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第六章:領主三年目、さらに遠くへ
魔道具職人ギルドのギルド長
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「それで、これはどういうことです?」
俺は連絡係のアナイスに連れられてここへ来た客と会い、どういう顔をしていいのか分からなかった。
「いえ、言葉通りです。私が魔道具職人ギルドのギルド長ということになりまして、こちらに伺ったわけです。今後はよろしくお願いします、領主殿」
「いや、よろしくするのは問題ないとして、立場的に問題はないのですか?」
俺はそう聞くしかなかった。デニス殿に。
「私は特に。そもそもうちの木材や琥珀が以前よりも売れているのはエルマー殿のおかげですし、シビラを貰ってもらえることになりました。私が頭を下げるのが普通ですよ」
「まあそれはそうかもしれませんが……」
だがデニス殿は一応隣の領主で、俺がシビラと結婚すれば義理の父親になる。あまり頭を下げられるのもな。
「それにリーヌスに教えることはまだたくさんあります。ニコラもできれば私に側にいてほしいということもありますし、せっかく話があったわけですからそれに便乗しようかと」
「ユリアーナは問題ないのですか?」
「ええ。どうも話を聞けば、ヴァイスドルフ男爵領までは空を飛んで移動できるそうですね。そこから彼女の父親がいるリンデンシュタール準男爵領まで行くのと王都から行くのではそれほど時間は変わりません」
デニス殿の話を聞けば、王都の魔法省で仕事を続けるよりはうちに来てギルド長をする方が向いていると思ったそうだ。
デニス殿は父親の代に中央の貴族に嫌われて領地替えをされ、当時この国の一番北に飛ばされた。お父上は中央に戻れず、デニス殿の代で魔法省のそれなりの地位として戻ることができた。ただそれにも色々と問題があったそうだ。
今は時代が違うからデニス殿が煙たがられるということはない。むしろ有能な魔法使いなら喜んで迎えてもらえるだろう。でも妻のニコラ殿は自分に言い寄る貴族を面倒に思ってデニス殿と結婚してマーロー男爵領のエクセンに引きこもった。デニス殿が王都で職を得たことを喜んではいたものの、側室であるユリアーナが現れたこともあり、複雑な気持ちだったことは仕方ないだろう。
「まあそういうことでして、ニコラもリーヌスも私がこちらに戻ってくるのを喜んでいるわけです」
「それは分かりましたが、本音は?」
「こちらの方がもっと素材が手に入りやすいではありませんか」
竜の鱗、牙、爪は魔法省も買ってくれている。だがデニス殿が好き勝手に使えるほど多くはない。それは別に嫌がらせをしたくてそうしているわけではない。ダニエル、ヨーゼフ、ブリギッタの三人と話をして、どれくらいなら市場に出していいかを確認しつつ販売している。
そもそも以前なら欲しくても手に入らなかったものが、今ならたまに入荷する。金貨を積んでも買えなかったものが、待てば手に入るようになった。それくらいでいいだろうというのがダニエルの考えだ。
そんなことを口にするダニエル自身には欲がない。それはドラゴネットに来て最初に思ったそうだ。山のように存在する竜の鱗に対して欲を出しても何もいいことはないと。だから彼には常に一定量の鱗を渡していたが、私的に使ったことはないそうだ。
「たしかに必要なものを手に入れることは王都にいる時よりも簡単でしょうが、それで大丈夫ですか?」
「何がですか?」
「あまりサボるとニコラ殿に怒られますよ?」
「……そこはやりすぎない程度に頑張ります」
デニス殿は骨の髄まで魔法使いだ。前にザーラに説明したように、魔法使いには変人が多い。それは魔法使いという存在は真理の追求を目的にしているからだ。目に見えない魔力というもの、そして魔力の元になる魔素というものもあるという。
俺は魔法も使うが軍人だ。初めて従軍した時には前から襲いかかる敵を斬り、後ろから襲いかかる敵を斬っていたが、そのようにはいかない。自分の中の知識欲と戦うという終わりのない戦いだ。デニス殿が寝食を忘れてギルドないで研究を続けてどこかで倒れるということが簡単に想像できる。
デニス殿と話をしていると、シビラが父親が来たことを聞いたのか、奥からやって来た。
「お父様、お久しぶりです」
「ああ、シビラ。元気なようだね。子供はまだかな?」
「まだです。手を出されておりませんので」
二人が揃ってこちらを見た。見られても困るぞ。
「デニス殿、いきなり何を聞くんですか?」
シビラはまだ婚約者だ。それよりも話を戻さないと。
「シビラ、デニス殿は魔道具職人ギルドにギルド長として赴任することになった」
「それならこちらにずっといるということですよね?」
「ああ、エクセンから通ってもらってもいいが」
トンネルの中は凹凸が少ない。ドラゴネットまでの道もかなり走りやすい。ただエクセンから二〇キロくらいあるから、飛ばして二時間、まあ三時間はかかるか。
「エルマー様、お父様のための屋敷をドラゴネットに建てることはできませんか? ギルド内で寝泊まりすることになれば、絶対に徹夜で研究をして倒れると思います」
シビラもそれが心配か。
「場所はあるから建てようと思えば建てられる。そもそも建てなければ住む場所はないからな。通いでは時間がかかりすぎるだろう。移住者向けの小さな家ならあるが、さすがにそれでは問題だろう。建てた方がいいな」
石も木もいくらでもある。最近はカレンが運動ついでにあちこちに出かけて木を引っこ抜いている。それから適度に水分を抜いてくれるので、すぐに建材として使うことができる。最近は土を固めて石を作る時に魔力を込めすぎて爆発させることが減った。ゼロにはなっていないが、彼女も日々成長している。
「デニス殿は住むとすればどのあたりがいいですか?」
「この地図でですか? そうですね……このあたりは住宅街ですか?」
「ええ、うちの役人で都市設計をしているブルーノ、財務担当のライナー、その下で働くカールなど、家族持ちや恋人がいる者たちはそのあたりですね。土地を広めにして家も大きく作っています。高級住宅地扱いです。北東部は農民たちの家が集まっています。このあたりは移住者向けの家ですね。東の方は職人街ですので、職住一体でたまに騒々しいこともあります」
職人街では夜は大きな音は出さないという決まりになっているようだ。
「それならこのあたりにしましょうか。ここの角が空いていますか?」
「大丈夫です。どのような家を建てるか、希望は直接担当者に伝えてもらった方がいいですね。アナイス、シビラとデニス殿を役場に案内してくれ」
「はい、喜んで」
アナイスに案内されて二人が出ていった。
しかしデニス殿が来たとなると、ニコラ殿も来るんじゃないか? するとユリアーナも来る可能性がある。さすがにリーヌスは来ないだろうが、みんながこちらにいれば理由を付けて来ることは十分ありそうだ。
俺は連絡係のアナイスに連れられてここへ来た客と会い、どういう顔をしていいのか分からなかった。
「いえ、言葉通りです。私が魔道具職人ギルドのギルド長ということになりまして、こちらに伺ったわけです。今後はよろしくお願いします、領主殿」
「いや、よろしくするのは問題ないとして、立場的に問題はないのですか?」
俺はそう聞くしかなかった。デニス殿に。
「私は特に。そもそもうちの木材や琥珀が以前よりも売れているのはエルマー殿のおかげですし、シビラを貰ってもらえることになりました。私が頭を下げるのが普通ですよ」
「まあそれはそうかもしれませんが……」
だがデニス殿は一応隣の領主で、俺がシビラと結婚すれば義理の父親になる。あまり頭を下げられるのもな。
「それにリーヌスに教えることはまだたくさんあります。ニコラもできれば私に側にいてほしいということもありますし、せっかく話があったわけですからそれに便乗しようかと」
「ユリアーナは問題ないのですか?」
「ええ。どうも話を聞けば、ヴァイスドルフ男爵領までは空を飛んで移動できるそうですね。そこから彼女の父親がいるリンデンシュタール準男爵領まで行くのと王都から行くのではそれほど時間は変わりません」
デニス殿の話を聞けば、王都の魔法省で仕事を続けるよりはうちに来てギルド長をする方が向いていると思ったそうだ。
デニス殿は父親の代に中央の貴族に嫌われて領地替えをされ、当時この国の一番北に飛ばされた。お父上は中央に戻れず、デニス殿の代で魔法省のそれなりの地位として戻ることができた。ただそれにも色々と問題があったそうだ。
今は時代が違うからデニス殿が煙たがられるということはない。むしろ有能な魔法使いなら喜んで迎えてもらえるだろう。でも妻のニコラ殿は自分に言い寄る貴族を面倒に思ってデニス殿と結婚してマーロー男爵領のエクセンに引きこもった。デニス殿が王都で職を得たことを喜んではいたものの、側室であるユリアーナが現れたこともあり、複雑な気持ちだったことは仕方ないだろう。
「まあそういうことでして、ニコラもリーヌスも私がこちらに戻ってくるのを喜んでいるわけです」
「それは分かりましたが、本音は?」
「こちらの方がもっと素材が手に入りやすいではありませんか」
竜の鱗、牙、爪は魔法省も買ってくれている。だがデニス殿が好き勝手に使えるほど多くはない。それは別に嫌がらせをしたくてそうしているわけではない。ダニエル、ヨーゼフ、ブリギッタの三人と話をして、どれくらいなら市場に出していいかを確認しつつ販売している。
そもそも以前なら欲しくても手に入らなかったものが、今ならたまに入荷する。金貨を積んでも買えなかったものが、待てば手に入るようになった。それくらいでいいだろうというのがダニエルの考えだ。
そんなことを口にするダニエル自身には欲がない。それはドラゴネットに来て最初に思ったそうだ。山のように存在する竜の鱗に対して欲を出しても何もいいことはないと。だから彼には常に一定量の鱗を渡していたが、私的に使ったことはないそうだ。
「たしかに必要なものを手に入れることは王都にいる時よりも簡単でしょうが、それで大丈夫ですか?」
「何がですか?」
「あまりサボるとニコラ殿に怒られますよ?」
「……そこはやりすぎない程度に頑張ります」
デニス殿は骨の髄まで魔法使いだ。前にザーラに説明したように、魔法使いには変人が多い。それは魔法使いという存在は真理の追求を目的にしているからだ。目に見えない魔力というもの、そして魔力の元になる魔素というものもあるという。
俺は魔法も使うが軍人だ。初めて従軍した時には前から襲いかかる敵を斬り、後ろから襲いかかる敵を斬っていたが、そのようにはいかない。自分の中の知識欲と戦うという終わりのない戦いだ。デニス殿が寝食を忘れてギルドないで研究を続けてどこかで倒れるということが簡単に想像できる。
デニス殿と話をしていると、シビラが父親が来たことを聞いたのか、奥からやって来た。
「お父様、お久しぶりです」
「ああ、シビラ。元気なようだね。子供はまだかな?」
「まだです。手を出されておりませんので」
二人が揃ってこちらを見た。見られても困るぞ。
「デニス殿、いきなり何を聞くんですか?」
シビラはまだ婚約者だ。それよりも話を戻さないと。
「シビラ、デニス殿は魔道具職人ギルドにギルド長として赴任することになった」
「それならこちらにずっといるということですよね?」
「ああ、エクセンから通ってもらってもいいが」
トンネルの中は凹凸が少ない。ドラゴネットまでの道もかなり走りやすい。ただエクセンから二〇キロくらいあるから、飛ばして二時間、まあ三時間はかかるか。
「エルマー様、お父様のための屋敷をドラゴネットに建てることはできませんか? ギルド内で寝泊まりすることになれば、絶対に徹夜で研究をして倒れると思います」
シビラもそれが心配か。
「場所はあるから建てようと思えば建てられる。そもそも建てなければ住む場所はないからな。通いでは時間がかかりすぎるだろう。移住者向けの小さな家ならあるが、さすがにそれでは問題だろう。建てた方がいいな」
石も木もいくらでもある。最近はカレンが運動ついでにあちこちに出かけて木を引っこ抜いている。それから適度に水分を抜いてくれるので、すぐに建材として使うことができる。最近は土を固めて石を作る時に魔力を込めすぎて爆発させることが減った。ゼロにはなっていないが、彼女も日々成長している。
「デニス殿は住むとすればどのあたりがいいですか?」
「この地図でですか? そうですね……このあたりは住宅街ですか?」
「ええ、うちの役人で都市設計をしているブルーノ、財務担当のライナー、その下で働くカールなど、家族持ちや恋人がいる者たちはそのあたりですね。土地を広めにして家も大きく作っています。高級住宅地扱いです。北東部は農民たちの家が集まっています。このあたりは移住者向けの家ですね。東の方は職人街ですので、職住一体でたまに騒々しいこともあります」
職人街では夜は大きな音は出さないという決まりになっているようだ。
「それならこのあたりにしましょうか。ここの角が空いていますか?」
「大丈夫です。どのような家を建てるか、希望は直接担当者に伝えてもらった方がいいですね。アナイス、シビラとデニス殿を役場に案内してくれ」
「はい、喜んで」
アナイスに案内されて二人が出ていった。
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