ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第一章:領主一年目

新しい区画の整備と森の掃除屋

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 ゲルトの親父さんに職人と移住希望者を集めてもらったが、なにせここはこの国で一番北にある上に、あまりいい噂を聞かない場所だ。来るとすれば王都で食うに困って後がないやつらだけと思っていた。職人が数人、それ以外の移住者が一〇人もいればいいと思っていたが、蓋を開けたら職人が二二人、それ以外が一九二人。ありがたい話だが、あまりにも急に増えたので急いで住む場所の準備しなければならない。とりあえずしばらくの間は集会所で寝泊まりしてもらうとして、その間に家を建てることになっている。

 職人の工房兼住居は職人街に予定通りの場所に、それ以外の移住者の家は農民たちの家の近くに建てることになった。クラースとパウラはもう町にいないので、代わりにカレンが張り切って働いている。まだ土の扱いは慣れていないので、重い石を運んだり積んだりするのが中心だが、それでも並の人よりも作業が早い。もちろん俺も手が空いているときはできることをする。

 俺が中心となって進めるのは下水の工事。前回と同じように少し深めの水路を作り、最初は汚れを濾し取り、それからそこを通った水を浄化する。どちらも使うのは森の掃除屋だ。前回集めすぎたのでそのまま樽に入れっぱなしになっている。肉の切れ端などを入れているので、今のところ元気にしている。元気などうかは見た目では分からないが、とりあえず動いているから大丈夫だろう。

 作業そのものはすでに一度やっているので、その向きを少し変える程度だ。当たり前だが、どこに下水を通したかが分からないと困るので、基本的には道の下に通す。先を見越してある程度の範囲に下水を敷設することにした。家を建てる土地が広がる度に作業をするよりも楽だろう。だが農民たちの家と比べると汚水の量が多くなるだろうから、同じようにするのは少し問題があるかもしれない。樽の中でグネグネと動いている森の掃除屋たちを眺めながら、こいつらをどれくらい使えばきちんと浄化できるのかを先に確認すべきか、それともしばらく使ってみてから調節するべきか。

 パウラによれば、普通の家の汲み取りの場所なら普通は一匹で、二匹いれば十分。下水でも三〇匹いればいいそうだ。だから先に作った下水の方は三〇匹になっている。今なら人数的には農民たちの方が一桁多いが、染め物などはかなりの水を使う。普通の家なら朝夕の食事や洗い物、洗濯くらいしか水は使わないが、職人たちは朝から夕方までいつでも使うだろう。

 森の掃除屋は生き物は食べない。死骸や糞は食べる。寝ている人の顔に張り付いて殺してから食べるようなこともしない。だから多くても問題ないとパウラは言っていた。生き物だから餌が足りなくなれば勝手に移動するらしい。とりあえず害がないなら色々と試してみるか。

 金属粉は……吐き出した。金属はさすがに食べない。石は……吐き出した。石も無理。染料は……消えたな。染料は食べる。それなら染めで使った汚水も大丈夫だな。布の切れ端は……食べる。布を下水に捨てることはないだろうが、もしかしたら切れ端くらいは流れるかもしれないからな。あの媚薬の残りは……大丈夫そうだな。薬関係も大丈夫そう……ん? 変なものばかり食べさせるな? 悪い悪い。お前たちの特性が分からなければ困るからな。もう少し付き合ってくれ。



 ?



 お前たち、話せるのか? たしかに口がないから話すのは無理か。それもそうだな。でもこちらが言いたいことは分かるんだな? なら水を効率よく浄化できないか? ふむ、できると。ある程度の数がいればいいと。どれくらいいればいい? なるほど、それくらいなら十分いるから外に出そう。

 でもそれだけで大丈夫なのか? ははあ、そうやって体を伸ばして薄くして……さらに表面を波打たせて……なるほど、そうやって表面積を増やすのか。それでも浄化能力は落ちないんだな? ずっとは無理と。それもそうだ、ずっと体を伸ばしていると疲れるからな。だからそうやって入れ替わるのか。そのためには数がそれなりに必要だと。それに増えやすいようにそれなりに数を一緒にしておいた方がいいと。増えるのか? そりゃそうか、増えなければ困るな。たしかに、三〇匹ほど外に出したのに減ったように見えないのは増えたからか。

 ん? ああ、別の個体と融合もできるのか。それなら大きくなれるんだな? なるほど、そうやって体を広げて広い場所も処理できるようにするのか。ああ、そのあたりの差配は任せた。やりやすいようにやってくれ。

 下水から這い上がることはできるのか? 問題ないと。それなら下水が増えたときにはこの町で移動してくれるか? よし、頼む。だが堀に落ちないように注意しろよ。流されるからな。ん? 泳ぎは得意? 堀の流れは緩やかだから、泳げるならそれなら大丈夫そうだな。だが何かあったら大変だから気をつけろよ。堀は深いから這い出るのはなかなか大変だぞ。

 ちなみに聞きたいんだが、先ほど金属粉を吐き出したが、食べなくても取り込むことはできるのか? できるが溶かしたり固めたりすることはできないと。それなら別の場所に運ぶことはできるんだな? そうだ、食べなくてもいい。この下水の底に溜まった邪魔なものを体の中に取り込んで、それから別のところへ運んでもらいたい。よしよし、それならその仕事も頼む。

「エルマー様、頭は大丈夫ですか?」
「いきなり何を言う」

 側にいたエルザがおかしなものを見るような目でこちらを見ていた。そう言えば、少し前にエルザに同じようなことを言って怒られたから、今回はやり返された感じか。たしかにイラッとするな。

「そんな生き物に向かって呟いてるのを見れば、誰でも不安になりますよ?」
「ああ、こいつらは話ができるようだからな」
「さすがはエルマー様ですね。それで何をしていたのですか?」

 全然信じてないだろう。これを証明できそうなのは……カレンしかいないが、向こうの方で石を運んでいるな。

「おーい、カレン。手が空いたらちょっと来てくれ」

 声をかけてしばらくすると、カレンは作業が一区切りついたところでこちらにやって来た。アルマや近くにいた男たちも集まってくる。全員を呼んだわけじゃないんだが。

「何かあったの?」
「実はこいつらの考えていることが理解できる気がするんだが、お前はどうだ?」

 俺は森の掃除屋を一匹手のひらに乗せてカレンに見せた。

「分かるわよ。言葉にはなってないけど、なんとなく考えていることが伝わる感じね。聞いたら返事してくれるしね。あなたにも聞こえたのなら、私の力が移ったんじゃないの?」
「移ったのかどうかは分からないが、なんとなく考えていることが分かるようになった」
「害になるものじゃないから大丈夫でしょ。それで、その子たちと何の話をしてたの?」
「ああ、ここの下水は水量が多そうだからどうしようかと思ったら色々と提案してくれた。ちなみに他の生き物の言葉は分かるのか?」
「うーん、ほとんど無理ね。まず動物は無理で、魔獣や魔物なら少し。頭が良くなければ無理みたい」
「……こいつらは頭が良いのか」

 俺がそう言うと、手の上の森の掃除屋が得意気な顔をしているように思えた。顔はないが雰囲気で分かる。先ほどまでと艶が違うというか張りが違うというか。後ろにいるエルザもアルマも男連中も、そろって微妙な顔をしていた。
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