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第十四部:それぞれの思惑
住民説明会
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俺に町なんて作った経験はない。だからそれそのものは他人に任せる。俺には城壁を作るのがせいぜいだ。下水道のシステムとか、そんなもん俺に分かるはずないだろう。俺にできることは住民を集めることくらいだ。それはスラムで行う。まずはここをどうにかしたいからだ。
この国にはいろいろな問題点がある。俺が聞いて分かる程度なんだから、経済の専門家が見れば問題なんて山積みなんだろう。ただ基本が貴族の貴族による貴族のための政治だ。庶民の生活は悪くはないけど良くはない。特にスラムはその中でも一番無視されていた場所だ。
「ジロー、何人も役人を連れてどうした?」
変装した俺に声をかけてきたのはラック。このあたりの顔役の一人だ。ジローというのはここに来る時の俺の偽名の一つだ。イネスに会った時もそうだったけど、俺はいくつもの顔と偽名を使い分けている。同じ名前でウロウロしていれば怪しまれるかもしれない。だからこのあたりではこっちではこの偽名、あっちではあの偽名と分けることにしている。
役人がこのあたりをウロウロするのは珍しくはなくなった。以前なら役人が近づけば姿を隠すか、明らかに嫌な顔をすることが多かった。ただ最近では国が斡旋する仕事も増え、以前ほど拒絶するような感じもない。困ったことがあれば役人に相談というやつも出てきたそうだ。
「ああ、ラックさん。実はここのみんなに話があるんだが、少し集めてもらえないか?」
「ん? まあ世話になってるからな。暇してるヤツらだけでいいか?」
「それで頼む。聞いて損はしない話だからできるだけ多い方がいいと言ってほしい」
ここまでスラムに何度も潜り、スラムにはそれぞれ縄張りがあることは分かっている。自分の所属するグループの縄張り以外で活動すればジャンやポールのように袋叩きにされるのが普通だ。
ジャンとポールはラックの下にいた。それが隣のヴァンが仕切っている縄張りで活動してしまったわけだ。あれから俺は二人を庇ったことでヴァンと面識を得たし、ジャンとポールに仕事を与えた際にはラックにも報告している。俺は仕事の斡旋屋をしているということにして、街角や川の掃除など、いくつか仕事を斡旋した。そうやって少しずつ顔を売っていた。顔はいくつもあるけどな。
「今日は手の空いてるヤツが多いな」
「俺としては多い方が何度も説明する手間が省けていい」
俺はみんなの前に箱を置いてその上に立つ。俺の顔はそこそこ知られているので、今日は何の話だろうかと興味のある者も多いはずだ。また新しい仕事が増えるかもしれないと。
「この春からたまにこうやって顔を出しているので俺の顔を知っている者は多いと思うが、実は俺の顔は本当はこうだ」
そう言うと変装を取り去って素顔を見せた。顔が変わった瞬間、一斉に「えっ?」という顔をして、俺が誰か分かった者からもう一段階大きく「ええっ⁉」となった。ラックも同じだ。さっきまで普通にしてたのに、今は直立不動になっていた。別に畏まらなくてもいいぞ?
このパフォーマンスは別の場所でもする予定なので、最初がそこそこの反応でよかった。これで「いや、知ってたけど、隠したいのかなと思って何も言わなかっただけだ。聞いた方がよかったか?」とか言われたら何のためにコッソリと潜ってたかが分からない。
「あらためて自己紹介する。シュウジ・コワレ・ラヴァル公爵だ。今日は社会政策大臣として国民全員の生活を向上させるため、まずはここに話をするために来た。皆が損をする話はしないと約束する」
◆◆◆
「すでに噂には聞いていると思うが、新しい町を王都の近くに作ることになっている。そこで暮らす住民を募集することになった。それならどうしてこんな場所で話をしているのかと思うかもしれないが、皆をその町の最初の住人にどうかと思ったわけだ。疑問はあると思うが、まずは最後まで聞いてほしい」
知り合いが来たと思ったら貴族だったということで、多少はざわついたけどすぐに収まった。
「皆も知っているように、この国では麦畑を広げることが難しい。広さで町や村が払う税が変わるからだ。だからここまでは大丈夫というところまでしか広げない。そうなると長男くらいしか麦畑を与えられず、次男坊は別の仕事を探すしかない。それでも仕事が見つかるとは限らない」
自分がそうだった者は少し頷きながら俺の話を聞く。
「俺はこの麦しか重視しない方針を変えさせるために新しい町を作ろうと思っている。そこでは麦ではなく、南のクロド王国で作られている米という作物を育てる。それを麦と同じ程度まで価値のあるものにするためだ」
「その町で麦を育ててはダメなのかと思うかもしれないが、最初はそれはできない。それはなぜか。その町で麦を作ればここにいる皆は暮らせるだろう。だがここにいるのはこの広い国のほんの一握りの者だけだ」
「そもそも地方に行けば行くほど畑か鉱山の以外の仕事は少なくなる。しかもどこでも麦しか金にならないから麦だけを育てているわけだ。ジャガイモを作れば食べていくことはできる。でも麦よりも安いから、それだけで家族を養うことは大変だ。それなら麦以上に売れる作物を育てればいい。それが米だ」
「新しい町は王都から一日かけずに移動できる。そこで大々的に米を作る。作った米は王都で販売する。売るのは俺に任せてくれ」
「米が金になるとなれば他の町でも育てたいという希望が出る。そうすればどんどん作らせる。なにせ米を作るための田んぼという農地には麦畑とは違って税がかからない。作りたいだけ作ればいい。市場で売る際には商業ギルドを通さなければいけないが、麦の税に比べれば圧倒的に安い」
「そうして米作りが盛んになればどうなるか。麦にだけ税をかけていては国としては収入が減る。だから麦だけではなく米にも税をかけるようになるだろう」
ここまでの話を理解できていた者たちもここで首を傾げた。米作りを盛んに行って税が取られる。税を取られない作物を育てるのではないのかと。
「税を取られては意味がないと思うかもしれないが、それが大いにある。むしろ米に税をかけたいと言わせなければならない」
頭の回転の速いやつは気づいたようだ。
「米に税をかけたいなら麦の税を下げるようにと俺が言う。米作りを勧めたのが俺だから、彼らは従わざるを得ない。しかもまず始めた場所が直轄領だ。国王以外には口も手も出せない。そこを借りて俺が米作りをするわけだ。誰が文句を言える?」
「言い方は悪いが、この新しい町の住民を富ませるのが目的ではない。皆を金持ちにするためではない。町を一つ作ることで、故郷を離れなければならなくなる者を減らすことが目標だ」
「最初に言ったように、麦畑が与えられていたなら故郷を出なかった者がこの中にも多いだろう。どんな親だって子供を出したくないはずだ。だが少ない畑をいくつにも分ければ誰一人救われない。だから長男に与えるしかない。故郷を離れざるを得なかった者を減らすことが新しい町を作る一番の目的だ。その最初の住人にならないか?」
この国にはいろいろな問題点がある。俺が聞いて分かる程度なんだから、経済の専門家が見れば問題なんて山積みなんだろう。ただ基本が貴族の貴族による貴族のための政治だ。庶民の生活は悪くはないけど良くはない。特にスラムはその中でも一番無視されていた場所だ。
「ジロー、何人も役人を連れてどうした?」
変装した俺に声をかけてきたのはラック。このあたりの顔役の一人だ。ジローというのはここに来る時の俺の偽名の一つだ。イネスに会った時もそうだったけど、俺はいくつもの顔と偽名を使い分けている。同じ名前でウロウロしていれば怪しまれるかもしれない。だからこのあたりではこっちではこの偽名、あっちではあの偽名と分けることにしている。
役人がこのあたりをウロウロするのは珍しくはなくなった。以前なら役人が近づけば姿を隠すか、明らかに嫌な顔をすることが多かった。ただ最近では国が斡旋する仕事も増え、以前ほど拒絶するような感じもない。困ったことがあれば役人に相談というやつも出てきたそうだ。
「ああ、ラックさん。実はここのみんなに話があるんだが、少し集めてもらえないか?」
「ん? まあ世話になってるからな。暇してるヤツらだけでいいか?」
「それで頼む。聞いて損はしない話だからできるだけ多い方がいいと言ってほしい」
ここまでスラムに何度も潜り、スラムにはそれぞれ縄張りがあることは分かっている。自分の所属するグループの縄張り以外で活動すればジャンやポールのように袋叩きにされるのが普通だ。
ジャンとポールはラックの下にいた。それが隣のヴァンが仕切っている縄張りで活動してしまったわけだ。あれから俺は二人を庇ったことでヴァンと面識を得たし、ジャンとポールに仕事を与えた際にはラックにも報告している。俺は仕事の斡旋屋をしているということにして、街角や川の掃除など、いくつか仕事を斡旋した。そうやって少しずつ顔を売っていた。顔はいくつもあるけどな。
「今日は手の空いてるヤツが多いな」
「俺としては多い方が何度も説明する手間が省けていい」
俺はみんなの前に箱を置いてその上に立つ。俺の顔はそこそこ知られているので、今日は何の話だろうかと興味のある者も多いはずだ。また新しい仕事が増えるかもしれないと。
「この春からたまにこうやって顔を出しているので俺の顔を知っている者は多いと思うが、実は俺の顔は本当はこうだ」
そう言うと変装を取り去って素顔を見せた。顔が変わった瞬間、一斉に「えっ?」という顔をして、俺が誰か分かった者からもう一段階大きく「ええっ⁉」となった。ラックも同じだ。さっきまで普通にしてたのに、今は直立不動になっていた。別に畏まらなくてもいいぞ?
このパフォーマンスは別の場所でもする予定なので、最初がそこそこの反応でよかった。これで「いや、知ってたけど、隠したいのかなと思って何も言わなかっただけだ。聞いた方がよかったか?」とか言われたら何のためにコッソリと潜ってたかが分からない。
「あらためて自己紹介する。シュウジ・コワレ・ラヴァル公爵だ。今日は社会政策大臣として国民全員の生活を向上させるため、まずはここに話をするために来た。皆が損をする話はしないと約束する」
◆◆◆
「すでに噂には聞いていると思うが、新しい町を王都の近くに作ることになっている。そこで暮らす住民を募集することになった。それならどうしてこんな場所で話をしているのかと思うかもしれないが、皆をその町の最初の住人にどうかと思ったわけだ。疑問はあると思うが、まずは最後まで聞いてほしい」
知り合いが来たと思ったら貴族だったということで、多少はざわついたけどすぐに収まった。
「皆も知っているように、この国では麦畑を広げることが難しい。広さで町や村が払う税が変わるからだ。だからここまでは大丈夫というところまでしか広げない。そうなると長男くらいしか麦畑を与えられず、次男坊は別の仕事を探すしかない。それでも仕事が見つかるとは限らない」
自分がそうだった者は少し頷きながら俺の話を聞く。
「俺はこの麦しか重視しない方針を変えさせるために新しい町を作ろうと思っている。そこでは麦ではなく、南のクロド王国で作られている米という作物を育てる。それを麦と同じ程度まで価値のあるものにするためだ」
「その町で麦を育ててはダメなのかと思うかもしれないが、最初はそれはできない。それはなぜか。その町で麦を作ればここにいる皆は暮らせるだろう。だがここにいるのはこの広い国のほんの一握りの者だけだ」
「そもそも地方に行けば行くほど畑か鉱山の以外の仕事は少なくなる。しかもどこでも麦しか金にならないから麦だけを育てているわけだ。ジャガイモを作れば食べていくことはできる。でも麦よりも安いから、それだけで家族を養うことは大変だ。それなら麦以上に売れる作物を育てればいい。それが米だ」
「新しい町は王都から一日かけずに移動できる。そこで大々的に米を作る。作った米は王都で販売する。売るのは俺に任せてくれ」
「米が金になるとなれば他の町でも育てたいという希望が出る。そうすればどんどん作らせる。なにせ米を作るための田んぼという農地には麦畑とは違って税がかからない。作りたいだけ作ればいい。市場で売る際には商業ギルドを通さなければいけないが、麦の税に比べれば圧倒的に安い」
「そうして米作りが盛んになればどうなるか。麦にだけ税をかけていては国としては収入が減る。だから麦だけではなく米にも税をかけるようになるだろう」
ここまでの話を理解できていた者たちもここで首を傾げた。米作りを盛んに行って税が取られる。税を取られない作物を育てるのではないのかと。
「税を取られては意味がないと思うかもしれないが、それが大いにある。むしろ米に税をかけたいと言わせなければならない」
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