死ニ至ル呪イ~望郷の想い出~

那周 ノン

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第六章【昂奮】

第三十一節 奪還の計画

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 ――朝日が昇り始め、視界がハッキリとしてきた頃。

 ホムラからの手紙で指定されていた場所へ近くなってきたため、ハルは馬から降り、その馬を森の中に隠すために手綱を引いて歩いていた。
 そうして、途中の程よい太さをした樹木に馬の手綱をくくりつけ、その場に馬を待機させることにした。

「ありがとうな。ここで暫く待っていてくれ」

 ハルは微かな笑みを浮かべ、馬の鼻面を優しく撫でる。


 ハルが馬から降りた理由――。

 それは、ホムラによって指定された場所の周囲まで馬で近づきすぎてしまうと、ホムラと彼に従っているであろう者たちに気付かれてしまう可能性があるためだった。
 そのため、ハルは途中で馬を降り、そこからは森と茂みに身を隠しつつ徒歩で向かうつもりでいた。


 ハルは道具などの確認を行い、身を整えて静かに森の中へと歩みを進めていった。


   ◇◇◇


 ハルは辺りに注意を払いながら、徒歩で森を進んで行く。

 太陽が真上を上りきり、ハル自身が予定していた時間よりも少しだけ時間がかかりはしたが、ハルはホムラからの手紙で指定されていた地へ辿り着いた。

 ホムラからの手紙によって記されていたそこは、高い崖の岩肌が広がり――、その岩肌の一か所に掘削くっさくされた坑道のような入り口があった。

「――あそこがそうだな……」

 ハルは鬱蒼うっそうとした緑の生い茂る森に気配を消して身を木陰に隠し、赤茶色の瞳に鋭さを滲ませて小さく言葉を零す。


 ハルが目にした――、坑道と思しき入り口の周りには、多くの木材が積まれたままになっている。そして、その木材の大半は黒ずんだ朽ちかけた色を見せていた。
 他にも、辺りには放棄された物だと思われるツルハシなどといった穴掘り用の道具が錆びた様子を見せて置き去りにされている。

 そんな木材や道具の数々の様子は、その坑道が掘削くっさくの途中で何かしらの理由があり急遽中止され、そのまま放置されていることを雄弁に物語っていた。

(――あの坑道……、崖向こうまでは繋がっていなさそうだな……)

 ハルは、その窺い知れる様子を目にして、そう思い至る。

(掘削くっさくが中止されて、途中で行き止まりになっているだろうな……)

 ハルは入り口付近の状況を見て、そう判断する。

 坑道とは、本来であれば鉱山や炭鉱での採掘を行ったり、労働者の往復及び通気の意味を兼ねたものである。

 だが、地理的に考えると、その地はちょうどカーナ騎士皇国との国境付近にあった。

 ハルが考えるに、かつては友好国同士であったリベリア公国とカーナ騎士皇国との――、商業などの往来で使用するための地下道として掘削くっさくがされていたものだと思われた。

 しかし、現状でリベリア公国とカーナ騎士皇国は対立関係の立場にある――。

 恐らくは、この坑道はちょうど両国が対立関係に立つ前に掘削くっさくが始まり――、そして、カーナ騎士皇国が不穏な動きを見せてきたために、リベリア公国側の思惑により掘削くっさくが中止されたのであろう。

 なので、崖向こうまで通り抜けてはおらず、途中で行き止まりの洞窟のようになっているはずだ――と、ハルは冷静に分析していた。


「――大抵の頭目は……、やっぱり一番奥で待ち構えているもんだよな……」

 誰に言うでもなく、ハルは静かに独り言ちる。

 坑道の最奥――洞窟となっている場所でホムラが待ち構えており、ビアンカもそこに囚われているはずだと、ハルは思う。

 人間の心理的に、上に立つ者ほどその場を動こうとはせず――、下に付き従う者たちを動かしていくものだと。ハルは今までの経験から予測していた。

 ――いつの時代でも、人間っていうのは愚かで……、そういうもんだよな……。

 ハルは永き時を生き続け、様々な国や統率者のいる街の状態を目にしてきた故に、そのことを嫌というほど思い知らされてきた。

「――さて……、頭目を含めて中に何人いることやら……」

 ハルは呟き、坑道の入り口を見据える。


 現状で、坑道の入り口に見張り役として立っているのは――、男が二人。

 二人の男たちの様子は、かなり気の抜けたものであった。
 時折、欠伸あくびを混ぜながら楽しげに談笑をしている。

 誘拐をしてきたウェーバー家の令嬢であるビアンカの父親――将軍であるミハイルが、まだ来ないだろうと高をくくり、緊張感など微塵もない雰囲気を見せていた。


(――どうせ動くなら夜闇に紛れて動いた方が良さそうだな……)

 ハルは、まずホムラに付き従っている者たちが何人潜んでいるのかを見定める方が先だと思い、そう思案する。
 それ故に、ハルは静かにその場で辺りの様子や坑道周辺の様子を窺っていた。

 ハルは心を静かに落ち着けて、森の中の木々に身を潜ませ――木々の気配と一体化して自身の気配を消していた。
 それは“木化け”と呼ばれる狩人の技術であり、この技術も永い時を生き続けてきたハルが身に着けたものの一つであった。

 ――「獲物を見据え、たかぶる殺気を抑えて……、森の木と気配を同化させるんだ」

 ハルに“木化け”の技術を教えた狩人を生業としていた中年男性の言葉が、ハルの頭の中に響く。

 ハルは息をも殺しつつ微動だにせず、坑道の入り口の様子を見つめ続けていた。
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