286 / 345
第五章:領主二年目第四部
再会
しおりを挟む
先日デニス殿と会って、側室になったヴァルターの娘を紹介された。ユリアーナという名前で、年はシビラと同じ。娘と同い年の側室というのは何とも微妙だそうだ。
元の生まれが平民のため、貴族ぶったところはなく、至って純朴で真面目そうに見えた。おそらくニコラ殿には好かれるだろう。
ニコラ殿は経緯が経緯なので王都には近寄らなかったがいつまでもそうするわけにもいかないので、先日頼まれて俺が王都に連れてきた。
その時にデニス殿からヴァルターの屋敷が王都にできたと聞いていた。
「エルマー殿、お久しぶりです」
「ヴァルター殿、元気そうで何よりだ」
前に偶然会った時、落ち着いたら連絡すると言っていたが、あれが去年の夏前だった。結局また会うまで一年以上経ってしまった。
ヴァルターはレオナルト殿下の親衛隊で百人隊長を務めた。歩兵隊長としてがっしりとした体つきで、俺と並んでも見劣りしない。もっとも二〇〇センチある俺よりもゴツく見えるのはクラースくらいだが。
ヴァルターが王都に来ていなかったというのもある。俺からレフィンに行く用事もなかったのもある。だがリンデンシュタール準男爵の屋敷が王都にできたこともあり、年末から春まではこちらにいるようだ。
「屋敷ができたのが社交シーズン途中だったので、どのタイミングで他の方々に連絡をすべきか分からないまま今日に至ってしまいました」
「それは分かるなあ。俺だって新しい土地を貰って広げたのが三月くらいだった。だから関係のある人にしか連絡しなかったな。行啓もあってそれどころじゃなかったというのも大きいが」
「行啓はさすがですね。エルマー殿のご活躍は私の耳にも入っています。部下として一緒に戦場で戦った身としては鼻が高いですよ」
「そうなのかな? 褒められるのは嫌ではないが、俺としては自分でできた部分はあまりないと思っていてな」
ノルト男爵領の成長について、畑に関してはクラースとパウラの助言が大きい。鱗を粉末にして混ぜれば一〇日ほどで刈り入れできるほどになる。
この方法はデニス殿にも教えたが、慌ただしくなりすぎるから遠慮するということだった。俺もそう思う。うちの農民たちがおかしいんだろう。忙しくないと困るらしい。
トンネルは俺が掘った。運河はカレンに任せたが、俺にもできただろう。だがそもそも領民たちをあの場所まで運んでくれたのはクラースたちだ。
戦争もクラースに乗せてもらって上から指示をしただけだ。ゴール王国に行った時もローサとカサンドラが転移の指輪を貸してくれた。
新しい町も、俺は川の浚渫などはしたが、城壁や家に使う石材に関してはカレンがやってくれた。
「聞けば聞くほどエルマー殿にしかできなさそうですが」
「そうか? どのあたりがそうなのか分からないから褒められても困るんだがな」
職人や移民たちもゲルトに頼んだだけだ。ブルーノたちも向こうから来てくれた。基本的に俺は受け身だったと思うんだが。
「最初からでしょう。奥様との出会いです。普通なら腰を抜かすか逃げ出すかのどちらかだと思いますが」
「やはりそこか。狙ったわけではないんだが」
いきなり現れたから焼き菓子を与えただけだ。子供には焼き菓子。当然だろう。
「私なら逃げ帰った可能性がありますね」
「逃げても領民たちが救われないからな。あそこに町を作るしかなかったわけで」
「そこを何とかするあたりがエルマー殿たる所以でしょう。戦争の時も思いましたが、覚悟の決め方ではないでしょうか」
やはり俺が俺だからということになる。まあ褒められ慣れていないのもあるんだろうが、何ともなあ。
「ああ、そうだ。娘がマーロー男爵に嫁ぐことになりそうだな」
「ええ、そうなんです。この屋敷が完成して、それで社交というほどでもありませんが一度年末年始を王都でと思ったところだったのですが、ロルフドルフ侯爵から話を振られまして」
「ああ、宰相殿か」
面倒見がいい人だからな。限度を超えると投げ出すが。
「はい、宰相閣下です。マーロー男爵かエルマー殿かどちらかにどうか、ということでした」
「あの人は……。勝手に増やされなくてよかった」
俺のせいである部分は多いが、それでも一〇人を超えると配慮が難しい。
「そうですね。エルマー殿は奥様が多いということでしたので、マーロー男爵の方がいいかもしれないと言われました」
「そうだろうな」
俺の多くいる妻の一人になるよりも、デニス殿の第二夫人の方がいいと俺でも思う。それに俺は半分は王都、半分はドラゴネットだ。いつでも[転移]で戻れるとはいえ、いつも側にいてくれるデニス殿の方がいいだろう。ニコラ殿はすぐにエクセンに戻るけど、ユリアーナは王都に留まるようだ。
「かなり多いと聞きましたが、何人いるのですか?」
「婚約者も入れれば……一三人だ」
「⁉」
ヴァルターが驚く顔なんて初めて見たな。だが多いのは分かるぞ。おそらく今いる貴族では一番多いんじゃないか? 以前は大公派の好色な貴族が二〇人も三〇人も愛人を抱えていたらしい。あのヒキガエルとかな。……って考えて、俺も好色な男爵だと思われているんだろうな。
「それはともかく、マーロー男爵の娘のシビラが婚約者だ。ユリアーナと同い年だと聞いた」
「だそうですね。嫁ぎ先がエルマー殿の領地のお隣だと聞いて安心しました」
「デニス殿がシビラを俺の嫁がせる理由の半分はそれだ。どうしても子供や孫は気になるだろう」
ヴァルターも春までは王都に滞在するようだ。親戚の親戚になるわけだから、もう少しマメに連絡を取るようにしようか。
元の生まれが平民のため、貴族ぶったところはなく、至って純朴で真面目そうに見えた。おそらくニコラ殿には好かれるだろう。
ニコラ殿は経緯が経緯なので王都には近寄らなかったがいつまでもそうするわけにもいかないので、先日頼まれて俺が王都に連れてきた。
その時にデニス殿からヴァルターの屋敷が王都にできたと聞いていた。
「エルマー殿、お久しぶりです」
「ヴァルター殿、元気そうで何よりだ」
前に偶然会った時、落ち着いたら連絡すると言っていたが、あれが去年の夏前だった。結局また会うまで一年以上経ってしまった。
ヴァルターはレオナルト殿下の親衛隊で百人隊長を務めた。歩兵隊長としてがっしりとした体つきで、俺と並んでも見劣りしない。もっとも二〇〇センチある俺よりもゴツく見えるのはクラースくらいだが。
ヴァルターが王都に来ていなかったというのもある。俺からレフィンに行く用事もなかったのもある。だがリンデンシュタール準男爵の屋敷が王都にできたこともあり、年末から春まではこちらにいるようだ。
「屋敷ができたのが社交シーズン途中だったので、どのタイミングで他の方々に連絡をすべきか分からないまま今日に至ってしまいました」
「それは分かるなあ。俺だって新しい土地を貰って広げたのが三月くらいだった。だから関係のある人にしか連絡しなかったな。行啓もあってそれどころじゃなかったというのも大きいが」
「行啓はさすがですね。エルマー殿のご活躍は私の耳にも入っています。部下として一緒に戦場で戦った身としては鼻が高いですよ」
「そうなのかな? 褒められるのは嫌ではないが、俺としては自分でできた部分はあまりないと思っていてな」
ノルト男爵領の成長について、畑に関してはクラースとパウラの助言が大きい。鱗を粉末にして混ぜれば一〇日ほどで刈り入れできるほどになる。
この方法はデニス殿にも教えたが、慌ただしくなりすぎるから遠慮するということだった。俺もそう思う。うちの農民たちがおかしいんだろう。忙しくないと困るらしい。
トンネルは俺が掘った。運河はカレンに任せたが、俺にもできただろう。だがそもそも領民たちをあの場所まで運んでくれたのはクラースたちだ。
戦争もクラースに乗せてもらって上から指示をしただけだ。ゴール王国に行った時もローサとカサンドラが転移の指輪を貸してくれた。
新しい町も、俺は川の浚渫などはしたが、城壁や家に使う石材に関してはカレンがやってくれた。
「聞けば聞くほどエルマー殿にしかできなさそうですが」
「そうか? どのあたりがそうなのか分からないから褒められても困るんだがな」
職人や移民たちもゲルトに頼んだだけだ。ブルーノたちも向こうから来てくれた。基本的に俺は受け身だったと思うんだが。
「最初からでしょう。奥様との出会いです。普通なら腰を抜かすか逃げ出すかのどちらかだと思いますが」
「やはりそこか。狙ったわけではないんだが」
いきなり現れたから焼き菓子を与えただけだ。子供には焼き菓子。当然だろう。
「私なら逃げ帰った可能性がありますね」
「逃げても領民たちが救われないからな。あそこに町を作るしかなかったわけで」
「そこを何とかするあたりがエルマー殿たる所以でしょう。戦争の時も思いましたが、覚悟の決め方ではないでしょうか」
やはり俺が俺だからということになる。まあ褒められ慣れていないのもあるんだろうが、何ともなあ。
「ああ、そうだ。娘がマーロー男爵に嫁ぐことになりそうだな」
「ええ、そうなんです。この屋敷が完成して、それで社交というほどでもありませんが一度年末年始を王都でと思ったところだったのですが、ロルフドルフ侯爵から話を振られまして」
「ああ、宰相殿か」
面倒見がいい人だからな。限度を超えると投げ出すが。
「はい、宰相閣下です。マーロー男爵かエルマー殿かどちらかにどうか、ということでした」
「あの人は……。勝手に増やされなくてよかった」
俺のせいである部分は多いが、それでも一〇人を超えると配慮が難しい。
「そうですね。エルマー殿は奥様が多いということでしたので、マーロー男爵の方がいいかもしれないと言われました」
「そうだろうな」
俺の多くいる妻の一人になるよりも、デニス殿の第二夫人の方がいいと俺でも思う。それに俺は半分は王都、半分はドラゴネットだ。いつでも[転移]で戻れるとはいえ、いつも側にいてくれるデニス殿の方がいいだろう。ニコラ殿はすぐにエクセンに戻るけど、ユリアーナは王都に留まるようだ。
「かなり多いと聞きましたが、何人いるのですか?」
「婚約者も入れれば……一三人だ」
「⁉」
ヴァルターが驚く顔なんて初めて見たな。だが多いのは分かるぞ。おそらく今いる貴族では一番多いんじゃないか? 以前は大公派の好色な貴族が二〇人も三〇人も愛人を抱えていたらしい。あのヒキガエルとかな。……って考えて、俺も好色な男爵だと思われているんだろうな。
「それはともかく、マーロー男爵の娘のシビラが婚約者だ。ユリアーナと同い年だと聞いた」
「だそうですね。嫁ぎ先がエルマー殿の領地のお隣だと聞いて安心しました」
「デニス殿がシビラを俺の嫁がせる理由の半分はそれだ。どうしても子供や孫は気になるだろう」
ヴァルターも春までは王都に滞在するようだ。親戚の親戚になるわけだから、もう少しマメに連絡を取るようにしようか。
10
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる