patchyX-パッチークロス-

鈴木流(すずき ながれ)

文字の大きさ
14 / 20
【第4世・五等爵とは】

重度の病に侵されて

しおりを挟む
「社長、しかしお願いがあります」

「なに?」

鈴木は王の前に伏す騎士のように私の前に跪き、私の手を自分の両手で包み込んだ。
 堅く、ぎゅっと、何か強い気持ちを込めながら。

 「私はずっと"貴方のまま"でいてほしいのです」

 「私の、まま…?」

 「これから先、貴方は何を知っても、何を思い出しても、"今のままの貴方"でいてほしいのです」

 「どうしてそんなに心配するの?私は私だよ」

 「昔の貴方は、今の貴方とは程遠い男でした。手の施しようのない……病気だったんです」

 病気。

 自分がそこまで重度の患者だったなんて全然知らなかった。心も身体も、こんなに快調なのに一体どんな病気を抱えていたのだろう、昔の私は。
 そして、何故その"病気"のことを私は思い出せないのだろう。その病気は今はどうなってしまったのだろう。

 「…その病気はどうなったの?」

 「今は貴方の奥深くに抑えこみました。でも、消えたわけではないので、いつまた発病するかわかりません。だから、私たちは貴方にそのことを黙っていました」

 「そうなんだ…」

 「とにかく、それと五等爵との関係はまた後でお話します。今はこんなところで話を続けるわけにはいきません。続きは場所を移してからにしましょう」

 「そうだね」

 「私は兄貴とポチの安否確認をしてきます。社長はモチーフと赤木と一緒に野津のづ様の処へ移動する準備をしてください」

 そう告げて三人を部屋に残し、足早に兄貴と部屋を出た俺。その後ろで蛇のような兄貴の顔は、その顔をさらに歪めてクツクツと喉で不気味に笑っていた。その笑っている理由を俺はわかっていた。

 「"病気"、やなんて上手い言い回ししはったなぁ…。ボク、一瞬ほんまに一哉がベラベラとバラすんやないかてヒヤヒヤしたわ~」

 「…しゃべっていたら、どうしていた?」

 「殺してたに決まってるやろ」

 「………」

 「冗談やて♪大好きな一哉にそんなことするはずないやろ~♪」

 兄貴は飄々ととぼけていたが、一瞬感じ取った殺意は本物だった。
 兄貴は俺が社長に本当のことを話していたら、恐らく本当に俺を殺していただろう。その後は俺の死体の傍らで飄々と嘘八百を並べ立てて、社長を上手く丸め込むに違いない。

 この男はそれができる男だ。同僚でも、友達でも、子供でも女でも…弟でも、何の躊躇いもなく殺せる男だ。

 それが_五等爵・第一位『公爵こうしゃく』の座に着いていた、東大寺神一郎とうだいじ しんいちろうという男だ。

 今のヴァイカウントたち・五等爵なんか比べ物にならない。社長を病気と例えたのはあながち間違いではないだろう。
 初代・五等爵たちは重度の"病気"に侵された患者たちばかりだったから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...