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神との対面編
第45話 神の子
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「神の……後継者……だと?」
サルマはそれを聞いて、眉をひそめる。オルクはゆっくりと頷く。
「……そうだ。神は普通の人間よりも心や体の衰え少なく、長生きできるのだが……神の聖なる力を使い果たしてしまった時には、力尽きてしまう。そうなってしまうと闇の力に対抗し、闇の大穴を閉じることができなくなってしまうゆえ……いつかは神も、代替わりする必要があるのだ」
「代替わり……それって、アイラに代わるってことか? てことは、次の神はアイラになる……ってことか……?」
サルマはアイラを見る。アイラはそれを聞いて、恐れを抱いているような表情をする。
「そんな……わたしが次に神……になるなんて……。無理だよ……」
「いいえ。アイラはこの世で次に神になる資格があるただ一人の人間……。あなたは、そのために生まれてきた存在なのよ」
神がアイラの方を見て、熱っぽく言う。
「私の聖なる力は、もうわずかしか残されていない……。私が消滅するのは時間の問題なの。だから一刻も早く、アイラは私とともに天界に行って、神としての務めを引き継ぎ、大穴を閉じなければならない。……わかってくれるわね」
神はそう言って、再びアイラに近づこうとするが、サルマが急いで神とアイラの間に割って入る。
「そんなこと……はいそうですか、って簡単に言えっかよ。オマエは、まだこんなにちっこいガキにそんな重荷を背負わせる気なのか」
神はそれを聞いて、少し目を伏せる。
「この子は神の子……選ばれた、特別な存在なのよ。普通の子供ではないの。それに、コンパスを手にしてからここまでの旅路は、神になるための試練でもあったのだけれど……その試練も成し遂げることができたこの子は、充分に神になる資格が備わっているわ」
「だが俺は……アイラは、普通のガキと何ら変わらねぇと思ってる」
サルマはそれを聞いて神に食ってかかる。
「確かに、この子の親は普通の人間……メリス島の中でも最も信心深い娘の子供として生まれるはずの子でした。しかし、神の子として選出され、その娘の腹から産み出される前に神の理により天界に召喚され……そこからある程度の年齢になるまでは、私が育てています」
「なんだって⁉ オマエがアイラを育てた……⁉」
「ええ。だから、神の子、と呼ばれるのです。人間として生きる時間のためにも、ここでの記憶は一旦消して地上に返していますが……天界に行くことで、再び思い出すことでしょう」
アイラはしばらく呆然とした様子で神の言葉を聞いていたが……なんとか気を持ち直し、これまでのことを考える。
(そう……だったんだ。だから、わたしはメリス島に来るまでの記憶がなかったの……? それに、確か天界の泉に来た時、雲を踏んだ感触がなぜか懐かしく思えたのは、天界で育てられたから……なのかな……)
「私があなたを育てる中で……アイラ、あなたはすでに、神として必要な聖なる力は充分与えられています。その証拠に、コンパスの針が見えたり、退魔の剣を光らせることができるのは、あなただけなのですから」
(剣を光らせることができるのは、わたしだけだったんだ……! 剣を天界の泉につけてから他の人が持ったことなかったから、知らなかった……。あれ、でも……)
アイラはそれを聞いて一つ疑問を感じ、神に尋ねる。
「ちょっと待って、メリス島にいた時……ミンスさんも針が見えてたよ? わたしを育ててくれた人、なんだけど……」
アイラはそこまで言って、ある可能性を思いつき、ひどく心がざわつく。
(ミンスさんって確か、そこにある祭壇の模様と同じ、弓矢をモチーフにした銀色のロザリオを部屋に飾ってて、よくそこにお祈りしてた。誰よりも信心深かった人って、もしかして……)
神はアイラのその感情には気づいてないようで、淡々と先程の問いに答える。
「彼女……いえ、メリス島の人々には、役目が与えられているため、コンパスを見ることができ、針が回るのです――――その島にいるべきだという役目が」
「そうだ。そこもおかしいって、アイラ前に言ってたよな。なんでメリス島が襲われるって直前に、コンパスはアイラだけ助けたんだ? 島にいる役割って……島の住民はたとえ襲われても、島にいなきゃなんねーのか?」
他のことを考えて俯いたまま黙り込んでいるアイラに代わって、サルマが神に問いかける。
「そうです。メリス島の人々には……」
神は少し目を伏せ、答える。
「神の子の、囮になる役目があるのです」
「なっ……⁉」
サルマがそれを聞いて血相を変える。一方のアイラもハッとした様子で顔を上げ――その顔が青ざめる。
「囮……だぁ⁉ そのために、島のヤツらは……」
「仕方がないことなのです。闇の賊は……こちらの世界に来たら、神の子を狙ってまず、神に一番ゆかりのあるメリス島に攻め込みます。しかし彼らはサルマ、あなたのように神の子を気で判別することができない。それゆえメリス島に誰もいなければ、別のところを探し、この世界中の人間を片っ端から殺してゆく……大昔には、そんな出来事もあったのです。それを防ぐために、神への信仰心があった昔のメリス島の人々は、囮になることを引き受けました」
「でも……今のメリス島のやつらはそれを知らないんじゃ……」
「……知ってしまっては、恐怖から島を去ってしまう人が出てしまうため、今の人々がそれを伝え聞いていない可能性はあるかもしれません。しかし……囮の契約は悪いことばかりではないのですよ。メリス島は神の加護によって守られ、争いごとには無縁で、人々は皆幸福を感じ、理想郷のような島に保たれています。それは、囮の契約の代償として得たものでもあるのです」
「……メリス島にそんな歴史があったなんて、知らなかった。でも……」
神の言葉を聞いたアイラが呟く。それを聞いて、皆がアイラの方を見る。
「わたしのせいで、メリス島の皆が死んだってことだよね……やっぱりそうなんだ……っ!」
そう言って、アイラはわっと泣き出してしまう。
「……! アイラ……っ」
サルマはアイラの肩に手を置き、神を思いっきり睨み付ける。
「ずいぶん、都合よく人間のことを振り回してきやがったんだな、オマエは。神とはいえ、何様のつもりだよ。アイラのこともそうだ。生みの親から引き離すわ、故郷の皆を失わせるわ……」
「私がしたくてしているのではないのです。神の代替わりの際の理……決まり事であり、神の子の運命なのです」
冷ややかにそう言い放つ神に、サルマは思わずカッとなり、アイラを自らの方に引き寄せて叫ぶ。
「アイラは……もうオマエなんかに振り回させねぇ! オマエの思い通りに神になんかさせてたまるかよ! こいつは……こいつの生きたいように、これからは自由な人生を送るんだ!」
「な……っ……!」
それを聞いた神は血相を変える。アイラはハッとした様子で、涙ぐんだ顔のままサルマを見る。
「それはなりません! アイラが神にならなければ、この世界は……闇の賊の侵略により、必ず滅びます! 言ったではないですか、私の力はもうわずかしか残っていないと……! 今すぐ、闇の大穴を閉じなければ……」
「そんなもん……」
サルマは腰から短剣を取り出し、神の方に突きつける。
「俺たち人間が自力でなんとかするさ。オマエの……神の力なんぞ借りなくてもな」
神はそれを聞いて、怒りを露わにする。
「そんな……そんなことは不可能です! 闇の賊の力はこの旅の中で知ったでしょう? 一体人間がどうやって対抗する気なのですか!」
「そうだな、確かに退魔の剣が使えるアイラに協力を仰ぐかもしれない……その意味では、神の聖なる力だけは拝借するかもな。だが、俺たちはアイラとともに戦う。俺の実家がある……戦士島の皆にも大穴付近を見張ってもらったり、協力を頼むつもりだ。もし必要なら……」
サルマはアイラを見てニヤリと笑う。
「オマエのためなら……警備戦士にもなるさ。すげー嫌だけどな」
「サルマさん……⁉ それ、絶対嫌なことじゃなかったの? どうしてそんな、わたしのために……」
「さあてな。オマエと旅をする中で、変に情が湧いちまったかな。とにかくだ」
サルマは神に短剣を突きつけたまま話を続ける。
「神とやら、オマエみたいに、アイラを強制的に神にして……天界で一人戦わせることはしないつもりだ」
「……そんなことでは、何も解決しないわ」
神は怒りを抑え、ポツリと呟く。
「そのやり方では、この子が退魔の剣を使えても……次に剣を使える人が途絶えてしまう。神の聖なる力は……形式に乗っ取り受け継がなければならないのです」
神は、オルクの方を見る。
「オルク……あなたからも何か言って。あなたなら……わかるでしょう? 神の力が世界を守るために必要で、受け継いでいかねばならないということが」
オルクは腕組みをし、黙って様子を見ていたが――――やがて頷き、口を開く。
「アイラちゃん……神は確かに天界で一人、闇の勢力と戦わなければならない。君のような小さな子供にそれをさせるということが酷なことは、承知しているつもりだよ。しかし、そうしてまでも……必要な力だというのはわかってくれるかい」
「な、じーさん……! あいつの味方なのか……⁉」
「サルマ……。お前も、アイラちゃんも……わかってやってほしい。目の前にいる神も……子供のころに涙を呑んで地上の人々と別れ、今の役目を担っていることを」
アイラはそれを聞いてハッとし、神を見る。神はオルクのことを、驚きと悲しみが混ざったような――――なんとも人間らしい感情が溢れる表情で見ていた。
「……アイラは私よりも強い子よ。だから、弱かった子供の頃の私よりは……ちゃんと役目を果たしてくれると思ってる」
神は、アイラではなく……オルクに向けてそう言った。そして、オルクの言葉を聞いて、何も言えずに黙り込んでしまったサルマを見て、かすかに微笑む。
「あなたたちの絆も……旅の中でずいぶん深まったのね。本当に宝が目当ての盗賊が神の子の付き人なら、今、こんな揉め事が起きることもなかったでしょう。それが狙いであなたを付き人に選んだ……それなのにこうなるとはね」
「……あんたが俺を付き人に選んだのか」
サルマはそれを聞いて、神の方に向けていた短剣を下ろす。神は頷き、再び話を始める。
「付き人には、戦士をつけたいと思っていたの。私たちの旅の時、付き人のオルクは魔法が使えたものの、物理的な戦闘力には長けていなくて、闇の賊との戦いで苦労していたから。そして……」
神はアイラをちらりと見る。
「辛かった別れも経験させたくなくて、神の子と付き人の絆はほどほどにさせたいとも思っていた。そんな時、サルマ……あなたを発見した。戦士の能力はあっても戦士の任務にはついておらず、自由に行動できる人物……。さらに宝が目当てだと情が深くなりすぎず、利害関係のみで繋がることができる……。ちょうど理想の付き人がいたと思って、神の気を感じる能力を授けた。……それなのに……」
「……俺を付き人に選んだことに関しては感謝してるよ。それまでの俺の人生は生き甲斐もなく、本当にくだらなかったからな。鼻のきく盗賊になって、宝探しができて、アイラと出会って……この旅ができて、本当によかったと思ってる」
サルマの言葉を聞いて、アイラは目を潤ませる。
「だが、アイラを神の子に勝手に選んだことは……アイラが嫌だと言うなら、やらせる気はねぇぜ」
サルマはそう言って、再び剣を構える。その様子を見て、オルクはサルマに声をかける。
「アイラちゃんが神になったら……天界にいることは多くなるだろうが、この洞窟まで下りて、祭壇の水盆を使って会話をすることはできるのだよ。そして……地上からアイラちゃんを助けることもできる。アイラちゃんを一人で戦わせたくないのならば、そんな方法もあるのだよ。そのやり方は、私が教えよう」
「爺さんが……? つまり、爺さんはこれまで、この神のことを地上から助けていたのか?」
オルクは頷き、神の方を見てにやっと笑う。
「そこの神さんが、一度も水盆から話しかけてくれなかったゆえ……意思の疎通は思うようにできてはいなかったがね。地上でいろいろと……できることをやっていたよ」
「でも神様、前に東の果ての島で、水たまり……じゃなかった、水盆を覗いてたよね。わたし、目が合ったもの」
アイラがそう言うと、オルクは目を丸くしてアイラを見、次に神の方を見る。神は真っ赤な顔をして、オルクから目を逸らす。
「あの時は……っ、その、アイラがそろそろ着いていないか、確認したかっただけよ!」
「……そうだったのか。一度は来てくれていたのだな。教えてくれてありがとう、アイラちゃん」
オルクは嬉しそうに頷いている。神はそんなオルクを盗み見た後、アイラにこっそりと耳打ちする。
「……私が水盆を見に行かなかったのは……オルクの顔を見て、地上が恋しくならないようにするためだった。それくらい私は心が弱いの。だからアイラには、同じ気持ちにさせたくなくて色々手を打ったのに……結局ダメになってしまったわね」
(神様も、わたしと同じ子供の頃に、同じような旅をして……ここでオルクさんと別れたんだ)
アイラは目の前にいる神も昔は人間で、自分と同じような少女だったのだと思うと、いたたまれない気持ちになる。
(わたしだけ、神の役目から逃げるわけにはいかない。サルマさんは神にならなくても、別のやり方もあるって言ってくれた。でもそれは危ない方法で……わたしのせいで、この世界が犠牲になるかもしれない。そんなことになるのは……もうメリス島だけで十分だ)
アイラは、心の中でそう考えると――――顔を上げ、皆に向けて言う。
「わたし……わたし、天界へ行って、神さまの役目をやるよ! サルマさんたちが地上から支えてくれるなら……きっと、わたしにもできると思うから!」
サルマはそれを聞いて、眉をひそめる。オルクはゆっくりと頷く。
「……そうだ。神は普通の人間よりも心や体の衰え少なく、長生きできるのだが……神の聖なる力を使い果たしてしまった時には、力尽きてしまう。そうなってしまうと闇の力に対抗し、闇の大穴を閉じることができなくなってしまうゆえ……いつかは神も、代替わりする必要があるのだ」
「代替わり……それって、アイラに代わるってことか? てことは、次の神はアイラになる……ってことか……?」
サルマはアイラを見る。アイラはそれを聞いて、恐れを抱いているような表情をする。
「そんな……わたしが次に神……になるなんて……。無理だよ……」
「いいえ。アイラはこの世で次に神になる資格があるただ一人の人間……。あなたは、そのために生まれてきた存在なのよ」
神がアイラの方を見て、熱っぽく言う。
「私の聖なる力は、もうわずかしか残されていない……。私が消滅するのは時間の問題なの。だから一刻も早く、アイラは私とともに天界に行って、神としての務めを引き継ぎ、大穴を閉じなければならない。……わかってくれるわね」
神はそう言って、再びアイラに近づこうとするが、サルマが急いで神とアイラの間に割って入る。
「そんなこと……はいそうですか、って簡単に言えっかよ。オマエは、まだこんなにちっこいガキにそんな重荷を背負わせる気なのか」
神はそれを聞いて、少し目を伏せる。
「この子は神の子……選ばれた、特別な存在なのよ。普通の子供ではないの。それに、コンパスを手にしてからここまでの旅路は、神になるための試練でもあったのだけれど……その試練も成し遂げることができたこの子は、充分に神になる資格が備わっているわ」
「だが俺は……アイラは、普通のガキと何ら変わらねぇと思ってる」
サルマはそれを聞いて神に食ってかかる。
「確かに、この子の親は普通の人間……メリス島の中でも最も信心深い娘の子供として生まれるはずの子でした。しかし、神の子として選出され、その娘の腹から産み出される前に神の理により天界に召喚され……そこからある程度の年齢になるまでは、私が育てています」
「なんだって⁉ オマエがアイラを育てた……⁉」
「ええ。だから、神の子、と呼ばれるのです。人間として生きる時間のためにも、ここでの記憶は一旦消して地上に返していますが……天界に行くことで、再び思い出すことでしょう」
アイラはしばらく呆然とした様子で神の言葉を聞いていたが……なんとか気を持ち直し、これまでのことを考える。
(そう……だったんだ。だから、わたしはメリス島に来るまでの記憶がなかったの……? それに、確か天界の泉に来た時、雲を踏んだ感触がなぜか懐かしく思えたのは、天界で育てられたから……なのかな……)
「私があなたを育てる中で……アイラ、あなたはすでに、神として必要な聖なる力は充分与えられています。その証拠に、コンパスの針が見えたり、退魔の剣を光らせることができるのは、あなただけなのですから」
(剣を光らせることができるのは、わたしだけだったんだ……! 剣を天界の泉につけてから他の人が持ったことなかったから、知らなかった……。あれ、でも……)
アイラはそれを聞いて一つ疑問を感じ、神に尋ねる。
「ちょっと待って、メリス島にいた時……ミンスさんも針が見えてたよ? わたしを育ててくれた人、なんだけど……」
アイラはそこまで言って、ある可能性を思いつき、ひどく心がざわつく。
(ミンスさんって確か、そこにある祭壇の模様と同じ、弓矢をモチーフにした銀色のロザリオを部屋に飾ってて、よくそこにお祈りしてた。誰よりも信心深かった人って、もしかして……)
神はアイラのその感情には気づいてないようで、淡々と先程の問いに答える。
「彼女……いえ、メリス島の人々には、役目が与えられているため、コンパスを見ることができ、針が回るのです――――その島にいるべきだという役目が」
「そうだ。そこもおかしいって、アイラ前に言ってたよな。なんでメリス島が襲われるって直前に、コンパスはアイラだけ助けたんだ? 島にいる役割って……島の住民はたとえ襲われても、島にいなきゃなんねーのか?」
他のことを考えて俯いたまま黙り込んでいるアイラに代わって、サルマが神に問いかける。
「そうです。メリス島の人々には……」
神は少し目を伏せ、答える。
「神の子の、囮になる役目があるのです」
「なっ……⁉」
サルマがそれを聞いて血相を変える。一方のアイラもハッとした様子で顔を上げ――その顔が青ざめる。
「囮……だぁ⁉ そのために、島のヤツらは……」
「仕方がないことなのです。闇の賊は……こちらの世界に来たら、神の子を狙ってまず、神に一番ゆかりのあるメリス島に攻め込みます。しかし彼らはサルマ、あなたのように神の子を気で判別することができない。それゆえメリス島に誰もいなければ、別のところを探し、この世界中の人間を片っ端から殺してゆく……大昔には、そんな出来事もあったのです。それを防ぐために、神への信仰心があった昔のメリス島の人々は、囮になることを引き受けました」
「でも……今のメリス島のやつらはそれを知らないんじゃ……」
「……知ってしまっては、恐怖から島を去ってしまう人が出てしまうため、今の人々がそれを伝え聞いていない可能性はあるかもしれません。しかし……囮の契約は悪いことばかりではないのですよ。メリス島は神の加護によって守られ、争いごとには無縁で、人々は皆幸福を感じ、理想郷のような島に保たれています。それは、囮の契約の代償として得たものでもあるのです」
「……メリス島にそんな歴史があったなんて、知らなかった。でも……」
神の言葉を聞いたアイラが呟く。それを聞いて、皆がアイラの方を見る。
「わたしのせいで、メリス島の皆が死んだってことだよね……やっぱりそうなんだ……っ!」
そう言って、アイラはわっと泣き出してしまう。
「……! アイラ……っ」
サルマはアイラの肩に手を置き、神を思いっきり睨み付ける。
「ずいぶん、都合よく人間のことを振り回してきやがったんだな、オマエは。神とはいえ、何様のつもりだよ。アイラのこともそうだ。生みの親から引き離すわ、故郷の皆を失わせるわ……」
「私がしたくてしているのではないのです。神の代替わりの際の理……決まり事であり、神の子の運命なのです」
冷ややかにそう言い放つ神に、サルマは思わずカッとなり、アイラを自らの方に引き寄せて叫ぶ。
「アイラは……もうオマエなんかに振り回させねぇ! オマエの思い通りに神になんかさせてたまるかよ! こいつは……こいつの生きたいように、これからは自由な人生を送るんだ!」
「な……っ……!」
それを聞いた神は血相を変える。アイラはハッとした様子で、涙ぐんだ顔のままサルマを見る。
「それはなりません! アイラが神にならなければ、この世界は……闇の賊の侵略により、必ず滅びます! 言ったではないですか、私の力はもうわずかしか残っていないと……! 今すぐ、闇の大穴を閉じなければ……」
「そんなもん……」
サルマは腰から短剣を取り出し、神の方に突きつける。
「俺たち人間が自力でなんとかするさ。オマエの……神の力なんぞ借りなくてもな」
神はそれを聞いて、怒りを露わにする。
「そんな……そんなことは不可能です! 闇の賊の力はこの旅の中で知ったでしょう? 一体人間がどうやって対抗する気なのですか!」
「そうだな、確かに退魔の剣が使えるアイラに協力を仰ぐかもしれない……その意味では、神の聖なる力だけは拝借するかもな。だが、俺たちはアイラとともに戦う。俺の実家がある……戦士島の皆にも大穴付近を見張ってもらったり、協力を頼むつもりだ。もし必要なら……」
サルマはアイラを見てニヤリと笑う。
「オマエのためなら……警備戦士にもなるさ。すげー嫌だけどな」
「サルマさん……⁉ それ、絶対嫌なことじゃなかったの? どうしてそんな、わたしのために……」
「さあてな。オマエと旅をする中で、変に情が湧いちまったかな。とにかくだ」
サルマは神に短剣を突きつけたまま話を続ける。
「神とやら、オマエみたいに、アイラを強制的に神にして……天界で一人戦わせることはしないつもりだ」
「……そんなことでは、何も解決しないわ」
神は怒りを抑え、ポツリと呟く。
「そのやり方では、この子が退魔の剣を使えても……次に剣を使える人が途絶えてしまう。神の聖なる力は……形式に乗っ取り受け継がなければならないのです」
神は、オルクの方を見る。
「オルク……あなたからも何か言って。あなたなら……わかるでしょう? 神の力が世界を守るために必要で、受け継いでいかねばならないということが」
オルクは腕組みをし、黙って様子を見ていたが――――やがて頷き、口を開く。
「アイラちゃん……神は確かに天界で一人、闇の勢力と戦わなければならない。君のような小さな子供にそれをさせるということが酷なことは、承知しているつもりだよ。しかし、そうしてまでも……必要な力だというのはわかってくれるかい」
「な、じーさん……! あいつの味方なのか……⁉」
「サルマ……。お前も、アイラちゃんも……わかってやってほしい。目の前にいる神も……子供のころに涙を呑んで地上の人々と別れ、今の役目を担っていることを」
アイラはそれを聞いてハッとし、神を見る。神はオルクのことを、驚きと悲しみが混ざったような――――なんとも人間らしい感情が溢れる表情で見ていた。
「……アイラは私よりも強い子よ。だから、弱かった子供の頃の私よりは……ちゃんと役目を果たしてくれると思ってる」
神は、アイラではなく……オルクに向けてそう言った。そして、オルクの言葉を聞いて、何も言えずに黙り込んでしまったサルマを見て、かすかに微笑む。
「あなたたちの絆も……旅の中でずいぶん深まったのね。本当に宝が目当ての盗賊が神の子の付き人なら、今、こんな揉め事が起きることもなかったでしょう。それが狙いであなたを付き人に選んだ……それなのにこうなるとはね」
「……あんたが俺を付き人に選んだのか」
サルマはそれを聞いて、神の方に向けていた短剣を下ろす。神は頷き、再び話を始める。
「付き人には、戦士をつけたいと思っていたの。私たちの旅の時、付き人のオルクは魔法が使えたものの、物理的な戦闘力には長けていなくて、闇の賊との戦いで苦労していたから。そして……」
神はアイラをちらりと見る。
「辛かった別れも経験させたくなくて、神の子と付き人の絆はほどほどにさせたいとも思っていた。そんな時、サルマ……あなたを発見した。戦士の能力はあっても戦士の任務にはついておらず、自由に行動できる人物……。さらに宝が目当てだと情が深くなりすぎず、利害関係のみで繋がることができる……。ちょうど理想の付き人がいたと思って、神の気を感じる能力を授けた。……それなのに……」
「……俺を付き人に選んだことに関しては感謝してるよ。それまでの俺の人生は生き甲斐もなく、本当にくだらなかったからな。鼻のきく盗賊になって、宝探しができて、アイラと出会って……この旅ができて、本当によかったと思ってる」
サルマの言葉を聞いて、アイラは目を潤ませる。
「だが、アイラを神の子に勝手に選んだことは……アイラが嫌だと言うなら、やらせる気はねぇぜ」
サルマはそう言って、再び剣を構える。その様子を見て、オルクはサルマに声をかける。
「アイラちゃんが神になったら……天界にいることは多くなるだろうが、この洞窟まで下りて、祭壇の水盆を使って会話をすることはできるのだよ。そして……地上からアイラちゃんを助けることもできる。アイラちゃんを一人で戦わせたくないのならば、そんな方法もあるのだよ。そのやり方は、私が教えよう」
「爺さんが……? つまり、爺さんはこれまで、この神のことを地上から助けていたのか?」
オルクは頷き、神の方を見てにやっと笑う。
「そこの神さんが、一度も水盆から話しかけてくれなかったゆえ……意思の疎通は思うようにできてはいなかったがね。地上でいろいろと……できることをやっていたよ」
「でも神様、前に東の果ての島で、水たまり……じゃなかった、水盆を覗いてたよね。わたし、目が合ったもの」
アイラがそう言うと、オルクは目を丸くしてアイラを見、次に神の方を見る。神は真っ赤な顔をして、オルクから目を逸らす。
「あの時は……っ、その、アイラがそろそろ着いていないか、確認したかっただけよ!」
「……そうだったのか。一度は来てくれていたのだな。教えてくれてありがとう、アイラちゃん」
オルクは嬉しそうに頷いている。神はそんなオルクを盗み見た後、アイラにこっそりと耳打ちする。
「……私が水盆を見に行かなかったのは……オルクの顔を見て、地上が恋しくならないようにするためだった。それくらい私は心が弱いの。だからアイラには、同じ気持ちにさせたくなくて色々手を打ったのに……結局ダメになってしまったわね」
(神様も、わたしと同じ子供の頃に、同じような旅をして……ここでオルクさんと別れたんだ)
アイラは目の前にいる神も昔は人間で、自分と同じような少女だったのだと思うと、いたたまれない気持ちになる。
(わたしだけ、神の役目から逃げるわけにはいかない。サルマさんは神にならなくても、別のやり方もあるって言ってくれた。でもそれは危ない方法で……わたしのせいで、この世界が犠牲になるかもしれない。そんなことになるのは……もうメリス島だけで十分だ)
アイラは、心の中でそう考えると――――顔を上げ、皆に向けて言う。
「わたし……わたし、天界へ行って、神さまの役目をやるよ! サルマさんたちが地上から支えてくれるなら……きっと、わたしにもできると思うから!」
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