ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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最終章

双子の帰宅

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「「旦那様~」」
「戻ってきたか」
「墓参りも終わりましたので~」
「母親の故郷といっても記憶にありませんし~、他にすることもありませんから~」

 カリンナとコリンナの双子が帰省、いや親探しから帰ってきた。いつから出かけていたのか。いつからだ? いなくなったことを忘れそうになるくらい前だな。

「結局母親がサキュバスだったのか?」
「そうでした~」
「実家まで確認してきましたから~」

 アデリナの伝手を使い、俺はカリンナとコリンナの親がいるのかどうか、故郷がどこにあるか、そのあたりをずっと探してもらっていた。見つからないだろうと思っていたら、それっぽい場所が分かった。

 双子の母親が人間よりも力のあるサキュバスだとしても、さすがに身重のままで遠くまでは移動できないだろう。ルーコーは国境に近い。国境付近というのは物騒なので普通ならあまり人が近寄らない。盗賊の隠れ家があることもあれば、魔物の巣があることもある。だがアルマン王国とシエスカ王国とゴール王国、三か国の間には主に亜人たちが暮らす隠れ里がいくつかあるらしいと分かった。もちろんという程度で、実際にあるかどうかは分からない。そのような噂話を集めてみると、どうやらその中に淫魔が多い集落がかなりの確率で存在することが分かった。だからもしかしたらそこかもしれないと。

 二人が育ったのはアルマン王国でもほぼ一番南にあるルーコーの町だったので、俺はそこまで二人を送ることにした。二人はそのまま母親が暮らしていた可能性のある場所を探しにいくと言って走っていった。別に走らなくてもいいと思うが、目的地に近づけば走りたくなるのは分かる。すぐそこだと分かれば急ぎ足になるからな。

「そこまで時間がかかるはずはないと思うが、何かあったのか?」

 それで結局あれから……三年近くか? それくらいは経ったはずだ。ビアンカ殿下の結婚式が終わって、それからしばらくしてからだ。俺に時間ができたからな。

「どうしてそんなに時間がかかったんだ?」
「母が帰ってくるのを待ってました~」
「それで私たちを見て『あんたたち誰?』なんて言いましたから~、ボッコボコにしてやりました~」
「ボッコボコってなあ」

 サキュバスは淫魔の一種だ。愛情を注ぐ対象がいないサキュバスは無差別に周囲から精力を奪い取る。だから結局俺が面倒を見ることになった。

 俺の母親は莫大な魔力を持っていたが放出するすべがなく、それで寿命を縮めてしまった。その血を引いている俺も魔力はそこそこ多かったが魔力の扱いが苦手だった。土魔法と水魔法は使えたが、火魔法なんて種火としても使えない程度だった。

 そんな俺に魔力を注ぎ込み、ある意味では人離れさせてくれたのがカレンだ。彼女のおかげで俺は半分竜になってしまった。どうすればそうなるのかは分からないが、俺の両目は竜と同じになっている。さらに火が吐ける。見た目は少し背の高い人間だが、髪が赤いのもあり、最近は火竜が人間の姿をしていると勘違いされる。もちろん俺には羽はないし竜の姿にはなれない。

 その俺の側にいたカリンナとコリンナはサキュバスでありながら魔力が明らかに多くなった。たぶん俺の精力だの魔力だのを吸っていたからだろう。

「それでですね~、一応連れてきましたので~」
「叱るなりなんなりしてくだい~」

 よく見ると、部屋の外にロープで縛られた女性が立っているのが見えた。

「私たちの母親です~」
「クリスタって名前だそうですね~」
「そうですねって、適当だな」
「初めて会いましたので~」
「血の繋がりがあるだけの他人ですから~」

 クリスタと呼ばれた女性は、人間なら三〇前後だろうか。パウラやローサ、マリーナは見た目をころころ変えるから分かりにくい。アデリナと同じくらいだろう。

「あなたが双子の母親ということでいいのか?」
「はい。まさか再会するとは思わず、名前すら忘れていた私をお許しください。命だけは助けてください」

 クリスタが床に膝をついて頭を下げる。

「いや、別に俺に頭を下げる必要はないと思うが?」

 ただし二人はそれを見て満足した様子だった。

「俺自身はあなたに思うところはない。だがそうしてこんなことになったんだ? 二人の面倒を見る身として、説明は欲しいところだ」
「はい。説明しますと……」

 クリスタの説明は簡単だった。享楽的な種族だからか、それとも本人の性格がそうだからかは分からないが、昔から深く考えずに行動していたようだ。彼女は素性を隠して人間の町に出た。そこで人間が子供を作る方法に興味を持った。それが始まりだった。

 インキュバスやサキュバスは人間の精力を集めて自分の魔力などと合わせて子供というか後継者というか、とりあえず自分の力を受け継いだ存在を作る。だから人間がするような性行為は経験しないことがほとんどだ。性行為で子供を作ることはサキュバスにとっては邪道なことらしい。だがクリスタは町で知り合った人間の男に抱かれてみることにした。その結果どうなったか。当たり前だが妊娠した。

 サキュバスが妊娠することはまずあり得ない。できなくはないがする意味がないからだ。妊娠すれば人間と同じように出産まで一〇か月ほどかかる。その間は自分の暮らしていた町には恥ずかしくて帰れない。だから人間の町で暮らしていた。

 妊娠と出産で大変な思いをした彼女は双子を産むと教会の前に捨てた。それがルーコーの町だった。それから十数年、あちらこちらと遊び回って久しぶりに家に帰ってきたら知らない二人が家の中にいた。そこで「あんたたち誰?」と聞いたら二人にボコボコにされた。可哀想だと思う余地はないな。

 しかし、クリスタが純粋なサキュバスなのに対して双子は人間とのハーフになる。サキュバスとしての力はクリスタのほうが明らかに上のはず。だがボコボコにされて縛られた。そういうわけでクリスタは二人に頭を下げて命乞いをし、謝罪のためにここまで来た。

「俺に謝る必要はないと思うが」
「旦那様からすれば義母じゃないですか~?」
「義母にも躾は必要だと思いますけど~?」
「どんな躾だ」
「ひん剥いて道ばたで晒すとかどうですか~?」
「娼館で二四時間相手をさせてもいいと思いますよ~」
「それは折檻だろう。お前らもそこそこ性格が悪くなってきたな」

 心情的には他人だが血の繋がりがある。だから念のために俺のところに連れてきた。母親とは思わないので好きにしろ。もしくは放り出して適当な男の相手をさせればいい。そのうちに孕むだろう。自分たちを産んで勝手に捨てたのだから、もう一度大変な思いをすればいい。そういうつもりらしい。ここ数年ほど淫魔が多い場所で暮らしていたからだろうか、性格がそちら寄りになった気がする。

「他人の不幸は蜜の味ですよ~」
「しかも自分が原因で勝手に苦労しておいてこれですからね~。私たちだって怒るときは怒りますよ~」

 二人の口調はいつもと変わらないが、言葉の端々から腹が立っていることは理解できる。俺だってもし生まれてすぐに捨てられ、運良く見つけた親から返ってきた言葉が「あんた誰?」だったとしたら殴りつける自信はある。しかも男を愛した結果でもなく、単に男と肌を合わせるのがどういうことかを知りたかっただけだと分かれば。

「ところで旦那様~」
「私たちも立派な大人になりましたよ~」
「年齢的にはな」

 サキュバスは熱を出して尻尾や羽が生えれば大人とみなされるが、いかんせん見た目が幼すぎる。

「旦那様の子供が増えましたね~。ビックリですよ~」
「私たちも子供を作っても問題ない年齢ですよ~。どうして私たちにはいないんですか~?」

 まあいつまでも放っておくことができないことは分かっている。嘘をつきたいわけじゃないからな。抱くことは決めている。問題はいつ抱くかの問題だ。
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