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第一章:領主一年目
保存食
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赤髪亭の経営を始めたザーラからはヴルストやシンケンなどの要望も出ている。店で出すほどの量はないが、個人的に渡しているからな。生の肉よりも保存が楽ではある。
アンゲリカからも同じように催促されている。彼女は貴族の女主人の侍女をしていたから、上等な肉から保存食まで一通り口にしている。味の濃いヴルストやシンケンは酒場で出すならありだろうということになった。
あれらは干し肉と同様に、主に保存食として作られる。そのためにはしっかりと塩を使ったり乾燥させたり燻したりしなければ腐ってしまうか腹を壊すかのどちらかだろう。
干し肉はそこまで手間はかからないが、ヴルストは手間がかかる上に羊や牛の腸が必要になる。そして残念ながらこの領地には家畜を解体するような余裕はない。だから魔獣の肉で干し肉を作っているだけだ。
ハイデは良くも悪くも山が近いだけの田舎町だった。山に入れば野獣は多かったが、魔獣はさすがにドラゴネットほどは多くなかった。つまり冬は野獣は冬眠するので、どうしても肉を口にしようとすれば、魔獣を探し出して狩るか、それともあらかじめ作っておいた干し肉を食べるかのどちらかだった。
ノルト男爵領はありがたいことに魔獣が多い。魔獣が多すぎれば困るだろうが、今のところはちょうどいい。俺が初めてこの土地に来た頃からそこそこの数はいるが、多すぎて生活に困るほどでもない。とりあえずトンネルのドラゴネット側の出口周辺はある程度森を拓いたので、トンネルを出たら熊に襲われたということはないだろう。
今でも魔獣は現れる。だが最初の頃に想像していたような、町に魔獣が押し寄せてくるというのは今のところはない。そして南の森にはいつ狩りに行っても常に魔獣がいる。毎回のように狩人たちが狩り、俺が回収するという形になっている。とりあえず年内に限っての話だが、肉は捌いて領民たちに配られる。余った分は俺が保存しておいて、一部は慰労会で使われ、一部は商店で販売される。さらにはアンゲリカの酒場や赤髪亭でも使われることになる。要するに、一度すべて領主のものになり、それが必要に応じて領民に分け与えられるという形だ。
しかし、俺が保存している魔獣の肉はかなり増えていて、そろそろ本格的に減らしたいというのもある。小麦であればある程度は外に出しておいてもいいだろうが、捌いた肉はそういうわけにはいかない。だからヴルストなどを作ることができればありがたいとは思う。
「我々は魔獣では作りませんので細かなことまでは説明しきれませんが、魔獣の小腸が使えるかどうかですね」
「やはりそうなるか」
ヴァイスドルフ男爵領のバーランにある肉の加工場に来ている。こちらでは豚を使ったヴルストやシンケンなどを購入していた。ジンドホルツは酪農が多いが、バーランの方は食肉の加工が多いようだ。
「小腸を見せていただければ判断できますが、お持ちですか?」
「一応少しだが用意している。森の掃除屋にきれいにしてもらってから念入りに洗って、さらに[殺菌]を使っている」
ヴルストに使うのは羊、豚、牛などの小腸だが、魔獣のものが使えるならありがたい。
「そうですね。素材としては少ししっかりしていますが、きちんと処理されているなら使えると思います。これとこれとこれは獅子と虎と狼でしたか、この三つはあまり向いていませんが、それでも使えなくはありません」
「向いているか向いていないかの違いはどこにあるんだ?」
「羊と豚と牛の三つは食肉として捌きます。そして出た内臓のうち小腸をヴルスト用に使いますが、他の動物よりもかなり長いのが特徴です。他の動物の小腸でも作れなくはないですが、腸が短いですからね。わざわざヴルストのために潰す意味がないわけです」
「言われてみればそうか」
「はい。そして豚は一度に複数の子を産みます。干し草では育てられないという欠点はありますが、肉も小腸も使えますので、一番ありがたいのは豚ですね」
「なるほどな。それならきちんと処理をして使えるならやってみるか」
魔獣の肉はある。もちろん脂肪も料理に使うので確保してある。内臓はこれまでは処分することが多かったが、今後は使ってみるか。
「ところで、私は魔獣の肉は食べたことがないのですが美味しいのですか?」
「生のままならあるから、焼いて食べてみるか?」
「ぜひお願いします」
ハイデでも魔獣はいたが、たしかに山を離れれば滅多に見ることはない。いなくはないだろうが、王都からこのあたりまでは見ることがなかったな。人が住んでいるかどうかも関係あるのかもしれない。
厨房を借り、そこで猪肉の塊を取り出すと賽の目に切り、しっかり火を通した。匂いに釣られたのかもしれないが、ここで働いている従業員が数人入ってきた。量はあるから増えても問題ない。
しっかりと火を通したら皿に盛り、塩を付けて食べることにする。肉の味を確認するならシンプルな方がいい。
「エルマー様、これでヴルストを作りましょう。ぜひ!」
「そこまで美味いか?」
「はい。我々は自信を持って家畜を育てていますが、その中の一番上等なものに劣らないくらいです。焼いただけでこれなら、しっかりと味付けをすれば保存食として食べるにはもったいないくらい美味しくなります」
後ろの従業員たちも頷いている。そうか、家畜の肉よりも美味いとは思ったが、うちにはこれしか肉がないからな。普通の家畜の肉は食べることは減ったなあ。こうやって町を回って買い付けを行う時や王都に行った時くらいだろうか。
「それなら細かな作り方を教えてもらえれば嬉しい。もちろん指導料は支払う」
「いえ、それは結構ですが、別のものをいただければと」
「別のもの?」
「はい。先ほどの魔獣の肉ですが、あれを定期的に購入させていただければと思います。技術指導や必要な道具と引き換えでいかがでしょうか? 領主様に献上すれば喜んでいただけると思いますので」
「そうだな。値段や量をどうするかはまた話し合うとしよう。一度に大量にというのでなければ、売るのはおそらく大丈夫だろう」
「よろしくお願いします」
アンゲリカからも同じように催促されている。彼女は貴族の女主人の侍女をしていたから、上等な肉から保存食まで一通り口にしている。味の濃いヴルストやシンケンは酒場で出すならありだろうということになった。
あれらは干し肉と同様に、主に保存食として作られる。そのためにはしっかりと塩を使ったり乾燥させたり燻したりしなければ腐ってしまうか腹を壊すかのどちらかだろう。
干し肉はそこまで手間はかからないが、ヴルストは手間がかかる上に羊や牛の腸が必要になる。そして残念ながらこの領地には家畜を解体するような余裕はない。だから魔獣の肉で干し肉を作っているだけだ。
ハイデは良くも悪くも山が近いだけの田舎町だった。山に入れば野獣は多かったが、魔獣はさすがにドラゴネットほどは多くなかった。つまり冬は野獣は冬眠するので、どうしても肉を口にしようとすれば、魔獣を探し出して狩るか、それともあらかじめ作っておいた干し肉を食べるかのどちらかだった。
ノルト男爵領はありがたいことに魔獣が多い。魔獣が多すぎれば困るだろうが、今のところはちょうどいい。俺が初めてこの土地に来た頃からそこそこの数はいるが、多すぎて生活に困るほどでもない。とりあえずトンネルのドラゴネット側の出口周辺はある程度森を拓いたので、トンネルを出たら熊に襲われたということはないだろう。
今でも魔獣は現れる。だが最初の頃に想像していたような、町に魔獣が押し寄せてくるというのは今のところはない。そして南の森にはいつ狩りに行っても常に魔獣がいる。毎回のように狩人たちが狩り、俺が回収するという形になっている。とりあえず年内に限っての話だが、肉は捌いて領民たちに配られる。余った分は俺が保存しておいて、一部は慰労会で使われ、一部は商店で販売される。さらにはアンゲリカの酒場や赤髪亭でも使われることになる。要するに、一度すべて領主のものになり、それが必要に応じて領民に分け与えられるという形だ。
しかし、俺が保存している魔獣の肉はかなり増えていて、そろそろ本格的に減らしたいというのもある。小麦であればある程度は外に出しておいてもいいだろうが、捌いた肉はそういうわけにはいかない。だからヴルストなどを作ることができればありがたいとは思う。
「我々は魔獣では作りませんので細かなことまでは説明しきれませんが、魔獣の小腸が使えるかどうかですね」
「やはりそうなるか」
ヴァイスドルフ男爵領のバーランにある肉の加工場に来ている。こちらでは豚を使ったヴルストやシンケンなどを購入していた。ジンドホルツは酪農が多いが、バーランの方は食肉の加工が多いようだ。
「小腸を見せていただければ判断できますが、お持ちですか?」
「一応少しだが用意している。森の掃除屋にきれいにしてもらってから念入りに洗って、さらに[殺菌]を使っている」
ヴルストに使うのは羊、豚、牛などの小腸だが、魔獣のものが使えるならありがたい。
「そうですね。素材としては少ししっかりしていますが、きちんと処理されているなら使えると思います。これとこれとこれは獅子と虎と狼でしたか、この三つはあまり向いていませんが、それでも使えなくはありません」
「向いているか向いていないかの違いはどこにあるんだ?」
「羊と豚と牛の三つは食肉として捌きます。そして出た内臓のうち小腸をヴルスト用に使いますが、他の動物よりもかなり長いのが特徴です。他の動物の小腸でも作れなくはないですが、腸が短いですからね。わざわざヴルストのために潰す意味がないわけです」
「言われてみればそうか」
「はい。そして豚は一度に複数の子を産みます。干し草では育てられないという欠点はありますが、肉も小腸も使えますので、一番ありがたいのは豚ですね」
「なるほどな。それならきちんと処理をして使えるならやってみるか」
魔獣の肉はある。もちろん脂肪も料理に使うので確保してある。内臓はこれまでは処分することが多かったが、今後は使ってみるか。
「ところで、私は魔獣の肉は食べたことがないのですが美味しいのですか?」
「生のままならあるから、焼いて食べてみるか?」
「ぜひお願いします」
ハイデでも魔獣はいたが、たしかに山を離れれば滅多に見ることはない。いなくはないだろうが、王都からこのあたりまでは見ることがなかったな。人が住んでいるかどうかも関係あるのかもしれない。
厨房を借り、そこで猪肉の塊を取り出すと賽の目に切り、しっかり火を通した。匂いに釣られたのかもしれないが、ここで働いている従業員が数人入ってきた。量はあるから増えても問題ない。
しっかりと火を通したら皿に盛り、塩を付けて食べることにする。肉の味を確認するならシンプルな方がいい。
「エルマー様、これでヴルストを作りましょう。ぜひ!」
「そこまで美味いか?」
「はい。我々は自信を持って家畜を育てていますが、その中の一番上等なものに劣らないくらいです。焼いただけでこれなら、しっかりと味付けをすれば保存食として食べるにはもったいないくらい美味しくなります」
後ろの従業員たちも頷いている。そうか、家畜の肉よりも美味いとは思ったが、うちにはこれしか肉がないからな。普通の家畜の肉は食べることは減ったなあ。こうやって町を回って買い付けを行う時や王都に行った時くらいだろうか。
「それなら細かな作り方を教えてもらえれば嬉しい。もちろん指導料は支払う」
「いえ、それは結構ですが、別のものをいただければと」
「別のもの?」
「はい。先ほどの魔獣の肉ですが、あれを定期的に購入させていただければと思います。技術指導や必要な道具と引き換えでいかがでしょうか? 領主様に献上すれば喜んでいただけると思いますので」
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「よろしくお願いします」
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