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第二章:領主二年目第一部
区画整理(四):今後の管理の話
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「前から話は聞いていたが、これほど早く完成するとは思わなかったな」
「まだこれだけですが、あと一〇日もあれば一通りは完成するでしょう」
なぜか殿下が視察に来たので案内する。ブルーノが方向性を示し、現場ではフランツが作業員たちに細かな指示を飛ばす。ドラゴネットとは違い、まだ一体感が出ていないのでどうしても作業は遅めになる。それでも十分に早いが。
「ああ、ブルーノ。こんなところで久しぶりだな」
「殿下、お久しぶりです。まさか卒業した時はエルマーのところで雇われることになるとは思いませんでしたが」
「お前は押しかけてきたようなものだろうが」
元々が知り合いなので、殿下の顔を見てもブルーノは萎縮することもない。軽口を叩くくらいにはお互いに気安い。
「それで、今日は視察もあるが、ここの管理の話をしに来た」
「管理ですか?」
工事現場の視察に来た殿下がおもむろに別の依頼の話を始めた。個々の建物の管理なら話は分かるが、土地の管理か? あくまで国の土地なので、それを管理と言われてもな。俺は内務省の役人じゃない。
「ああ、最初は誰でもきれいに使うだろう。だがまた元のように荒れると困る」
「それは定期的に見回りを歩かせるということですか?」
「ああ、ごみなどの問題もあるだろう。掃除と見回りを兼ねて巡回する仕事をエルマーのところに任せたいのだが」
「そちらの管理の話でしたか。ですが、私のところでいいのですか? まだ商会もできたばかりで、評判も何もありませんが」
「そこなんだが、実はまだまだ貴族の整理が終わっていない」
土地の管理や契約は内務省と財務省の管轄だが、そこも人が足りないそうだ。大臣はともかく、その下で働く役人たち、つまり貴族の子女たちも足りない。
結局のところ、大公派がいなくなってめでたしめでたしで済むはずはなく、空いた穴は埋めなければならない。大公派以外で功績のある貴族を陞爵させたものの、それで収拾が付くはずはない。
まずは領地の問題がある。
大公派でいなくなったのは、俺と父と使用人たちに関係があった名前だけを挙げても、プレボルン大公、メーティン公爵、ツィーゲンブルク侯爵、フロッシュゲロー伯爵、ノイフィーア伯爵、ヴェルヒェンドルフ伯爵、シュタンデハール伯爵などがいた。
もちろん直接関係がなかったのは他にもたくさんいたし、子爵以下も多かった。
公爵の領地に侯爵なり伯爵なりを陞爵させて治めさせるのもありだが、そうすると元の領地の領民たちは残念がるだろう。貴族ならより広い領地とより広い領地を求めるのが普通かもしれないが、領主を慕っている領民が多いほどそうなる傾向にある。すると安易に領地替えの提案を受け入れることはできず、陞爵だけになる。
もちろんより広い領地を求める貴族はいるので、全員が今の領地の方がいいと言った訳ではないが、それでも大公領と公爵領、侯爵領は希望者がいなかったらしい。伯爵以下はいくつか希望者がいたそうだ。
そして次は貴族の数の問題だ。
当然だが、上級貴族は人数そのものはそこまで多くはない。爵位が上がれば上がるほど人数は減る。公爵より男爵が少ないことはあり得ない。
だが人数は少なくてもその領地は広い。伯爵領くらいになると、その領地は男爵領が軽く一〇や二〇は入る。
うちは土地だけはどこよりも広いが、男爵や準男爵の領地の場合は小さな町一つや村一つということも普通にある。
例えば元部下のヴァルターの場合、彼はリンデンシュタール準男爵になり、レフィンという町とその周辺の複数の村が領地になった。合わせると人口は一〇〇〇人を超えるそうで、準男爵としては破格の待遇だ。うちよりも多いからな。
さらに言えば、いなくなった貴族の人数だけ新しい貴族を作ればいい訳ではない。仮に大公領を分割すれば、面積だけなら伯爵領が四つほど、男爵領なら軽く五〇以上入ることになる。町の数はそこまで多くないから、実際に五〇の男爵領に分けることはできないが、面積だけならそんな感じだ。
結局のところ、新しい貴族の数は減った貴族の数の何倍も必要な訳で、陞爵や領地替えを含め、そのあたりの調整がまだ全部終わっていないそうだ。それを担当する者がいなくなった訳だから。俺やヴァルターの処遇が早かったのは例外中の例外と言えるそうだ。
「そういうわけで、役人の数も足りなければそれを指揮する貴族の数も足りない。迷惑だろうが、しばらくこのあたりの土地問題の担当者になってもらえると助かる」
「まあこのあたりは知っている顔も多いですので問題ありませんが、他の地区の貧民街までは難しいと思います」
「いや、とりあえずここだけでいい。ここが上手くいけば、ここのやり方を手本として、それぞれの貧民街の顔役と話し合いをしながら進めていくつもりだ」
そのやり方ならまだ上手くいく可能性が高いな。貧民街で暮らす者たちは役人を信じない。役人は助けてくれないからだ。
この貧民街は人数的には他の場所よりも少なかったせいもあって顔役という存在はいなかったが、何でも屋のゲルトの親父さんや俺がその代わりになっていた感がある。
「ではお引き受けします。商会の方の人手を増やしてからということになりますが、それでよろしいですか?」
「それで大丈夫だ。ここが整理されてすぐに荒れることはないだろう」
「まだこれだけですが、あと一〇日もあれば一通りは完成するでしょう」
なぜか殿下が視察に来たので案内する。ブルーノが方向性を示し、現場ではフランツが作業員たちに細かな指示を飛ばす。ドラゴネットとは違い、まだ一体感が出ていないのでどうしても作業は遅めになる。それでも十分に早いが。
「ああ、ブルーノ。こんなところで久しぶりだな」
「殿下、お久しぶりです。まさか卒業した時はエルマーのところで雇われることになるとは思いませんでしたが」
「お前は押しかけてきたようなものだろうが」
元々が知り合いなので、殿下の顔を見てもブルーノは萎縮することもない。軽口を叩くくらいにはお互いに気安い。
「それで、今日は視察もあるが、ここの管理の話をしに来た」
「管理ですか?」
工事現場の視察に来た殿下がおもむろに別の依頼の話を始めた。個々の建物の管理なら話は分かるが、土地の管理か? あくまで国の土地なので、それを管理と言われてもな。俺は内務省の役人じゃない。
「ああ、最初は誰でもきれいに使うだろう。だがまた元のように荒れると困る」
「それは定期的に見回りを歩かせるということですか?」
「ああ、ごみなどの問題もあるだろう。掃除と見回りを兼ねて巡回する仕事をエルマーのところに任せたいのだが」
「そちらの管理の話でしたか。ですが、私のところでいいのですか? まだ商会もできたばかりで、評判も何もありませんが」
「そこなんだが、実はまだまだ貴族の整理が終わっていない」
土地の管理や契約は内務省と財務省の管轄だが、そこも人が足りないそうだ。大臣はともかく、その下で働く役人たち、つまり貴族の子女たちも足りない。
結局のところ、大公派がいなくなってめでたしめでたしで済むはずはなく、空いた穴は埋めなければならない。大公派以外で功績のある貴族を陞爵させたものの、それで収拾が付くはずはない。
まずは領地の問題がある。
大公派でいなくなったのは、俺と父と使用人たちに関係があった名前だけを挙げても、プレボルン大公、メーティン公爵、ツィーゲンブルク侯爵、フロッシュゲロー伯爵、ノイフィーア伯爵、ヴェルヒェンドルフ伯爵、シュタンデハール伯爵などがいた。
もちろん直接関係がなかったのは他にもたくさんいたし、子爵以下も多かった。
公爵の領地に侯爵なり伯爵なりを陞爵させて治めさせるのもありだが、そうすると元の領地の領民たちは残念がるだろう。貴族ならより広い領地とより広い領地を求めるのが普通かもしれないが、領主を慕っている領民が多いほどそうなる傾向にある。すると安易に領地替えの提案を受け入れることはできず、陞爵だけになる。
もちろんより広い領地を求める貴族はいるので、全員が今の領地の方がいいと言った訳ではないが、それでも大公領と公爵領、侯爵領は希望者がいなかったらしい。伯爵以下はいくつか希望者がいたそうだ。
そして次は貴族の数の問題だ。
当然だが、上級貴族は人数そのものはそこまで多くはない。爵位が上がれば上がるほど人数は減る。公爵より男爵が少ないことはあり得ない。
だが人数は少なくてもその領地は広い。伯爵領くらいになると、その領地は男爵領が軽く一〇や二〇は入る。
うちは土地だけはどこよりも広いが、男爵や準男爵の領地の場合は小さな町一つや村一つということも普通にある。
例えば元部下のヴァルターの場合、彼はリンデンシュタール準男爵になり、レフィンという町とその周辺の複数の村が領地になった。合わせると人口は一〇〇〇人を超えるそうで、準男爵としては破格の待遇だ。うちよりも多いからな。
さらに言えば、いなくなった貴族の人数だけ新しい貴族を作ればいい訳ではない。仮に大公領を分割すれば、面積だけなら伯爵領が四つほど、男爵領なら軽く五〇以上入ることになる。町の数はそこまで多くないから、実際に五〇の男爵領に分けることはできないが、面積だけならそんな感じだ。
結局のところ、新しい貴族の数は減った貴族の数の何倍も必要な訳で、陞爵や領地替えを含め、そのあたりの調整がまだ全部終わっていないそうだ。それを担当する者がいなくなった訳だから。俺やヴァルターの処遇が早かったのは例外中の例外と言えるそうだ。
「そういうわけで、役人の数も足りなければそれを指揮する貴族の数も足りない。迷惑だろうが、しばらくこのあたりの土地問題の担当者になってもらえると助かる」
「まあこのあたりは知っている顔も多いですので問題ありませんが、他の地区の貧民街までは難しいと思います」
「いや、とりあえずここだけでいい。ここが上手くいけば、ここのやり方を手本として、それぞれの貧民街の顔役と話し合いをしながら進めていくつもりだ」
そのやり方ならまだ上手くいく可能性が高いな。貧民街で暮らす者たちは役人を信じない。役人は助けてくれないからだ。
この貧民街は人数的には他の場所よりも少なかったせいもあって顔役という存在はいなかったが、何でも屋のゲルトの親父さんや俺がその代わりになっていた感がある。
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「それで大丈夫だ。ここが整理されてすぐに荒れることはないだろう」
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