ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第二章:領主二年目第一部

町の拡張(二):新しい堀

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 町を拡張するなら各所の調整と説明が必要になる。例えば普段は牧場にいるホルガー、カイ、ニック。牧場は今は城の北にあるが、東に町の敷地を広げてその南の方となると、完全に反対側に移動するからだ。

「ええ、我々は問題ありません」
「問題ないっす」
「同じです」
「牧草がなければ意味がないから、それを待ってからになる」

 牧場の移動自体には問題がないということだ。だがすぐにという話ではない。農地なら俺がいくらでも用意するが、牧草を生えさせることはできない。

 この周辺一帯の土自体は悪くないが、元々があまり植物の多くない場所だった。とりあえずあちこちに色々と蒔いてはいるが、暖かくならないと難しいだろう。

「場合によっては寝泊まりすることがありますので、そのための小屋でも用意していただければ助かります」
「それはもちろん用意しよう」

 今でも端から端まで歩いて一時間ほどかかる。さらに東側の、しかもその南の方となれば二時間近くはかかるだろう。城に来るには馬で移動してもらうことになるだろうか。



◆ ◆ ◆



 本来は土木工事は新しく作った土木・建築ギルドに任せるべきだろう。だが町の外の工事となると話は別になる。たまに魔獣が来るからだ。最近は減ったが来ないとは限らない。

「とりあえず俺とカレンが堀を掘るから、城壁は任せても大丈夫だろうか?」
「はい。堀もできなくはないでしょうが、どうしても時間がかかるでしょう」

 土木・建築ギルドのフランツに話をしておく必要がある。最初は農地を広げてほしいという農民たちの希望だったが、少々話が大きくなった。もちろん今の町の中にも土地はある。特に町の南西部は使われていないが、そこを農地にすると後々困ることになるだろう。

「堀から出た土砂は固めて積んでおくから、城壁はそれを使ってくれ。足りないようなら適当にどこかから持ってくるから、その時は言ってくれ」
「はい、お願いします」



◆ ◆ ◆



 午後、カレンを連れてブルーノと一緒に歩きながら、城壁を作る場所に杭を打っている。この外側に堀を掘るわけだが、結局今の町と同じ大きさの敷地を東側に用意することになった。

「それで、最後がここかな」
「かなり広くなるな」
「下手に拡張を繰り返すよりは一度で済ませた方が手間は省けるだろ? 農民たちが今まで以上に忙しくなるなら、今までのようには駆り出すことができなくなると思うし。この際ガツッと広げておけば当分は大丈夫だと思う」
「まあな」

 これまで麦を蒔いて刈り入れる間の一〇日を使って家を建てたり運河を掘ったりという作業が行われていたが、その時間があまり使えなくなると、工事も長期化する可能性はある。

 ブルーノは一度向こうに連れて帰り、今後の予定を考えてもらうことにした。ここにいてもすることがないだろうし、カレンが間違って地面を吹き飛ばして巻き添いになったら大変だ。

「まずは頑張って掘りましょ」
「そうだな。それじゃやるか」

 まだ水は流さないので、とりあえず拡張部分の一番東から、俺は北に、カレンは南に掘り始める。俺は掘って出た土砂を固めたら一度異空間に入れ、ある程度溜まったらまとめて堀の内側に積む。カレンは異空間を使うのが得意ではないから、固めた側から堀の内側に放り投げている。

 とりあえず一時間ほど掘ったところで休憩を入れる。今日一日で終わるものでもない。それにそこまで急ぐものでもない。

「ここで二人で掘るのも懐かしいな」
「そうね。あなたと会った時がそうだったわね」

 ここに初めてやって来て、とりあえず数日かけて堀と城壁を作っていたらいきなりカレンがやって来た。次の日にクラースと一緒にやって来て、カレンはここに残って俺の仕事の手伝いをしてくれた。

「カレンと会う前は、正直こんな場所に町が作れるのかと不安もあったが、何とかなったな」
「初めて外に出て、たまたまあなたが何かをしていたのが目に入ったから寄ってみたんだけど、会えてよかった」

 カレンが腹を気にしながら俺に抱きつく。俺もそっと抱き返す。

「あの時は二人しかいなかったが、今では九〇〇か。増えたものだ」
「頑張ってもっと大きくしましょ」
「そうだな。この子が領地を継ぐまでには、他の貴族から羨ましがられるような領地にしたいな」

 贅沢三昧の生活をしたい訳ではない。だがノルト男爵領はいい領地だと言われるくらいにはしたい。

「やっぱり王様を目指す?」
「それはない。俺はそこまでの器じゃない。正直なところ、もし国境付近に領地を貰っていたとしたら、殺すか殺されるか、そんなことばかり気にしなくてはならなかった。貴族としては勝手な話だが、領民を戦争に巻き揉む恐れがないから安心していられる」

 俺は戦場にも出ているし、自分が敵兵を殺すことに躊躇ためらいはない。特に騎兵は。ただし歩兵は平民だ。しかも農兵が多い。普段は畑を耕し、戦争になれば軽歩兵として粗末な武器を持たされて戦場に駆り出される。今この時間に畑にいる彼らが武器を持って殺し合いをすることになるわけだ。

 国王陛下から出兵の命令があれば、軍を編成して向かわなければならないが、ここはこの国の一番北だ。王都まで行軍すれば三週間、さらに国境まで三週間。それだけあれば普通なら戦争は終わる。まず兵を出せとは言われない。

 だが国境沿いに領地がある辺境伯などは、ゴール王国軍が攻めてくる度に領地が戦場になる。もちろん国境の警護を任されることは名誉なことだが、俺には務まりそうにない。ましてや国王は将兵を戦場に送り出すのが仕事だ。戦争で一人も死者が出ないなんてあり得ない。俺にそんな命令が出せるとは思えない。

「敵がここまで来たら焼き払うわよ」
「いや、もし敵がここまで来そうならあのトンネルを埋めればいい。あの山を越えて攻めてくる敵はいないだろう。そもそも戦争にならないように外交に力を入れるべきなのだろうが、ゴール王国が相手ではな」

 去年痛い目をしたからしばらくは大人しくしていると思いたいが、毎年どこかで小競り合いが起きているから、今年もどこかで何かがありそうだ。

「さあ、続きをするか。太陽が山にかかれば終わろう」
「そうね。もう少し頑張りましょ」

 それから一時間ほど作業をし、日が陰る前に城に戻ることにした。
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