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3話

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 翌日、新はとあるカフェに来ていた。女子が好きそうなお洒落なカフェは待ち合わせの相手の指定である。メニューを開きコーヒー1杯2,000円という額に思わずうげぇとなる。
 奴は人の財布のことなどお構いなしなのだろう。
 しばらくすると、新の待ち合わせの相手がやってきた。
「待ったか?」
「待った。何分待たせれば気が済むんだよ。遅刻魔」
「遅刻魔はお前も同じだ。お前にだけは言われたくない」
 新が待っていたのは山田望。現オメガ専門医である。先日までアメリカの大学病院でオメガの最先端医療を学んでいた人物である。望とは大学時代からの知り合いである。
「お前の奢りでいいんだよな」
「………奢らないと帰るんだろ」
「よくわかってるじゃないか」
「お前の考えてることなんてお見通しなんだよ」
「でわさっそく」
 望はこの店で一番高い10,000円もするトマトとモッチァレラチーズの高級若鶏のステーキを注文し、さらに食後のデザートに3,000円のチョコレートケーキ、2,000円のコーヒーを注文した。望だけの注文で計15,000円だ。一番高いモノ頼みやがって。容赦もクソもないな、新は心の中で愚痴をこぼす。
「売れっ子作家なんだから金あるだろ」
「お前に払うには高過ぎるんだよ」
「たかが15,000円だろ。新が夢中になってるオメガには15,000円なんて簡単に払うくせに」
 新は軽く目を見開き数回瞬きをした。望が葵のことを知っていることに驚いた。
「葵のこと知ってんの?」
「潤から聞いてる。無発情病なんだんだろ、その子」
「うん」
「無発情病は厄介だぞ」
「知ってる。調べたから」
「へぇー。新が他人のためにねぇ~」
 望はニヤニヤと笑みを浮かべる。
「男も女もとっかえひっかえして、フラフラしてたのにいつ一途キャラになったんだ?」
「うるせぇ」
「まあ、新も大人になったってことか」
 望はタバコを吸いながら、懐かしそうな新を見た。
「その話はいいんだよ。お前、最先端でオメガ治療の勉強してたんだろ? 無発情病の治療は見つかってないのかよ」
「ない」
「……やっぱり」
 最先端の医療に関わっている望なら分かると思ったのに、金が無駄になったようだ。
「正確には『ない』けど、あるよ」
「なに、それ? どっち?」
 新は頭にクエスチョンマークを浮かべる。
「無発情病の治療法はあるけど、未発表ってだけ」
「あるのか⁉︎」
 新は空色の目を輝かせた。
 望は右手の親指と人差しで輪っかをつくる。金の請求がストレートだ。
「……わかってるよ」
「持つべきものは金持ちの友人だな」
 数々のヒット作を出している新。働かなくても印税が勝手に入ってくる。1ヶ月の収入がサラリーマンの年収の倍以上入ってくるのだ。たまに甘いお菓子や服を買うくらいで普段金を使わない新の貯金はたまる一方で使い道などほとんどない。葵のだめに使えるなら本望だ。
「でも、なんで未発表なの? 発表したほうが大勢のオメガが喜ぶのに」
「それは大人の事情だろ。上の考えてることは私にはわからないよ」
 望は短くなったタバコを消した。
「じゃあ、そういうことで。今度一ノ瀬ってオメガ連れて来いよ」
「うん」
 腹いっぱいと薄い腹を摩る望は、伝票を新に押しつけた。
「ご馳走様」
「ちょっとは出しますとか可愛らしいこと言えないわけ?」
「新相手に言うわけないだろ」
「可愛くねぇな」
「お前に可愛いとか思われたくない」
 新は財布を取り出し支払いをする。新の分も合わせて諭吉3枚飛んでいってしまった。どんな豪華なランチだ。こんな馬鹿高いランチより葵のご飯の方が美味しいというのに。
 店を出て、新は望と別れた。
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