ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第二章:領主二年目第一部

食事と運河の延長計画

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「エルマー君、ものすごく美味しいですよ」
「ありがとうございます」

 エラの感想に前菜を運んで来たラーエルが頭を下げる。その日の料理の説明をするのがラーエルかアグネスの仕事だ。

「うちの自慢の料理長と副料理長だ」
「これが食べられるだけで来た甲斐があります」
「客としてここにいる間だけだから堪能してくれ」
「ずっとお客さんではダメですか?」
「働きに来たんじゃないのか?」
「食客です」

 エラの言葉を聞いてラーエルが笑っている。よく見れば子供でないことは分かるが、パッと見た目は一〇代半ばの、少し背伸びをした子供に見えなくはない。発言もたまに大人っぽいかと思えば急に子供っぽくなる。まあ狩人や護衛たちの中で人気が出るだろう。

「なあ、どうせなら三人だけじゃなくてもっと増やさない?」
「軍学校の関係者をか? エクムント殿が手紙を出してくれたようだが、さすがにそこまで送る相手は多くないだろう。役人とは関係ないが、とりあえず春になれば殿下が遊びに来る」
「え、マジで?」
「ああ、行啓に来てくださるそうだ。それもあって町をある程度は大きくしておきたいというのもあった」
「それなら気合を入れないとね」

 そう言ってくれると助かる。ちょうどブルーノには考えてほしいことがあったので、食事が終わったら話をしよう。

「ところで、このヴルストソーセージ、何か違わない?」
「僕もそう思いました。歯ごたえが不思議ですね」
「お代わりを貰えますか?」
「……アグネス、余分があればエラにもう少し出してやってくれ。ちなみにこれは何の肉だ?」

 ラーエルの代わりに側に来たアグネスに何肉のヴルストソーセージかを聞く。

「まだありますのですぐにお出しします。今日は熊肉と鹿肉を混ぜたヴルストソーセージです。試作品として渡されたものですが、試したところかなり上品な風味だと分かりましたので今日の食事に使ってみました」
「それでこの風味か」
「はい。熊肉の甘さと歯ごたえ、鹿肉の柔らかさと香り、どちらも併せ持っています。もはや保存食とは別物ですね」
「熊肉って、当たり前だけどあの熊?」
「魔獣の熊だ。鹿も」

 俺の言葉を聞いたブルーノとライナーはヴルストソーセージをまじまじと見ている。エラは空になった皿を寂しそうに見つめている。

 魔獣はこの国のどこにでも出没するが、山が多いと出没しやすいと思っていた。ここがそうで、ハイデもそうだった。

 ブルーノの故郷のプロヴェッツ子爵領はこの国の北東部で山は近い。エクディン準男爵領からずっと西に行った国の反対側だ。あのあたりも西を見ればハイデと同じで山を越えたらまた山がある感じだとは思うが、違ったのだろうか。

「スヴェンスドルフは西側にも高い山があっただろう。魔獣は出なかったのか? ハイデではよく出たぞ」
「いなくはない、と言うくらいかな。普通の熊や鹿はいたけど。ポンポン出たら困るよ」
「そうなのか。山が後ろにあるから同じようなものだと思っていたが」
「ハイデはそんなに出てたの?」

 ブルーノは驚くが、俺は山には魔獣も野獣もいると思っていたから、むしろいないほうが不思議だ。なるほど、ハイデは特殊だったのかもしれない。

 だがそうなると、ロルフの実家のペングン男爵領はハイデからずっと南に行った、この国の一番東側の山沿いになる。あのあたりがどうなのか気になるな。

「ハイデは何もなかったが、山には魔獣も野獣もいた。お陰で食べることだけはできた感じだな」
「スヴェンスドルフなら普通の熊や鹿や猪だったね。ライナーのとこもそうだったでしょ?」
「よく似たものですね。うちは山からは遠かったので、兎や猪が多かったでしょうか。もちろん魔獣ではありません」
「私のところはライナー君と同じような感じです。山はありませんでしたので」

 ライナーの実家のユーゲンスヘーレン男爵領はプロヴェッツ子爵領から東に進んだところにある。エラの実家のバッツオ男爵領はそこから南になる。

 それからしばらくお互いの故郷自慢のような話が続いた。



◆ ◆ ◆



 食事も終わったので、俺はブルーノとライナーとエラにこの町の少々特殊な事情を説明することにした。

「行啓に向けてという訳でもないが、ブルーノに一つ頼みがある。来ていきなりで悪いが」
「あらたまって何?」
「運河は見たと思うが、あれを町の外にも広げたい。その計画を立ててくれないか?」
「運河を町の外にねえ。どっちの方向に?」
「南の山の方へだ。トンネルのある方と、そこからもう少し東西へも延ばしたい」
「トンネルの方は分かるけど、東西に延ばすのは何で?」
「ああ、それは魔獣の運搬のためだ」
「運搬?」

 この町では肉のための家畜はほとんど飼育されていない。家畜はヴァイスドルフ男爵領から購入し、今では牧場で育てられている。それはミルク搾りのためで、食べる肉は魔獣がほとんどだ。その魔獣の肉を運ぶのがなかなか大変な作業になっている。

 この町の近くにも以前から魔獣はいるが、狩人たちがまめに狩っているのでそれほど頻繁には見かけることはない。しかもそれだけでは町全体に肉を行き渡らせることはできない。

 だから食肉のための魔獣は南の山の方で狩るが、トンネルの出入り口付近には魔物が近付かないようにするための魔物避けが取り付けられているので、もう少し東か西に狩りに行く。狩れば当然だが持ち帰らなければならない。

 だが魔獣は野獣よりも大きくて重い。野獣の熊でさえ後ろ足で立ち上がれば二メートルほどあるが、魔獣の熊は四メートル以上あり、大きな個体だと五メートルを超えることもある。

 背が二倍なら当然だが幅も厚みもそれぞれ二倍以上になる。野獣の熊でさえ重さは成人男性の三、四人分くらいあるが、それなら魔獣の熊で一番大きな個体はどれくらい重いかが想像できるだろう。

 軍馬に荷車を引かせてそこに乗せるのも大変なので、最近は背の低いソリのような物の上に転がして乗せ、馬で引っ張るそうだ。だがそれでも馬数頭で魔獣を一匹運べるかどうか。

「なるほど。狩った獲物を運ぶための運河だね」
「ああ。最初の頃は俺が同行していたから俺が異空間に入れて持ち帰ったが、いつも手が空いているとは限らない。カレンに[転移]で運んでもらうこともあるが、そちらもいつまでも続けられない。それに魔獣だけではなく、木材などを運ぶのにも使えるはずだ」
「了解了解。運搬手段の含めて考えてみるよ」
「頼む。これが今の町を上から見た図面だ」

 何枚かの地図を取り出す。まだこの領地全体の地図はない。あるのは南の山からこの町あたりまでだ。

 ライナーとエラにも同じものを渡した。特にエラは護衛たちを鍛えるために山のほうに行ってもらわなければならないので必要だろう。するとエラはまじまじと地図を見た。

「この地図はどのようにして作ったのですか?」
「ああ、これはカレンに、こう後ろから抱えられるような姿勢で空に運んでもらって、その間に写真機でな」
「それでこれほど細かいのですね」

 写真機とは覗いた光景を紙に写すための魔道具だ。一応これを使って上から写すのは終わっていて、それでこの領地が大まかに東西も南北も二四〇キロから二五〇キロと分かっている。

 これだけ誤差がある理由としては、端から端まで真上から写すことは無理だということが挙げられる。それにそこまでするほどの時間はない。だから色々な場所で、ある程度の高さから斜め下を撮影して、それらを元にして大まかな位置関係を掴み、そしてそれらを繋ぎ合わせて地図にした。

 一〇キロの違いは大きいが、四パーセント程度だと考えれば誤差と言えるかもしれない。

「本当に土木関係が得意だね」
「領主よりも向いていると思うことはある」
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