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第五章:領主二年目第四部
デニス殿の側室
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「エルマー殿、急に来てもらって申し訳ありません」
「いえ、何か急用だと聞きましたが、そちらの女性が関係あるということですか?」
俺の前にはマーロー男爵のデニス殿と、俺が見たことのない女性がいる。女性と呼ぶには若く、少女と呼ぶ方がいいだろう。シビラと年が近いのではないだろうか。
見たところは貴族という感じはしない。裕福な平民だろうか。使用人とは雰囲気が違う。それにわざわざこの場に呼ばないはずだ。
「実は私に側室を娶らないかという話が出まして、彼女がその候補なのです」
「ああ、それでですか。本人がいる前で失礼な言い方になるかもしれませんが、かなり若そうですね」
「ええ、シビラと同い年です。それでこの話を受けるにせよ断るにせよ、エルマー殿に一度話を聞きたいと思いまして。実はまだニコラにも伝えていません。どうなるか分かりませんので」
俺に相談か……。妻は多いぞ。本当にこれ以上はいらない。
つい先日のことだが、妻と愛人を分ける意味はないと考えて、愛人は全員側室扱いにすることに決めた。カレンが別なのはノルト男爵領ができた切っ掛けを考えても妥当だろう。
カレンとの間にできたアウグスティンを跡継ぎとし、他の子供たちは分け隔てなく育てたい。そういう考えからだ。
「若い妻というのであれば、シビラをいずれは貰う私も同じだと思いますが」
「まあ年齢差は……横に置いておくことにしましょう。実はこのユリアーナはエルマー殿と縁があるそうです」
「え?」
思わず素で聞いてしまったが、ユリアーナという名前に聞き覚えはない。まさか家政婦長補佐をしているユリアの娘でもないだろう。
「彼女はリンデンシュタール準男爵の娘です」
「……リンデンシュタール準男爵……ということは……ヴァルターの娘?」
あのヴァルターか⁉ ヴァルターに子供が何人もいることは知らなかった。もちろんいても不思議ではない。
「ノルト男爵様、父から男爵様の話は聞いています。父が無事に生き残れて貴族になれたのは男爵様のおかげだと」
そう言ってユリアーナは頭を下げた。
「いや、こちらこそヴァルターには世話になった。あの戦争でレオナルト殿下がご無事だったのはヴァルターが頑張って敵や味方を押しとどめてくれたおかげだ」
前からは敵の、後ろからは味方の攻撃がひっきりなしだった。騎兵は乱戦には弱い。上から攻撃できるというだけだ。だからヴァルターたち歩兵が敵を止めてくれなければ危なかった。
「彼にはそれから一度だけ会えたが、時間がなくてゆっくり話す時間もなかった」
「はい。引っ越しの時に通りかかった男爵様とお会いできたと父から聞いています」
「そうか。一度ゆっくりと話をしたいが、なかなか時間が取れない。今度この話を肴にヴァルターとゆっくり話をするとしよう」
彼の領地は王都から旧エクディン準男爵領に向かう途中にある。なかなかあちらへ向かうことは少ないな。
「エルマー殿、私が聞きたいと思っていたのは彼女の父親についてです。ですが問題なさそうですね」
新貴族、つまりあの戦争の後に大公派が軒並み排除され、新しく貴族になった者たちについては情報がどうしても少ない。善人なのか悪人なのか、裕福なのか貧しいのか、そのあたりは不明な者が多い。
「ユリアーナについては初めて会って話をしただけなのでハッキリとは分かりませんが、ヴァルター個人に関しては信用も信頼もできます。殿下も同じでしょう。あの時に特に最も世話になった三人の中の一人です」
他の二人はロルフとハインツだ。二人とも実家の領地に編入された土地の一部を貰って貴族になった。
「そうですか。それでは問題なさそうですね。ニコラにも安心して伝えられます」
ヴァルター本人については俺も王太子殿下も信用も信頼もしているということを伝えた。それが良かったのか悪かったのか、この後にユリアーナの輿入れが決まった。
◆ ◆ ◆
デニス殿は三二歳にして九歳の妻を娶ることになった。貴族ならおかしくはないが、それでも違和感はある。俺でさえそうだ。デニス殿はさらに強く感じるだろう。
「まあ年齢に関しては本人の責任ではないからな」
その時に何歳かというのは本人にはどうしようもない。それは巡り合わせだとして言えない。
「ユリアーナさんと同い年なら仲良くできそうですが、関係が微妙です。何と呼べばいいものか」
「ユリアーナさんでいいんじゃないか?」
父親の側室と同い年か。俺も将来はどうなるか分からないから、シビラの悩みを笑うことはできないな。だがユリアーナと話をした感じでは、素朴な田舎娘という感じだった。ヴァルター自身が以前は平民で、貴族になった時も戸惑っていた感じだった。それならその家族が戸惑っても不思議ではないだろう。
「そうだなあ。シビラが一番年齢が近いのは……カリンナとコリンナか」
「はい。あの二人とは仲良くしています」
あのサキュバス二人をどうするかはまだ決めていないが、おそらく俺が引き取るしかないだろう。
「ローサやカサンドラとは話をするよな?」
「はい。家庭内の色々なことを聞いています」
「そうか」
ローサは家事については壊滅的だ。だがカサンドラは一通りこなすことができる。どうも両極端な二人だ。
「ローサは五〇〇歳、カサンドラは六〇〇歳を超えている。二人とも俺の妻となって俺と関係を持ったのは今年だ。お前は来年で一〇歳。それを聞いてどう思う?」
嫌みでもなくシビラに聞いてみた。
「年齢は……関係なさそうですね」
「そうだな。俺もそう思う」
俺とシビラは一〇歳ほど離れていた。デニス殿とユリアーナはたまたまそれが二三歳だった。それだけの話だ。
ただ種族が違えば寿命が違うわけで、ローサやカサンドラとは随分と年齢差が出てしまう。だからといってそれでどうなるわけでもない。
「結局は本人の気の持ちようだ。デニス殿はユリアーナを大切にするだろう。俺もお前を大切にする」
「はい。大切にしてください」
「いえ、何か急用だと聞きましたが、そちらの女性が関係あるということですか?」
俺の前にはマーロー男爵のデニス殿と、俺が見たことのない女性がいる。女性と呼ぶには若く、少女と呼ぶ方がいいだろう。シビラと年が近いのではないだろうか。
見たところは貴族という感じはしない。裕福な平民だろうか。使用人とは雰囲気が違う。それにわざわざこの場に呼ばないはずだ。
「実は私に側室を娶らないかという話が出まして、彼女がその候補なのです」
「ああ、それでですか。本人がいる前で失礼な言い方になるかもしれませんが、かなり若そうですね」
「ええ、シビラと同い年です。それでこの話を受けるにせよ断るにせよ、エルマー殿に一度話を聞きたいと思いまして。実はまだニコラにも伝えていません。どうなるか分かりませんので」
俺に相談か……。妻は多いぞ。本当にこれ以上はいらない。
つい先日のことだが、妻と愛人を分ける意味はないと考えて、愛人は全員側室扱いにすることに決めた。カレンが別なのはノルト男爵領ができた切っ掛けを考えても妥当だろう。
カレンとの間にできたアウグスティンを跡継ぎとし、他の子供たちは分け隔てなく育てたい。そういう考えからだ。
「若い妻というのであれば、シビラをいずれは貰う私も同じだと思いますが」
「まあ年齢差は……横に置いておくことにしましょう。実はこのユリアーナはエルマー殿と縁があるそうです」
「え?」
思わず素で聞いてしまったが、ユリアーナという名前に聞き覚えはない。まさか家政婦長補佐をしているユリアの娘でもないだろう。
「彼女はリンデンシュタール準男爵の娘です」
「……リンデンシュタール準男爵……ということは……ヴァルターの娘?」
あのヴァルターか⁉ ヴァルターに子供が何人もいることは知らなかった。もちろんいても不思議ではない。
「ノルト男爵様、父から男爵様の話は聞いています。父が無事に生き残れて貴族になれたのは男爵様のおかげだと」
そう言ってユリアーナは頭を下げた。
「いや、こちらこそヴァルターには世話になった。あの戦争でレオナルト殿下がご無事だったのはヴァルターが頑張って敵や味方を押しとどめてくれたおかげだ」
前からは敵の、後ろからは味方の攻撃がひっきりなしだった。騎兵は乱戦には弱い。上から攻撃できるというだけだ。だからヴァルターたち歩兵が敵を止めてくれなければ危なかった。
「彼にはそれから一度だけ会えたが、時間がなくてゆっくり話す時間もなかった」
「はい。引っ越しの時に通りかかった男爵様とお会いできたと父から聞いています」
「そうか。一度ゆっくりと話をしたいが、なかなか時間が取れない。今度この話を肴にヴァルターとゆっくり話をするとしよう」
彼の領地は王都から旧エクディン準男爵領に向かう途中にある。なかなかあちらへ向かうことは少ないな。
「エルマー殿、私が聞きたいと思っていたのは彼女の父親についてです。ですが問題なさそうですね」
新貴族、つまりあの戦争の後に大公派が軒並み排除され、新しく貴族になった者たちについては情報がどうしても少ない。善人なのか悪人なのか、裕福なのか貧しいのか、そのあたりは不明な者が多い。
「ユリアーナについては初めて会って話をしただけなのでハッキリとは分かりませんが、ヴァルター個人に関しては信用も信頼もできます。殿下も同じでしょう。あの時に特に最も世話になった三人の中の一人です」
他の二人はロルフとハインツだ。二人とも実家の領地に編入された土地の一部を貰って貴族になった。
「そうですか。それでは問題なさそうですね。ニコラにも安心して伝えられます」
ヴァルター本人については俺も王太子殿下も信用も信頼もしているということを伝えた。それが良かったのか悪かったのか、この後にユリアーナの輿入れが決まった。
◆ ◆ ◆
デニス殿は三二歳にして九歳の妻を娶ることになった。貴族ならおかしくはないが、それでも違和感はある。俺でさえそうだ。デニス殿はさらに強く感じるだろう。
「まあ年齢に関しては本人の責任ではないからな」
その時に何歳かというのは本人にはどうしようもない。それは巡り合わせだとして言えない。
「ユリアーナさんと同い年なら仲良くできそうですが、関係が微妙です。何と呼べばいいものか」
「ユリアーナさんでいいんじゃないか?」
父親の側室と同い年か。俺も将来はどうなるか分からないから、シビラの悩みを笑うことはできないな。だがユリアーナと話をした感じでは、素朴な田舎娘という感じだった。ヴァルター自身が以前は平民で、貴族になった時も戸惑っていた感じだった。それならその家族が戸惑っても不思議ではないだろう。
「そうだなあ。シビラが一番年齢が近いのは……カリンナとコリンナか」
「はい。あの二人とは仲良くしています」
あのサキュバス二人をどうするかはまだ決めていないが、おそらく俺が引き取るしかないだろう。
「ローサやカサンドラとは話をするよな?」
「はい。家庭内の色々なことを聞いています」
「そうか」
ローサは家事については壊滅的だ。だがカサンドラは一通りこなすことができる。どうも両極端な二人だ。
「ローサは五〇〇歳、カサンドラは六〇〇歳を超えている。二人とも俺の妻となって俺と関係を持ったのは今年だ。お前は来年で一〇歳。それを聞いてどう思う?」
嫌みでもなくシビラに聞いてみた。
「年齢は……関係なさそうですね」
「そうだな。俺もそう思う」
俺とシビラは一〇歳ほど離れていた。デニス殿とユリアーナはたまたまそれが二三歳だった。それだけの話だ。
ただ種族が違えば寿命が違うわけで、ローサやカサンドラとは随分と年齢差が出てしまう。だからといってそれでどうなるわけでもない。
「結局は本人の気の持ちようだ。デニス殿はユリアーナを大切にするだろう。俺もお前を大切にする」
「はい。大切にしてください」
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