ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第一章:領主一年目

私の出番

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「水なら私の出番ね!」

 ここまで静かにしていたカレンがいきなりそんなことを言った。

「どの水の話だ?」
「きれいな水の話よ。前に言ってたでしょ。何かのときのために水を溜めておきたいって。こう、大きな容器を作って私が水を貯めれば、とりあえずしばらく使う水には困らないんじゃない?」
「その容器は俺が作るのか?」
「あの鍋と同じでいいんじゃない? もっと浅くていいと思うけど」
「ふむ、そうだな」

 たしかにそういう話はした。カレンが異様にやる気を出していて、ため池の話をしたら町の中に掘りそうだったから、必要になったら頼むと言っていた。カレンは水の扱いは上手いが、それ以外は決して上手くない。掘って出た土を固めて石を作るのに、力を入れすぎて何度も破裂させていた。いまでもたまに訓練しているので、かなりマシになってきたが、まだ水以外は安心はできない。

 職人たちは自分たちが中に入って運ばれた鍋を思い出したのか、「ああ、あれか」というような顔をしている。こっちに着いたときは暗かったのでよく見えなかったようだが、次の日になって自分たちが乗ってきたものを見て微妙な表情になっていた。カレンが竜の姿になって持ち上げているのを想像したら、深鍋を運んでいるようにしか見えないからな。その中身は、つまり自分たちだ。

「そうだな。それならカレンの力を借りよう。きれいな水はカレンに出してもらう。それを入れる容器は俺が石を使って作る。運河が完成してそこから水を取れるようになるまではこれで行こう」
「とりあえずしばらくでいいのよね」
「ああ。それなら明日にでも邪魔にならない場所に作っておくか」



 翌日、巨大な石の桶のような容器を半分地面に埋め込んで屋根を付けた。見た目はものすごく浅い井戸のようなものだ。そこに木桶を入れて水を汲もうと思っていると、木工職人のアレクが家を建てる板材の余りを使って手回し式の水車と水路の模型を作った。

「これは説明のために作ったものなのでまともに水は汲めませんが、これをきちんと組み立てれば、しばらく水を汲むのには使えると思います。桶よりは楽になると思います」
「なるほど、川の流れがなくても手で回せばいいのか」
「はい、大量に水を汲む目的には向きませんが、運河ができるまでの仮の物としてはこれくらいでいいかと」
「そうだな、では材料を渡すから設置してくれるか? 人手が必要なら適当に声をかけて誘ってくれ」
「承知しました」

 とりあえずこれでしばらくはいい。他は運河が完成してからの話だ。カレンにはこの水がなくならないように見回りをしてもらうことになった。

「朝と夕方に見てまわればいいわね」
「そうだな。一日二回くらい頼む。水車が水を汲めないと困るからな」
「運河ができたらどうやって水を汲むの?」
「それは先ほどのような水車をもっと大きくしたものになるだろうな。今回は溜めた水だから手回しにするしかなかったが、運河は常に水が流れるから放っておいても勝手に水を汲んでくれる。あまり流れが弱いとだめだが」
「ああ、途中の町にいっぱいあった丸いものね」
「そうだ。その水車が回る力を利用して小麦を挽かせるものもある。水車の横には小屋が建っていただろう」

 水車小屋は製粉を始め、色々なものに使われる。うちの場合は手を使って石臼で挽いているが、もっと量が増えるなら水車を使った方がいいだろう。やはり職人が来てくれるとできることが増える。

「へえ、そうやって使うのね」

 カレンが模型を見ながらそう口にした。俺の生きてきた年数はカレンより数年長いだけだが、やはり経験の量が違う。機会があればカレンを連れてあちこちに行き、色々なものを見せてあげたい。なかなかその時間がないのが難しいところだが。

「人が知恵を絞って大きな力を得ようとした結果だな。風を使ったり水を使ったり、自然の色々な力を利用する。このあたりでは風力は使えないが水力なら大丈夫だろう」
「風力はダメなの?」
「ダメとは言い切れないが、ここは盆地で周りが山に囲まれているから風が弱い。山の向こうのエクセンならそれなりに風がある。他には海の近くも風が強いそうだ」

 俺は地面に簡単に絵を描いて説明する。ここの土地はエクセンよりもさらに低い。風は山の上を流れてしまうので盆地の中は比較的風が弱い。

「やっぱり地面の上は違うのね」
「あれだけ高い山の上なら空気はここよりも乾燥しているだろう。それに雲よりも上になるから天気が悪くなることもない。そもそもここは海から遠いから、川が多くてもあまり乾燥していないようだ」

 ついでに地形と天気の説明も簡単にする。竜にとっては多少気温が高かろうが低かろうが湿度が高かろうが低かろうがたいした影響はないだろうが、人としてはどう感じるかは覚えてもらいたい。

「こうやって偉そうに言っても、俺がここに来たのはお前と会う数日前だから、このあたりのことについてはたいして詳しくはないんだけどな」
「でもあなたには色々と教えてもらうのは面白いわよ」
「そうか? それならもう少し町作りが落ち着いたら、どこか別の町へのんびりと見学にでもいくか」

 俺自身ももっと色々な町を見て参考にしたい。俺が知っているのは王都からハイデまで、王都からドラゴネットまで、それから王都から南西の国境付近まで。南東の方や西の方はほとんど行ったことがない。

「そうね。エルザとアルマも連れて行きましょ」
「二人だけで行けば絶対に拗ねるからな」
「『エルマー様、どうして私とアルマはお留守番なんですか? たしかにカレンさんは正妻ですが、差別はひどいですよ?』って言いそう」
「だいぶエルザの口調が分かってきたようだな。だがエルザなら最後の部分は『そういう差別はよくないと思いますよ?』というだろう」
「あ、言いそう。さすがね」
「二人とも、どうして私をネタにして遊んでいるのですか?」

 噂をすればなんとやらと言うが、エルザがやって来た。まあ教会から歩いてすぐの場所だからな。

「遊んではいないぞ。町作りの参考にするためにどこか別の町をゆっくり見に行きたいと言っていただけだ」
「そこで私の名前が出たのはなぜですか?」
「二人だけで出かけたらエルザが拗ねそうだと言ったら、カレンがエルザの口調を真似したので俺が修正して、ちょうどそこに二人が来たわけだ」
「そうそう」
「それは遊んでいたのとは違うのですか?」
「違うわよ。本気で遊ぶつもりならアルマだけ連れてエルザは置いて行くわよ」

「あ……ぷっ」

 俺が予想した通りのことを口にしたエルザに、まずカレンが吹き出すと、俺とエルザもつられ、三人ともしばらく笑いが止まらなかった。
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