死ニ至ル呪イ~望郷の想い出~

那周 ノン

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第十章【リベリア解放軍】

第五十二節 強襲

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 ハルはリベリア王城を目にして、リベリア公国旗の代わりに掲げられている――黒地の布に赤い茨、そして白い二本の剣が描かれた旗を、苦渋に満ちた表情を浮かべて見つめながら奥歯を噛み締めた。

 掲げられている旗は“リベリア解放軍”の解放旗かいほうきであり――、反王政派の集団の象徴である。
 その旗がリベリア王城に掲げられているということは――、今リベリア公国を襲撃している相手が“リベリア解放軍”である、ということを雄弁に物語っていたのだった。


 その光景を目にして、ハルはいつか見た悪夢を思い出す――。

(――あの時見た悪夢は……やっぱり予兆だったのか……)

 ハルは悪夢の内容を思い出し、心中で考えていた。
 あの夢は、ハルが身に宿す呪いが見せた“予知夢”に近いものだったのだろうと――。

 ――恐らくは、ウェーバー邸に仕えていた使用人たちは……。

 ハルはそこまで考え――、オルフェーヴル号にまたがったまま、呆然とした様子でリベリア公国の有様を見つめているビアンカに目を向ける。

 そこでハルは不謹慎だとは思いつつも――、今この場所に共にビアンカがいることに安堵の思いを持っていた。

(あの悪夢では……ビアンカも……)

 ハルの見た悪夢では、“リベリア解放軍”によって襲撃を受けたウェーバー邸では――、ビアンカも凶刃きょうじんの犠牲になっていた。

 胸元を剣のような鋭利な刃物で一突きにされ、冷たい亡骸になっていたビアンカ。
 いくら悪夢の中といえども、ハルはその光景を思い出すと――、心の奥底が凍り付くような寒気に襲われる。

「ハル……、これ、いったい何が起こっているの……?」

 ビアンカが震える声でハルに問いかけてきた。
 そのビアンカの声音は、自分自身が目にしているものが信じられない――、といった思いを窺わせるものだった。

「……恐らく、“リベリア解放軍”の仕業だ」

「“リベリア解放軍”の……?」

 ハルの言葉にビアンカは眉をひそめる。

「どうしてっ?! “リベリア解放軍”は――、頭目のホムラ師範代が亡くなったから離散したんじゃなかったのっ?!」

 ビアンカも“リベリア解放軍”のその後の成り行きを知っていた。

 だが――、一つ、ビアンカが思い違いをしていたのは、“リベリア解放軍”が離散したわけではなかったことだった。

 あくまでもリベリア公国が、“リベリア解放軍”に対して行ったのは、頭目であるホムラを討伐し、その根城を制圧したという宣言のみ――。
 そして、その“リベリア解放軍”に参加しているであろう者たちに対して、『残党狩りを行う』――という牽制を与えただけで、実際に残党狩りが行われなかったのであった。

「――“リベリア解放軍”は離散していなかったんだ。リベリア国王が……、ミハイル将軍を遠征に出してばかりいて騎士団を動かさなかったから――、残党狩りが行われていなかったんだよ」

「そんな……っ!」

 これも――、新王妃にうつつを抜かし、国政や――国を脅かす存在の排除をする任を与える役割を疎かにしたリベリア国王の招いた結果であった。

 ――早々にリベリア国王が騎士団を動かしていれば、こんなことにはならなかったはずなのに……っ!!

 ハルはリベリア国王という――愚王の招いた自体に嘆息たんそくの思いを抱く。

「ビアンカ。国には戻らず、このまま逃げた方が良い……」

 ハルは現状のリベリア公国の様相を見て、ビアンカに提案する。
 しかし、ビアンカはハルの提案に驚いたような表情を見せた。

「――でも、お家のみんなは……っ?!」

 ハルはビアンカの言葉に、小さくかぶりを振った。

 ハルの仕草が意味すること。誰も助からない――、という無慈悲な意味をビアンカは察して息を飲む。

「そんな……」

 ハルの言いたいことを察したビアンカは、悲しげにこうべを垂れる。

「ビアンカ……」

 ハルが慰めと、逃走の促しの言葉を発しようとした。

 それと時をほぼ同じにして――。

「おいっ! あそこにいるの、ウェーバー将軍の娘じゃないかっ!?」

 突如――、リベリア公国の城門の方から、大きな声が上がった。

「――――っ!?」

 ハルは咄嗟に大きな声が上がった方向に目を向ける。

 するとそこには――、抜身の剣と弓を手にした数人の男たちの姿があったのだった。

「やばいっ!! ビアンカ、下がれっ!!」

 ハルはビアンカに声を掛けると同時に、ペトリュース号にまたがったまま――、ビアンカを庇うように彼女の乗るオルフェーヴル号の前に出ていた。

「ハル――ッ!!」

「――放てっ!!」

 ビアンカがハルの行動に驚愕の声を上げるのと合わせたかのように――、弓を手にした男たちが、ハルとビアンカに向けて弓矢を射る。
 ハルが扱う真っ直ぐな軌道で飛ばす弓とは違い、高く放射線を描いて二人に向かって放たれる矢――。

 だが――、リベリア公国の城門とハルとビアンカのいる位置は、少しだけ距離があるため――、咄嗟に逃げの体勢を取った二人に放たれた矢は幸いにも命中することはなかった。

「逃がすなっ! 必ず仕留めろっ!!」

 指揮を執っている男の一声に、再度放たれる数多の弓矢。
 まるで雨のように降り注ぐ矢に、ハルとビアンカは狼狽ろうばいを隠せなかった。

(――これは……まずい……っ!!)

 ハルが状況に焦りを感じ、何とか打開策を見出そうと一考した瞬間だった――。

 ハルのまたがるペトリュース号の臀部でんぶに――、降り注いできた矢が突き刺さった。
 臀部でんぶに弓矢の一撃を食らったペトリュース号が痛みからいななき――、両前足を上げ大きく暴れる。

「うわ――っ!!?」

 突如、自身がまたがるペトリュース号が大暴れを始めたことで、ハルはバランスを崩す。
 そうして――、バランスを崩したことで、ハルはペトリュース号から振り落とされ落馬をし、地面にしたたか身体を打ち付けてしまう。

「ハルッ!!」

 ハルが落馬をしたことを見とめたビアンカは、慌ててオルフェーヴル号から飛び降り、ハルに駆け寄った。

 しかし――、ハルの元に駆け寄っていくビアンカは、ある光景を目にしていた。

 それは――落馬をして、地面に尻もちをついた状態になっているハルの元へ向かい飛んでくる一本の矢――。

 ――いけない……っ!!

 ビアンカは飛んでくる矢の存在を目にした刹那――、ハルに覆い被さるように彼に飛びついていた。

「――――っ!!」

 ハルを庇うように飛びついたビアンカが一瞬――、声も上げずに苦悶の表情を浮かべた。

 けれども――、ハルがそのことに気が付くことはなかったのだった。
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