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第一章:領主一年目
ザーラが見たドラゴネット
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「町があるのに……ものすごく整っているのに……何もないですね。不思議です。でもお城があります」
「エクセンと比べると、色々と違いがあるだろう」
ザーラはエクセンを出たことがなかったらしいのであの町しか知らないそうだが、パッと見ただけでも違いはいくらでもある。俺だって作り始めたときは違和感があったが、何もない場所にそれなりの町を作ろうとすると、こうするしかなかった。
普通なら人が少しずつ集まって家を建て、周りを開墾し、そして集落の近くに店などが増え、というように徐々に外へ外へと広がる。だがドラゴネットはまず中央から東西南北にまっすぐ道を作り、そこを軸にして家や農地をまとめて用意したから、そこだけ見ると非常に整っている。だがそれ以外がない。
「この広場を中心にして、見たら分かると思うがあちらが農地だ。この道沿いには数が少ないが店がある。南側は職人街だ」
「それなら宿屋は広場の南側の角がいいと思います」
「やはりそちらか」
「はい。あまり町の入り口に近いと食材の買い出しに手間がかかりますし、宿泊客としても、泊まって町の雰囲気を知るなら真ん中あたりが分かりやすくていいと思います。買い込むのも楽でしょう」
白鳥亭も町の中心にあった。エクセンには門前宿はなかったな。宿屋はもう一軒あったように思う。
「これはお客様から聞いたことですが、大きな町なら並んで入るのに時間がかかって疲れるので、その場合は門前に宿がある方がありがたいそうです。そんなに並ぶのですか?」
「ああ、五万人も一〇万人も暮らす町なら、町に入るために商人の馬車が列を作る。入るために金が必要だし、場合によっては荷物を調べることもある。貴族はそのあたりの手続きが免除されるが、そうでなければ一時間も二時間も待つこともある」
「そうなのですね。私は自分では見たことがありませんので」
「この町でそれを見ることはないだろう、当分はな」
六〇〇人程度の町に何十人も商人が来ることはない。だがいずれはたくさんの人を呼び込むために、今のうちにしっかりと町を作ることが大切だと思っている。
「ところで、あれは何を掘っているのですか? かなり広いですが」
「ああ、あれは運河を掘っているところだ。この町は周りを堀が囲んでいて、そこから水を引いて船で物や人を運ぶことになる予定だ」
カレンが大まかに掘って、岸壁は石を積んで固めている。底は軽く魔法で固めるだけだ。
「すごく広いで——あ、爆発した」
「……やったか。少し待っていてくれ、直してくる」
「私も行きます」
広場から南に向かったあたりの作業現場で派手に土が散らばっていた。カレンが頭から土を被っている。怪我はなさそうだ。
「カレン、大丈夫か?」
「ごめんなさい。怪我はないけど、ちょっと調節を間違えた」
「怪我がなければいい。工夫たちに怪我はいないか?」
「俺たちは大丈夫っす」
普通なら爆発の中心にいたカレンが大変なことになるだろうが、カレンは頑丈だ。この仮の姿だが、あくまで見た目だけの話なので、頑丈さは竜と変わらない。
竜の鱗は剥がれると剣でも簡単には傷が付かないくらい硬いが、生えている間は少ししなるくらいの硬さになっている。さすがに生えている鱗に切りつけたりしないが、それでもそう簡単には折れも割れもしない。まあそれくらいカレンは頑丈だ。
頑丈なら何をしてもいいわけでもないので、妊娠してからはある程度は行動を制限している。多少は体を動かさないと落ち着かないそうだから運河を掘ることは許可しているが、不用意に飛び跳ねたりしないようにだけは言っている。羽を出して飛ぶのは問題ない。
「あれ? エルマー様、娘さんができてたんですね」
「なあ、フリッツ。俺を何歳だと思ってるんだ?」
「いや、麦が一〇日で育つんだから、エルマー様が蒔けば一か月あれば育つかもと思って」
「それもそうか……と言うわけがないだろう。俺は気にしないが、言った相手が他の貴族なら不敬で首を刎ねられるぞ」
「へい、気をつけます」
ザーラは赤い癖毛をしているから、俺と兄妹に見えるかもしれないが、いきなり父娘に、されるとは思わなかった。
「あれ? そう言えば麦が……」
ザーラが麦畑に気付いたようだ。
「ああ、この町は麦がおよそ一〇日で育つ。だから月に二回収穫することになっている」
「月に二回?」
「ああ、蒔いてから一〇日で育つ。フリッツ、今で五回目だったか?」
「蒔いたのは九月に二回、一〇月に二回、それで今ですね。年内に全部で八回いけるかどうか」
「全部で八回?」
何を言われているのか分かっていない顔だ。それが普通だろう。嬉々として八回とか言っているが、みんな最初のころに戸惑っていたのが嘘のようだ。
「ところで、娘さんでないならどなたで?」
「ああ、とりあえずここにいる者たちには先に紹介する。お隣エクセンにある白鳥亭の娘のザーラだ」
「あっ、はい、ザーラといいます。よろしくお願いします」
「広場の南に食事もできる宿屋を作ることになるから、その準備のために来てくれることになった」
「結局呼んできたのね」
「どちらかと言えば、親父さんに押しつけられた感じだな」
「母は『娘をよろしくお願いします』と言っていました」
「その話はいい。それよりもまた一軒建ててもらうことになるから、途中でそちらに少し人を回してくれるか?」
「分かりました。親方たちに伝えておきます」
◆ ◆ ◆
「中も本当にお城なのですね」
ザーラの感想に笑いそうになる。巨大な城の中に入ったら実は張りぼてで、中にあるは小さな小屋だった、というのは笑い話としては面白い。
彼女は隣の領地から来てもらった客人ということになるので、来客棟に泊まってもらうことになる。世話役の女中を付け、とりあえず部屋に入ってもらうことになった。
「エクセンと比べると、色々と違いがあるだろう」
ザーラはエクセンを出たことがなかったらしいのであの町しか知らないそうだが、パッと見ただけでも違いはいくらでもある。俺だって作り始めたときは違和感があったが、何もない場所にそれなりの町を作ろうとすると、こうするしかなかった。
普通なら人が少しずつ集まって家を建て、周りを開墾し、そして集落の近くに店などが増え、というように徐々に外へ外へと広がる。だがドラゴネットはまず中央から東西南北にまっすぐ道を作り、そこを軸にして家や農地をまとめて用意したから、そこだけ見ると非常に整っている。だがそれ以外がない。
「この広場を中心にして、見たら分かると思うがあちらが農地だ。この道沿いには数が少ないが店がある。南側は職人街だ」
「それなら宿屋は広場の南側の角がいいと思います」
「やはりそちらか」
「はい。あまり町の入り口に近いと食材の買い出しに手間がかかりますし、宿泊客としても、泊まって町の雰囲気を知るなら真ん中あたりが分かりやすくていいと思います。買い込むのも楽でしょう」
白鳥亭も町の中心にあった。エクセンには門前宿はなかったな。宿屋はもう一軒あったように思う。
「これはお客様から聞いたことですが、大きな町なら並んで入るのに時間がかかって疲れるので、その場合は門前に宿がある方がありがたいそうです。そんなに並ぶのですか?」
「ああ、五万人も一〇万人も暮らす町なら、町に入るために商人の馬車が列を作る。入るために金が必要だし、場合によっては荷物を調べることもある。貴族はそのあたりの手続きが免除されるが、そうでなければ一時間も二時間も待つこともある」
「そうなのですね。私は自分では見たことがありませんので」
「この町でそれを見ることはないだろう、当分はな」
六〇〇人程度の町に何十人も商人が来ることはない。だがいずれはたくさんの人を呼び込むために、今のうちにしっかりと町を作ることが大切だと思っている。
「ところで、あれは何を掘っているのですか? かなり広いですが」
「ああ、あれは運河を掘っているところだ。この町は周りを堀が囲んでいて、そこから水を引いて船で物や人を運ぶことになる予定だ」
カレンが大まかに掘って、岸壁は石を積んで固めている。底は軽く魔法で固めるだけだ。
「すごく広いで——あ、爆発した」
「……やったか。少し待っていてくれ、直してくる」
「私も行きます」
広場から南に向かったあたりの作業現場で派手に土が散らばっていた。カレンが頭から土を被っている。怪我はなさそうだ。
「カレン、大丈夫か?」
「ごめんなさい。怪我はないけど、ちょっと調節を間違えた」
「怪我がなければいい。工夫たちに怪我はいないか?」
「俺たちは大丈夫っす」
普通なら爆発の中心にいたカレンが大変なことになるだろうが、カレンは頑丈だ。この仮の姿だが、あくまで見た目だけの話なので、頑丈さは竜と変わらない。
竜の鱗は剥がれると剣でも簡単には傷が付かないくらい硬いが、生えている間は少ししなるくらいの硬さになっている。さすがに生えている鱗に切りつけたりしないが、それでもそう簡単には折れも割れもしない。まあそれくらいカレンは頑丈だ。
頑丈なら何をしてもいいわけでもないので、妊娠してからはある程度は行動を制限している。多少は体を動かさないと落ち着かないそうだから運河を掘ることは許可しているが、不用意に飛び跳ねたりしないようにだけは言っている。羽を出して飛ぶのは問題ない。
「あれ? エルマー様、娘さんができてたんですね」
「なあ、フリッツ。俺を何歳だと思ってるんだ?」
「いや、麦が一〇日で育つんだから、エルマー様が蒔けば一か月あれば育つかもと思って」
「それもそうか……と言うわけがないだろう。俺は気にしないが、言った相手が他の貴族なら不敬で首を刎ねられるぞ」
「へい、気をつけます」
ザーラは赤い癖毛をしているから、俺と兄妹に見えるかもしれないが、いきなり父娘に、されるとは思わなかった。
「あれ? そう言えば麦が……」
ザーラが麦畑に気付いたようだ。
「ああ、この町は麦がおよそ一〇日で育つ。だから月に二回収穫することになっている」
「月に二回?」
「ああ、蒔いてから一〇日で育つ。フリッツ、今で五回目だったか?」
「蒔いたのは九月に二回、一〇月に二回、それで今ですね。年内に全部で八回いけるかどうか」
「全部で八回?」
何を言われているのか分かっていない顔だ。それが普通だろう。嬉々として八回とか言っているが、みんな最初のころに戸惑っていたのが嘘のようだ。
「ところで、娘さんでないならどなたで?」
「ああ、とりあえずここにいる者たちには先に紹介する。お隣エクセンにある白鳥亭の娘のザーラだ」
「あっ、はい、ザーラといいます。よろしくお願いします」
「広場の南に食事もできる宿屋を作ることになるから、その準備のために来てくれることになった」
「結局呼んできたのね」
「どちらかと言えば、親父さんに押しつけられた感じだな」
「母は『娘をよろしくお願いします』と言っていました」
「その話はいい。それよりもまた一軒建ててもらうことになるから、途中でそちらに少し人を回してくれるか?」
「分かりました。親方たちに伝えておきます」
◆ ◆ ◆
「中も本当にお城なのですね」
ザーラの感想に笑いそうになる。巨大な城の中に入ったら実は張りぼてで、中にあるは小さな小屋だった、というのは笑い話としては面白い。
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