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第四章:領主二年目第三部
二人の国王(二)
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「ノルト男爵、言いたいことはあるとは思うが、これも貴族の務めと思って諦めてくれ」
「いえ、私がジョゼフィーヌが好きとか嫌いとかは横に置いておきますが、向こうにその気があるのがこれほども感じられなかったのですが」
俺はこれほどと言いながら、親指と人差し指の間を一ミリくらい開けた。
「ジョゼフィーヌはこれまでレティシアの護衛騎士をしていて、男女の機微には疎かったそうだ。それはヴァジ男爵からも聞いた。お主が帰ってからは「次はいつノルト男爵とお会いできるのでしょうか」と事あるごとに言っていたそうだ。レティシアがエルザと会いたがっていたのと同じようにな。
「考えようによっては男冥利に尽きるのでしょうが……」
ジョゼフィーヌは俺のことは何とも思ってなかったんじゃないのか? 本人からもそんなことを聞いた気がするが。
「とりあえず後ほど二人で話し合ってみます」
「ああ、急ぐものでもないだろう。愛情などゆっくりと育めばいい」
「それはそうでしょうが……」
エルザとレティシア王女を見ていたジョゼフィーヌが俺の方を見た。ジョゼフィーヌは俺とディオン王が話をしているのを見ると、少し恥ずかしそうに顔を背けた。いずれ考えなければならないとしても、とりあえずはこの後の陛下とディオン王の対面だ。個人的なことはその後でいい。結果はどうあれ。
◆ ◆ ◆
カミル陛下とディオン王の対面の時間になった。俺はディオン王の少し前を歩いて謁見の間に向かう。謁見のまではすでにカミル陛下が玉座に腰を下ろしていた。
俺がディオン王を案内する形で謁見の間に入り、階の前まで来ると横に移動した。国王と国王の対面なのでカミル陛下は階から降り、ディオン王と対等な位置で話を始めた。
「カミル殿、互いに王太子だった頃から久しく顔を合わせていなかったが、このような場で話すことになってしまって申し訳ない」
「ディオン殿、話はそこにいるノルト男爵から聞いている。国王としては笑って済ませられる話ではないが、一人の父親としてはやむを得ない事情があったと理解している」
「すまん」
それからディオン王によって何が起きていたのかが説明された。大まかには俺も聞いていたが、今回初めて聞く話も多かった。あれから王都と領地にあるエルザス辺境伯の二つの屋敷、さらにエルザス辺境伯領にあったデュドネの屋敷も差し押さえ、使用人たちを締め上げ、徹底的に調べたそうだ。
エルザの件については、最初はエルザス辺境伯が主犯だと思っていたら、実は主犯はクロエ王妃の弟であるデュドネで、辺境伯は共犯、もしくは従犯だったことが分かった。
デュドネは巡察使という立場で地方の貴族を監督する立場だったが、エルザス辺境伯の姪を妻にし、彼の右腕として軍を率いるほどになった。
一方ではその頃から立場を利用して悪事を働くようになった。策謀家として、隣国のプレボルン大公、つまりカミル陛下の弟と結託し、大公に資金援助をする代わりに見返りを求めたようだ。大公はその資金を使って派閥の強化と南方の貴族の弱体化を計った。エルザス辺境伯の軍が侵攻しやすいようにだ。
それならその資金がどこから来ていたのか。簡単に言えば盗賊たちの元締めのようなことをしていたそうだ。そして極めつけが姉であるクロエ王妃の子供を盗むということだった。人質を使って王妃殿下に兵と金を出させようとしたらしい。ただしそこで計画に齟齬が生じた。部下が裏切ったからだ。
女中として連れていった部下に赤ん坊を盗ませるのには成功したが、その部下が赤ん坊を隠したそうだ。どうやら報酬を釣り上げようとしたらしい。上司が上司なら部下も部下だ。
怒ったデュドネはその部下を拷問にかけて聞き出そうとしたが彼女は口を割らなかった。挙げ句にその部下を死なせてしまい、赤ん坊の居場所が分からなくなってしまった。困ったのはデュドネと、その片棒を担いだ辺境伯だった。人を使って調べさせたが見つからない。残った一人を盗み出そうにも、徹底的に監視されていて無理だと判断した。
二人には引き返す道がなくなった。謝罪しても首をはねられるだけだ。だから二人は腹を括った。そして二人は赤ん坊が手元にいると思わせることでクロエ王妃を脅して従わせようとした。だがそこでも誤算があった。思ったよりもクロエ王妃が首を縦に振らなかったのだ。
ディオン王が大きな影響の出ない程度に首を縦に振るという方針にしたのが、今思えば間違っていなかったのだろう。結果として大軍同士の激突というのはそれほど多くはなく、エルザス辺境伯は領軍のみで攻め込まざるを得ないことが多かった。アルマン王国としても侵攻に備えるための準備ができた。
その後、どのような経緯があったかまでは今の段階では調べ切れていないそうだが、その赤ん坊は国境を越え、マルクブルク辺境伯領を通って東に向かい、バーレン辺境伯領のニューメックに辿り着いた。その町の孤児院でエルザとして育ち、それから王都に出た。そしてエクディン準男爵の屋敷の隣にある教会で働くようになり、それから準男爵の息子、つまり俺と知り合った。
一方で残された双子の片割れは第四王女として育てられ、姉である第三王女が見つかるようにと日々祈りながら暮らしていた。単なる行き遅れではなかったようだ。
そして去年、俺が戦功を立ててノルト男爵になり領地を与えられると、エルザは第二夫人として迎えられた。さらに今年再び戦争があり、そこで捕虜となったジョゼフィーヌを俺がノルト男爵領に連れていくと、エルザをレティシア王女だと勘違いしたことから第三王女の行方が判明した。
「エルザス辺境伯とデュドネは先日の戦争で死んだようだ。彼らはその命をもって償った。そして余は国王として償うため、年内をもって退位することになった。アルマン王国には国庫から賠償金を出すのは当然だが、余が個人的に持つ財産のほぼ全てを差し出すと約束する」
ディオン王は深々と頭を下げ、そこで説明は終わった。
「いえ、私がジョゼフィーヌが好きとか嫌いとかは横に置いておきますが、向こうにその気があるのがこれほども感じられなかったのですが」
俺はこれほどと言いながら、親指と人差し指の間を一ミリくらい開けた。
「ジョゼフィーヌはこれまでレティシアの護衛騎士をしていて、男女の機微には疎かったそうだ。それはヴァジ男爵からも聞いた。お主が帰ってからは「次はいつノルト男爵とお会いできるのでしょうか」と事あるごとに言っていたそうだ。レティシアがエルザと会いたがっていたのと同じようにな。
「考えようによっては男冥利に尽きるのでしょうが……」
ジョゼフィーヌは俺のことは何とも思ってなかったんじゃないのか? 本人からもそんなことを聞いた気がするが。
「とりあえず後ほど二人で話し合ってみます」
「ああ、急ぐものでもないだろう。愛情などゆっくりと育めばいい」
「それはそうでしょうが……」
エルザとレティシア王女を見ていたジョゼフィーヌが俺の方を見た。ジョゼフィーヌは俺とディオン王が話をしているのを見ると、少し恥ずかしそうに顔を背けた。いずれ考えなければならないとしても、とりあえずはこの後の陛下とディオン王の対面だ。個人的なことはその後でいい。結果はどうあれ。
◆ ◆ ◆
カミル陛下とディオン王の対面の時間になった。俺はディオン王の少し前を歩いて謁見の間に向かう。謁見のまではすでにカミル陛下が玉座に腰を下ろしていた。
俺がディオン王を案内する形で謁見の間に入り、階の前まで来ると横に移動した。国王と国王の対面なのでカミル陛下は階から降り、ディオン王と対等な位置で話を始めた。
「カミル殿、互いに王太子だった頃から久しく顔を合わせていなかったが、このような場で話すことになってしまって申し訳ない」
「ディオン殿、話はそこにいるノルト男爵から聞いている。国王としては笑って済ませられる話ではないが、一人の父親としてはやむを得ない事情があったと理解している」
「すまん」
それからディオン王によって何が起きていたのかが説明された。大まかには俺も聞いていたが、今回初めて聞く話も多かった。あれから王都と領地にあるエルザス辺境伯の二つの屋敷、さらにエルザス辺境伯領にあったデュドネの屋敷も差し押さえ、使用人たちを締め上げ、徹底的に調べたそうだ。
エルザの件については、最初はエルザス辺境伯が主犯だと思っていたら、実は主犯はクロエ王妃の弟であるデュドネで、辺境伯は共犯、もしくは従犯だったことが分かった。
デュドネは巡察使という立場で地方の貴族を監督する立場だったが、エルザス辺境伯の姪を妻にし、彼の右腕として軍を率いるほどになった。
一方ではその頃から立場を利用して悪事を働くようになった。策謀家として、隣国のプレボルン大公、つまりカミル陛下の弟と結託し、大公に資金援助をする代わりに見返りを求めたようだ。大公はその資金を使って派閥の強化と南方の貴族の弱体化を計った。エルザス辺境伯の軍が侵攻しやすいようにだ。
それならその資金がどこから来ていたのか。簡単に言えば盗賊たちの元締めのようなことをしていたそうだ。そして極めつけが姉であるクロエ王妃の子供を盗むということだった。人質を使って王妃殿下に兵と金を出させようとしたらしい。ただしそこで計画に齟齬が生じた。部下が裏切ったからだ。
女中として連れていった部下に赤ん坊を盗ませるのには成功したが、その部下が赤ん坊を隠したそうだ。どうやら報酬を釣り上げようとしたらしい。上司が上司なら部下も部下だ。
怒ったデュドネはその部下を拷問にかけて聞き出そうとしたが彼女は口を割らなかった。挙げ句にその部下を死なせてしまい、赤ん坊の居場所が分からなくなってしまった。困ったのはデュドネと、その片棒を担いだ辺境伯だった。人を使って調べさせたが見つからない。残った一人を盗み出そうにも、徹底的に監視されていて無理だと判断した。
二人には引き返す道がなくなった。謝罪しても首をはねられるだけだ。だから二人は腹を括った。そして二人は赤ん坊が手元にいると思わせることでクロエ王妃を脅して従わせようとした。だがそこでも誤算があった。思ったよりもクロエ王妃が首を縦に振らなかったのだ。
ディオン王が大きな影響の出ない程度に首を縦に振るという方針にしたのが、今思えば間違っていなかったのだろう。結果として大軍同士の激突というのはそれほど多くはなく、エルザス辺境伯は領軍のみで攻め込まざるを得ないことが多かった。アルマン王国としても侵攻に備えるための準備ができた。
その後、どのような経緯があったかまでは今の段階では調べ切れていないそうだが、その赤ん坊は国境を越え、マルクブルク辺境伯領を通って東に向かい、バーレン辺境伯領のニューメックに辿り着いた。その町の孤児院でエルザとして育ち、それから王都に出た。そしてエクディン準男爵の屋敷の隣にある教会で働くようになり、それから準男爵の息子、つまり俺と知り合った。
一方で残された双子の片割れは第四王女として育てられ、姉である第三王女が見つかるようにと日々祈りながら暮らしていた。単なる行き遅れではなかったようだ。
そして去年、俺が戦功を立ててノルト男爵になり領地を与えられると、エルザは第二夫人として迎えられた。さらに今年再び戦争があり、そこで捕虜となったジョゼフィーヌを俺がノルト男爵領に連れていくと、エルザをレティシア王女だと勘違いしたことから第三王女の行方が判明した。
「エルザス辺境伯とデュドネは先日の戦争で死んだようだ。彼らはその命をもって償った。そして余は国王として償うため、年内をもって退位することになった。アルマン王国には国庫から賠償金を出すのは当然だが、余が個人的に持つ財産のほぼ全てを差し出すと約束する」
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