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第12話 『父親』
しおりを挟む3人が村に着いたときには日はもう沈んでいて、ちょうど夕食の時間となっていた。
各自一旦荷物を置きに行ったあと、食堂の前へと再び集まった。
「すまない、待たせたなカミラ」
「お待たせしました」
「今来たばっかよ」
「よかった。じゃあ、中へ入ろう」
「…ええ」
カミラは入り口のドアに手をかけたが、開けることはせずに立ち止まってしまった。
中に入ってしまうと、父親と顔を合わせることになる。それどころか、普段いないはずの自分がいることを珍しく思った村の人達からきっとまじまじと見られる。
そう思うと少し怖くなり、中に入ることができなくなってしまった。
一見大雑把に見える彼女。しかし、意図せず周りを気にしてしまう繊細さも兼ね備えているという、思春期特有の不安定さがあった。
「…ごめんなさい」
立ち尽くし2人に謝罪するカミラ。そんな彼女にエイジは微笑み語りかける。
「いいんだ…無理強いはしない…ただ、心の中で少しでも変わりたいと…そう思ってるのなら後から着いてこればいいさ。うつむいたままでもいい…途中で帰ってもいい…まずは一歩を踏み出すことから始めてみよう」
「大丈夫です、カミラ様。私もよくじろじろと見られます。ですが、なにも感じません」
「はぁ…それはアンタに感情がないからでしょ…羨ましいわ…アンドロイドのアンタが…」
自信満々にそう言うアイビスに、カミラはため息をつき呆れる。
「どうする、カミラ」
「…ついてくわ…先に行ってちょうだい…」
カミラはボソッとそう言った。
「ああ、わかった」
エイジは答えるとドアを開けた。すると、中で話をしている人々の声がカミラの耳に入った。その声に少し怖じ気づいたが、そのままエイジとアイビスの後ろについていった。
すると、カミラの姿を見た人々は絶句し、食堂は少し静かになった。
カミラは下を向き、2人についていく。
すると、ジークの声がした。
「おお!2人とも来た…か……カミラ?」
「…なによ」
驚きの表情を浮かべるジークに対して、カミラは下を向きながら言った。
「あ…いや…なんでもない…」
予想外のことに彼は戸惑っていたが、どこか嬉しそうにも感じる。
そんな彼の隣には、昨日と同じ3人分の席が開けてあった。
3人が着席すると、ジークは昨日と同じように号令をかけ、皆は食事へと手を伸ばし始めた。
今日の献立はというと、トウモロコシのトルティーヤに野菜のスープ、そしてヤギのステーキ肉だった。
「いただきます」
エイジはまず、スープに手をつける。素朴な味わいの温かいスープが、半日に及ぶ作業で疲れた体へと染み渡った。次にナイフとフォークを手に取り、ステーキを切り分ける。すると、切り口からは肉汁があふれ出てきて、肉を口に放り込む瞬間への期待感が膨らんだ。思いきって口に入れ噛むと、ニンニクの香りと肉の旨味が一気に広がる。少し獣感を感じる味だが、にくにくが上手くバランスを取ってくれていて、香りと肉のガッツリ感を思う存分楽しめる素晴らしいステーキだった。
「…美味しすぎる…」
「ははっ、そうかそうか。そうだ、肉をトルティーヤで包んで食べてみてくれ。飛ぶぞ」
彼はジークの言った通りに、切り分け細かくしたステーキをトルティーヤに包んで食べた。
彼は驚愕した。
肉の脂のあまみとトウモロコシのトルティーヤのあまみが混ざり合い、お互いを引き立て合っている。まるで、ヤギの肉とトウモロコシはこうやって交わうために生まれたのかと、そう言わんばかりに相性はぴったりだった。
「どうだ?うまいだろ?」
「……これは…革命的です…」
エイジの大袈裟とも言えるその言葉にジークは思わず笑った。
アイビスは相変わらず気になり見つめている。
カミラはというと、会話に入らず気まずそうに黙って食べていた。
「…うまいか?カミラ…」
ジークにいきなり名前を呼ばれ、カミラはビクッとして驚く。
「…ええ」
「…そうか……少し…頼みを聞いてくれるか?」
「…なに?」
そうするつもりは無かったがつい無愛想に返してしまうカミラ。
「…明後日の朝に鴉がやってくる…それまでに……ここを出ていくんだ……自由のままに生きるお前には、ここは狭いだろう」
「はぁ!?急に頼みってったらなによ!?」
あまりに突拍子のない発言にカミラはガタッと席から立ち上がり、大声をだした。
周りはそれに驚き静まりかえる。
「…もうこれ以上……1人で傷つくことはないんだ…カミラ」
「ッな!?なんでッ知って」
「父親だぞ……気づかないはずがない……助けたいと…ずっとそう思ってたが…俺にはその勇気がなかったんだ…すまない……」
ジークは知っていながらも助けることができなかった自分の無力さを懺悔した。
「……意味…わかんない……」
それを聞いたカミラは混乱しつつ、静かにまた席に座った。
「待ってくださいジークさん!」
「…なんだ?」
急速に進行していく話に焦ったエイジは、自分達が覚悟を決めたことを話す。
「話し合って決めました…俺達は…奴らと…鴉と戦うつもりです」
それを聞いたジークは驚き、動揺しながら声を荒げる。
「なにッ!?そんなッ無茶だ!奴らのことをなにも知らないクセになんて無謀なッ!次は何体に増えてくるかもわからないんだぞッ!」
「たとえ何体来ようとも…俺達の覚悟は変わりません」
エイジは、決して揺るがない覚悟が宿った瞳でそう言った。
「…若造よ…その目……本気のようじゃな……」
昨日の夕食のときと同じ席に座っていた老人がエイジに話しかけた。
「…はい。必ずや成し遂げます」
「…お主の目を見ていると…昔を思い出すわい……若造よ…やってみればいいさ…」
「じいさんッ!あんたまで何を言ってるんだッ!彼らを無駄死にさせる気かッ!?あんな奴らに勝てるわけがないッ…どうやったって絶対に無理だ!!」
ジークはまたしても声を荒げ、気が気でない様子だ。今までの気さくな雰囲気の面影はなく、溜まりに溜まっていた不安や恐怖が爆発しているようだった。
みっともなく弱音を吐くジークに、さっきから歯をギリッと噛みしめ耐えていたカミラの堪忍袋の緒は遂に切れた。
「うるさいッ!!」
再び席を立った彼女はジークの方まで歩いて行き、目の前で大声で怒りをぶつけた。
「さっきから無理だとか出来っこないとかッ!やってもないクセして言うなッ!!だいたい…アンタはずっと逃げてただけじゃないッ!そんな臆病者にアタシ達をとやかく言う資格なんかないッ!!」
「カミラ…俺はお前のことを思ってーー」
「嘘だッ!アタシの気持ちなんか何も知らないクセにいつもいつも心配してるふりばっかりしてッ!」
「違う…俺はただ…いい父親にーー」
「うっさいッ!こういうときだけ父親を気取るなッ!母さんが死んだときだって…アタシのことなんか見向きもしなかったじゃないッ!!」
ジークには心当たりがあるようで、彼の心は後悔の念に襲われている様子だ。
そんな彼に、カミラは遂にとどめを刺した。
「アンタなんかッ…アンタなんか父親じゃないッ!!」
彼女は言ってしまった。
その瞬間、彼女の頬に平手打ちが飛んできた。
ーパチンッー
静かな食堂に、その音だけが響き渡る。
その場にいた者は全員、息を呑んだ。
「…ち、違う…俺…は」
ジークは片方の頬が赤くなったカミラの顔と、平手打ちを放った自身の手を交互に見て震えていた。
彼にそうするつもりは無かったが、それは反射的に出てしまったものだった。カミラに言われたことと、娘を叩いてしまった事実にショックを受け、立ち尽くしている。
すると、カミラは食べ掛けの食事を置いたまま、走って外へと出ていってしまった。
「ジークさん。お先に失礼します。アイビス、行くぞ」
「はい、ご主人様」
エイジは唖然としたまま棒立ちになっているジークにそう言い残し、闇夜に消えたカミラを探しに追いかけた。
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