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第二章:領主二年目第一部
魔道具と職人
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ドラゴネットにはダニエル、ヨーゼフ、ブリギッタという三人の魔道具職人がいる。様々な魔道具を作り、それらを商会を通して販売している。
この三人はお抱え職人的な部分もあり、町で必要となった魔道具を作ってもらうこともある。つまり公的な立場と私的な立場を兼ねている。
町中を照らす街灯の設置、穀物などを入れておく保存庫、酒などの熟成を促進させる熟成庫、船荷の積み下ろしを行うための閘門の設置、運河で船を走らせるための魔道具など、三人の役割は大きい。
王都の商会では彼らが作った魔道具が販売されているが、他の職人たちの作品も扱われている。王都の他の場所で店や工房を持っている職人たちのものだ。そうなったのは一時的に貴族の数が減ったことが大きい。
昨年の春までは大公が大派閥を作っていた。兄である国王ですら下手に手が出せないような状態だった。当然だが金回りもいい。その大公派がいなくなった。
ダニエルが言っていたことだが、金のある貴族なら生活に必要な魔道具は一通り持っている。持っていないのは娯楽を始めとして必ずしも必要のないものばかりで、それを職人たちに注文することになる。
職人たちからすれば、注文される魔道具が大して意味のないものだとしても、仕事は仕事であり、金に貴賎はない。だから求められれば作る。
魔道具は一つ一つが高価なので、それを作るための材料も当然ながら高価になる。木材や石材はそこまででもないとしても、金属は種類によっては高いし、魔石も魔道具によっては必要になる。それらは道端に落ちていることはない。
材料費を安く済ませばそれだけ儲けは多くなるが、貴族は見栄のために作らせるので、材料費はケチらせない。特に上級貴族は評判には敏感だ。吝嗇家と呼ばれるのは恥だと考える。
魔道具職人たちも普段からコツコツと貯めておけば困らないだろうが、彼らも職人だ。自分が作る物にはとことん拘る。それに新しい魔道具の研究にも金がかかる。
そして顧客というのはそう簡単には見つからない。買うのは金がある者だけだからだ。だから貴族の常連客がいなくなると一気に困窮する。
「俺が彼らを困らせてから救いの手を差し伸べたように見えないか?」
「そうはならないでしょう。全員がそうとは言えませんが、ダニエル殿のように役に立たない魔道具を作らされることに辟易していた職人も多いようですので」
アントンとこんな話をしているのも、先日から商会が王都の魔道具職人たちと話をしたからだ。その際には魔石などの供給をするので全体的な価格を下げるようにと働きかけたらしい。そして概ね賛成してもらえたようだ。
魔道具はこれまでは主に貴族、あるいは平民でも裕福な層に向けて販売されていたが、価格を下げることによって庶民全体にまで行き渡らせる方が後々は売上が伸びるだろうと説明したそうだ。貴族一人に金貨一枚で販売したとしても、庶民一五人に銀貨一〇枚で売った方が結果として得をすると。
もちろん魔道具職人の地位は平民の中ではかなり上になる。そもそも魔法が使えないと意味がない上に、さらに特別な記述法を覚えてさらにそれを書き込む必要があるからだ。だが彼らとしても売れなければ生活が苦しくなるのは分かっているので、生活と誇りを天秤にかけて悩んでいたところだった。
俺としては誇りなんて腹の足しにもならないものはさっさと捨てた方がいいと思うが、それを彼らに強制するわけにはいかない。
まあこう言っている俺でも、かつてヒキガエルに向かって頭を下げろとイタチに言われれば正気を保てたかどうかは怪しい。
そんなこんなで商会と職人たちの間で何度も話し合いが行われ、買い上げに合意した職人の作品が商会で販売されることになった。
◆ ◆ ◆
「それならこれとこれを使うことにする。石窯はこれだな」
「では職人たちに伝えておきます」
俺が商会で選んでいたのはカフェで使う魔道具だ。ドラゴネットに作られるカフェだから酒場ほど一度にまとめて調理することはないだろうが、それでも一通りの道具は必要だ。そしてこれらは王都の魔道具職人たちが作ったものだ。
アンゲリカとザーラが高級店にするつもりがあるのかどうかは分からないが、カフェは酒場とは違う。だから繊細な料理が作れるように細かな調節ができるものを選んだ。ここには二人とも高価なものではなく安定して調理できるものという二人の希望も入っている。
「ところで、これらを作った職人たちは、何かこちらに対して要望は出したりしているのか?」
「今のところは特に要望は聞いてません。魔石が安定して手に入るようになったので助かっていると聞いています」
ゲルトが竜の鱗や爪を王都にいる魔道具職人や薬師たちに販売しているようだが、竜の素材はなかなか高価なので次から次へと売れるわけではない。価格の暴落を防ぐために今はまだそれなりの値段で販売しているそうだ。
一方で魔獣から取り出した魔石はドラゴネットではあまり活用されていなかった。贅沢な話だが、ドラゴネットでは魔石の代わりに竜の鱗が使われている。竜の鱗の欠片は魔石の代わりに使えるからだ。
魔石は空になれば交換する必要があるが、鱗は放っておけば勝手に魔力を集めてくれるから、交換の手間が必要なくなる。だから街灯などには鱗が使われている。
一方で城や酒場などで使われている石窯や焜炉などの多くにはこれまで魔石が使われていたが、魔石を王都の方に回すために鱗の欠片に置き換えられた。
魔石は空になった時、あるいは魔力を注いだ時に割れたり砕けたりすることがある。割れたとしても全く使えない訳ではないが、溜められる魔力量が減るために使い勝手が悪くなる。ダニエルは割れた魔石を元のように一つにすることができるそうだが、それでも完全には元に戻らないそうだ。
城でも酒場でも料理をすればそれなりに魔石が割れていたので、それを鱗の欠片に置き換え、魔石は全て王都に回すことになった。一か月もあればそれなりの数が割れることになるので、それと予備として置いておいた分を全てこの商会に回す。職人たちも鱗は扱いたいがそこまでの金はないそうなので、いずれ金が貯まればぜひにということらしい。
「鱗は逃げないから焦って儲けを出そうとしなくてもいいと伝えてくれ」
「間違いなく伝えます」
この三人はお抱え職人的な部分もあり、町で必要となった魔道具を作ってもらうこともある。つまり公的な立場と私的な立場を兼ねている。
町中を照らす街灯の設置、穀物などを入れておく保存庫、酒などの熟成を促進させる熟成庫、船荷の積み下ろしを行うための閘門の設置、運河で船を走らせるための魔道具など、三人の役割は大きい。
王都の商会では彼らが作った魔道具が販売されているが、他の職人たちの作品も扱われている。王都の他の場所で店や工房を持っている職人たちのものだ。そうなったのは一時的に貴族の数が減ったことが大きい。
昨年の春までは大公が大派閥を作っていた。兄である国王ですら下手に手が出せないような状態だった。当然だが金回りもいい。その大公派がいなくなった。
ダニエルが言っていたことだが、金のある貴族なら生活に必要な魔道具は一通り持っている。持っていないのは娯楽を始めとして必ずしも必要のないものばかりで、それを職人たちに注文することになる。
職人たちからすれば、注文される魔道具が大して意味のないものだとしても、仕事は仕事であり、金に貴賎はない。だから求められれば作る。
魔道具は一つ一つが高価なので、それを作るための材料も当然ながら高価になる。木材や石材はそこまででもないとしても、金属は種類によっては高いし、魔石も魔道具によっては必要になる。それらは道端に落ちていることはない。
材料費を安く済ませばそれだけ儲けは多くなるが、貴族は見栄のために作らせるので、材料費はケチらせない。特に上級貴族は評判には敏感だ。吝嗇家と呼ばれるのは恥だと考える。
魔道具職人たちも普段からコツコツと貯めておけば困らないだろうが、彼らも職人だ。自分が作る物にはとことん拘る。それに新しい魔道具の研究にも金がかかる。
そして顧客というのはそう簡単には見つからない。買うのは金がある者だけだからだ。だから貴族の常連客がいなくなると一気に困窮する。
「俺が彼らを困らせてから救いの手を差し伸べたように見えないか?」
「そうはならないでしょう。全員がそうとは言えませんが、ダニエル殿のように役に立たない魔道具を作らされることに辟易していた職人も多いようですので」
アントンとこんな話をしているのも、先日から商会が王都の魔道具職人たちと話をしたからだ。その際には魔石などの供給をするので全体的な価格を下げるようにと働きかけたらしい。そして概ね賛成してもらえたようだ。
魔道具はこれまでは主に貴族、あるいは平民でも裕福な層に向けて販売されていたが、価格を下げることによって庶民全体にまで行き渡らせる方が後々は売上が伸びるだろうと説明したそうだ。貴族一人に金貨一枚で販売したとしても、庶民一五人に銀貨一〇枚で売った方が結果として得をすると。
もちろん魔道具職人の地位は平民の中ではかなり上になる。そもそも魔法が使えないと意味がない上に、さらに特別な記述法を覚えてさらにそれを書き込む必要があるからだ。だが彼らとしても売れなければ生活が苦しくなるのは分かっているので、生活と誇りを天秤にかけて悩んでいたところだった。
俺としては誇りなんて腹の足しにもならないものはさっさと捨てた方がいいと思うが、それを彼らに強制するわけにはいかない。
まあこう言っている俺でも、かつてヒキガエルに向かって頭を下げろとイタチに言われれば正気を保てたかどうかは怪しい。
そんなこんなで商会と職人たちの間で何度も話し合いが行われ、買い上げに合意した職人の作品が商会で販売されることになった。
◆ ◆ ◆
「それならこれとこれを使うことにする。石窯はこれだな」
「では職人たちに伝えておきます」
俺が商会で選んでいたのはカフェで使う魔道具だ。ドラゴネットに作られるカフェだから酒場ほど一度にまとめて調理することはないだろうが、それでも一通りの道具は必要だ。そしてこれらは王都の魔道具職人たちが作ったものだ。
アンゲリカとザーラが高級店にするつもりがあるのかどうかは分からないが、カフェは酒場とは違う。だから繊細な料理が作れるように細かな調節ができるものを選んだ。ここには二人とも高価なものではなく安定して調理できるものという二人の希望も入っている。
「ところで、これらを作った職人たちは、何かこちらに対して要望は出したりしているのか?」
「今のところは特に要望は聞いてません。魔石が安定して手に入るようになったので助かっていると聞いています」
ゲルトが竜の鱗や爪を王都にいる魔道具職人や薬師たちに販売しているようだが、竜の素材はなかなか高価なので次から次へと売れるわけではない。価格の暴落を防ぐために今はまだそれなりの値段で販売しているそうだ。
一方で魔獣から取り出した魔石はドラゴネットではあまり活用されていなかった。贅沢な話だが、ドラゴネットでは魔石の代わりに竜の鱗が使われている。竜の鱗の欠片は魔石の代わりに使えるからだ。
魔石は空になれば交換する必要があるが、鱗は放っておけば勝手に魔力を集めてくれるから、交換の手間が必要なくなる。だから街灯などには鱗が使われている。
一方で城や酒場などで使われている石窯や焜炉などの多くにはこれまで魔石が使われていたが、魔石を王都の方に回すために鱗の欠片に置き換えられた。
魔石は空になった時、あるいは魔力を注いだ時に割れたり砕けたりすることがある。割れたとしても全く使えない訳ではないが、溜められる魔力量が減るために使い勝手が悪くなる。ダニエルは割れた魔石を元のように一つにすることができるそうだが、それでも完全には元に戻らないそうだ。
城でも酒場でも料理をすればそれなりに魔石が割れていたので、それを鱗の欠片に置き換え、魔石は全て王都に回すことになった。一か月もあればそれなりの数が割れることになるので、それと予備として置いておいた分を全てこの商会に回す。職人たちも鱗は扱いたいがそこまでの金はないそうなので、いずれ金が貯まればぜひにということらしい。
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