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第二章:領主二年目第一部
恩賞
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たまたま買い取ったボロ屋敷の地下がとんでもないことになっていた。その調査と埋め戻しでそれなりに時間がかかったのは、毎日そればかりやっていた訳じゃないからだ。だがそれもようやく終わった。
この地下通路の件に関しては国王陛下直々の依頼ということになったので恩賞を拝領することになった。そのこと自体に問題はない。自分のしたことが評価されて嬉しくないはずはないからだ。だが問題は恩賞の中身だ。
ここは王城の謁見の間。玉座にはカミル陛下、そして横にはヘルミーナ王妃、反対側にはレオナルト殿下とナターリエ殿下。広間の両側には大臣や貴族たちがいる。悪いことをしてこの状態になっている訳ではないが、心躍るような状況ではない。
「ノルト男爵エルマー・アーレント。恩賞として、ここにいる我が娘ナターリエを嫁がせる。今後も国のために尽くしてほしい」
「はっ。ありがたくお受けいたします。アルマン王国のために粉骨砕身する所存であります」
こんなことになるとは……。
◆ ◆ ◆
「間もなく陛下がお見えになります」
「分かりました」
係の者に案内されて王城の控えの間で待つこと一〇分ほど、陛下が一人で部屋に入ってきた。今さら俺が陛下に何かをすることもないが、少し不用心ではないかと思う。それだけ俺が信用されているのかもしれないが。
「ノルト男爵、地下通路の件と街道の件、ご苦労だった」
「いえ、私といたしましても、買った土地の地下があのようになっていれば落ち着きませんので、ちょうどよかったかと」
「ツェーデン子爵のようになるのも困るな」
地下に怪しい通路がある屋敷を購入してしまったツェーデン子爵はかなり慌て、殿下の前で地面に這いつくばっていた。真面目な人だからな。
その後、あの地下通路の対処をした俺のところには、立派な酒樽がいくつも届けられた。ありがたくいただくが、別に恩に着せるつもりはない。あれはあれで終わりだ。
「それでだな。少し聞きたいことがあって余だけで来た」
「何でしょうか?」
「我が娘のことだ」
「アルマ……カリーナのことですね」
「そうだ。レオナルトとその話をして王妃に聞かれるのも拙かろう。城の中では話はしないようにしている。彼女は元気にしているか?」
「はい。今は腹に子供がいますので、大人しくしています」
「何と!」
陛下は目を剥いて立ち上がった。
「そうかそうか、余も祖父になるか」
陛下は感慨深げにそう呟くが、王子も王女もまだ誰も結婚していない。そろそろだとは思うが。
「差し出がましいことをお聞きしますが、殿下たちもそろそろではないのでしょうか?」
「そうだな、今は相手を探しているところだ。早めの話をまとめたいところだな。以前はいかに押し付けられないようにするかを考えたものだったが」
殿下も大変そうだったからな。下手に何かを口にすれば揚げ足を取られることもある。
「それでだな、今回の恩賞だが、式典を行うことにする」
「式典ですか」
ありがたいが、わざわざ式典をすることか? 王都の地下に秘密の通路が作られていたのは大問題だが…………大問題だな。それもそうか。
「うむ、お主が男爵位を受け取った時、余は何もできなかった。勝手に余の名前で領地が与えられていたからな」
「結果としてはあの場所を与えられたことには満足しています」
「それなら問題ない。だが、余がお主に与えたいということもある」
陛下によれば、あの場所を領地として与えるつもりは一切なかったが、勝手に名前と玉璽が使われたそうだ。だから自分の手で恩賞を渡したいと。
それは分かる。分かるが、なぜかここまで持って回った言い方をするのか。何かあるのか? あるんだろうな。
「では新しい領地ですか?」
「いや、さすがにそれはない。町を作っているお主に対する侮辱になるだろう。レオナルトからは上手くやっていそうだと聞いている」
「はい、形にはなりつつあります」
「それなら問題ない。余からの恩賞として、お主にはナターリエを嫁がせる」
「……王女殿下を」
「そうだ。今現在で余に与えることのできる一番の恩賞になるだろう」
◆ ◆ ◆
式を行うと言われた時に嫌な感じがした。そして恩賞の内容を前もって聞いた時にはそれが当たりだと分かった。だが断ることもできない。国に対する最大の侮辱になるからだ。
けっしてありがた迷惑とかそのようなことはない。王女が嫁ぐということがどれほどの意味があるのか、それが分からない貴族はいない。
王太子殿下もその下の王女殿下たちも、大公派の貴族、あるいはゴール王国の王族や貴族との結婚話が何度も出ては何とか陛下が潰していたそうだ。だがそれも落ち着き、さてそろそろというところなんだろう。だがいきなりだ。さすがに屋敷の裏の土地を買い取ったら、それが王女を貰う話に繋がるとだれが想像できる?
ナターリエ王女は陛下の横に立ってこちらを見ている。これまでほとんど話をしたことがないが、軍学校時代の殿下の誕生パーティーの時には少しだけ顔を見せていた。
王城で見かけたこともあった。今年に入ってからは王太子殿下から貧民街を整理する仕事を受けたりして、王城へ出向くことも増えた。さすがに王女がフラフラと一人で外廷を歩くことはないが、それでも何度かは見かけたことはある。
王女は上からビアンカ、ナターリエ、ティアナの三人。年齢的にはビアンカ王女は俺と殿下の一つ下、ナターリエ王女はアルマの一つ下、ティアナ王女はアルマの三つ下だったか。
王族の結婚に年齢は関係ないとも言われるが、概ね初婚は一〇代だろう。俺のところに来るのがナターリエ王女なのは、おそらくビアンカ王女は相手が決まったと考えてもいいだろう。そうなると殿下もそろそろのはずだ。今年中にはいい話を聞けるかもしれない。
「ノルト男爵、ナターリエが嫁ぐのは四月とする。レオナルトが行啓に行くと聞いた。それに同行させる」
「承知しました」
「その際に立ち会いはレオナルトが行うことになる。頼んだぞ」
「はい、お任せください、父上」
この地下通路の件に関しては国王陛下直々の依頼ということになったので恩賞を拝領することになった。そのこと自体に問題はない。自分のしたことが評価されて嬉しくないはずはないからだ。だが問題は恩賞の中身だ。
ここは王城の謁見の間。玉座にはカミル陛下、そして横にはヘルミーナ王妃、反対側にはレオナルト殿下とナターリエ殿下。広間の両側には大臣や貴族たちがいる。悪いことをしてこの状態になっている訳ではないが、心躍るような状況ではない。
「ノルト男爵エルマー・アーレント。恩賞として、ここにいる我が娘ナターリエを嫁がせる。今後も国のために尽くしてほしい」
「はっ。ありがたくお受けいたします。アルマン王国のために粉骨砕身する所存であります」
こんなことになるとは……。
◆ ◆ ◆
「間もなく陛下がお見えになります」
「分かりました」
係の者に案内されて王城の控えの間で待つこと一〇分ほど、陛下が一人で部屋に入ってきた。今さら俺が陛下に何かをすることもないが、少し不用心ではないかと思う。それだけ俺が信用されているのかもしれないが。
「ノルト男爵、地下通路の件と街道の件、ご苦労だった」
「いえ、私といたしましても、買った土地の地下があのようになっていれば落ち着きませんので、ちょうどよかったかと」
「ツェーデン子爵のようになるのも困るな」
地下に怪しい通路がある屋敷を購入してしまったツェーデン子爵はかなり慌て、殿下の前で地面に這いつくばっていた。真面目な人だからな。
その後、あの地下通路の対処をした俺のところには、立派な酒樽がいくつも届けられた。ありがたくいただくが、別に恩に着せるつもりはない。あれはあれで終わりだ。
「それでだな。少し聞きたいことがあって余だけで来た」
「何でしょうか?」
「我が娘のことだ」
「アルマ……カリーナのことですね」
「そうだ。レオナルトとその話をして王妃に聞かれるのも拙かろう。城の中では話はしないようにしている。彼女は元気にしているか?」
「はい。今は腹に子供がいますので、大人しくしています」
「何と!」
陛下は目を剥いて立ち上がった。
「そうかそうか、余も祖父になるか」
陛下は感慨深げにそう呟くが、王子も王女もまだ誰も結婚していない。そろそろだとは思うが。
「差し出がましいことをお聞きしますが、殿下たちもそろそろではないのでしょうか?」
「そうだな、今は相手を探しているところだ。早めの話をまとめたいところだな。以前はいかに押し付けられないようにするかを考えたものだったが」
殿下も大変そうだったからな。下手に何かを口にすれば揚げ足を取られることもある。
「それでだな、今回の恩賞だが、式典を行うことにする」
「式典ですか」
ありがたいが、わざわざ式典をすることか? 王都の地下に秘密の通路が作られていたのは大問題だが…………大問題だな。それもそうか。
「うむ、お主が男爵位を受け取った時、余は何もできなかった。勝手に余の名前で領地が与えられていたからな」
「結果としてはあの場所を与えられたことには満足しています」
「それなら問題ない。だが、余がお主に与えたいということもある」
陛下によれば、あの場所を領地として与えるつもりは一切なかったが、勝手に名前と玉璽が使われたそうだ。だから自分の手で恩賞を渡したいと。
それは分かる。分かるが、なぜかここまで持って回った言い方をするのか。何かあるのか? あるんだろうな。
「では新しい領地ですか?」
「いや、さすがにそれはない。町を作っているお主に対する侮辱になるだろう。レオナルトからは上手くやっていそうだと聞いている」
「はい、形にはなりつつあります」
「それなら問題ない。余からの恩賞として、お主にはナターリエを嫁がせる」
「……王女殿下を」
「そうだ。今現在で余に与えることのできる一番の恩賞になるだろう」
◆ ◆ ◆
式を行うと言われた時に嫌な感じがした。そして恩賞の内容を前もって聞いた時にはそれが当たりだと分かった。だが断ることもできない。国に対する最大の侮辱になるからだ。
けっしてありがた迷惑とかそのようなことはない。王女が嫁ぐということがどれほどの意味があるのか、それが分からない貴族はいない。
王太子殿下もその下の王女殿下たちも、大公派の貴族、あるいはゴール王国の王族や貴族との結婚話が何度も出ては何とか陛下が潰していたそうだ。だがそれも落ち着き、さてそろそろというところなんだろう。だがいきなりだ。さすがに屋敷の裏の土地を買い取ったら、それが王女を貰う話に繋がるとだれが想像できる?
ナターリエ王女は陛下の横に立ってこちらを見ている。これまでほとんど話をしたことがないが、軍学校時代の殿下の誕生パーティーの時には少しだけ顔を見せていた。
王城で見かけたこともあった。今年に入ってからは王太子殿下から貧民街を整理する仕事を受けたりして、王城へ出向くことも増えた。さすがに王女がフラフラと一人で外廷を歩くことはないが、それでも何度かは見かけたことはある。
王女は上からビアンカ、ナターリエ、ティアナの三人。年齢的にはビアンカ王女は俺と殿下の一つ下、ナターリエ王女はアルマの一つ下、ティアナ王女はアルマの三つ下だったか。
王族の結婚に年齢は関係ないとも言われるが、概ね初婚は一〇代だろう。俺のところに来るのがナターリエ王女なのは、おそらくビアンカ王女は相手が決まったと考えてもいいだろう。そうなると殿下もそろそろのはずだ。今年中にはいい話を聞けるかもしれない。
「ノルト男爵、ナターリエが嫁ぐのは四月とする。レオナルトが行啓に行くと聞いた。それに同行させる」
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