した。 
 流石にこうなっては、厳鬼も負けを認める以外ないだろう、肩を落とし立ち尽くしている。多少おどおどした有り様が察せられ、今までとは明らかに違う態度を示す。前を向いたまま次第にズリズリと後退していた。
 漸く、戦いが終止符を打ったのだ!
「待て、待ってくれ」だがここで、唐突に厳鬼の声が聞こえてきた。
 どうやら、奴は何か言おうとしているみたいだ……。とはいえ、いちいち気に留めていられない。それより為すべきことは厳鬼の逮捕だ。すぐさま近づいていった。……が、その直後、奴は不意を突いて驚くべき内容を口走った!
「俺は、俺は本物の厳鬼ではないんだ!」と。
「な、なーに!?」全く想定外の一言が、厳鬼の口から吐き出されたのだ! 東は瞬時にたじろぎ、もしやそんなはずはないと目を見張った。
 なおも奴の言葉が続く。
「俺は厳鬼の、いわば影武者だ! ヘリに乗る前に入れ替わり、命令通り動いただけだ」
 何というからくり話だ! 然すれば、あの時ビルの非常階段ですり替わった訳か? 東は懸命に搭乗時の状況を思い出す。しかし、いくら考えても一概には納得できない。逆に、この訴えは単なる奴の陽動作戦ではないのか? という疑問さえも湧いてきた。そこでもう一度、自分の目の前にいる男を見直した。
 以前の奴と寸分違わない、どう見ても厳鬼に思えた。それなのに本人ではないと話す。では、奴の言うことが真実ならば……
「本物は誰なんだ?」と咄嗟に問いかけてみた。
 男はその問いに躊躇している?……だが、名を告げなければ、己が大悪人に仕立てられると感じたはずだ。そのため、もう観念したかのように、
「そ、それは、かっ、か」と言いかけたところ……げっ! まさかの展開?
――突然の銃声音!?――1発の銃弾がどこからともなく飛んできて〈ぎやぁーー!?〉仮面男に命中したのだ! しかも、その凄まじい弾丸の威力で、奴の体はうしろへ追いやられ、頂上から遥か下方の海へ、真っ逆さまに落ちてしまった!
 まるで信じられない結末に――
 これには、東も驚くばかり。
「むむっ、仕舞った!」それでも、そう口にした後、反射的に体が動いて身を伏せたことは言うまでもない。
 それから、岩陰に隠れてさらなる狙撃に備える。……も、それ以降の銃撃は皆無か、どうやら東を標的にしていないみたいだ。
 ならば次に、落ちた男の生死も気になったため、危険を承知のうえで体を隠しつつ崖の縁まで進んだなら、真下を覗き込んだ。けれど、その場は広大な海。波の音に漆黒の闇ともなれば全く様子が窺えない。仮面男の姿等、見える道理もなかった。完全に敵の術中に嵌っていたのだ。
 そこで今度は、素早く周りを見渡した。いったい誰がどこから撃ったのか? それを知る必要があると思った訳だ。
 だが、ここは見晴らしの良い高地の故、一目瞭然であるはずなのに、人影など皆目見当たらない。それにもっと言えば、どう踏んでもこの崖に潜んでいるとは考え辛かった。何故なら、人が入り込もうとしても、相当困難な所であるため、短時間でスナイパーが現れることなどあり得なかったからだ。
 ただ、そうだとしても、東はなおも辛抱強く辺りを探った。
……と、その時、不可解な影が薄暗い空の中を縫って走った! 遂に、何かが出現した?
「あれは、鷲か?」そうだ、上空に大鷲が現れたぞ!……と一瞬思ったが、否、違った。あれは〝パラグライダー〟だ。海側に向かって悠々と大空を飛んでいた。
 それを見た東、ただしもう銃は構えていない。あまりにも距離があり過ぎた。既にパラグライダーは海の日没の暗夜に紛れようとしていたのだ。
 彼はその場にすっくと立ち上がり、銃をホルダーに戻した。そして、ポツリと呟く。
「船の捜索手配で、何とか逮捕できればいいのだが」と。
 その目にはまだ闘志を漲らせ、離れ行く小さな物体に焦点を当てていた。そのうち、背後に見える遠くの車道から、微かなサイレン音と豆電球が連なったようなヘッドライトの光が近づいてくる。それは、この戦いが終わったことを伝えているかのように。
 東は傷に布を充てがい、燃え盛るヘリの炎で足場を把握しながら、崖の上で町の灯をじっと見詰めるのであった。



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