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第一章:領主一年目
泥棒猫
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エルマー様が新しい領地から無事に戻ってきました。そう……奥様を連れて……。
私はかつてエルマー様からハイデに来ないかと誘われました。ハイデに行くことの意味はもちろん分かっていましたし、ここを離れることはできないと言ってそれを断ったのは私自身です。エルマー様に奥様ができても偉そうなことを言える立場にないことくらいは分かってはいるのですが……。
奥様の名前はカレンだそうです。可憐だからカレンとか、そんな冗談ではないでしょうね。
カレンさんは可憐ではありますが、かなり小柄な方です。肩の下まで伸ばした、うっすらと青みがかった黒髪。まるで雪花石膏のような透き通った白い肌、ストーンというほどではないにせよ凹凸が少ない体。最後の点だけは私の方がはるかに有利です。これでも立派なボンキュッボンでエルマー様を虜にしましたから。でもエルマー様にそちらの趣味もあるとすれば意味がありませんね。
最初は「エルマー様の初めての相手を務めましたエルザです」などと大人気ない言い方をしてしまいました。そしてとりあえずエルマー様から引き離そうと、屋敷の奥まで連れて行きました。
「ねえ、エルザ。腹を割って話さない?」
「ええ、それはかまいませんが、意見の一致するところがおそらく見つからないと思いますよ」
私がカレンさんを奥まで連れてきておきながら、自分の方から話し合いを拒否するという大変失礼なことをしてしまいました。それくらい拗ねていたのでしょう。
「そんなに突っかかってこなくても大丈夫よ。あなた、エルマーと一緒にいたいんでしょ?」
「はい、もちろんです。私の体はエルマー様のものです。私の初めての方でもありますし、この体でエルマー様の指が触れていない場所はありません」
「それは私も同じだけどね。そうね、まず誤解から解かないとね」
カレンさんは両手をパンと胸の前で叩いてそう言いました。
「誤解ですか?」
「そう。あなたはエルマーを奪われると思ってるのかもしれないけど、私は共有したいのよ。独占するつもりはないわよ」
「ですが結婚されたらカレンさんはエルマー様と向こうで暮らすわけですよね。私はこちらですのでどのみち離れ離れです」
「ん? 私は人の結婚については詳しくないけど、人の貴族って複数の妻を持つのが普通なんでしょ? 一緒にいたらいいんじゃないの?」
「人? 人ってどういうことですか?」
「ああ、私はこれがあるから」
そう言うとカレンさんの頭を指で指しました。
「え? え?」
頭に生えたのはまさかの角でした。羊人や山羊人など、最初から角がある種族はいますが、隠すことができる種族は見たことがありません。
「そうよ。私は両親とこの国の一番北のところに住んでいたの。そこにエルマーがやってきたのよね。私は竜としてはちょうど成人する年頃で、右も左も分からないのに家を飛び出したところでエルマーに会って一目惚れしたの。刷り込みみたいなものかもね」
カレンさんは笑いながら二人の出会いを語ってくれました。
「私は人の姿になれるようになってすぐだったから、まだ声も十分に出せなくて、『そう』とか『分かった』としか口が動かなかったの。それが彼に抱かれたら、一晩中声を出すことになったから、あっという間に普通にしゃべれるようになったわ」
「私はエルマー様のお父様から、エルマー様のお世話を頼まれました。半年くらい経って年が明けたくらいですが、そのとき初めてエルマー様に抱かれました。それからエルマー様が領地に戻るまで二年半近くずっと一緒でした」
「いいわねえ。私はまだ三週間くらいしか経ってないけど、エルマーって逞しいの?」
「はい、連日でも大丈夫でした。もちろん私はエルマー様しか知りませんから、他の男性がどうなのかは分かりませんが」
「ふうん。私も同じ感じかしら。それでさっきも言ったけど、エルザも北に行かない? 二人で一緒にいても問題ないはずよね」
「行きたいのはやまやまですが……」
私はカレンさんに事情を説明しました。
この屋敷と教会の管理を、今は亡きトビアス様から頼まれていること。すぐに何かがあるわけではないとは言っても、あまり長期で放置するわけにはいかないこと。要するに、ここを離れるわけにはいかないと伝えました。
「それなら大丈夫。私が連れてきてあげるわ」
「連れてくるって、空を飛んでですか?」
「人には[転移]って魔法があるでしょ? 一瞬で別の場所に移動できるやつ。私はそれが使えるから、週に一回か二回、こっちに連れてくるわよ」
「え? いいのですか?」
「誰でもいいってわけじゃないわよ。エルザだからね。エルマーが好きな人は仲間よ」
そう言うとにっこりと微笑んでくれました。
ああ、この笑顔ならエルマー様が惚れるのも無理はないと思いました。女性の私でも惚れてしまいそうです。そしてその笑顔のまま、私が天にも昇るような一言を伝えてくれました。
「エルマーはエルザを心配してたのよね」
……エルマー様……お腹の奥が疼きます。
どうやらエルマー様がポロッと「エルザが無事ならいいが」と言ったそうです。それで私を連れて行く気になったそうです。
「だからエルザを向こうに連れて行くのは問題ないわ。序列なんて気にしなくていいし、あの人と一緒にいたいのか、それとも一緒にいたくないのか、ただそれだけね。どう?」
「一緒にいたいです」
私は即答してしまいました。それ以外に答えようがありませんでした。
「それなら話は早いわね。私たちはこれからハイデという町に向かって、みんなを連れてそれから北に向かうの。向こうに着いて落ち着いたら呼び寄せることになるんだけど、それでいい?」
「はい、もちろんです」
「ならそれで決まりね。それじゃ、他に何を話そうかしら?」
「今夜はここにお泊まりですよね。それなら二人でエルマー様のお相手をしませんか?」
「いいわね! あ、そうそう、よく効く薬があるんだけど、飲んでみる?」
「効くって、子供ができるのですか?」
「ううん、体力回復。一晩すごいわよ。竜と人じゃ体力が全然違うんだけど、それを飲んだエルマーは簡単に私を屈服させたからね」
「簡単に、竜を、屈服……おほっ……」
「体に悪くはないから、する前に飲んだらいいわ」
カレンさんから小瓶に入った水薬を渡されました。
「材料はいくらでもあるみたいだから、エルマーならいくらでも作れると思うし、する前に遠慮なく飲んでね」
「ありがとうございます」
ふふふっ。私ではどうしても体力面でエルマー様には敵いませんでしたが、これで心ゆくまでエルマー様のお世話ができますね。そう、心ゆくまで。
私はかつてエルマー様からハイデに来ないかと誘われました。ハイデに行くことの意味はもちろん分かっていましたし、ここを離れることはできないと言ってそれを断ったのは私自身です。エルマー様に奥様ができても偉そうなことを言える立場にないことくらいは分かってはいるのですが……。
奥様の名前はカレンだそうです。可憐だからカレンとか、そんな冗談ではないでしょうね。
カレンさんは可憐ではありますが、かなり小柄な方です。肩の下まで伸ばした、うっすらと青みがかった黒髪。まるで雪花石膏のような透き通った白い肌、ストーンというほどではないにせよ凹凸が少ない体。最後の点だけは私の方がはるかに有利です。これでも立派なボンキュッボンでエルマー様を虜にしましたから。でもエルマー様にそちらの趣味もあるとすれば意味がありませんね。
最初は「エルマー様の初めての相手を務めましたエルザです」などと大人気ない言い方をしてしまいました。そしてとりあえずエルマー様から引き離そうと、屋敷の奥まで連れて行きました。
「ねえ、エルザ。腹を割って話さない?」
「ええ、それはかまいませんが、意見の一致するところがおそらく見つからないと思いますよ」
私がカレンさんを奥まで連れてきておきながら、自分の方から話し合いを拒否するという大変失礼なことをしてしまいました。それくらい拗ねていたのでしょう。
「そんなに突っかかってこなくても大丈夫よ。あなた、エルマーと一緒にいたいんでしょ?」
「はい、もちろんです。私の体はエルマー様のものです。私の初めての方でもありますし、この体でエルマー様の指が触れていない場所はありません」
「それは私も同じだけどね。そうね、まず誤解から解かないとね」
カレンさんは両手をパンと胸の前で叩いてそう言いました。
「誤解ですか?」
「そう。あなたはエルマーを奪われると思ってるのかもしれないけど、私は共有したいのよ。独占するつもりはないわよ」
「ですが結婚されたらカレンさんはエルマー様と向こうで暮らすわけですよね。私はこちらですのでどのみち離れ離れです」
「ん? 私は人の結婚については詳しくないけど、人の貴族って複数の妻を持つのが普通なんでしょ? 一緒にいたらいいんじゃないの?」
「人? 人ってどういうことですか?」
「ああ、私はこれがあるから」
そう言うとカレンさんの頭を指で指しました。
「え? え?」
頭に生えたのはまさかの角でした。羊人や山羊人など、最初から角がある種族はいますが、隠すことができる種族は見たことがありません。
「そうよ。私は両親とこの国の一番北のところに住んでいたの。そこにエルマーがやってきたのよね。私は竜としてはちょうど成人する年頃で、右も左も分からないのに家を飛び出したところでエルマーに会って一目惚れしたの。刷り込みみたいなものかもね」
カレンさんは笑いながら二人の出会いを語ってくれました。
「私は人の姿になれるようになってすぐだったから、まだ声も十分に出せなくて、『そう』とか『分かった』としか口が動かなかったの。それが彼に抱かれたら、一晩中声を出すことになったから、あっという間に普通にしゃべれるようになったわ」
「私はエルマー様のお父様から、エルマー様のお世話を頼まれました。半年くらい経って年が明けたくらいですが、そのとき初めてエルマー様に抱かれました。それからエルマー様が領地に戻るまで二年半近くずっと一緒でした」
「いいわねえ。私はまだ三週間くらいしか経ってないけど、エルマーって逞しいの?」
「はい、連日でも大丈夫でした。もちろん私はエルマー様しか知りませんから、他の男性がどうなのかは分かりませんが」
「ふうん。私も同じ感じかしら。それでさっきも言ったけど、エルザも北に行かない? 二人で一緒にいても問題ないはずよね」
「行きたいのはやまやまですが……」
私はカレンさんに事情を説明しました。
この屋敷と教会の管理を、今は亡きトビアス様から頼まれていること。すぐに何かがあるわけではないとは言っても、あまり長期で放置するわけにはいかないこと。要するに、ここを離れるわけにはいかないと伝えました。
「それなら大丈夫。私が連れてきてあげるわ」
「連れてくるって、空を飛んでですか?」
「人には[転移]って魔法があるでしょ? 一瞬で別の場所に移動できるやつ。私はそれが使えるから、週に一回か二回、こっちに連れてくるわよ」
「え? いいのですか?」
「誰でもいいってわけじゃないわよ。エルザだからね。エルマーが好きな人は仲間よ」
そう言うとにっこりと微笑んでくれました。
ああ、この笑顔ならエルマー様が惚れるのも無理はないと思いました。女性の私でも惚れてしまいそうです。そしてその笑顔のまま、私が天にも昇るような一言を伝えてくれました。
「エルマーはエルザを心配してたのよね」
……エルマー様……お腹の奥が疼きます。
どうやらエルマー様がポロッと「エルザが無事ならいいが」と言ったそうです。それで私を連れて行く気になったそうです。
「だからエルザを向こうに連れて行くのは問題ないわ。序列なんて気にしなくていいし、あの人と一緒にいたいのか、それとも一緒にいたくないのか、ただそれだけね。どう?」
「一緒にいたいです」
私は即答してしまいました。それ以外に答えようがありませんでした。
「それなら話は早いわね。私たちはこれからハイデという町に向かって、みんなを連れてそれから北に向かうの。向こうに着いて落ち着いたら呼び寄せることになるんだけど、それでいい?」
「はい、もちろんです」
「ならそれで決まりね。それじゃ、他に何を話そうかしら?」
「今夜はここにお泊まりですよね。それなら二人でエルマー様のお相手をしませんか?」
「いいわね! あ、そうそう、よく効く薬があるんだけど、飲んでみる?」
「効くって、子供ができるのですか?」
「ううん、体力回復。一晩すごいわよ。竜と人じゃ体力が全然違うんだけど、それを飲んだエルマーは簡単に私を屈服させたからね」
「簡単に、竜を、屈服……おほっ……」
「体に悪くはないから、する前に飲んだらいいわ」
カレンさんから小瓶に入った水薬を渡されました。
「材料はいくらでもあるみたいだから、エルマーならいくらでも作れると思うし、する前に遠慮なく飲んでね」
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