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第1話 その名も……(2)
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3 転
とにかく九死に一生を得た。俺は植木の柵に隠れて、暫く間、奴らが去るのを注視していた。ただし、その姿が消えるのに連れて、自身の愚かさを嘆く気持ちが心の底から湧き上がってきた。
「なにやってんだ。これじゃ、マンションには帰れないじゃないか! バッグを見つけた時、正直に警官に言えば良かったのに」と今さら悔やんでも仕様がないのだが……
それでもこの時、俺はハタと気がつく。「そうだ。今から警察に」こうなれば警察へ電話するしかないと、携帯を取り出すも……んっ、そこに不意のメールが入った。
おいおい、こんな時に誰からだ? と迷惑な心持ちで画面を見たところ、『君のバッグはいただいたよ。明智君、怪人9面相』とのメッセージがあった。
あっ! これはまさか……途端に状況を把握した。俺の嫌な直感は的中していたのだ。
「あの馬鹿、グラサン男は弟の信二だー!」つまりは、信二が要らぬ変装をして俺をからかうつもりが、何を間違ったのか、あのバッグを俺の物だと勘違いし持って行ったという筋書きだ。俺は心底、絶句した!
……となると、待てよ。これでさらに状況が悪化したような? 信二は俺のマンションへ向かっているはずだから、奴らと鉢合わせになるぞ! その後に信二が、素直にバッグを渡せばいいが……あいつは変に天邪鬼で小細工したがる性格なので、一悶着起こりそうな予感もする。もし下手に騒いだりしたら、奴らだって何をするか分からない! 俺は危険を感じずにはいられなかった。
そこで、またまたマンションを目指して走り出したのだ。もう疲れたとか言ってられない、必死に頑張るのみだ。
その結果、息も絶え絶えにマンションまであと数十メートルという地点に到着したところ、
「おい! 止めろ。何すんだ」と言う信二の声が、唐突に聞こえてきた。俺の目の前で、信二が奴らに捕らわれ車の中へ押しこまれていたのだ。しかもあいつ、まだサングラスとマスクをつけたままだ。
「信二!」俺は懸命に叫んだ。
けれど、あっと言う間に信二は連れ去られた! 彼を乗せた車は、無情にも俺の前を走り抜けていく。
「はあはあはあ、信二が……」俺は戸惑った。
するとその直後、ポケットから音が鳴る。携帯だ。
「し、信二かー?」すぐさま電話に出る。
「アニキ! 助けてくれ」と信二の叫び声が耳を劈いた……が、すぐにサブの声が携帯から聞こえてきた。
「平田さんよ。俺たちを馬鹿にするのもいい加減にしろよ。何が怪しいサングラス男だ、てめえの弟じゃねえか。いいか。弟を助けたかったら、例の物を持って来い。場所は西埠頭の9番倉庫だ。時間は4時きっかり。それと警察に通報するなよ。弟の顔を二度と見られなくなるぞ!」と言って携帯が切れた。
俺は為す術なく、その場に呆然と佇んだ。全く声も出せず、ただ車が去った方向をじっと見詰めるだけだった。
サブの言葉に疑問を抱きながらも、俺はとりあえずマンションに帰ることにした。
何も考えられないまま玄関を開けて部屋に入る。そうすると、目の前に1個の鍵が落ちていることに気づいた。無造作に床の上で転がっていた。
「これは、何だ?」よく見れば駅のコインロッカーの鍵のようだ。
「そうか、信二のやつ、ロッカーに預けたのか……」どうやら信二は、幸か不幸か男たちに出会う前にバッグをコインロッカーに入れたらしい。たぶん、信二なりのお遊びの一種?
となれば、俺は急いで手に取り、ただちに駅へ向かったのは必然だった。だが、駅への道すがら後悔せずにはいられなかった。俺のせいで信二を危険な目に遭わせてしまった罪悪感で一杯だ。
すまない、信二。俺が必ず助けるから待ってろよ! こいつを渡せば無事に帰してもらえるさ。奴らだって、人殺しまでしないさ。きっとそうさ、と心の中で願うのであった。
一頻り走って、漸く駅に着いた。慌だしくコインロッカーを探す。
「ええと。番号は09番とっ、あったあった。これだ!」早々にコインロッカーの鍵を回し確認する。確かにあった、バッグだ。後は慎重に、バッグを取ろうと手を伸ばす。
が、ちょうどその瞬間、「んっ!」背中に異物が当たるのを感じた。それと同時に、
「振り向くな! 拳銃がお前の背中を狙っているぞ」と背後から低い声が聞こえた!
えっ? 俺は驚き、突然の危機に放心状態になる。
もしや奴らの取引相手? こんなに早く……だとしたら車でのいざこざを遠目で窺っていたに違いない、つけられていたかー!
男はピッタリとうしろに寄り添っている。俺の背中には押しつけられた紙袋、中には拳銃らしき物の存在を感じる。
「振り向かないでバッグをゆっくりと渡せ」と男は急ぐように言った。
「…………」仕方なく、焦りつつも、言われた通りバッグを渡す。
男はそれを受け取り、
「いいな、そのまま動くんじゃねえぞ。お前をずっと狙っているからな」と捨て台詞を吐く。
俺は黙ってロッカーを前に立ち尽くしている。勿論何もできる訳がない。
そして数秒後、静かに振り返ったところ、言うまでもなく男は消えていた。俺は恐怖で脚が震えて、その場に崩れ落ちた。
「あーっ、何てことだ。奴らの取引相手か! どうする、信二!? クソッ、どうする……」
万事休すだ。頭を抱かかえて苦悩するしかなかった!
4 結
時刻は午前4時過ぎ、西埠頭9番倉庫前に5人の男たちの姿があった。まだ、外は薄暗く風は寒い。
そんな中、リーダー格であるサブは、拳銃を片手に辺りを窺っていた。そこは開けた空き地で見通しが利く場所だった。近くに何台かの車もある。隣には拳銃を持ったゲンと運転手のタロウがいた。サブの前には、ヒデが信二の肩を抱え、拳銃を突きつけていた。
そして平田が来るのを、手ぐすね引いて待っていたのだ。
そこに……やっと彼が姿を見せたか。
サブは逸早くそれを確認して、待ち兼ねたとばかりに一声を発した。
「バッグは、持ってきたか?」
すると平田は、バッグを慎重に抱きかかえて言った。
「ああっ、持ってきた!」と。さらに弟のことを心配している様子で、「信二、大丈夫か」と言う声も返ってきた。
対して信二も、「ああ、大丈夫だ」と答え、どうにか無事だということが伝わる。
これで漸く、交換する準備が整ったようだ。
サブは、急いで事を済ませるため、声を張って催促した。
「よし、バッグをこっちに投げろ!」
けれど平田は、奴らのペースには乗らないみたいだ。
「……その前に、信二を離せ」と抵抗していた。
サブは止むを得ず、「ヒデ、そいつを自由にしてやれ」と命じた。
時は既に日の出前であった。少しずつ周りが明るくなって朝焼けに照らされた男たちの姿が映しだされている。……そうした弱光の中、ふとゲンが何かを見抜いたようだ。
「待て! あいつの持っているバッグ、わしらのバッグと違うぞ!」と叫んだ。ここで遂に、1人の悪党が偽物だと気づいたのだ!
「何!」その声を聞いては、サブの方もまんまと騙されていることに勘づく。すぐに「ヒデ、そいつを放すな!」と慌てて叫び直し、続いて平田を睨んで、「てめえ! どういうつもりだ。弟をぶっ殺されたいか!」と物凄い剣幕で捲し立てた。
ところがその時、突然サーチライトが光り、強力な閃光がサブたちに当てられた! 奴らは不意のことで目を瞬かせ……直後に打撃音! 続いて銃の落下した音が聞こえてきた。
はっ? 何が起こった!
一瞬の隙に……ヒデが腹を殴られ、そのまま膝から倒れ込んでいる?
誰がヒデを?……
信二か? そう、信二が恰も格闘家のようにヒデの腹部へ肘打ちを食らわしていた! これには、どこにそんなプロ級の技を隠し持っていたんだとサブも驚く!
とはいえ、この抵抗は彼の身を危険に晒す以外の何ものでもない、うしろの悪3人が焦り顔をすれど見逃しはしないからだ!
「このやろう!?」と言うなり、サブとゲンが信二に拳銃を向けた。哀れ信二の命もこれまでか! 奴らは容赦なく……発砲した?
――銃声音が鳴った!――とうとう2発の銃弾が火を噴いたのだ。
信二が……撃たれたー?
否……違う、無事だ! 彼は、全く弾を受けていない。
えっ? と言うことは、今の発砲は?……
何と! 悪党の拳銃を吹き飛ばしていた。2発の銃弾はサブとゲンの拳銃を貫いたという訳だ。
そして、その2発の銃弾を撃った者こそは……平田? 正真正銘の平田だった!
拳銃を構えて、すっくと立つ彼の雄姿が、鮮烈に見えていた!
ただちに数名の警官たちが集まりだす。4人の男たちを取り押さえるため、事前に潜んでいた警官たちが動き出したのだ。サーチライトも警察の車両によるものだった。その後、お決まり通り彼らの働きで、現場は周辺を隈なく捜索され、猫の子1匹逃れられない状況となる。
そうした中、1人の警官が平田に近づいてきた。続いて敬礼するとともに、
「任務完了しました。警部!」との報告を受ける。
つまりこれで一件落着したということだ。平田も本来の自分に戻っていた。以前とは全く違う顔つき、ポーカーフェイスで隙がなく、まるで別人と思える姿に。そして今さら言うまでもなく、本当の彼は治安を守る警部であり、過去の振る舞いは全て事件を解決すための芝居であった。
「他に仲間はいたか?」平田が徐に訊いた。
「いいえ、4人だけです」警官は即答で返す。
その返事に、平田は少し残念な思いで、
「そうか。ボスを含め全員逮捕するためにサブたちを捕えず、敢えておよがせてみたが、無駄だったか」と語るも、すぐにもう1つの気にかかることを尋ねた。「だが、捕えずにいた別の理由。バッグはどうなった?」
「ハッ、信二警部補が簡単に発見されないようにと、バッグの内布の中に発信機を縫いつけたお陰で、奴らのアジトが判明、全員確保、逮捕することができました」
こちらは思惑通りいったみたいだ。それを聞き、多少安堵する平田であった。
「分かった、ご苦労」後は、警官を労っていた。
そこへ、警官に誘導されながら、サブたちが平田の側に近寄ってきた。
神妙な面持ちで、サブは声を震わせる。
「あんたは警官か? あの弟も?……」と。
平田は男たちを見透かし、「そうだ。彼は弟でなく私の部下だ」と返答した。その言葉に自信と生気が漲っている。
さらにサブは、ふと思い出したように訊いた。
「車の煙は?」
その問いにも少し微笑みを浮かべ、
「あれも私が小型の白煙筒を足元で焚いたのだよ」と言って、空の白煙筒を懐から取り出して見せた。
するとここで、ヒデが急に割り込んできた。
「いつからだ? いつから俺らを出し抜こうとしてた!」と我武者羅に言った。
平田はその声に応じるべく、今回のミッションについて詳細を話し始めた。
「運搬される日や輸送ルートは前段階で判明していた。しかし一網打尽にするべき情報の欠如、取引場所がはっきりしなかった。そこでお前たちが通るであろう公園に警官を配備し様子を探っていたところ、お前が樹の下にバッグを放置した。その放置したバッグを使えばと……要はお前がバックを置いて行った時。あの時から私は平田浩一になった訳だ」と。
途端にヒデは項垂れる。そして、己の犯した失敗に然も悔いるように、
「……俺のミスか!」と呟いた。
次にサブが、訊かないではいられないと言いたそうな顔で問いかけてきた。
「あんたは、何者だ?」
ならば、その正体を明かす時が来たようだ。
「私か、私は警察署捜査一課第9班、闇に忍ぶ悪を叩くために組織された潜入捜査特殊部隊の主任警部、東九吾だ!」と彼は告げたのであった。
とにかく九死に一生を得た。俺は植木の柵に隠れて、暫く間、奴らが去るのを注視していた。ただし、その姿が消えるのに連れて、自身の愚かさを嘆く気持ちが心の底から湧き上がってきた。
「なにやってんだ。これじゃ、マンションには帰れないじゃないか! バッグを見つけた時、正直に警官に言えば良かったのに」と今さら悔やんでも仕様がないのだが……
それでもこの時、俺はハタと気がつく。「そうだ。今から警察に」こうなれば警察へ電話するしかないと、携帯を取り出すも……んっ、そこに不意のメールが入った。
おいおい、こんな時に誰からだ? と迷惑な心持ちで画面を見たところ、『君のバッグはいただいたよ。明智君、怪人9面相』とのメッセージがあった。
あっ! これはまさか……途端に状況を把握した。俺の嫌な直感は的中していたのだ。
「あの馬鹿、グラサン男は弟の信二だー!」つまりは、信二が要らぬ変装をして俺をからかうつもりが、何を間違ったのか、あのバッグを俺の物だと勘違いし持って行ったという筋書きだ。俺は心底、絶句した!
……となると、待てよ。これでさらに状況が悪化したような? 信二は俺のマンションへ向かっているはずだから、奴らと鉢合わせになるぞ! その後に信二が、素直にバッグを渡せばいいが……あいつは変に天邪鬼で小細工したがる性格なので、一悶着起こりそうな予感もする。もし下手に騒いだりしたら、奴らだって何をするか分からない! 俺は危険を感じずにはいられなかった。
そこで、またまたマンションを目指して走り出したのだ。もう疲れたとか言ってられない、必死に頑張るのみだ。
その結果、息も絶え絶えにマンションまであと数十メートルという地点に到着したところ、
「おい! 止めろ。何すんだ」と言う信二の声が、唐突に聞こえてきた。俺の目の前で、信二が奴らに捕らわれ車の中へ押しこまれていたのだ。しかもあいつ、まだサングラスとマスクをつけたままだ。
「信二!」俺は懸命に叫んだ。
けれど、あっと言う間に信二は連れ去られた! 彼を乗せた車は、無情にも俺の前を走り抜けていく。
「はあはあはあ、信二が……」俺は戸惑った。
するとその直後、ポケットから音が鳴る。携帯だ。
「し、信二かー?」すぐさま電話に出る。
「アニキ! 助けてくれ」と信二の叫び声が耳を劈いた……が、すぐにサブの声が携帯から聞こえてきた。
「平田さんよ。俺たちを馬鹿にするのもいい加減にしろよ。何が怪しいサングラス男だ、てめえの弟じゃねえか。いいか。弟を助けたかったら、例の物を持って来い。場所は西埠頭の9番倉庫だ。時間は4時きっかり。それと警察に通報するなよ。弟の顔を二度と見られなくなるぞ!」と言って携帯が切れた。
俺は為す術なく、その場に呆然と佇んだ。全く声も出せず、ただ車が去った方向をじっと見詰めるだけだった。
サブの言葉に疑問を抱きながらも、俺はとりあえずマンションに帰ることにした。
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「これは、何だ?」よく見れば駅のコインロッカーの鍵のようだ。
「そうか、信二のやつ、ロッカーに預けたのか……」どうやら信二は、幸か不幸か男たちに出会う前にバッグをコインロッカーに入れたらしい。たぶん、信二なりのお遊びの一種?
となれば、俺は急いで手に取り、ただちに駅へ向かったのは必然だった。だが、駅への道すがら後悔せずにはいられなかった。俺のせいで信二を危険な目に遭わせてしまった罪悪感で一杯だ。
すまない、信二。俺が必ず助けるから待ってろよ! こいつを渡せば無事に帰してもらえるさ。奴らだって、人殺しまでしないさ。きっとそうさ、と心の中で願うのであった。
一頻り走って、漸く駅に着いた。慌だしくコインロッカーを探す。
「ええと。番号は09番とっ、あったあった。これだ!」早々にコインロッカーの鍵を回し確認する。確かにあった、バッグだ。後は慎重に、バッグを取ろうと手を伸ばす。
が、ちょうどその瞬間、「んっ!」背中に異物が当たるのを感じた。それと同時に、
「振り向くな! 拳銃がお前の背中を狙っているぞ」と背後から低い声が聞こえた!
えっ? 俺は驚き、突然の危機に放心状態になる。
もしや奴らの取引相手? こんなに早く……だとしたら車でのいざこざを遠目で窺っていたに違いない、つけられていたかー!
男はピッタリとうしろに寄り添っている。俺の背中には押しつけられた紙袋、中には拳銃らしき物の存在を感じる。
「振り向かないでバッグをゆっくりと渡せ」と男は急ぐように言った。
「…………」仕方なく、焦りつつも、言われた通りバッグを渡す。
男はそれを受け取り、
「いいな、そのまま動くんじゃねえぞ。お前をずっと狙っているからな」と捨て台詞を吐く。
俺は黙ってロッカーを前に立ち尽くしている。勿論何もできる訳がない。
そして数秒後、静かに振り返ったところ、言うまでもなく男は消えていた。俺は恐怖で脚が震えて、その場に崩れ落ちた。
「あーっ、何てことだ。奴らの取引相手か! どうする、信二!? クソッ、どうする……」
万事休すだ。頭を抱かかえて苦悩するしかなかった!
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時刻は午前4時過ぎ、西埠頭9番倉庫前に5人の男たちの姿があった。まだ、外は薄暗く風は寒い。
そんな中、リーダー格であるサブは、拳銃を片手に辺りを窺っていた。そこは開けた空き地で見通しが利く場所だった。近くに何台かの車もある。隣には拳銃を持ったゲンと運転手のタロウがいた。サブの前には、ヒデが信二の肩を抱え、拳銃を突きつけていた。
そして平田が来るのを、手ぐすね引いて待っていたのだ。
そこに……やっと彼が姿を見せたか。
サブは逸早くそれを確認して、待ち兼ねたとばかりに一声を発した。
「バッグは、持ってきたか?」
すると平田は、バッグを慎重に抱きかかえて言った。
「ああっ、持ってきた!」と。さらに弟のことを心配している様子で、「信二、大丈夫か」と言う声も返ってきた。
対して信二も、「ああ、大丈夫だ」と答え、どうにか無事だということが伝わる。
これで漸く、交換する準備が整ったようだ。
サブは、急いで事を済ませるため、声を張って催促した。
「よし、バッグをこっちに投げろ!」
けれど平田は、奴らのペースには乗らないみたいだ。
「……その前に、信二を離せ」と抵抗していた。
サブは止むを得ず、「ヒデ、そいつを自由にしてやれ」と命じた。
時は既に日の出前であった。少しずつ周りが明るくなって朝焼けに照らされた男たちの姿が映しだされている。……そうした弱光の中、ふとゲンが何かを見抜いたようだ。
「待て! あいつの持っているバッグ、わしらのバッグと違うぞ!」と叫んだ。ここで遂に、1人の悪党が偽物だと気づいたのだ!
「何!」その声を聞いては、サブの方もまんまと騙されていることに勘づく。すぐに「ヒデ、そいつを放すな!」と慌てて叫び直し、続いて平田を睨んで、「てめえ! どういうつもりだ。弟をぶっ殺されたいか!」と物凄い剣幕で捲し立てた。
ところがその時、突然サーチライトが光り、強力な閃光がサブたちに当てられた! 奴らは不意のことで目を瞬かせ……直後に打撃音! 続いて銃の落下した音が聞こえてきた。
はっ? 何が起こった!
一瞬の隙に……ヒデが腹を殴られ、そのまま膝から倒れ込んでいる?
誰がヒデを?……
信二か? そう、信二が恰も格闘家のようにヒデの腹部へ肘打ちを食らわしていた! これには、どこにそんなプロ級の技を隠し持っていたんだとサブも驚く!
とはいえ、この抵抗は彼の身を危険に晒す以外の何ものでもない、うしろの悪3人が焦り顔をすれど見逃しはしないからだ!
「このやろう!?」と言うなり、サブとゲンが信二に拳銃を向けた。哀れ信二の命もこれまでか! 奴らは容赦なく……発砲した?
――銃声音が鳴った!――とうとう2発の銃弾が火を噴いたのだ。
信二が……撃たれたー?
否……違う、無事だ! 彼は、全く弾を受けていない。
えっ? と言うことは、今の発砲は?……
何と! 悪党の拳銃を吹き飛ばしていた。2発の銃弾はサブとゲンの拳銃を貫いたという訳だ。
そして、その2発の銃弾を撃った者こそは……平田? 正真正銘の平田だった!
拳銃を構えて、すっくと立つ彼の雄姿が、鮮烈に見えていた!
ただちに数名の警官たちが集まりだす。4人の男たちを取り押さえるため、事前に潜んでいた警官たちが動き出したのだ。サーチライトも警察の車両によるものだった。その後、お決まり通り彼らの働きで、現場は周辺を隈なく捜索され、猫の子1匹逃れられない状況となる。
そうした中、1人の警官が平田に近づいてきた。続いて敬礼するとともに、
「任務完了しました。警部!」との報告を受ける。
つまりこれで一件落着したということだ。平田も本来の自分に戻っていた。以前とは全く違う顔つき、ポーカーフェイスで隙がなく、まるで別人と思える姿に。そして今さら言うまでもなく、本当の彼は治安を守る警部であり、過去の振る舞いは全て事件を解決すための芝居であった。
「他に仲間はいたか?」平田が徐に訊いた。
「いいえ、4人だけです」警官は即答で返す。
その返事に、平田は少し残念な思いで、
「そうか。ボスを含め全員逮捕するためにサブたちを捕えず、敢えておよがせてみたが、無駄だったか」と語るも、すぐにもう1つの気にかかることを尋ねた。「だが、捕えずにいた別の理由。バッグはどうなった?」
「ハッ、信二警部補が簡単に発見されないようにと、バッグの内布の中に発信機を縫いつけたお陰で、奴らのアジトが判明、全員確保、逮捕することができました」
こちらは思惑通りいったみたいだ。それを聞き、多少安堵する平田であった。
「分かった、ご苦労」後は、警官を労っていた。
そこへ、警官に誘導されながら、サブたちが平田の側に近寄ってきた。
神妙な面持ちで、サブは声を震わせる。
「あんたは警官か? あの弟も?……」と。
平田は男たちを見透かし、「そうだ。彼は弟でなく私の部下だ」と返答した。その言葉に自信と生気が漲っている。
さらにサブは、ふと思い出したように訊いた。
「車の煙は?」
その問いにも少し微笑みを浮かべ、
「あれも私が小型の白煙筒を足元で焚いたのだよ」と言って、空の白煙筒を懐から取り出して見せた。
するとここで、ヒデが急に割り込んできた。
「いつからだ? いつから俺らを出し抜こうとしてた!」と我武者羅に言った。
平田はその声に応じるべく、今回のミッションについて詳細を話し始めた。
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途端にヒデは項垂れる。そして、己の犯した失敗に然も悔いるように、
「……俺のミスか!」と呟いた。
次にサブが、訊かないではいられないと言いたそうな顔で問いかけてきた。
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ならば、その正体を明かす時が来たようだ。
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