ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

文字の大きさ
293 / 345
第五章:領主二年目第四部

王都か領地か、それが問題だ

しおりを挟む
 間もなく年末だ。本来なら冬になれば春まで王都で社交が行われる。厳密にいつからいつまでと決まっているわけではないが、寒くなってから暖かくなるまでは王都で晩餐会などを開くのが貴族の習慣だった。だったというのは、それを積極的に行っていた大公派がいなくなったからだ。だからこの年末年始も前の年末年始もあまり行われなかった。

 かつてこの国の貴族は、国王派が三、大公派が四、それ以外が三、という具合に別れていた。俺は王太子殿下の学友だったので国王派だ。もっとも何も力はなかったが。その最大派閥の大公派がなくなり、その代わりに新しい貴族が多く作られ、正直なところ国内が大慌てだったのがこの一年と九か月ほどだった。

 国王派ですら大騒ぎだった。例えばヴァルター。彼は俺の部下として去年の春の出征で功績を立て、めでたくリンデンシュタールの準男爵になった。だが王都で暮らす屋敷を準備しようと思ったものの空いた屋敷がなく、ようやく先月になって入居できた。

 同じように俺の部下だったロルフとハインツの二人は、それぞれ男爵家の実家が隣の領地を吸収したので、増えた分の領地の半分をもらって準男爵になった。ロルフはタント準男爵、ハインツはギュンスター準男爵になった。それがようやく決まったのが先月だったか。だから二人の屋敷はまだ王都にはない。来年になればここで会えるだろう。

 一番上手くやったのがツェーデン子爵だ。彼は大公派が失脚したと知るとすぐにノイフィーア伯爵の屋敷を購入して引っ越しをした。その地下に秘密の通路があったのは災難だったが。

 俺は俺で大公派の残党の嫌がらせで父から受け継ぐはずだった領地を失い、この国の一番北に転封のような扱いになった。今考えればこれが正解だった気がするが、あの時は生涯初めてというくらいに腹が立った。

 まあそれでも国王派は陞爵、加増、恩賞など、それまで大公派に奪われていた分を回復することができた。それならその他はどうかといえば、日和見主義者たちは先日社交で使う活動資金の多くを美術品に吸い取られることになった。

 この二〇年ほどの間に大公派が台頭すると、それ以外の貴族たちは大きな社交から遠ざかった。逆に言えば、そうすれば余計な金を使わなくてもいい。だから彼らは万が一に備えてせっせと蓄財していた。

 一方で国としては大公経由で大金がゴール王国に流れ、その回収ができていない。いずれゴール王国から賠償金が支払われることになるが、その前に国庫が空になってはどうしようもない。麦ならいくらでも作ることはできるが、残念ながら金貨は地面からは生えてこない。だからその他の貴族たちに出してもらうことになった。それが先日の美術品の放出だ。

 とりあえず俺の持っている博物館が一定の貢献をしたということで、金貨五〇枚の褒賞を頂いた。それは博物館の運営費用などに回すつもりだ。

 それで何が言いたいかというと、大公派は大公派で忙しく、日和見主義の貴族たちは大金を使ってしまい余裕がない。新しく貴族になった者たちもそれほど余裕がない。そういう状況なのでこの年末年始も比較的大人しくなりそうだというのが大方の予想だ。

 だがそうなるとそのために食材を用意する店などが困ることになる。特に年末年始から年明けにかけては貴族の屋敷から高級食材の注文が引っ切りなしに入る。それがないとなると購入した食材をどうすればいいのか。二年続けてそうなってしまうと、潰れる商会も増えるだろう。

「うちだけでは使い切れないが」
「安いうちに買い込んで、高くなったら売ればいいのです。それに新街区の方の飲食店に回せばいいでしょう。安くて質の高い食材が手に入るとなれば喜ぶでしょう」

 新街区とはうちが土地を整理した区域のことだ。一番新しい街区なのでそのような呼び方がされている。今では集合住宅や飲食店を含め、様々な建物ができている。活気があるという点では王都でもかなり上の方だろうと思う。

 商会長のアントンの言葉通り、とにかく王都は食材が余っているらしい。マジックバッグがあれば保存はできるが、そうでなければできるだけ早く売り切りたい。売れなければ破産するからだ。

 どこの商会でも同じだが、去年の年末は無理かもしれないと思って仕入れを控えたところは多い。だがさすがに今年はどの貴族も社交を積極的に行うだろうと思っていたところ、それ以外に金を使いすぎて余裕がない。仕入れも長年の付き合いがあるので今年はいりませんとはなかなか言いづらい。結局そこそこの量を買うことになり、それが売れる見込みがなくなり、金に余裕がある商会が面倒を見ることになった。

「それはいいが、かなり俺が関わっているんだが、俺があちこちの商会を困窮させて買い叩いたと思われないか?」
「考えすぎでしょう。結局金銭的な余裕がなくなったのは計画的に使えなかったせいで、旦那様が切っ掛けとはいえ、それは個々の貴族の問題でしょう」
「理屈はそうだがな」

 俺としては陛下から日和見主義の貴族たちから金を搾り取るように頼まれてそれを実行したわけだ。そのおかげで国庫が潤ったのは間違いないが、煽りを食って多くの商会が潰れそうになったのも事実だった。



◆ ◆ ◆



 王都にいるべきかドラゴネットにいるべきか、それに悩んだがローサの一言で解決してしまった。

「渡した転移ドアを王都の屋敷に置いたら?」

 そういえばそれがあった。まだブリギッタには渡していないから、二組ある。ドラゴネットと王都にそれぞれ置けば移動しやすい。

「これはどうすればいいんだ?」
「ただ置くだけよ。少人数ずつなら長く、まとまった人数ならすぐに閉じるから、二つあれば問題なく移動できると思うわ」

 それなら……城と王都の屋敷に置くか。とりあえず二組の片方ずつを王都の屋敷にある玄関ホールに設置した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

処理中です...