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第二章:領主二年目第一部
ヘルガの待遇
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「旦那様、これはお城では?」
「ああ、城だ」
「旦那様は男爵様でしたよね?」
軽く説明してから連れて来たが、まあこのような反応をするだろうなと思ったらやっぱりそうだった。
「紛れもない男爵だ。普通はそういう反応をするよな?」
「ここのみなさんは違うのですか?」
「少し違ったな」
肝が据わっているというか何というか。環境への適応能力が非常に高いな。「俺ら城を見て暮らせるんだな」とか「王都ってこんな感じなんだろうな」とか「ここが王都でいいんじゃねえか?」とか聞こえたな。
王城と比べればはるかに小さいが、こういう城はなかなか他にはないな。国境に近いあたりならこれに近いものはあるが。もっと砦に近い。
◆ ◆ ◆
「おかえり。また妻が増えるのね」
「いや、昔の知り合いを連れて来ただけだが」
俺が女を連れて来たら妻になるのか? そこまで節操なくはないぞ。ヘルガも俺の服の裾を掴んで頬を赤らめるんじゃない。
「旦那様、その子は?」
「正妻のカレンだ」
「し、失礼しました、奥様」
「まあいいわ。カレンよ、よろしくね」
カレンは気を悪くした様子もなく挨拶を返した。ヘルガはそれなりに背が高いからな。カレンより頭一つ高いか。
「ヘルガです。よろしくお願いします。ところで奥様、その頭のそれは?」
「ん? それ? 角のこと?」
「ああ、角ですか……角?」
「角よ、ほら」
「角…………え?」
「羽もあるわよ」
「は、羽? ええっ?」
またカレンが角を出しっぱなしにしていた。窮屈に感じているわけじゃないらしいが、たまに出したくなるらしい。この町の住民ならもう十分慣れているが、初めて見たら驚くだろう。
魔法で作った服なら羽だろうが尻尾だろうがそのまま突き出るだけだが、普通の服なら羽や尻尾を出した瞬間に破ってしまうから気を付けているそうだ。
「ヘルガ、まあそういうことだ。この領地には色々な不思議があるぞ。そう思ってくれ」
「は、はい。分かりました」
ヘルガをここに連れてくるにあたって、彼女を使用人として雇うと話している。彼女の方から俺のことを旦那様と呼んだからだ。下働きでいいので働かせてほしいと。
彼女は商家の娘だけあって読み書き計算はできるし、基本的な礼儀作法は身に付けていた。言葉遣いはたまに崩れるが、丁寧に話そうとすればできるようだ。俺と似た感じだな。俺だって殿下の前ではそれなりに丁寧な言葉遣いをする。
あれから大変な思いをしていたようだが、まあここで使用人をしながら、空いた時間はのんびりしたらいいと思う。まだ忙しいことは何もないからな。
「ところで、エルマー様。ヘルガさんの部屋はどこに用意したらいいでしょうか?」
しばらくするとエルザとアルマもやって来たが、その時のエルザの一言で少し悩むことになった。使用人のつもりだったが……。
「その問題があったな」
「普通に愛人棟の方でもいいんじゃないの?」
「来客棟と呼んでくれ。そもそもあちらはまだ誰一人住んでいないからさすがに寂しいだろう」
城の東側に増築されたのが来客棟だ。カレンは愛人棟と行ったが、別に愛人専用というわけではない。
だが最初にカレンとエルザが愛人棟と呼んだので、使用人たちにもそのように呼ばれるようになってしまった。殿下が来たときに間違って愛人棟と呼ばないように、早いうちに直さないといけないが、一度覚えるとなかなか直らないものだ。
ちなみにザーラが来たときは数日だけ来客棟に泊まってもらったが、あのときは客人扱いで世話役の女中を付けていた。ザーラは今では宿屋の裏の家で暮らしている。アルマ、カリンナ、コリンナなど、年が近い者たちと仲良くしているようだ。おかしな影響を受けなければいいが。
その来客棟だが、普段は誰も使っていない。だからヘルガがそこを使うとなると、世話役が付くわけでもないので、あの建物の中で文字通り一人で寝泊まりすることになる。短期ならいいかもしれないが、ずっとあの建物に一人で置いておくのはちょっとな。
カレンとエルザとアルマは妻だから城の二階に部屋がある。そしてエクムント殿の斡旋でうちにやって来た使用人たちは城の西側の使用人棟に部屋がある。
ヘルガは使用人として雇うことにしたから、本来は使用人棟の方だが、いきなりそこに放り込むのも少し問題がある。
使用人棟の各部屋は、立場の上下によって一人部屋、二人部屋、四人部屋となっていて、広さもそれぞれ違う。一〇人以上は入れる大部屋もあるが、今のところは使われていないようだ。
そのように部屋の割り当てがされているが、新しく来たヘルガにいきなり一人部屋を与えれば、彼女は他の使用人たちから上級使用人だと思われることになる。だが彼女は侍女でも家政婦長でも料理長でもない。
侍女という肩書きを与えればいいのかもしれないが、最初からいた侍女の二人を配置転換してしまった手前、今さら侍女を雇うのも彼女たちに対して失礼だろう。
つまりヘルガをどこに入れるにしても中途半端になってしまう。城の二階に入れれば妻と見なされ、来客棟に入れれば愛人と見なされる上に一人だ。さて、どうしたものか……。
「ヘルガ、まあどこに部屋を用意するにしてもそれなりに問題がありそうなんだが、正直なところどこがいい?」
「そうですね……。できれば旦那様の近くで働きたいと思っていますので、部屋も近い方が」
「そうか、分かった。それなら城の二階に部屋を用意しよう。アルマ、ヘルガに部屋を選ばせてやってくれ。空き部屋ならどこでもいいぞ」
「分かりましたっ」
「家具がまだ入っていないから、部屋を選んだら城の中を見るなり休憩室でくつろぐなり好きにしてくれ」
アルマは人懐っこい性格だからヘルガと上手くやれるだろう。
「ああ、城だ」
「旦那様は男爵様でしたよね?」
軽く説明してから連れて来たが、まあこのような反応をするだろうなと思ったらやっぱりそうだった。
「紛れもない男爵だ。普通はそういう反応をするよな?」
「ここのみなさんは違うのですか?」
「少し違ったな」
肝が据わっているというか何というか。環境への適応能力が非常に高いな。「俺ら城を見て暮らせるんだな」とか「王都ってこんな感じなんだろうな」とか「ここが王都でいいんじゃねえか?」とか聞こえたな。
王城と比べればはるかに小さいが、こういう城はなかなか他にはないな。国境に近いあたりならこれに近いものはあるが。もっと砦に近い。
◆ ◆ ◆
「おかえり。また妻が増えるのね」
「いや、昔の知り合いを連れて来ただけだが」
俺が女を連れて来たら妻になるのか? そこまで節操なくはないぞ。ヘルガも俺の服の裾を掴んで頬を赤らめるんじゃない。
「旦那様、その子は?」
「正妻のカレンだ」
「し、失礼しました、奥様」
「まあいいわ。カレンよ、よろしくね」
カレンは気を悪くした様子もなく挨拶を返した。ヘルガはそれなりに背が高いからな。カレンより頭一つ高いか。
「ヘルガです。よろしくお願いします。ところで奥様、その頭のそれは?」
「ん? それ? 角のこと?」
「ああ、角ですか……角?」
「角よ、ほら」
「角…………え?」
「羽もあるわよ」
「は、羽? ええっ?」
またカレンが角を出しっぱなしにしていた。窮屈に感じているわけじゃないらしいが、たまに出したくなるらしい。この町の住民ならもう十分慣れているが、初めて見たら驚くだろう。
魔法で作った服なら羽だろうが尻尾だろうがそのまま突き出るだけだが、普通の服なら羽や尻尾を出した瞬間に破ってしまうから気を付けているそうだ。
「ヘルガ、まあそういうことだ。この領地には色々な不思議があるぞ。そう思ってくれ」
「は、はい。分かりました」
ヘルガをここに連れてくるにあたって、彼女を使用人として雇うと話している。彼女の方から俺のことを旦那様と呼んだからだ。下働きでいいので働かせてほしいと。
彼女は商家の娘だけあって読み書き計算はできるし、基本的な礼儀作法は身に付けていた。言葉遣いはたまに崩れるが、丁寧に話そうとすればできるようだ。俺と似た感じだな。俺だって殿下の前ではそれなりに丁寧な言葉遣いをする。
あれから大変な思いをしていたようだが、まあここで使用人をしながら、空いた時間はのんびりしたらいいと思う。まだ忙しいことは何もないからな。
「ところで、エルマー様。ヘルガさんの部屋はどこに用意したらいいでしょうか?」
しばらくするとエルザとアルマもやって来たが、その時のエルザの一言で少し悩むことになった。使用人のつもりだったが……。
「その問題があったな」
「普通に愛人棟の方でもいいんじゃないの?」
「来客棟と呼んでくれ。そもそもあちらはまだ誰一人住んでいないからさすがに寂しいだろう」
城の東側に増築されたのが来客棟だ。カレンは愛人棟と行ったが、別に愛人専用というわけではない。
だが最初にカレンとエルザが愛人棟と呼んだので、使用人たちにもそのように呼ばれるようになってしまった。殿下が来たときに間違って愛人棟と呼ばないように、早いうちに直さないといけないが、一度覚えるとなかなか直らないものだ。
ちなみにザーラが来たときは数日だけ来客棟に泊まってもらったが、あのときは客人扱いで世話役の女中を付けていた。ザーラは今では宿屋の裏の家で暮らしている。アルマ、カリンナ、コリンナなど、年が近い者たちと仲良くしているようだ。おかしな影響を受けなければいいが。
その来客棟だが、普段は誰も使っていない。だからヘルガがそこを使うとなると、世話役が付くわけでもないので、あの建物の中で文字通り一人で寝泊まりすることになる。短期ならいいかもしれないが、ずっとあの建物に一人で置いておくのはちょっとな。
カレンとエルザとアルマは妻だから城の二階に部屋がある。そしてエクムント殿の斡旋でうちにやって来た使用人たちは城の西側の使用人棟に部屋がある。
ヘルガは使用人として雇うことにしたから、本来は使用人棟の方だが、いきなりそこに放り込むのも少し問題がある。
使用人棟の各部屋は、立場の上下によって一人部屋、二人部屋、四人部屋となっていて、広さもそれぞれ違う。一〇人以上は入れる大部屋もあるが、今のところは使われていないようだ。
そのように部屋の割り当てがされているが、新しく来たヘルガにいきなり一人部屋を与えれば、彼女は他の使用人たちから上級使用人だと思われることになる。だが彼女は侍女でも家政婦長でも料理長でもない。
侍女という肩書きを与えればいいのかもしれないが、最初からいた侍女の二人を配置転換してしまった手前、今さら侍女を雇うのも彼女たちに対して失礼だろう。
つまりヘルガをどこに入れるにしても中途半端になってしまう。城の二階に入れれば妻と見なされ、来客棟に入れれば愛人と見なされる上に一人だ。さて、どうしたものか……。
「ヘルガ、まあどこに部屋を用意するにしてもそれなりに問題がありそうなんだが、正直なところどこがいい?」
「そうですね……。できれば旦那様の近くで働きたいと思っていますので、部屋も近い方が」
「そうか、分かった。それなら城の二階に部屋を用意しよう。アルマ、ヘルガに部屋を選ばせてやってくれ。空き部屋ならどこでもいいぞ」
「分かりましたっ」
「家具がまだ入っていないから、部屋を選んだら城の中を見るなり休憩室でくつろぐなり好きにしてくれ」
アルマは人懐っこい性格だからヘルガと上手くやれるだろう。
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