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第二章:領主二年目第一部
帰還(三)
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しばらくするとブルーノとライナーとエラも来た。少し前に着いたそうだが、人が多すぎて入るのに時間がかかったそうだ。
三人にもクラースとパウラのことは話しているが、まさかこんなすぐに会うことになるとは思っていなかっただろう。
「あの人がクラースさん?」
「ああ、火竜のクラースだ。母親が黒髪のパウラで水竜、その隣にいるのがもう一人の妻のローサだ。何竜かは聞いていないな」
「逆らったら危なそうな人ですね」
「そうでもないぞ。竜としては大人しい方だそうだ。怖そうなのは見た目だけだな」
ライナーの言葉はもっともだが、一度話せばそんなことはないと分かる。見た目が怖いだけだからな。一度カレンを叱りつけて頭を殴ったことがあるが、怒ったのはあの時くらいだろう。
「エルマー君とあの人とどっちが強いのですか?」
「俺が勝てるわけがないだろう。カレンですら生えている木を掴んで引っこ抜けるんだぞ」
折るのではなく引っこ抜くことができる。「ほっ」とか「ほいっ」とか言いながら掴んで引っこ抜いて放り投げる。竜は人の姿でも強い。それに火も吐けるから。本気で戦えばいくら俺でも挽き肉か消し炭になる。
「どっちかと言うと、クラースさんってカレンさんよりもエルマーの方に似てるよね」
「そうだな。竜は見た目を若い時の姿に戻せるそうだ。一度見せてもらったが、そうすると俺の兄くらいに見える」
「危なくないと聞いているから落ち着いていられますが、二人が並んでいたらみんな逃げますよ」
「失敬な、こんな真面目な男に向かって」
お互いに冗談で言っているが、俺とクラースが並んで睨みつければ誰もが目を背けることは想像できる。クラースは俺よりも頭一つ近く背が高いが、至って真面目だ。ただ気が長いからか、細かなことは気にしない、意外にざっくりとした性格だ。
適当に酒と料理を口にしているとクラースたちが周りの者たちと乾杯しつつ戻ってきた。酔っ払って城を燃やさなければいいな。
「エルマー、その三人は?」
「軍学校時代の同期の二人と当時の教師だ。三人とも役人として働いてくれている」
「そうかそうか。ここは領地としては治めやすいだろう」
「他に誰もいないから好き勝手できるが、かなり魔獣が多いぞ。治めやすいか?」
「あれだろ? 魔獣が狩れるなら食べる物に困らないってのは大きいと思うよ。小麦だって、あれだから」
「そうですね、財政担当としては楽ですね。売れば売るだけ収入になるわけですから」
「まあそういうことだ。これがすぐ近くに他の領地があれば、妬まれることもあれば嫌がられをされることもあるだろう。だが対抗者がいないという点では気が楽だろう」
「それはそうだな」
山一つ越えなければ隣がないからな。デニス殿とも上手くやれているし、まあ大丈夫だろう。今日はいないがシビラもよく遊びにきている。俺が王都にいて会えないこともあるが、俺のいるいないに関係なくカレンたちと話をしているそうだ。
「そうだ、クラースには礼を言わないと」
「礼とは?」
「二人がここを出てからの話だが、王太子殿下の行啓があった。その際に貴賓室を用意したから、物置から壺など色々と借りた。それと同じ食器が大量にあったからそれも借りた。あれは助かった。今度返しておく」
食器も調度品もかなり高価な物が多く、殿下たちも驚いていた。
「いやいや、戻さなくていい。どうせ使っていないから、そのままここで使ってくれ。壺だろうが何だろうが、使われた方が嬉しいだろう」
「そうか? そう言ってくれるならしばらく借りておく。だが焼き物はほとんどがマルセル・ハイメンダールの骨董品だが、いいのか?」
「あら、懐かしい話をしていますね」
俺とクラースが話をしていると、やって来たパウラがそう言った。ハイメンダールは何百年も前の人だが、二人は長生きだから覚えているだろう。
「二人はハイメンダールのパトロンだったみたいだな」
「いえ、パトロンとかではなく、ハイメンダールはこの人が使っていた名前の一つですね」
「ん? 名前の一つ?」
「ええ、一時期焼き物にのめり込んでいた時期があって、その時に大量に作ってしまったはずですね」
クラースがハイメンダール? 頭の中を整理していると、クラースがポンと両手を打った。
「そうだったそうだった。あまりにも売れなかったからそのまま物置に放り込んでいた。売るなり割るなり好きに使ってくれ」
「売るのは分かるが割るのは意味が分からん。殿下たちから聞いたが、物によっては一つあたり金額一〇〇枚どころではないそうだぞ?」
何人かの騎士から「部屋にあると割ってしまう可能性があるから片付けてほしい」と懇願されたので、その部屋に置いていた壺と花瓶は片付けた。
「なるほど、今はそんなに高いのか」
「知らなかったのか?」
「ああ、あの頃は銅貨一〇枚で六枚組のようにしていたはずだ。売れなかったから場所を取りすぎてな。それで焼くのをやめたのだが。まあ数が増えれば取り引きも増えるだろう。適当に売り払ってくれ」
「この町に金が集まりすぎるぞ」
「そこは寄付なり何なり、ばら撒けばいいだろう」
「それはそうだが……」
ばら撒くとは言っても、金額何万枚分になる?
「ねえ、エルマー。あなたは人間だがら違和感があるかもしれないけど、私たちはそうやってお金を作ったらどこかに寄付をすることがほとんどだら」
「前にも聞いたが、豪快だと思ってな」
「戦争で大変だという話だから、そのあたりで使ってもらえばどう?」
「そうだな、その線で考えるか」
当然だが、この話を聞いていたブルーノとライナーとエラには口外禁止だと言った。
三人にもクラースとパウラのことは話しているが、まさかこんなすぐに会うことになるとは思っていなかっただろう。
「あの人がクラースさん?」
「ああ、火竜のクラースだ。母親が黒髪のパウラで水竜、その隣にいるのがもう一人の妻のローサだ。何竜かは聞いていないな」
「逆らったら危なそうな人ですね」
「そうでもないぞ。竜としては大人しい方だそうだ。怖そうなのは見た目だけだな」
ライナーの言葉はもっともだが、一度話せばそんなことはないと分かる。見た目が怖いだけだからな。一度カレンを叱りつけて頭を殴ったことがあるが、怒ったのはあの時くらいだろう。
「エルマー君とあの人とどっちが強いのですか?」
「俺が勝てるわけがないだろう。カレンですら生えている木を掴んで引っこ抜けるんだぞ」
折るのではなく引っこ抜くことができる。「ほっ」とか「ほいっ」とか言いながら掴んで引っこ抜いて放り投げる。竜は人の姿でも強い。それに火も吐けるから。本気で戦えばいくら俺でも挽き肉か消し炭になる。
「どっちかと言うと、クラースさんってカレンさんよりもエルマーの方に似てるよね」
「そうだな。竜は見た目を若い時の姿に戻せるそうだ。一度見せてもらったが、そうすると俺の兄くらいに見える」
「危なくないと聞いているから落ち着いていられますが、二人が並んでいたらみんな逃げますよ」
「失敬な、こんな真面目な男に向かって」
お互いに冗談で言っているが、俺とクラースが並んで睨みつければ誰もが目を背けることは想像できる。クラースは俺よりも頭一つ近く背が高いが、至って真面目だ。ただ気が長いからか、細かなことは気にしない、意外にざっくりとした性格だ。
適当に酒と料理を口にしているとクラースたちが周りの者たちと乾杯しつつ戻ってきた。酔っ払って城を燃やさなければいいな。
「エルマー、その三人は?」
「軍学校時代の同期の二人と当時の教師だ。三人とも役人として働いてくれている」
「そうかそうか。ここは領地としては治めやすいだろう」
「他に誰もいないから好き勝手できるが、かなり魔獣が多いぞ。治めやすいか?」
「あれだろ? 魔獣が狩れるなら食べる物に困らないってのは大きいと思うよ。小麦だって、あれだから」
「そうですね、財政担当としては楽ですね。売れば売るだけ収入になるわけですから」
「まあそういうことだ。これがすぐ近くに他の領地があれば、妬まれることもあれば嫌がられをされることもあるだろう。だが対抗者がいないという点では気が楽だろう」
「それはそうだな」
山一つ越えなければ隣がないからな。デニス殿とも上手くやれているし、まあ大丈夫だろう。今日はいないがシビラもよく遊びにきている。俺が王都にいて会えないこともあるが、俺のいるいないに関係なくカレンたちと話をしているそうだ。
「そうだ、クラースには礼を言わないと」
「礼とは?」
「二人がここを出てからの話だが、王太子殿下の行啓があった。その際に貴賓室を用意したから、物置から壺など色々と借りた。それと同じ食器が大量にあったからそれも借りた。あれは助かった。今度返しておく」
食器も調度品もかなり高価な物が多く、殿下たちも驚いていた。
「いやいや、戻さなくていい。どうせ使っていないから、そのままここで使ってくれ。壺だろうが何だろうが、使われた方が嬉しいだろう」
「そうか? そう言ってくれるならしばらく借りておく。だが焼き物はほとんどがマルセル・ハイメンダールの骨董品だが、いいのか?」
「あら、懐かしい話をしていますね」
俺とクラースが話をしていると、やって来たパウラがそう言った。ハイメンダールは何百年も前の人だが、二人は長生きだから覚えているだろう。
「二人はハイメンダールのパトロンだったみたいだな」
「いえ、パトロンとかではなく、ハイメンダールはこの人が使っていた名前の一つですね」
「ん? 名前の一つ?」
「ええ、一時期焼き物にのめり込んでいた時期があって、その時に大量に作ってしまったはずですね」
クラースがハイメンダール? 頭の中を整理していると、クラースがポンと両手を打った。
「そうだったそうだった。あまりにも売れなかったからそのまま物置に放り込んでいた。売るなり割るなり好きに使ってくれ」
「売るのは分かるが割るのは意味が分からん。殿下たちから聞いたが、物によっては一つあたり金額一〇〇枚どころではないそうだぞ?」
何人かの騎士から「部屋にあると割ってしまう可能性があるから片付けてほしい」と懇願されたので、その部屋に置いていた壺と花瓶は片付けた。
「なるほど、今はそんなに高いのか」
「知らなかったのか?」
「ああ、あの頃は銅貨一〇枚で六枚組のようにしていたはずだ。売れなかったから場所を取りすぎてな。それで焼くのをやめたのだが。まあ数が増えれば取り引きも増えるだろう。適当に売り払ってくれ」
「この町に金が集まりすぎるぞ」
「そこは寄付なり何なり、ばら撒けばいいだろう」
「それはそうだが……」
ばら撒くとは言っても、金額何万枚分になる?
「ねえ、エルマー。あなたは人間だがら違和感があるかもしれないけど、私たちはそうやってお金を作ったらどこかに寄付をすることがほとんどだら」
「前にも聞いたが、豪快だと思ってな」
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