ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第一章:領主一年目

移住に向けた準備

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 もう少ししたら麦を収穫し、二週間ほどそれを乾燥させたら脱穀して向こうへ持って行く。さすがにそのままだと嵩張かさばるから実だけでいい。その間にすべきことことは色々とある。



 今日も集会所に一部の住民に集まってもらった。この町でもそれなりの年齢と立場にある者たちだ。

「とりあえず向こうに着いたらしばらくはみんなで共同生活になる。仮住まいとして俺が土で作った倉庫のような建物を用意するから、数家族ずつそこに入って雨露をしのぎながら家を建てる形になる」
「エルマー様、家のことで少しいいでしょうか?」

 棟梁の一人であるヨハンが手を挙げた。棟梁と呼ばれているが、父と一緒にここにやって来てから家を建て始めた男だ。元は家具などを作っていたようで、最初は試行錯誤だったそうだ。

「何か考えがあるか?」
「はい。とりあえず全員が家に入れるようにするのを目的にするなら、家は同じ規格で作ればいいと思います」
「同じ規格か……。独身でも家族持ちでも同じ広さでということだな。広い方に合わせるか?」
「はい。そうすれば少なくとも狭いという文句は出ないと思います」
「……分かった。そのやり方でどれくらい石材と木材が必要かを計算してくれ。石材はできる限りこちらで用意しよう。木材は麦の乾燥の間にみんなで山に入って切り倒すか」
「では一軒ごとに必要な分量を計算しておきます」
「一〇〇軒分あれば足りるだろう。それで頼む」

 すでに結婚している者が多いから、世帯は一〇〇はない。俺の方でも一〇〇世帯を基本にして、どれくらいの石材が必要かをざっくりと計算しておこう。

「私も木を抜くのを手伝おうか?」
「そうだなあ……どちらかと言えば、丸太になったものを乾燥させて角材に加工するあたりを手伝ってやってくれ。あれはかなり労力が必要だし、時間もかかるからな」
「じゃあ裂けばいいのね」
「ああ、うん……まあ方法は任せる」

 人の姿のままでさえ地面に生えていた木を掴んで引っこ抜けるくらいだから、丸太を裂くくらいはできるんだろう。見てみたいような見たくないような……。

「カレン様は竜の姿で作業をされるのですか?」
「どっちでもいいわよ。竜に戻れば掴んで引っこ抜いてポンと投げればいいだけだから楽だけどね。この姿だと背が足りないから、たぶん運ぶのに時間がかかるわね」
「そこはさっさと済ませたいところだからなあ。カレン、竜の姿で木を抜いてくれ。それと乾燥も頼む」
「分かったわ」
「カレン様、木の乾燥もできるのですか?」
「私は水竜だから水の扱いは得意よ。木を抜いて、乾燥させながら加工する場所に持って行って、それでまた抜きに戻るのでいいかしら」
「それが一番だろうな。それを軸に細かなところを決めよう」

 結局ここでまとまった意見としては、まずカレンが竜の姿で山に入り、木を順番に引っこ抜きながら乾燥させる。その木を町外れの資材置き場に並べる。カレンはまた山に戻って木を抜いて乾燥させ、資材置き場に並べる。これを繰り返す。

 その間に男連中は総出で枝を払い、皮を剥ぎ、根を切り、角材や板材を作る作業をする。目処が立った時点でカレンも製材作業に加わる。そもそも最初の時点で普通のやり方じゃない上にかなりカレン頼みだが、妙にやる気を出しているので俺としてはそれを応援したい。

 男性側からの意見もあれば女性側からの意見もある。

「やはり思い入れのあるものは持って行きたいですね」
「家屋以外は持って行けるようにしよう。家族ごとにまとめておけばややこしくならないだろう」
「椅子なら椅子でまとめたほうが運びやすくありませんか?」
「自分が使っていたものならすぐに分かるかもしれないが、三〇〇も四〇〇もあればさすがに混乱しないか?」

 机なら机、椅子なら椅子、種類ごとにまとめた方がいいんだろうが、山のように椅子がある中から自分の家のものを探せるかどうかという話だ。それなら家族単位にした方が、多少は無駄な空間ができたとしても分かりやすくていいだろうということになった。

 家具は家族ごとにまとめて家の前に置いておき、それを人と同じように土で作った巨大な鍋に入れて運ぶ。

「今さら思ったんだけど、さすがに家ごと運ぶのは無理よね?」
「家ごとはなあ……俺もできればそうしたいんだが、仮に地面から切り離して運べたとしても、おそらく運んでいる途中で崩れるぞ。多少は固定もしているが、石を積んだ上に屋根を乗せている形だ。もちろんそれだけではないけどな」
「魔法でなんとかならないの?」
「そうだなあ……壁の石を固めて一体化すれば崩れるのは防げると思うんだが、家一件分の基礎から屋根までまとめて運べばかなりの重さになる。今回予定している運び方では、どう頑張っても底が抜けてしまう。いくら土魔法で固めても限度があるんだ。所詮は石にしかできないからな」
「そっか」

 カレンは残念そうにしている。家屋を置いて行くことに抵抗があるようだ。持って行けるならそうしたいが、さすがに無理だろうなあ。底が抜けないとしても、家一軒はかなり重い。人を運ぶのとはわけが違う。

「カレン様、家は大丈夫ですよ?」
「そう? 思い入れがあるんじゃないかなって思って」
「それは思い出も思い入れもありますが、一緒にいたいのは家ではなくて家族ですよ」
「それならいいんだけど」

 そう、この町の結束は強い。人がいて家族になり、それが集まれば町になる。町は人がいてこそだ。家があれば町になるわけではない。

「カレン、そういうことだ。必要なのは人だ。家は建てればいい。住んでいるうちに想い出もできる」
「うん、分かった」

 結果としてカレンを連れてきたのは間違いではなかった。この場に集まっていた領民たちにとっては、カレンは自分たちの子や孫のようにしか見えない。そんな子が一生懸命に自分たちのことを考えてくれていると分かり、それからはほのぼのした雰囲気が漂った。

 カレンは先日の宴会で少々はっちゃけたせいで、自分がどう思われているのか気になっていたようで、その確認もあって付いてきた。だが今日の集まりを見ても、明るくて親しみやすくて優しい領主夫人だと受け止められていると思う。

 まだ人としての常識に疎いところがあるから仕方ないんだろうが、何が恥ずかしくて何が恥ずかしくないのか、何が気になって何が気にならないのか、そのあたりが俺にはよく分からない。

 ここに歩いてくるときも、「跡継ぎはまだっすか?」と声をかけられたら「毎晩頑張ってるからもうちょっと待って」と言い返していた。酔った勢いで夜の生活まで喋って凹んでいた姿とは別人のようだ。

 お高く止まっていれば陰口も叩かれるだろうが、みんなに混じって楽しくやっていればすぐに馴染めるだろう。
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