悪役令嬢はアクマでテンシだけどタイヨウにもなれる

みやっこ

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回想その12

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 スカートをたくし上げ、早歩きで庭を進んでいると、青い屋根が見えてきた。
 体中ワインでべたついてるし、体力も限界だが、不思議と足は動いている。

 あれもこれも、やるべきことだらけ。
 ハムスターを交えての脳内会議を開きつつ、青い屋根の家に続く門をくぐろうとしたそのとき。

「ちょっとあんた」

 艶のある低い声に呼び止められた。

 うん。そう。誰かが呼び止められた。

 私じゃない私じゃない。

 振り返らずに進もうとしたら。
 強い力で肩を掴まれ、無理矢理振り向かされた。

「っ……」

 目の前に、ドレスを着た胸元。
 女性にしては固そうな胸……板……立派なノドぼとけ……でも美人。

 見上げた先に、ついさっきチラっと見た顔。
 女装男子のフスタフ王子が立っていた。

 私は、意図せずよろめいて、力強い手に両肩を支えられた。

 限界ギリギリで歩いていたところを止められたからだろうか、上手く立っていられない。

「っと……」
 
 息が苦しい。
 つい、フスタフの両腕を掴み、倒れまいと体重を預けてしまった。彼はびくともせず、両腕の力だけで私を支えている。

 女装男子のくせにたくましい。

 暫し、取っ組み合いのような体勢のまま、息を整え。再び見上げると、フスタフはどうにも罰の悪そうな顔をして、ドミノのピースから手を離すように、私が立てているかどうかを確認しながら両肩から手を離した。

「聞きたいことがあるんだけど」
 
「あ。はい寄っかかってすみません。なんでしょうか」

 何でもないふうを装ったが、本当はいろいろと大丈夫ではなかった。

 なぜにフスタフ?

 イファンがエイラスルートへまっしぐらであるかぎり、リリファリアとフスタフが関わるなんてことなんてまずない。
 元プレイヤーとしては、全部の王子と話してみたい願望はあるにはあるが、ややこしいことになっても困るので、極力他の攻略キャラとの接触は避けていた。

 もしかしてイファンのことを聞きたいとか。エイラスルートでも他の王子キャラの好感度上げてればそういうこともある……かな。

 フスタフは、元々細い切れ長な瞳を、更に細くして。
 何かを見定めるような、何かって何かわからないけれど、ゾっとする目つきで私を見た。

「あなた。わざとでしょ」

 たった一言。

 彼の言葉を理解する前に、体が、ビクンっと跳ねた。
 表情筋が反応しない代わりに、ビビリ筋に電流が流れた。

 私の急な動きに驚いたらしいフスタフが、また私の肩を掴み、私の動きを抑えようとしているのか、それとも支えてくれているのか、すぐに手を離した。

 私は、ぷるぷる首を振った。

「なんのことですの?」

「いや。今の反応でなんのことってのは笑っちゃうんだけど」

 全然笑ってないんですけど。

「私急いでますの」

「じゃあ正直に答えろよ」

 急に男っぽい口調になった。
 フスタフルートは一度しかやったことないけれど、彼がこんな風に話すのは見たことない。彼ってキャラは、いつも空気みたいで、穏やかで、薄っすら笑ってる人だったはず。

 フスタフは、腰を屈めて私に目線を合わせ、顔を近づけてきた。
 ときめき~な距離のつめかたではない。

 私は、ごくりと唾を飲み込んだ。

「エイラスがイファンにドレスを用意してるって情報……どこで仕入れた?」

 囁くような、それでいて鼓膜をビリビリ揺らす恐ろしい声。
 
 わざと。情報。

 体の芯が氷になったかのように、内から冷気を感じた。
 
 この人。気付いてる。さっきのあれだけでいろいろ気付いてる。
 いやまぁあれだけっていうか、そりゃもう不自然なことしたんだけれど。でもこれは乙女ゲームであって、流れを作るためには多少の不自然があってしかりで、そこのところをついてくるなんてルール違反。

「恋のキューピットにでもなろうとしてるってんならほおっておいてもいいんだけど。内部情報が漏れるのはねぇ」

 彼の細い瞳は一体どこまで私を見透かしているのか。
 ちょっと変だなと思ってふっかけてるだけなのか。

 この微かに香る柑橘系は、フスタフのつけている香水だろうか。それとも庭にある花々だろうか。

 …………違う違う。

 私は、深く、香りごと息を吸い込んで。

 とにもかくにも口を開いてみた。

 アドリブ。アドリブ。アドリブ。ハムスターそれドリブル。サッカー好きなの?

「じゃなくてっ」

「は?」

 それどころじゃない。ハムスターどころでもフスタフどころでもない。
 ウラガが待ってるんだから。この体力が尽きないうちに、必要なものを持って来なければならないのだ。

「フスタフ様。口が固くて顔が広くて信用できる行商人とか、もしくは旅芸人とか、危なげなく国境越えれる方っていうかそういうお知り合いはおられます?」

「………ん?」

「秘密裡に子供を預かってくれそうな知り合いや施設など、知っておられますか?」

 これは必殺質問返しという、古来よりめんどくさい女が使う技だ。
 質問の中身は全然練れなくて、思ってることそのままだが。
 万が一彼にコネがあれば、ものすごく上手くすれば一石二鳥……誤魔化しついでに人員まで確保できる。ものすごく上手くな部分に関してはまったくもってわからないけれど。

「知ってたら……どうだっていうの?」

 フスタフの声に、少しだけ余裕がなくなった。表情も心なしか曇っている。
 なんだか思ってた反応と違う。

「紹介してくれたら。あなたの質問にちゃんと答えますわ」

「…………」

 フスタフは、私から目を逸らし、ゆっくり後ろを見た。誰か来たわけでも、何か音がしたわけでもないのに、妙に意味深な態度だ。

 後ろ……私が来た方向、ウラガが待ってる方だ。
 まさか、さっきのやり取りは見られてないよね。

 まわりに人なんて居なかったし、そんなに大声で話してたわけじゃないが。
 一石二鳥の棚からぼた餅を狙ったはずが、まさかまさかの墓穴掘って……ないないさすがにそれはない。エスパーかよ。

 いやでも、彼の反応が一番正しい気もする。私怪しいもん。ここへ来てからというもの、一分一秒たりとも怪しくないことなんてないもの。
 イファンは身内だから許してくれてる部分があったし、ミーキアも妥協してくれてる感ありありだった。
 エイラスに関しては、裏が取れてからぶつけてくるタイプなので、私が一貫性のない動きをしまくっているうちはまだ何も言ってこないと高をくくっている。ゲームでもそうだった。

 まさかフスタフが速攻かけてくるとは。

「一体……何を……企んで……」

 掠れた声。
 独り言のようにも聞こえる彼の声に、私は……私……は……。

 急に膝がガクっと折れた。

「? おいっ」

 私は、ペタンっとその場に座り込み、ゆっくりと仰向けに倒れ……た。
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