ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第六章:領主三年目、さらに遠くへ

新しい遊び

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「どちらだと思いますか?」
「……レティシア」
「……どうしてお分かりになったのですか?」
「エルザじゃないからだ」
「私がお姉様でないことではなく、私が私であることを証明していただきたいのです」
「難しいことを言うな。エルザとは七年ほどの付き合いだ。お前とはまだ半年ほどだろう。しかもこうやって一緒になってからまだ僅かだ」

 エルザとレティシアは見た目がほぼ同じだ。それを利用して俺の前にいるのが二人のうちどちらかという遊びをレティシアが率先して始めた。エルザとしてはいい迷惑のような気もするが、それほど長くは続かないだろうと割り切っているらしい。

 そして目の前にいるのがエルザではないと言った時、エルザが明らかにホッとした顔をしていた。明かりが落ちた寝室では間違えかけた俺でも、さすがにこの状況で間違うことはない。

 二人は双子なので見た目はほとんど同じだ。だが身に纏う雰囲気、近づいた時の肌の香りなどが微妙に違う。

「この前は夜だったからうっかりと間違えてしまったが、さすがに昼間なら見分けがつく」
「ですがお義兄様に私かお姉様かを見分けてもらえるようになっただけでも大きな一歩です」

 結果はともかくレティシアは喜んでいる。まあそれならそれでいい。

「ところで、二人でここに来たのは他に何かあるからか?」
「はい。エルマー様とレティシアの結婚式をどうしようかとお父様と話しまして」
「それも考えないといけないな」

 エルザは結婚後にゴール王国の当時の国王の娘だと分かった。だがレティシアの場合は先王でかつ現大公の娘だと最初から分かっている。ジョゼとオデットの時にも報告だけはしているが、さすがにレティシアの場合は単なる報告だけでは済せられないだろう。

 そうなると国の代表を招いて式を行うことが必要になるが、今のところ我が国は王太子のレオナルト殿下と第一王女のビアンカ殿下の結婚式が近いので、そんなことで呼び出すわけにもいかない。まあ来月にもレオナルト殿下が結婚するから、その後にでも話をすればいいだろう。

 そもそも貴族の結婚は俺のようにちゃちゃっと済ませていいものではないはずだが、ここまで来ることはなかなか大変なので、単なる事後報告で済ませているという面もある。

「レティシア、そういうことでいいか?」
「はい。急ぐわけではありませんので」

 まあ本人がそう言ってくれるなら助かる。

「結婚式と妊娠とどちらが早いかということになりそうですね?」
「……まあな」
「期待しています」

 まだレティシアを抱いたわけではない。妻にすることには納得できても抱くことについては納得できいない部分があったので待たせている。

「それにしても、立場が違うと言えばそうなんだろうが、そこまで早く子供が欲しいものなんだな」

 すでに子供がいて妊娠中の妻も多い俺が口にする言葉ではないが、みんなが積極的に子供を欲しがっているように思える。

「それはあれよ。ここは魔素が濃いから」
「魔素って魔法の元になるものだったな?」
「そうよ」

 魔素という言葉はローサが教えてくれた。俺たちは魔力と呼んでいるが、どうも魔素というものを体に取り込むと魔力に変わり、それを使って魔法が発動するということらしい。そうは言われても魔素も魔力も目に見えるものではないので、本当にあるのかないのかは俺には分からない。

「魔力というのは体力とか精力とかと同じで人には絶対に必要なもの。だからなくなったら倒れるでしょ?」
「そうだな。気を失うか、そうでなくてもフラフラになる」
「そう。そして魔力は魔法だけじゃなくて人が生きていく上で色々なところに使われてるの。体を鍛えても高くは跳べないけど、魔力で補えば倍以上跳べたりするでしょ? エラとかそういうのが得意じゃない」
「たしかにそういう使い方もあるな」

 俺は使えないが、エラは身体強化系と呼ばれる魔法が得意で、小柄なのに自分よりも大きな魔獣をバッサリと斬り倒す。

「要するに、体力があれば元気なんじゃなくて、魔力で自分の体を強化することができる。しかも自分でも気づかないうちにやっていることもあるのよ。エルマーが強いのもおそらくそうね」
「……そうなのか?」

 俺は水と土の魔法しか得意ではないと思っていたんだが。

「多分ね。私にもハッキリとは言えないから。でも前の領地から来た人たちがほとんど休むことなく麦を作り続けて、それでもまだ足りないって言ってるのは、多分そういうことなんじゃないかと」
「あいつらみんな気がつかないうちに身体強化の魔法のように魔力を使っているってことか」
「そういうこと。有り余るエネルギーで体を強化してるのよ。それに子供もいっぱい生まれてるでしょ?」
「そうだな。今年もたくさん生まれそうだ」

 結婚や出産については教会や役場から報告が来るが、順調に子供の数が増えている。町を拡張することになるか、新しい町を作るか、いずれはそうなるだろう。

「体力が余れば夜の方に力を入れるし、そうすれば子供のために頑張ろうってやる気も出るし」
「だがレティシアは働いているわけじゃないが」

 これでも王女だ。今では王妹ということになる。

「仕事があるかどうかは関係ないわ。男も女も体力も魔力も精力が有り余ってるわけ。動物で例えると、この盆地に来てしばらくすれば強制的に発情期に入るようなものよ。魔素っていうのはそれくらい影響があるんだから」
「それで分かった」

 なるほど。魔素は魔法だけではなく、体力などにも影響を与えると。さらにうちで作られる麦には魔力が多く含まれているから体調維持にも繋がっている。そういうわけで病人はほとんどいないし、いても冬に川で泳いで風邪を引いたとかその程度で、流行病のようなものは全くない。

「というわけで、レティシアを早く抱いてあげたら? そのうち我慢できなくなって襲われるわよ」
「……前向きに検討しよう」
「ローサさん、ありがとうございます」

 待たせても仕方のないことだと分かってはいるんだが……エルザとそっくりだと思うと、それはそれで抱きにくい。せめてもう少し見た目の違いがあればな。
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