薄情と言われても生まれつきだから仕方がないよね ~異世界で最も理解できないのは人間でした~

ふぉいや

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第4話

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特に反省点や改善点を指摘されることなく、休憩の後もう少しだけ素振りをして、今回の剣の指導は終了した。
本当に何も言われなかった。
中学の頃剣道部の同級生に、『初心者にはまず剣の握り方から教える』と聞いていたのだが、それすらなかった。
『指導すべき点がなかった』とポジティブに捉えるか、『この歳の子供にしてはしっかり出来ていると判断された』と捉えるべきか……。
ポジティブに捉えておくことにしようかな。
まだ初日なんだし、細かいところはもう少し経験を積んでから指導を受けるべきなのだろう。
そういえば本当に未経験の後輩に、0からゴルフを教えるのは大変だった記憶があるからね。

木剣は貰えるらしいので、ありがたく礼を言ってから帰宅。
これで指導を受けなくても素振りが出来るね。
さて、夕食の準備を始めるには流石にまだ早すぎるだろう。
今から何をしようか……。
買い物をするお金はないけど、探索ギルド近くの商店が並ぶ通りにでも行ってみようかな。
昨日から何が起こっているのか噂になっているかもしれないし。

そんな訳でランニングついでに情報収集へ。
世間ではどんなことが話題になっているのかな~?

「聞いたか?近くのダンジョンでまたスタンピードの兆候が現れたらしいぞ。」

「またか?少し前にもモンスターが外に出てきていたんだろ?この街は大丈夫なのか?」

「それが偶然領主様率いる領軍の兵士達がこの街に視察に来ていたらしくてな。探索ギルドからの情報をすぐにまとめてダンジョンに乗り込んでくれたらしいぞ。」

「領主様と領軍が来てたのか。数年前に領主様が代替わりして以来、この街の景気はだいぶ良くなったよな~。」

……ふむ。
ダンジョンでスタンピードの兆候があったのか。
それなら母親が忙しくなるのも仕方ないな。
『ギルド職員の中で書類仕事が1番得意』だと自慢していた様な覚えがあるし、今回もダンジョンから持ち帰られた情報を書面にまとめるのが忙しかったのだろう。
緊急性が高い仕事は大変だなぁ~。

他に気になるような話は聞こえてこなかったので、少し遠回りをする形でランニングの続きをしてから帰ることにした。



他の街がどうかは知らないが、この街には城壁に沿うような形で広い道がある。
家々を城壁から離しておかないと、数年に1度の城壁の点検で足場をかける際に邪魔になるからだそうだ。
普段ここを通るときは馬車くらいしか通らないので全速力で走っているのだが、流石に前方の城壁が吹き飛ぶ光景を目撃すると、足が自然と止まってしまった。
激しく舞い上がる土煙の中から出てきたのは、腕が4本生えているゴリラの様な体形のモンスター。
身長の高さは3メートルくらいあり、腕や足は私のウエストよりも太い。
見るからに力の強そうなモンスターだった。

初めて見るモンスターを前に若干の感動を覚えつつ、さてどうしたものかと思考する。

注意を引くのは不味いだろう。
今の私は少し魔法が使えるだけの子供だし、死ぬ前の私は戦闘経験など1度もないただの一般人。
襲われたらひとたまりもない。
まだ気づかれていない様だし、来た道を戻って助けを求めるのが最善だろう。

そう考えて、足音を立てないように注意を払いながらその場を後にする。
全速力で走りながら足音を抑える練習をしていてよかったと、結構本気で思ったのだった。

私が逃げ込んだのは当然、母の勤める探索者ギルドだ。
正直傭兵ギルドの方が距離的には近かったのだが、職員が私の顔を知っている方が話を聞いて貰えると判断したのだ。
探索者ギルドの建物内は非常に空いていて、待つことなく受付へ来ることが出来た。

「あら?どうしたの?クラリサさんのところの……ウィル君だったかしら?お母さんに何か用?クラリサさんは今街の外に行ってるから、用があるのなら私から伝えておくわよ。」

「いえ、城壁が吹き飛んで太い腕が4本もあるモンスターが街の中に入ってきたのでギルドに避難しに来ました。」

「……もう1度言って貰えるかしら?」

「城壁が吹き飛んで太い腕が4本もあるモンスターが街の中に入ってきたのでギルドに避難しに来ました。」

「……ちょっと待っててね。」

受付のお姉さんは奥へと行ってしまった。
別に私はギルドに助けを求めに来たのではなく、この街で私が入れる建物の中で一番頑丈と思われるこの建物に逃げ込んで来ただけなのだ。
ついでに城壁が吹き飛んで穴が開いたことと、モンスターが侵入してきたことも伝えれば問題ないだろう。

隣の受付にいたお姉さんに紙と書く為の道具を借りれないか聞いたところ、少し厚い紙と何の素材で出来ているのか分からないペン、それにインクを借りることが出来た。
覚えてるうちに見たままのモンスターの姿を絵にかいておいた方がいいだろう。
芸術性は一切ないが、見たままのモノを描くのは結構得意だったのだ。
紙と道具を貸してくれたお姉さんが私が描いているモノを見て驚いているので、これで今後の信頼度と好感度は爆上がりで間違いないだろう。

最初の受付であるお姉さんが、奥から男の人を連れて戻ってきた。
まだ輪郭を描き終えたところで、これから細かいところを描こうと思ったのだが、2人とも既に私が書いた絵に対して非常に驚いている。
今なら話を信じて貰えるだろうか?

「もう1度説明した方がいいですか?」

「……大丈夫。理解できたわ。」

信じて貰えた様である。

「ん?なんでウィルがここにいるんだ?何かあったのか?」

私が絵の続きを仕上げていると、ガリューさんに話しかけられた。
そういえば『後でギルドに顔を出してみるか』と言っていた様な気がする。
だいたいの探索者は朝一から仕事を始めるらしいので、ガリューさんは本来今日休みだったと思うのだが、私の話を聞いてこうして念のためギルドに顔を出すあたりに、真面目な人柄が現れている様な気がする。

「これは……上手いな。ウィルが描いたんだよな?剣も才能あったが、お前将来は絵で食っていけるんじゃないか?」

そういえば、転生前の世界ではイラストを描いて生計を立ててる人が一定数いたな。
この世界でも絵で食べていけるのだろうか?
……無理だな。
この世界情勢に近い年代であろう昔の芸術家は有名どころしか知らないが、そんな有名な芸術家も死んでから作品が評価されてばかりで、生きている間は非常に貧乏だったと聞いている。
そもそも絵はかかる出費が多いのだ。
使う道具のほとんど全てが消耗品。
今の貧乏な状況では、絵を描くための初期投資がまず無理だろう。
この黒しか使われていないモンスターの絵が描かれた紙に、いったいどれだけの金銭的価値がつくのかは想像できないが、生活していくための資金になってくれるとは到底思えない。
そこまで楽観的に生きていける世界だとは思っていない。
という訳で、絵で生きていくのは却下で。
下手な希望は持たない方がいいのだ。

「たぶん無理だからやめておく。」

「そうか?ところでモンスターだけでなく街の情景まで随分詳細に描いているが……実際に見たわけじゃないよな?」

「見たから描いてるんだけど。」

チラッと見てみるとガリューさんが凄い顔をしている。
言葉を失ったときに人はこの様な表情になるのか。
勉強になる。
ガリューさんが受付のお姉さんを見ると『今確認中です』とお姉さんが言ったので、気にせずに絵を完成させることにした。
舞い上がっていた砂埃の表現が凄く難しい。

絵が完成した頃に情報が入った。
あのモンスターは既に傭兵ギルドの方々が討伐したらしい。
周辺被害が相当ひどいそうだがその辺のことには興味がないので、モンスターも狩られたことだし帰ることにした。
そろそろ夕食の準備をしないと遅くなってしまう。
一応声をかけてから帰るか。

「モンスターが討伐されたのならそろそろ帰る。紙と道具ありがとう。」

「え?……そう、気を付けて帰ってね。」



という訳で家に戻って来た。
絵を描いた紙を普通にギルドに忘れてきてしまったが、そもそも紙の代金を払えないので別に問題ないだろう。
絵を自由に有効活用して欲しい。

という訳で今日の夕食の支度を始める。
今日も昨日と同じ野菜スープだ。
ただ、今夜パンを食べたらパンが無くなってしまうので、明日からの分のパンを焼かないといけない。
ハッキリ言って、素人が作るパンと買うパンに、大した差がないのだ。
むしろ小麦粉と塩と水しか使っていない、自作のパンの方がマシな気さえする。
恐らく小麦を小麦粉にする技術が発達していないので、雑味が非常に多すぎるのだ。
まぁ、パンを作るために使う小麦粉は買って来た普通の小麦粉をそのまま使うので、味に大差は出ないと思うのだが、値段が抑えられる自作の方がいいだろう。

スープは作り慣れたものでサクッと完成し、パンの生地をめちゃくちゃ頑張って捏ねていると、母親が帰って来た。

「ウィル!無事!?怪我はない!?「ないよ。」モンスターを見たって聞いて心配で……。ナターシャやガリューさんは『何ともない』と言ってたけど、実際に見るまで心配で……。」

多大な心配をかけてしまったことを申し訳なく思う気持ちが少しはあるが、不可抗力としか言い様のない出来事なので何も言えることがない。
とりあえず今日はもう、仕事は終わりなのだろうか?
パンを捏ねていた最中だがスープは出来ているので、すぐにでも夕食にすることは出来る。
どうせパンは明日の朝までに焼けていればいいので、食べ終えてから続きをしても問題ないのだ。

「お腹空いてる?スープはもう出来てるし、パンも残りがあるから、すぐに食べれるよ。」

「……ごめんなさい。すぐに仕事に戻らないといけないの。明日は休暇を貰えそうだから、いい子で待っていてくれるかしら。」

「分かった。とりあえずパンだけでも食べながら戻ったら?」

「……そうね。いつもありがとう。」

パンを母親に手渡すと、すぐに母親は家を出て仕事に戻った。
今回は本当に大変そうだ。
そういえばスタンピードの兆候に対する対応は領軍が主体になって解決するのかと思っていたが、書類仕事だけは全て探索者ギルドに丸投げしているのだろうか?
というか今日街に入って来たモンスターはどこから来たのだろう?
……嫌な予感がする。
ダンジョンに入った領軍が全滅し、スタンピードがこの街を襲うようなことがなければいいのだが……。

1人で夕食を食べ、パン作りを再開し、パンを作り終わった後は今日も扉に板をはめて家へ出入りが出来ないようにしてから眠った。
横になってから意識が落ちるまで、なかなか嫌な予感が頭から離れないのだった。
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