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第二章:領主二年目第一部
職人の追加(一)
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年が明けて最初の土の日、ヨーゼフとブリギッタの夫婦をドラゴネットに迎え入れるために王都まで来ている。
「エルマー様、おはようございます。わざわざ申し訳ありません」
「いや、二人が来てくれて助かるのはうちの方だ」
「先にお伝えしますと、この店を売ることはやめましたので、もしお使いになるならお譲りします」
「その必要が出たら世話になろう」
この工房は何かに使えるかもしれないと思って、とりあえず売りには出さなかったそうだ。それならうちからもそこまで遠くないので、エルザを連れてきたついでに俺が見て回ればいい。もう持って行く荷物は奥にまとめてあるようだ。それを収納したらさっそく移動することにする。
「それでは移動するか。俺の手に掴まってくれ」
◆ ◆ ◆
「ほほう、ここが」
「広いですね」
「端から端まで五キロほどあるから、小さな町一つと考えるとかなり広い。だが町を外に広げることはいくらでもできるから、広さはあまり意味がないな」
移動先は中央広場にした。ここからなら北の農地に東の職人街もよく見える。ついでに城も。
「二人の家もすでに準備してある。職人街の中ではあまり大きな音が出ないあたりだ。ダニエルの家もそれほど離れていない」
「ありがとうございます。何人か知り合いがいるようですので安心できますね」
職人をしているとそれなりに顔が広くなるようで、ダニエルだけではなく他にも何人か顔見知りがいるようだ。
「うちはあまり大きな音は立てませんが、魔道具と一口に言っても金属を使うか木を使うかで全然違いますからね。うちは木を使う方が多く、それも昼間だけにしています」
「そういう周りと上手くやれそうな職人ばかりだと領主としてはありがたいな」
「何か揉め事でも?」
「いやいや、今のところみんな上手くやっている」
揉め事が起きる起きないの話ではなく、起こさないように最初から配慮ができるかどうかだ。配慮した上で起きてしまうのは仕方がない。良くも悪くも職人には個性的な者が多いからだ。だがこの町にいる職人たちは意見を出しつつも上手くやれている。
「例えばそこに運河があるが、それも彼らが案を出してくれたおかげでできたものだ。単に言われたことをするだけじゃなく、自分たちで意見や提案を出してくれるとこちらとしても次に何をしたらいいか目安になって助かる」
「提言は行っていいということですね?」
「もちろんだ。提言でも嘆願でもいい。俺では気が付かないことも多い。『四つの目は二つの目よりもよく見える』と言うだろう」
何でも便利にすればいい訳でもないだろうが、不便な部分は改善したい。町中に街灯を立てたのも、子供がため池で遊んで危ないから何とかできないかという農民たちからの嘆願が最初だった。
「ようやく町に見えるようになったが、次にどこから手を付けていいか、できることもやりたいことも多すぎてな」
「一から町を作るというのはそのような苦労もあるのですね。楽しみでもあるのでしょうが」
「その通りだ」
職人街までやって来ると、何人かが水場に集まって作業をしていた。ダニエルもいることだし、みんなに紹介しておこうか。
「今度こちらにやって来た魔道具職人のヨーゼフとブリギッタの夫妻だ。ダニエル、悪いがこの町のことなどを教えてやってくれ」
「カレン様のことですか?」
「それはそのうち知るだろう。水場の使い方とか、職人街のみんなで決めたことを共有しておいてくれ」
ヨーゼフとブリギッタは何のことか分からないという顔をしていたが、カレンが竜だの何だのという話は今じゃなくてもいい。
俺はヨーゼフとブリギッタの家に荷物を入れると、彼らには宴会用の酒樽やツマミになりそうな物を渡し、城に戻って仕事をすることにした。
◆ ◆ ◆
ヨーゼフとブリギッタが来てくれたお陰で、領内で作れる魔道具の種類が増える。ダニエルの負担も減るだろう。
ヨーゼフは火や水に関する魔道具が得意で、ブリギッタはそれに加えて時空間魔法が得意だそうだ。だが魔道具作りに欠かすことのできない魔石や竜の鱗の加工は二人にはできない。それができるのがダニエルだった。
ダニエルは器用なので幅広い種類の魔道具が作れるが、特に[浄化]などの光属性を使った魔道具が得意だ。
「エルマー様、小麦を入れる倉庫などの改装をお願いするのはいかがでしょうか」
「ああ、それもそうだな。量が多すぎるからな」
城に帰って二人を連れて来たことを話すと、ハンスがそう助言をしてくれた。一から作るのではなく改装ができるならそれが楽でいい。明日にでも正式に依頼をしに行くか。三人に無理に作れと言う訳ではない。作れそうなら作ってもらう、それが方針だ。その前に何か必要そうな物があるかどうかみんなに聞いておくか。
「個人的に欲しい物でもいいし、領地が便利になるような物でもいい。何かあれば言ってほしい」
「私は思い付かないわね。エルザは?」
「そうですね……。内容が少しズレるかもしれませんけど、お腹が大きくなれば階段の昇り降りが危なくなるかもしれません。そのあたりで何かあれば」
居室は二階にあるから、どうしても昇り降りがある。足元が見えにくくても移動しやすいようにか……。
「難しいですよね」
「いや、高い塔などで上下の移動に使われる、乗って使う魔道具があるんだが、この城に付けられるかどうかが分からない」
「付けるのが難しいのですか?」
「ああ。この城はクラースが建てたが、ガッチガチに魔法で強化されている。俺はシュタイナーが装飾を施したいと言った時に削るのはダメだが盛るのはいいと言ったが、そもそも削れるような代物ではなかった。とりあえず部屋を一階に移すことを考えてくれ」
「それが普通ですね」
クラースが残してくれた温度調節の柱だが、あれを鶏小屋の外に置いた時、毎日鶏が乗ったり突いたり大丈夫かと思って試しに力を入れてみたが何も起こらなかった。かなり魔力を注いで、表面が少し削れたくらいだ。
ただ城は増築を前提に作られていたので、来客棟と使用人棟との間に渡り廊下を通す部分など、何か所かは壊せるようになっている。だがそれ以外は俺でも無理だ。
「アルマはどうだ?」
「ええっとですね、魔道具でとなると……すみませんっ、思い付きません」
「いや、ないならないで問題ない。とりあえず移動についてだな」
階段で足を踏み外して転げ落ちるようなことになれば取り返しが付かない。階段を柔らかくすることはできないだろうが、もう少し腹が目立つ前に何かできることを考えておくか。
「エルマー様、おはようございます。わざわざ申し訳ありません」
「いや、二人が来てくれて助かるのはうちの方だ」
「先にお伝えしますと、この店を売ることはやめましたので、もしお使いになるならお譲りします」
「その必要が出たら世話になろう」
この工房は何かに使えるかもしれないと思って、とりあえず売りには出さなかったそうだ。それならうちからもそこまで遠くないので、エルザを連れてきたついでに俺が見て回ればいい。もう持って行く荷物は奥にまとめてあるようだ。それを収納したらさっそく移動することにする。
「それでは移動するか。俺の手に掴まってくれ」
◆ ◆ ◆
「ほほう、ここが」
「広いですね」
「端から端まで五キロほどあるから、小さな町一つと考えるとかなり広い。だが町を外に広げることはいくらでもできるから、広さはあまり意味がないな」
移動先は中央広場にした。ここからなら北の農地に東の職人街もよく見える。ついでに城も。
「二人の家もすでに準備してある。職人街の中ではあまり大きな音が出ないあたりだ。ダニエルの家もそれほど離れていない」
「ありがとうございます。何人か知り合いがいるようですので安心できますね」
職人をしているとそれなりに顔が広くなるようで、ダニエルだけではなく他にも何人か顔見知りがいるようだ。
「うちはあまり大きな音は立てませんが、魔道具と一口に言っても金属を使うか木を使うかで全然違いますからね。うちは木を使う方が多く、それも昼間だけにしています」
「そういう周りと上手くやれそうな職人ばかりだと領主としてはありがたいな」
「何か揉め事でも?」
「いやいや、今のところみんな上手くやっている」
揉め事が起きる起きないの話ではなく、起こさないように最初から配慮ができるかどうかだ。配慮した上で起きてしまうのは仕方がない。良くも悪くも職人には個性的な者が多いからだ。だがこの町にいる職人たちは意見を出しつつも上手くやれている。
「例えばそこに運河があるが、それも彼らが案を出してくれたおかげでできたものだ。単に言われたことをするだけじゃなく、自分たちで意見や提案を出してくれるとこちらとしても次に何をしたらいいか目安になって助かる」
「提言は行っていいということですね?」
「もちろんだ。提言でも嘆願でもいい。俺では気が付かないことも多い。『四つの目は二つの目よりもよく見える』と言うだろう」
何でも便利にすればいい訳でもないだろうが、不便な部分は改善したい。町中に街灯を立てたのも、子供がため池で遊んで危ないから何とかできないかという農民たちからの嘆願が最初だった。
「ようやく町に見えるようになったが、次にどこから手を付けていいか、できることもやりたいことも多すぎてな」
「一から町を作るというのはそのような苦労もあるのですね。楽しみでもあるのでしょうが」
「その通りだ」
職人街までやって来ると、何人かが水場に集まって作業をしていた。ダニエルもいることだし、みんなに紹介しておこうか。
「今度こちらにやって来た魔道具職人のヨーゼフとブリギッタの夫妻だ。ダニエル、悪いがこの町のことなどを教えてやってくれ」
「カレン様のことですか?」
「それはそのうち知るだろう。水場の使い方とか、職人街のみんなで決めたことを共有しておいてくれ」
ヨーゼフとブリギッタは何のことか分からないという顔をしていたが、カレンが竜だの何だのという話は今じゃなくてもいい。
俺はヨーゼフとブリギッタの家に荷物を入れると、彼らには宴会用の酒樽やツマミになりそうな物を渡し、城に戻って仕事をすることにした。
◆ ◆ ◆
ヨーゼフとブリギッタが来てくれたお陰で、領内で作れる魔道具の種類が増える。ダニエルの負担も減るだろう。
ヨーゼフは火や水に関する魔道具が得意で、ブリギッタはそれに加えて時空間魔法が得意だそうだ。だが魔道具作りに欠かすことのできない魔石や竜の鱗の加工は二人にはできない。それができるのがダニエルだった。
ダニエルは器用なので幅広い種類の魔道具が作れるが、特に[浄化]などの光属性を使った魔道具が得意だ。
「エルマー様、小麦を入れる倉庫などの改装をお願いするのはいかがでしょうか」
「ああ、それもそうだな。量が多すぎるからな」
城に帰って二人を連れて来たことを話すと、ハンスがそう助言をしてくれた。一から作るのではなく改装ができるならそれが楽でいい。明日にでも正式に依頼をしに行くか。三人に無理に作れと言う訳ではない。作れそうなら作ってもらう、それが方針だ。その前に何か必要そうな物があるかどうかみんなに聞いておくか。
「個人的に欲しい物でもいいし、領地が便利になるような物でもいい。何かあれば言ってほしい」
「私は思い付かないわね。エルザは?」
「そうですね……。内容が少しズレるかもしれませんけど、お腹が大きくなれば階段の昇り降りが危なくなるかもしれません。そのあたりで何かあれば」
居室は二階にあるから、どうしても昇り降りがある。足元が見えにくくても移動しやすいようにか……。
「難しいですよね」
「いや、高い塔などで上下の移動に使われる、乗って使う魔道具があるんだが、この城に付けられるかどうかが分からない」
「付けるのが難しいのですか?」
「ああ。この城はクラースが建てたが、ガッチガチに魔法で強化されている。俺はシュタイナーが装飾を施したいと言った時に削るのはダメだが盛るのはいいと言ったが、そもそも削れるような代物ではなかった。とりあえず部屋を一階に移すことを考えてくれ」
「それが普通ですね」
クラースが残してくれた温度調節の柱だが、あれを鶏小屋の外に置いた時、毎日鶏が乗ったり突いたり大丈夫かと思って試しに力を入れてみたが何も起こらなかった。かなり魔力を注いで、表面が少し削れたくらいだ。
ただ城は増築を前提に作られていたので、来客棟と使用人棟との間に渡り廊下を通す部分など、何か所かは壊せるようになっている。だがそれ以外は俺でも無理だ。
「アルマはどうだ?」
「ええっとですね、魔道具でとなると……すみませんっ、思い付きません」
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