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第二章:領主二年目第一部
骨董品の扱い(二)
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「おおっ! これほどの逸品をっ! これだけの数っ! しかもこの目の前で見られるとはっ!」
ツェーデン子爵の屋敷でハイメンダールの焼き物を見てもらっている。使用人たちが広間に並べたテーブルに布を敷いたので、そこに種類ごとに並べてみた。
使用人たちはずっと緊張しているのが分かる。俺が来た時から右手と右足が同時に前に出ている。可哀想だから持たせるようなことはしていない。
中にはそのような主人がいるそうだ。使用人に盆を持たせ、その上にものすごく繊細で高価な食器を乗せ、それで屋敷の中や外を歩かせるとか。落とせば酷い仕打ちをする。払えるような金額じゃないからな。落とさなくてもその様子を見て喜ぶそうだ。
ハイメンダールの作品の価値は、行啓の際に聞いたところでは、希少な物なら金貨三〇〇枚ほどするそうだ。ここにある物がどれくらいかは分からないが。
あまり大量に並べられては子爵も困るだろうから、皿などの食器はそれぞれ同じ物を六枚ずつ、壺や花瓶などは同じ物を二つずつ持って来た。
「このアルノー・キュンストラー、もうポックリ逝っても惜しくはないっ!」
「旦那様、ポックリ逝かれては困ります」
子爵邸の執事が興奮した子爵に冷静に声をかける。
「うーん、しかしこれだけの数、さすがに私だけでは払えんなあ。息子に馬車馬のように働いてもらうか?」
「また坊っちゃんに怒られますよ」
前にも何かやったのだろうな。もしかしたらこの屋敷もそうやって買ったのか? ここは元々はノイフィーア伯爵の屋敷で、かなり大きい。立派な地下室も用意されていた。使い道があれだったが。
「ノルト男爵、いやいや、素晴らしい物を見せていただいた。感謝する」
「喜んでいただけて何よりです。なかなか扱い辛い物ばかりですので」
「そうだろうなあ。一枚でも貴重。しかもそれぞれ一揃いあるとなればさらに貴重だろう」
一枚だけならそれを売れば終わりだが、同じものがたくさんある。それも色々な種類が。
「ハイメンダールの作品はいずれ一つ欲しいと思っていたが、このように揃っているのを見ると、一つ欠けるのが冒涜のように思えてしまう。だが一揃いとなるとさすがに簡単には手出しができない」
「全部で六枚ではありませんので問題ありません。向こうにはまだありますので」
「何とっ!」
ヴェルナーにも言われたが、例えば六枚を一揃いとして焼かれた普通の皿の場合、誰でも全て揃っている物を欲しがる。三枚のように中途半端な枚数では困るからだ。
だが骨董なら最初から揃っていないことがほとんどで、飾るだけだから一枚でも問題ない。そもそも骨董なら揃っていることが普通は考えられないからだ。
それならここに骨董が一揃いあって、全て買うのが無理な場合にどうしたらいいかというところで子爵は悩んでいる。
「ツェーデン子爵、私はこれらの扱いについては預けてくれた篤志家から一任されています。値段に関してもです。数はありますのであなたに売ることは問題ありません。ですが少し相談がありまして」
「私に分かることなら」
「売るにせよ何に使うにせよ、売上は世の中のために使うと約束しています。何かいい案はないでしょうか?」
買える貴族なら買ってもらえばいい。だが無理をして金を出させることでもない。うちが管理し始めた元貧民街の維持管理費に使えばいいかもしれないが、あれも一度動き始めればそこまで金がかからないのが実際のところだ。
「世の中のためか。面白いな。それなら男爵が美術館なり博物館なりを建て、その入館料を徴収すればいいのではないか?」
「ああ、なるほど。その方法がありましたか」
売るか買うかしか思い付かなかったが、展示するのでもいいのか。アントンもそのようなことを言っていたな。見て楽しむくらいがいいとか。
「私なら朝から出かけるだろう。館内で食事もできるのなら夜まで帰ってこないかもしれないな。毎日でもいい」
「旦那様はきちんとお仕事をなさってください」
なるほど。食事か。それは使えそうだな。
「子爵、いい話を聞きました。その線で考えてみます」
「お役に立てたのなら嬉しい。もし私が買う気になって、その時に作品が残っているならぜひ売ってもらいたい」
「それはお約束しましょう」
ツェーデン子爵の屋敷でハイメンダールの焼き物を見てもらっている。使用人たちが広間に並べたテーブルに布を敷いたので、そこに種類ごとに並べてみた。
使用人たちはずっと緊張しているのが分かる。俺が来た時から右手と右足が同時に前に出ている。可哀想だから持たせるようなことはしていない。
中にはそのような主人がいるそうだ。使用人に盆を持たせ、その上にものすごく繊細で高価な食器を乗せ、それで屋敷の中や外を歩かせるとか。落とせば酷い仕打ちをする。払えるような金額じゃないからな。落とさなくてもその様子を見て喜ぶそうだ。
ハイメンダールの作品の価値は、行啓の際に聞いたところでは、希少な物なら金貨三〇〇枚ほどするそうだ。ここにある物がどれくらいかは分からないが。
あまり大量に並べられては子爵も困るだろうから、皿などの食器はそれぞれ同じ物を六枚ずつ、壺や花瓶などは同じ物を二つずつ持って来た。
「このアルノー・キュンストラー、もうポックリ逝っても惜しくはないっ!」
「旦那様、ポックリ逝かれては困ります」
子爵邸の執事が興奮した子爵に冷静に声をかける。
「うーん、しかしこれだけの数、さすがに私だけでは払えんなあ。息子に馬車馬のように働いてもらうか?」
「また坊っちゃんに怒られますよ」
前にも何かやったのだろうな。もしかしたらこの屋敷もそうやって買ったのか? ここは元々はノイフィーア伯爵の屋敷で、かなり大きい。立派な地下室も用意されていた。使い道があれだったが。
「ノルト男爵、いやいや、素晴らしい物を見せていただいた。感謝する」
「喜んでいただけて何よりです。なかなか扱い辛い物ばかりですので」
「そうだろうなあ。一枚でも貴重。しかもそれぞれ一揃いあるとなればさらに貴重だろう」
一枚だけならそれを売れば終わりだが、同じものがたくさんある。それも色々な種類が。
「ハイメンダールの作品はいずれ一つ欲しいと思っていたが、このように揃っているのを見ると、一つ欠けるのが冒涜のように思えてしまう。だが一揃いとなるとさすがに簡単には手出しができない」
「全部で六枚ではありませんので問題ありません。向こうにはまだありますので」
「何とっ!」
ヴェルナーにも言われたが、例えば六枚を一揃いとして焼かれた普通の皿の場合、誰でも全て揃っている物を欲しがる。三枚のように中途半端な枚数では困るからだ。
だが骨董なら最初から揃っていないことがほとんどで、飾るだけだから一枚でも問題ない。そもそも骨董なら揃っていることが普通は考えられないからだ。
それならここに骨董が一揃いあって、全て買うのが無理な場合にどうしたらいいかというところで子爵は悩んでいる。
「ツェーデン子爵、私はこれらの扱いについては預けてくれた篤志家から一任されています。値段に関してもです。数はありますのであなたに売ることは問題ありません。ですが少し相談がありまして」
「私に分かることなら」
「売るにせよ何に使うにせよ、売上は世の中のために使うと約束しています。何かいい案はないでしょうか?」
買える貴族なら買ってもらえばいい。だが無理をして金を出させることでもない。うちが管理し始めた元貧民街の維持管理費に使えばいいかもしれないが、あれも一度動き始めればそこまで金がかからないのが実際のところだ。
「世の中のためか。面白いな。それなら男爵が美術館なり博物館なりを建て、その入館料を徴収すればいいのではないか?」
「ああ、なるほど。その方法がありましたか」
売るか買うかしか思い付かなかったが、展示するのでもいいのか。アントンもそのようなことを言っていたな。見て楽しむくらいがいいとか。
「私なら朝から出かけるだろう。館内で食事もできるのなら夜まで帰ってこないかもしれないな。毎日でもいい」
「旦那様はきちんとお仕事をなさってください」
なるほど。食事か。それは使えそうだな。
「子爵、いい話を聞きました。その線で考えてみます」
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