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第二章:領主二年目第一部
猫人の気まぐれ対策
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「エルマー様、わがままを聞いていただきありがとうございました」
「半分は俺も関係することだから問題ないが、少々疲れるな」
「そうですね。幸せですが」
目を覚ましたアメリアを抱きしめながら、少し気怠い体を起こす。彼女を初めて抱いたのが昨日の夕方の少し前だった。それから一度着替え、それから一晩一緒にいた。これは先日カサンドラから教えてもらった猫人の習性への対策だった。
◆ ◆ ◆
「ひたすら抱きしめる?」
「ええ、そうです。しばらく期間を空けて何度か繰り返すと落ち着くようです」
カサンドラから猫人に関して教えてもらう。
猫人は猫とは違うが、多少は継いでいる部分があるそうだ。気まぐれであるとか散歩が好きだとか。
それ以外にも恋愛対象に体を擦り付けることもあれば、妻が複数いる場合は夫がきちんと上下関係を決めないと不安になることもあるそうだ。
もちろん猫によってもそれぞれ性格が違うように猫人もそれぞれらしいが、概ねそのような特徴があるとか。
「序列を付けたい訳じゃないんだが」
「実際にどうかは関係なく、自分がどの立場なのかがはっきりしないと落ち着かなくなります。猫人は繊細ですから」
「それなら……」
アンゲリカとヘルガは何を基準にしても揉める可能性があるから、出会った順か。それなら変えようがない。
「カサンドラ、ヘルガ、アンゲリカ、アメリアの順だな」
「あら、私が一番ですか?」
「初めて顔を見た順番にする。それなら誰にでも理解しやすいだろう。アメリアもそれでいいか?」
「はい、何番でも構いません」
カサンドラのことは軍学校に通う前から知っていた。縁ができるとは思わなかったが。
第一とか首席とか初代というのは彼女たちが半分冗談で言っているだけだが、一応聞かれたらその順番になったと答えよう。
◆ ◆ ◆
とりあえずそのようなやり取りが俺とカサンドラとアメリアの間であった。
そして猫人の気まぐれさを落ち着かせるのが、昨日の夜からやっていたこれだ。特に何かをした訳ではないが、ずっと抱きしめていた。これによって抱きしめた相手が従順になるそうだ。
毎日するのは無理だと思ったら、たまにでいいらしい。一晩中だから毎日は無理がある。
「でもあの時にエルマー様に相談してみてよかったです」
「あの時はこうなるとは思わなかったな」
「はい、私も打ち明けたいとは思いつつも誰にも話せないままでしたので、このまま年を取ってしまうのではないかと思っていました」
以前に話は聞いたが、彼女は人間の両親の間に生まれた取り替え子だった。もちろん王都まで来ればそのような話はいくらでも聞く。だが人が少ない地域では取り替え子は少ないだろう。実際にハイデで人間以外の種族が生まれたことはなかった。
彼女の生まれた町はハイデほど僻地ではなかったが、周りには大きな町は多くなかったそうだ。地方の小さな町は噂も広まりやすければ村ほど温かくもない。
親と種族が違うのはよくあることだが、場合によっては親の不貞を疑われることもあるそうだ。だからその家の置かれた状況によっては教会などに預けられる。
ハイデくらい僻地になると、そこにはある意味で都市に対する不思議な感情が生まれる。別に都市を恨む訳ではないが、「あっちはあっちでこっちはこっちでいいんじゃないか?」という具合だ。無視とも言う。
そしてそれと同時に都市から流れて来た者に対する同情が生まれる。犯罪者だったりよほど扱いにくかったりしたら話は別だが、基本的には誰でも受け入れる。「向こう側の者」から「こちら側の者」になった訳だから、差別や偏見はゼロとは言わないが少ない。
アメリアもそのような場所なら疎まれることもなかったかもしれない。生まれ育った町を出て、もう少し大きな別の町で暮らし始めたがそこもよく似たものだった。そして王都に辿り着いた時にはすでに他人に明かすことができないほど追い詰められていた。
「それで改めて聞くが、耳や尻尾を見せて周りの反応はどうだった?」
「恐れていたようなことは何もありませんでした。ただただ驚かれただけで」
「そうだろうな。毎日顔を見ていた仲間にいきなり尻尾があれば俺でも驚く」
アメリアの耳や尻尾には髪とは違った短い毛が生えていて、ザムトのような手触りがする。
「ドーリスさんたちには頭を撫で回されてしまいました」
「この肌触りは癖になるだろう」
尻尾の感触を楽しむ。
「エルマー様、あの、あまり撫でられると、その……」
「ん? ああ、悪い」
「いえ、どれだけ撫でていただいても構いませんが、まだ時間はおありですよね?」
◆ ◆ ◆
「旦那様、いかがでしたか?」
「ああ、無事に……と言っていいのかどうか分からないが、アメリアも加わることになった」
アメリアを家に送り届けると、城に戻ってヘルガと話をする。彼女も愛人の一人だから、前からアメリアのことを多少は気にしていた。
「それで、アメリアのために愛人に序列を付けることにした。お前は二番になる」
「あたしは首席ですが」
「それはアンゲリカと張り合っているだけだろう。俺と知り合った順番で、カサンドラ、ヘルガ、アンゲリカ、アメリアの順とする。だがあくまでアメリアのために順番を明確にしただけだ。扱いはみんな同じにする」
なんとか説得したが、仕事が終わったアンゲリカにも同じことを説明し、そしてやはり同じような反応が返って来た。アンゲリカが返ってきてから一緒に説明すべきだったな。
「半分は俺も関係することだから問題ないが、少々疲れるな」
「そうですね。幸せですが」
目を覚ましたアメリアを抱きしめながら、少し気怠い体を起こす。彼女を初めて抱いたのが昨日の夕方の少し前だった。それから一度着替え、それから一晩一緒にいた。これは先日カサンドラから教えてもらった猫人の習性への対策だった。
◆ ◆ ◆
「ひたすら抱きしめる?」
「ええ、そうです。しばらく期間を空けて何度か繰り返すと落ち着くようです」
カサンドラから猫人に関して教えてもらう。
猫人は猫とは違うが、多少は継いでいる部分があるそうだ。気まぐれであるとか散歩が好きだとか。
それ以外にも恋愛対象に体を擦り付けることもあれば、妻が複数いる場合は夫がきちんと上下関係を決めないと不安になることもあるそうだ。
もちろん猫によってもそれぞれ性格が違うように猫人もそれぞれらしいが、概ねそのような特徴があるとか。
「序列を付けたい訳じゃないんだが」
「実際にどうかは関係なく、自分がどの立場なのかがはっきりしないと落ち着かなくなります。猫人は繊細ですから」
「それなら……」
アンゲリカとヘルガは何を基準にしても揉める可能性があるから、出会った順か。それなら変えようがない。
「カサンドラ、ヘルガ、アンゲリカ、アメリアの順だな」
「あら、私が一番ですか?」
「初めて顔を見た順番にする。それなら誰にでも理解しやすいだろう。アメリアもそれでいいか?」
「はい、何番でも構いません」
カサンドラのことは軍学校に通う前から知っていた。縁ができるとは思わなかったが。
第一とか首席とか初代というのは彼女たちが半分冗談で言っているだけだが、一応聞かれたらその順番になったと答えよう。
◆ ◆ ◆
とりあえずそのようなやり取りが俺とカサンドラとアメリアの間であった。
そして猫人の気まぐれさを落ち着かせるのが、昨日の夜からやっていたこれだ。特に何かをした訳ではないが、ずっと抱きしめていた。これによって抱きしめた相手が従順になるそうだ。
毎日するのは無理だと思ったら、たまにでいいらしい。一晩中だから毎日は無理がある。
「でもあの時にエルマー様に相談してみてよかったです」
「あの時はこうなるとは思わなかったな」
「はい、私も打ち明けたいとは思いつつも誰にも話せないままでしたので、このまま年を取ってしまうのではないかと思っていました」
以前に話は聞いたが、彼女は人間の両親の間に生まれた取り替え子だった。もちろん王都まで来ればそのような話はいくらでも聞く。だが人が少ない地域では取り替え子は少ないだろう。実際にハイデで人間以外の種族が生まれたことはなかった。
彼女の生まれた町はハイデほど僻地ではなかったが、周りには大きな町は多くなかったそうだ。地方の小さな町は噂も広まりやすければ村ほど温かくもない。
親と種族が違うのはよくあることだが、場合によっては親の不貞を疑われることもあるそうだ。だからその家の置かれた状況によっては教会などに預けられる。
ハイデくらい僻地になると、そこにはある意味で都市に対する不思議な感情が生まれる。別に都市を恨む訳ではないが、「あっちはあっちでこっちはこっちでいいんじゃないか?」という具合だ。無視とも言う。
そしてそれと同時に都市から流れて来た者に対する同情が生まれる。犯罪者だったりよほど扱いにくかったりしたら話は別だが、基本的には誰でも受け入れる。「向こう側の者」から「こちら側の者」になった訳だから、差別や偏見はゼロとは言わないが少ない。
アメリアもそのような場所なら疎まれることもなかったかもしれない。生まれ育った町を出て、もう少し大きな別の町で暮らし始めたがそこもよく似たものだった。そして王都に辿り着いた時にはすでに他人に明かすことができないほど追い詰められていた。
「それで改めて聞くが、耳や尻尾を見せて周りの反応はどうだった?」
「恐れていたようなことは何もありませんでした。ただただ驚かれただけで」
「そうだろうな。毎日顔を見ていた仲間にいきなり尻尾があれば俺でも驚く」
アメリアの耳や尻尾には髪とは違った短い毛が生えていて、ザムトのような手触りがする。
「ドーリスさんたちには頭を撫で回されてしまいました」
「この肌触りは癖になるだろう」
尻尾の感触を楽しむ。
「エルマー様、あの、あまり撫でられると、その……」
「ん? ああ、悪い」
「いえ、どれだけ撫でていただいても構いませんが、まだ時間はおありですよね?」
◆ ◆ ◆
「旦那様、いかがでしたか?」
「ああ、無事に……と言っていいのかどうか分からないが、アメリアも加わることになった」
アメリアを家に送り届けると、城に戻ってヘルガと話をする。彼女も愛人の一人だから、前からアメリアのことを多少は気にしていた。
「それで、アメリアのために愛人に序列を付けることにした。お前は二番になる」
「あたしは首席ですが」
「それはアンゲリカと張り合っているだけだろう。俺と知り合った順番で、カサンドラ、ヘルガ、アンゲリカ、アメリアの順とする。だがあくまでアメリアのために順番を明確にしただけだ。扱いはみんな同じにする」
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