異世界は流されるままに

椎井瑛弥

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第7章:新春、急展開

第9話:再度ダンジョンアタック

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「それじゃあ、今日はダンジョンにするか」
「パンダは寒いからね」

 マリオンほど寒くはないものの、それでも冬に屋外にいるのはつらいものです。今ではレックスたち『天使の微笑み』もグレーターパンダ狩りをしているので、以前ほどはパンダ狩りに出かけなくなりました。

「前は一〇階をクリアしたところだったな」
「それなら硬いエリアですね」
「ラケルとケイに任せるね」
「殴るしかないからなあ」

 一一階から一五階までは硬い魔物ばかりです。
 話をしながら転移部屋を出ると、レイの腰にぶら下がっている袋がモゾモゾと動きました。

「ん? どうした?」

 首だけ出したニコルがジタバタと手を動かしています。レイは紙とペンを渡しました。

『石か鉄で体を作って殴ります』
「そうか。それなら任せる……って、材料をどうするかだな」
「ダンジョンは使えないのですか?」
「いや、それができれば、ダンジョン全体がストーンゴーレムになるぞ」
「それもそうですね」

 シャロンはダンジョンの床や壁を使うことはできないのかと考えました。一般的な家屋なら、床や壁がゴーレムの体に使えるのをレイたちは確認していますが、ダンジョンでは残念ながらその技は使えません。

「砕いたらどうです?」
「壁とか床とかをか?」
「曲がり角なら砕きやすいと思います」

 壁や床は難しいかもしれませんが、曲がり角ならケイトので砕いて使うことができるのではとラケルは考えました。力業ですね。

「では、一度やってみましょう。ハイッ!」

 ドガンッッ‼‼‼

 ちょうど角のところにいたので、ケイトがメイスを食らわせると、一部がガラガラと崩れました。

「ニコル、これでどうですか?」

 ケイトがダンジョンの破片を持ってくると、レイはニコルを床に置きました。ニコルはダンジョンの欠片を取り込むと、手のひらサイズだったストーンゴーレムが、あっという間に三メートルほどに成長しました。
 大きくなったニコルは、顎に手を当てて考える素振そぶりををしました。その瞬間、レイよりも高かったニコルが、また手のひらサイズに戻りました。それから一メートル、二メートル、三メートルと、少しずつサイズを変えていきます。
 再び手のひらサイズになったニコルを、レイは手のひらに乗せました。

「サイズが変わると重さも変わる。物理法則が無視されてるよな」

 手のひらの上でニコルにサイズを変えさせながら、レイは重さを確認しています。

「レイ兄、物理法則って必要?」
「いや、必要はないけど」
「ダンジョンの石だから、すっごいパワーがあるって考えたらいいんじゃない?」

 サラが適当に言いましたが、ニコルはそれを聞いてうなずきました。

「ほら、やっぱりすごいんだって。アンブタニウムだよ、きっと」
「それは古くないか?」

 レイはそうは言いつつも、使えるなら使おうと、他の七つのコアを砕いたダンジョンの破片の上に置きました。やはり、同じく三メートルのゴーレムができあがりました。

「ケイト、予備としてもう少し砕いといてくれるか?」
「わかりましたわっ! ハイッ、ハイッ‼」

 ガラガラとダンジョンを砕くケイト。ラケルは床に落ちた石を拾って空の樽に入れていきました。

 ◆◆◆

「うわっ‼ ゴーレムが後ろから……って、あれ?」
「あ、すみません。これうちのゴーレムたちです」

 ボス部屋に近づくと、ボス戦待ちをしていたパーティーから悲鳴が上がりました。ボス前にゴーレムの集団と一戦するのは大変ですからね。慌ててレイとゴーレムたちが頭を下げます。

「あー、ビックリした」
「君たちは……『行雲流水こううんりゅうすい』だっけ? 増えた?」
「いろいろとありましてね。そちらは『双輪そうりん』のお二人ですよね」

 初めてダンジョンに入った日に会ったパーティーのうちの一つです。ダンジョンは広いですからね。なかなか会わないものです。

「お二人はどのあたりまで潜ってるんですか?」
「僕たちは二五階のボス部屋の手前までだね。年末年始は休んだから、慣らしにね。そっちは?」
「うちはメンバーが増えたので、また順番にですね。俺は一六階までです」

 お互いに自己紹介します。パーティー名は知っていましたが、名前は伝えていなかったからです。『双輪』はサイラスとメルヴィナの二人で構成されています。

「久しぶりにここのボスに挑もうかなと思ったんだけどね」
「なかなか苦戦してるみたいね。さっきから次々と放り出されてるから。シルバーゴーレムらしいわ」

 話をしている間にも、また四人が穴から放り出されました。サイラスとメルヴィナは「パスする?」「誰も倒せないようならそうしようか」などと小声で言い合っています。

「よければ、一時的にうちと組みませんか? そっちとうちとで折半でいいですよ」

 レイが話を振ると、サイラスとメルヴィナは顔を見合わせました。急造パーティーの怖さを二人は知っています。

「そうね。お世話になろうかしら」
「ただパスするだけってのも悔しいからね」

『双輪』の二人は、一時的に『行雲流水』に加わることになりました。

 ◆◆◆

「今回のボスは……やっぱりシルバーゴーレムみたいね?」
「また硬そうだね。組んでよかったかな」

 サイラスとメルヴィナがレイの横にいるゴーレムたちを見ます。二人はゴーレムたちがボスの相手をすると思っているでしょう。でも、そうではないんですよ。

「いきますわ! ハイッ!」

 ケイトが飛び出し、でゴーレムの胸を突きました。

 ドガンッッッ‼

 金属を叩いたとは思えないような音が響き渡ると、ニコルのときと同じく、ゴレームの頭が飛んでいきます。それから少し遅れてゴーレムの体がゆっくりと倒れました。

「サイラスさん、胴体をマジックバッグに入れてください」
「え? これでいいの?」

 レイが指示したとおりにサイラスがギンギラギンの胴体をマジックバッグに入れました。すると奥の扉が開き、下へ向かう階段が現れました。さらに、部屋の中央に宝箱が現れました。

「レイ、宝箱は……大銀貨が二枚でした」
「それなら半分ずつだな」

 微妙な金額ですが、最初に折半と言ったので折半にします。シーヴは一枚をメルヴィナに渡しました。

「旦那様、頭です」
「ありがとう、シャロン」

 シルバーゴーレムの後ろでは、シャロンが頭をキャッチしていました。受け取ったレイがゴーレムの頭を見ると、目の部分が光っています。コアは無事なようです。

「このゴーレムって生きてるんじゃないかしら?」
「生きてますよ。コアは無事なので」
「大丈夫なの?」
「ええ。扱いには慣れてますからね」

 レイがそう言うと、ニコルたちは頭を掻きました。こうやって倒されましたからね。記憶はちゃんとあるんですよ。あくまでダンジョンの支配から解放されただけで。

「そうだ。胴体はどうしたらいいの?」
「出すと頭とくっつこうとするから、そのままもらってください」
「え? 折半って言わなかった?」
「俺としてはコアのほうが欲しいんですよ」

 レイとサイラスとメルヴィナが話をしている間にも、ゴーレムの頭が棒人間のように変形して逃げ出そうとします。するとまたラケルに引きちぎられました。さらにラケルは、リンゴを割るようにゴーレムの頭を割ってコアを取り出しました。レイの手のひらの上でコアが虚しく明滅しています。

「ひょっとして、ここにいるゴーレムたちも?」
「ええ。リーダーのニコルはちょうどここにいた元ボスです。他の七人は一三階から一五階にいたところを同じようにして捕まえました」

 ニコルたちはそろって首を縦に振ります。過去の経緯はともかく、レイは主人としては悪くありませんからね。被使用者としては、適切な仕事を与えられるとやる気になるものです。

「へー。ボスを倒して、かつコアは壊したらダメってことね」
「そういうことです。なかなか大変なんですよ。集めるのが」
「……どこを目指してるの?」
「そろい始めると集めたくなりません?」
「ゴーレムを?」

 メルヴィナは、まったく意味がわからないという表情をしました。サイラスにも意味がわかりません。わかるのはサラとシーヴとマイくらいでしょう。
 レイはガチャにハマったとか、そのようなことはありません。ただ、ガチャはやったことがあります。すべてそろえることに興味はありませんでしたが、そこそこの数を並べるとのです。

 ◆◆◆

 ボスを倒して階段を降りた一行は、安全地帯で休憩することにしました。


「レイ、家の話をお二人にしたらどうですか?」
「あ、そうだな」

 これまで他のパーティーと行動パターンが違った『行雲流水』には、冒険者の知り合いがあまりいません。領主から譲られた家を紹介するのに、この二人はちょうどいいとシーヴは感じました。ギルドで働いていたこともあって、人を見る目があるのです。

「いきなり変なことを聞きますけど、お二人は宿屋暮らしですか?」
「そうだよ」

 ダンジョン都市は冒険者が中心になります。宿屋は多くても家は少ないのメルヴィナは言いました。
 二人は他のダンジョンにも潜ったことがあります。

「実は、家があるんですけど、どうですか?」
「どうですかって、どういうこと? 私たちが住めるの?」

 怪しむメルヴィナにシーヴが説明します。レイは領主から住宅五軒の優先使用権をもらっていて、今のところ埋まったのはモンスとレックスに贈った二軒だけ。あと三軒はまだ紹介できていないと。

「出ていくと言わない限りは代々住めるという権利書を渡されるということです。土地も建物も領主の持ち物なので、売ることはできません。建て替えがどうなるかまではわかりませんけど、建ったばかりなので、あまり気にしなくてもいいでしょう」

 それを聞いたメルヴィナは、サイラスに向かってうなずきました。

「それなら……ねえ」
「そうだね。よければ紹介してもらえるかな」
「もちろんです。それならこれを冒険者ギルドで渡してください。取り次いでもらえるように手紙を入れておきましたので」

 レイは紹介状を取り出すとサイラスに渡しました。

「さて、それじゃ俺たちは帰ります」
「いろいろとありがとう」
「元気でね」

 レイたちは『双輪』と別れると、転移部屋から地上階へと戻ると家に帰りました。

 ◆◆◆

「とりあえずあと二つか」
「無理して埋める必要がありますの?」
「住人がいないまま放置されるのも問題だろ」

 すでに家は完成しているわけです。好意というかお詫びで用意してもらったからには誰かに譲りたいと思っているレイです。ただ、あまり知り合いがいませんからね。ギルドの知り合いで誰かが結婚するとなったら渡すのもありでしょうが、いきなり家をもらっても困るかもしれません。

「さて、ゴーレムのコアがどうなるか」

「初めてだから新鮮」
「光って綺麗ですぅ」

 ボス部屋にいた元シルバーゴーレムがアオイ、その他がフラン、ヒナタ、レスリー、メル、ルース、ヴィヴィアン、ウィルを選びました。それぞれ額の部分に、A、F、H、L、M、R、V、Wの文字が浮かびました。

「毎回コアだけにする必要がなくていいな」
「可搬性は大切」

 マイがアオイを手のひらに乗せています。彼女がまだ若いころ、デフォルメされたキャラクターのアクリルスタンドやフィギュアが流行った時期がありました。あれと同じ感覚で眺めています。

「この子たちをどうするんですかぁ?」
「これまでと基本は同じでいいと思うぞ。護衛としてちょうどいいだろう」

 何かがあれば体を大きくして盾になれます。ダンジョンの構造材でできているので、相当に頑丈です。強力な魔法を使ってもダンジョンに穴があくことは滅多にありませんので、魔法耐性もかなり高くなっています。
 サイズが小さくなれば軽く、大きくなれば重くなります。物理法則が無視されたようにレイは感じていますが、そもそもダンジョンが物理法則を無視した存在です。今さらでしょうね。
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