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第十六章【ハルの想い出】
第八十節 棍使いの女性①
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欲深い狼に襲われかけていた幼い少年の目にした女性――、それは、亜麻色の長い髪と黒い外套を風になびかせ、少年を庇うように立つビアンカだった。
ビアンカは険しい表情を窺わせ、狼のような姿をした魔物――欲深い狼を睨みつけながら棍武術の構えを取る。
その様子を少年は――、唖然として見つめていた。
(――誰? このお姉ちゃん……?)
少年は、突如として現れた女性――、ビアンカが何者なのかに疑問を感じる。
初めて目にする見知らぬ女性。だけれど少年は、ビアンカの亜麻色の長い髪と翡翠色をした瞳に、思わず見惚れてしまう。
(里の人じゃない……。けど、この気配……、爺ちゃんと似た感じ……)
ビアンカを目にして、少年は“喰神の烙印”の呪いを継承する“始祖”――、自身の五世の祖である人物とビアンカに、同様の気配がすることを聡く感じ取っていた。
不可思議な思いからか、呆然とした様相でビアンカを見つめる幼い少年を、ビアンカは傍目に見やる。
そして、少年を見つけられたことに安堵の感情を持ちつつも――、現状に嘆息の思いを抱いていた。
(狼の遠吠えが聞こえて、まさかとは思ったけれど……)
少年の周りを取り囲むようにして、低い唸り声を上げる欲深い狼たち。
ビアンカは少年から視線を外し、再び欲深い狼たちに目を向ける。
(――本当に魔物に襲われているなんてね……)
ビアンカは、この幼い少年のいる場所へ訪れるよりも先に――、少年を探して迷いの森を探索していた“喰神の烙印”を伝承する隠れ里の、“眷属”である男衆に出くわしていた。
ビアンカは、その“眷属”の男衆に、自らが『調停者』の従者であり、迷いの森で迷わない能力を持っているため、自身も少年を探すことを手伝う旨を伝えていたのであった。
そうして、まだ“眷属”の男衆が足を踏み入れていない迷いの森の地域で、少年を探すことを任されていたのだった。
そして、ビアンカが任された迷いの森の一角。そこで少年を探して彷徨っている内に――、彼女の耳に、狼の遠吠えをする鳴き声が聞こえた。
まさかと思い狼の遠吠えの声がした方向へ、ビアンカが急ぎ駆けつけた時――。
今まさに――、欲深い狼が、幼い少年に襲い掛かろうとしている場景に遭遇したのである。
いけない――と、ビアンカが思った刹那。ビアンカは咄嗟に外套の下に隠し持っていた短剣を、少年に襲い掛かろうとしていた欲深い狼へ目掛けて投げつけていた。
ビアンカの瞬時に投げつけた短剣は、少年に襲い掛かろうとしていた欲深い狼の腹部に深々と刺さり――、少年への強襲を止めさせた。
その後は――、手にしていた棍を使い、腹部に短剣が突き刺さり痛みから悶絶する様を見せていた欲深い狼を一撃で仕留めた。
欲深い狼の一匹を仕留めたビアンカは、少年を取り囲んでいた他の欲深い狼たちを棍で払い除け、その場に腰を抜かして座り込んでいた少年の傍らに駆け寄っていたのだった。
(――魔物は、十匹前後ってところね……)
周りを取り囲んでいる欲深い狼たちに視線を向けて、ビアンカは今この場に何匹の魔物――欲深い狼が存在しているかを確認する。
(“喰神の烙印”の力は、ここで使うわけにはいかないから。――棍だけで何とかするしかないわよね……)
“喰神の烙印”は、本来であれば、この世に二つとない呪いである。
ここが過去の時代の世界だ――と。そのことを思い、今の時代に存在する“喰神の烙印”の継承者――、“始祖”が持つはずの力を、“喰神の烙印”を伝承する隠れ里の住人である少年の目の前で行使するわけにはいかないと。そうビアンカは考え至る。
ビアンカは――、現状を自身でも気付かぬ内に、冷静な思考で判断をしていた。
欲深い狼は、唐突にその場に姿を現したビアンカを睨みつけ、低い唸り声を上げる。
それは、「獲物を横取りされた」――、という様相を窺わせるもので、今にも飛び掛からんばかりの熱り立ちをビアンカに推知させた。
「――私が、あなたを必ず里に帰してあげるから。私の傍から離れないでね……」
ビアンカは自らの足元に座り込んでいる少年に、目を向けずに静かに呟く。
「う、うん……」
ビアンカの言葉に、少年は頷きと共に返事をする。
大人しく従う返事を零した少年であったが、自身を庇うようにして立つ女性――、ビアンカが果たして自分を守り、戦えるのかを疑問に感じていた。
(このお姉ちゃん……。こんな木の棒だけで、どうやって魔物と対抗するつもりなんだろう……)
少年は、ビアンカが持つ武器――、棍を目にして思う。
棍術という武術の存在を知らない少年は、ビアンカがただ長い木の棒を扱って戦うつもりなのだと思い込んでいた。それ故に、現状を打開できるのか、気掛かりな感情を覚える。
だが――、少年の心配も次の瞬間には、杞憂に取って代わっていた。
「ガウッ――!!」
熱り立った欲深い狼が、吠えるように声を上げ、襲い掛かってくる。
その様を視認した少年は「ひっ!」――と、思わず小さく悲鳴の声を零してしまう。
しかし、ビアンカは手にした棍を取り回し――、棍術独特の構えである踏み込みの動作を見せて、遠心力の勢いを利用した薙ぎ払いで欲深い狼を去なす。
欲深い狼の頭を狙ったビアンカの棍での薙ぎ払いは、迷いの森に鈍い音と欲深い狼の悲鳴を響かせた。
ビアンカの棍の一撃を食らった欲深い狼は、土煙を上げながら地面を転がり――、ピクリとも動かなくなっていた。
「ふう……っ」
これで二匹目――、と考えながら構えを取り、ビアンカは周囲の欲深い狼たちに目を配る。
残っている欲深い狼たちは、仲間を殺められたことに動揺の色を思わせるが――、すぐさま鼻先に皺を寄せ、低く唸り声を上げ始める。
攻撃の姿勢を見せた欲深い狼たちは、我先にとビアンカを目掛け、飛び掛かっていく。
だが、ビアンカは素早く棍を取り回し、飛び掛かってくる欲深い狼たち――、動物に近い姿をした魔物の急所となる鼻先や頭、時には行動を制限させるために脚を狙い、空を切る鋭い音をさせて亜麻色の長い髪を翻しながら勢い良く棍を振るう。
ビアンカの棍での一撃一撃は、以前に剣術鍛錬と称した剣術と棍術の試合で、ハルを恐慌させたほどの――、少女の力とは思えない攻撃力を持って、欲深い狼たちを仕留めていった。
それらの立ち回りを全て、ビアンカは自身の傍らに座り込んだままでいる少年を中心として、その場からほぼ移動せずに行っていたのだった。
(このお姉ちゃん……、凄い――)
ビアンカの立ち回りを目の当たりにした少年は――、ただの木の棒で戦えるのかという、当初抱いていた不安を払拭させていた。
幼い少年は呆気に取られた表情を浮かべながら、ビアンカに対して感嘆の思いを感じていたのだった。
ビアンカは険しい表情を窺わせ、狼のような姿をした魔物――欲深い狼を睨みつけながら棍武術の構えを取る。
その様子を少年は――、唖然として見つめていた。
(――誰? このお姉ちゃん……?)
少年は、突如として現れた女性――、ビアンカが何者なのかに疑問を感じる。
初めて目にする見知らぬ女性。だけれど少年は、ビアンカの亜麻色の長い髪と翡翠色をした瞳に、思わず見惚れてしまう。
(里の人じゃない……。けど、この気配……、爺ちゃんと似た感じ……)
ビアンカを目にして、少年は“喰神の烙印”の呪いを継承する“始祖”――、自身の五世の祖である人物とビアンカに、同様の気配がすることを聡く感じ取っていた。
不可思議な思いからか、呆然とした様相でビアンカを見つめる幼い少年を、ビアンカは傍目に見やる。
そして、少年を見つけられたことに安堵の感情を持ちつつも――、現状に嘆息の思いを抱いていた。
(狼の遠吠えが聞こえて、まさかとは思ったけれど……)
少年の周りを取り囲むようにして、低い唸り声を上げる欲深い狼たち。
ビアンカは少年から視線を外し、再び欲深い狼たちに目を向ける。
(――本当に魔物に襲われているなんてね……)
ビアンカは、この幼い少年のいる場所へ訪れるよりも先に――、少年を探して迷いの森を探索していた“喰神の烙印”を伝承する隠れ里の、“眷属”である男衆に出くわしていた。
ビアンカは、その“眷属”の男衆に、自らが『調停者』の従者であり、迷いの森で迷わない能力を持っているため、自身も少年を探すことを手伝う旨を伝えていたのであった。
そうして、まだ“眷属”の男衆が足を踏み入れていない迷いの森の地域で、少年を探すことを任されていたのだった。
そして、ビアンカが任された迷いの森の一角。そこで少年を探して彷徨っている内に――、彼女の耳に、狼の遠吠えをする鳴き声が聞こえた。
まさかと思い狼の遠吠えの声がした方向へ、ビアンカが急ぎ駆けつけた時――。
今まさに――、欲深い狼が、幼い少年に襲い掛かろうとしている場景に遭遇したのである。
いけない――と、ビアンカが思った刹那。ビアンカは咄嗟に外套の下に隠し持っていた短剣を、少年に襲い掛かろうとしていた欲深い狼へ目掛けて投げつけていた。
ビアンカの瞬時に投げつけた短剣は、少年に襲い掛かろうとしていた欲深い狼の腹部に深々と刺さり――、少年への強襲を止めさせた。
その後は――、手にしていた棍を使い、腹部に短剣が突き刺さり痛みから悶絶する様を見せていた欲深い狼を一撃で仕留めた。
欲深い狼の一匹を仕留めたビアンカは、少年を取り囲んでいた他の欲深い狼たちを棍で払い除け、その場に腰を抜かして座り込んでいた少年の傍らに駆け寄っていたのだった。
(――魔物は、十匹前後ってところね……)
周りを取り囲んでいる欲深い狼たちに視線を向けて、ビアンカは今この場に何匹の魔物――欲深い狼が存在しているかを確認する。
(“喰神の烙印”の力は、ここで使うわけにはいかないから。――棍だけで何とかするしかないわよね……)
“喰神の烙印”は、本来であれば、この世に二つとない呪いである。
ここが過去の時代の世界だ――と。そのことを思い、今の時代に存在する“喰神の烙印”の継承者――、“始祖”が持つはずの力を、“喰神の烙印”を伝承する隠れ里の住人である少年の目の前で行使するわけにはいかないと。そうビアンカは考え至る。
ビアンカは――、現状を自身でも気付かぬ内に、冷静な思考で判断をしていた。
欲深い狼は、唐突にその場に姿を現したビアンカを睨みつけ、低い唸り声を上げる。
それは、「獲物を横取りされた」――、という様相を窺わせるもので、今にも飛び掛からんばかりの熱り立ちをビアンカに推知させた。
「――私が、あなたを必ず里に帰してあげるから。私の傍から離れないでね……」
ビアンカは自らの足元に座り込んでいる少年に、目を向けずに静かに呟く。
「う、うん……」
ビアンカの言葉に、少年は頷きと共に返事をする。
大人しく従う返事を零した少年であったが、自身を庇うようにして立つ女性――、ビアンカが果たして自分を守り、戦えるのかを疑問に感じていた。
(このお姉ちゃん……。こんな木の棒だけで、どうやって魔物と対抗するつもりなんだろう……)
少年は、ビアンカが持つ武器――、棍を目にして思う。
棍術という武術の存在を知らない少年は、ビアンカがただ長い木の棒を扱って戦うつもりなのだと思い込んでいた。それ故に、現状を打開できるのか、気掛かりな感情を覚える。
だが――、少年の心配も次の瞬間には、杞憂に取って代わっていた。
「ガウッ――!!」
熱り立った欲深い狼が、吠えるように声を上げ、襲い掛かってくる。
その様を視認した少年は「ひっ!」――と、思わず小さく悲鳴の声を零してしまう。
しかし、ビアンカは手にした棍を取り回し――、棍術独特の構えである踏み込みの動作を見せて、遠心力の勢いを利用した薙ぎ払いで欲深い狼を去なす。
欲深い狼の頭を狙ったビアンカの棍での薙ぎ払いは、迷いの森に鈍い音と欲深い狼の悲鳴を響かせた。
ビアンカの棍の一撃を食らった欲深い狼は、土煙を上げながら地面を転がり――、ピクリとも動かなくなっていた。
「ふう……っ」
これで二匹目――、と考えながら構えを取り、ビアンカは周囲の欲深い狼たちに目を配る。
残っている欲深い狼たちは、仲間を殺められたことに動揺の色を思わせるが――、すぐさま鼻先に皺を寄せ、低く唸り声を上げ始める。
攻撃の姿勢を見せた欲深い狼たちは、我先にとビアンカを目掛け、飛び掛かっていく。
だが、ビアンカは素早く棍を取り回し、飛び掛かってくる欲深い狼たち――、動物に近い姿をした魔物の急所となる鼻先や頭、時には行動を制限させるために脚を狙い、空を切る鋭い音をさせて亜麻色の長い髪を翻しながら勢い良く棍を振るう。
ビアンカの棍での一撃一撃は、以前に剣術鍛錬と称した剣術と棍術の試合で、ハルを恐慌させたほどの――、少女の力とは思えない攻撃力を持って、欲深い狼たちを仕留めていった。
それらの立ち回りを全て、ビアンカは自身の傍らに座り込んだままでいる少年を中心として、その場からほぼ移動せずに行っていたのだった。
(このお姉ちゃん……、凄い――)
ビアンカの立ち回りを目の当たりにした少年は――、ただの木の棒で戦えるのかという、当初抱いていた不安を払拭させていた。
幼い少年は呆気に取られた表情を浮かべながら、ビアンカに対して感嘆の思いを感じていたのだった。
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