ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第六章:領主三年目、さらに遠くへ

川からの訪問者

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 年も改まってすぐ、今年もノルト男爵領では色々と起こりそうだという予感がしたのは、遠い場所からの来客があったからだ。



◆ ◆ ◆



「旦那様、来客……というのもおかしいのですが、旦那様に会いたいという者たちがいるという報告がありますが、いかがしましょうか?」

 ヨアヒムが来客の連絡をしてきたが、奥歯にものが挟まったような言い方だ。客でないのに会いたいと。

「何か都合でも悪いのか?」
「いえ、それが水の中で暮らす種族のようで、川から上がれません。衛兵からは、できれば旦那様に町の外まで来てほしいということだそうです。北門のところに到着していると連絡を受けました」
「北門か。分かった、行ってこよう」



◆ ◆ ◆



 ドラゴネットは川に囲まれた町だ。この町の北の部分は俺が掘った水路だが、十分な幅と深さがある。この川に橋を架け、北にある新しい町まで行けるようにしている。その橋のところに客が来ている。人魚? 一〇人ほどか。

「領主様、彼女たちがこの町のことで話がしたいと言っています」
「人魚族か。初めて会うな」
「ずっと北東の方に住む種族だそうです。今回このあたりまで調査に来たということです」
「分かった。後は俺が話をしよう。また何かあれば連絡してくれ」
「はっ」

 衛兵たちが所定の場所に戻ると、俺は城壁の向こう側に降りて客たちと話しやすい場所まで移動した。

「ここで領主をしているノルト男爵エルマー・アーレントという。みんながここに来たのは調査ということでいいのか?」

 俺がそう聞くと、頭に花を飾った一人が一歩?前に出た。

「川人魚族のアレタと申します。この代表ということになっています」
「はるばるよく来てくれた」
「川の中はそれほど危なくありませんので、気にしていただくようなものではありません」

 たしかに水の中に魔物はほとんどいない。最初は魚の魔物が多いだろうと思ったら、そんなことはなかった。たまに現れるが、子供でなければ対処できるくらいだ。

「それで調査で来たということらしいが、何か問題があったのか?」
「はい、それですが……」

 アレタたちはこの盆地の北東部、この川の流れていくずっと先の方で暮らしているそうだ。そんなある日、ふと気づくと水質が変わっていることに気づいたそうだ。毎日川の中にいるなら簡単には気づかないだろうな。俺だって空気の変わったと言われても、よほど臭くなったりしなければ分からないはずだ。

 川の水質が微妙に変わっていたことに気づき、上流で何かあったのかと思っていたところ、去年の終わり頃から竜だのペガサスだのグリフォンだの、盆地の中を魔物たちが飛び回ることになった。それで年が変わってから調査団を結成してやって来たのがアレタたちだということだった。

「水質が変わったか。水が汚れたということでいいのか?」

 スライムたちを使って浄化しているとはいえ、完璧とは言えないだろうからな。臭いは全くないが、何があるかは分からないか。

「いえ、逆です。肌がキレイになり鱗に艶が出ました。水が濁ったり臭ったりすれば何か良くないことが起きていると分かるのですが」
「肌と鱗か…………鱗?」

 畑には竜の鱗の粉末が混ぜ込まれている。一年以上経つが収穫量に変化はない。だがうちの小麦を食べると体調が良くなったという報告もある。作物に影響を洗えているのは間違いない。

 畑に撒かれた水は土に染み込んで川に流れ込む。彼女たちの暮らしているのはこの川の下流。畑を通った水が影響しているのか? 結局ドラゴネット以外にも農地は増やした。そこにも竜の鱗を使っている。

「はっきりしたことは分からないが、ここの農地の土には竜の鱗の粉末が混ぜ込まれている。そのせいかもしれないな」
「竜の鱗ですか……。もしかして水竜様の鱗ですか?」
「水竜か……。あの時に使ったのは……」

 クラースのは少し赤っぽくて、パウラのは青っぽかった。カレンのも青っぽい。あの時のは……パウラのだな。

「そうだな。妻の母の水竜だ。知り合いか?」
「いえ、そうではありませんが、我々のように鱗を持って水中や水辺で暮らす者たちは水竜様を崇めておりますので」
「なるほど。もし時間があれば会っていくか?」
「よ、よろしいのですか?」
「さっき家の方いたから問題ないはずだ。とりあえずどうやって移動するかだが……」

 少し問題があるとすれば、川でも町に近いあたりは運河のように両側は垂直にしてある。川から魔獣が上がってこないようにだ。だから彼女たちも上がることができない。そこまで考えて作ってないからな。

「梯子を立ててもそれじゃ上がれないか」

 彼女たちの下半身は魚のようになっている。陸地に上がるためには閘門こうもんのある場所まで移動してもらうか。

「我々は下半身を人間の足に変えることができます。ですが歩くことにはあまり慣れておりません」
「そうか。それで上がれそうなら上がってほしい。馬車を用意させよう」

 城はここから二キロ近くある。歩くのは大変だろう。

 アレタたちの下半身が光ると、煌びやかなスカートを履いた人間の女性の姿になった。鱗がスカートになるんだな。

「私たちのような水中種族には水外種族のように戦う力はありません。何とか歩けるくらいで、走り回るのは難しいのです」
「練習するのは無理なのか?」
「川の外は危険な魔物が多いですので。余程でなければ川から上がることはありません」
「そうだな。俺たちが川に潜るのと同じか」

 俺は用意させた馬車にアレタたちを乗せると、そこから城の方へ馬車を向かわせた。
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