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3話
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今日は講義が午前中で終わる日だった。帰る準備をしている葵の前に牧原が現れた。 牧原千枝は男勝りの性格で、オメガの葵とも平等に接してくれるいい友人である。牧原は突然帰ろうとしていた葵の腕を掴んだ。
「あんた今日暇でしょ? 暇よね? 暇だよな。暇って言え」
「へ?」
まるで脅迫するかのように牧原は葵に迫る。
「戦場へ行くわよ」
「戦場?」
葵はクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げた。
「戦場ってどこ?」
「とにかく行くわよ‼︎ 戦いはもう始まってるの‼︎」
有無を言わさず強引に連れてこられたのは原宿。牧原の好きなブランドが今日セールらしく、葵は荷物持ちに抜擢されたらしい。
「オラァ‼︎ 退きなさいよ‼︎ これは私のよ‼︎」
目の前で繰り広げられている女同士の戦いに葵は、思わず「うわぁ…」と言う。
女たちから勝ち取った戦利品の入ったブランドのロゴが載っている紙袋を牧原は葵に渡し、再び別な店へと行く。
次から次へと店をはしごし、荷物は増えていく。大荷物を持たされ、次の店に行く途中だった。たまたま通りかかったカフェに新らしき人物がいた。しかも、向かい側には知的な雰囲気を醸し出す美女がいる。
毎日新を見ている葵が新と他人を間違えるはずもないし、新のような整った容姿はそうそういない。新は笑ったり、驚いたり美女と楽しそうに会話していた。
「なに見てるのよ」
突然足を止めた葵に牧原が不思議そうに尋ねる。葵の視線の先には五十嵐新がいた。
「生五十嵐新‼︎ サインもらおうかしら‼︎」
「プライベートだろ。あんまり関わるなよ。ほら、早く行かないと売り切れるぞ」
「そうだった‼︎ 一ノ瀬、走るわよ‼︎」
葵は牧原に言われるがまま走った。走りながら、先程の光景を思い出す。新と向かいに座っていた女の人は美男美女のカップルのようで、葵はその光景を見てお似合いだなと感じた。
新には番になってほしいと言われたが、葵は新と番になる気などさらさらない。自分のような欠陥オメガより、普通の健康体の人と幸せになってほしい。
出会いは最悪ではあったが、葵は新のことを嫌ってはいない。むしろ、最悪なイメージからどんどん高感度はアップしてきている。
見た目はあんなにカッコいいのに、ダラシないところや、アルファだからと見下す態度もとらない。ご飯だって、毎日美味しいと言って食べてくれる。
チョーカーも葵のことを考えてプレゼントしてくれた。発情期がこない葵にとって、チョーカーなんて自分には不必要なものだ。フェロモンが出ない体はベータと同じだ。違うのは妊娠できる機能があるのに発情期が来ないから使えないというだけだ。
以前、親戚の家に預けられたとき、強引に襲われそうになったことがあった。
『発情期がこないだと⁉︎ なんのためにお前を養ってたと思ってるんだ‼︎』
頬を殴られ、強引に服を脱がせようとする叔父に必死に抵抗する。
『いいことを考えた。発情期がこないなら、ヤればそのうちお前の病気も治るんじゃないか?』
ビリビリと破れる服の音に葵は恐怖心を抱く。嫌だと言ってもやめて貰えず、目の前が涙で滲む。
『その怯えてる表情はいいな。オメガなんてアルファに抱かれるためだけに存在するようなもんだ。せいぜい楽しませてくれよ』
フーフーと荒い息をする叔父が覆い被さり、強姦しようとした。葵はその後のことはあまり覚えていないが、強姦しようとしてきた叔父の腹を殴り、一心不乱に逃げた。
それ以来、アルファのことはあまりよく思ってはいない。潤や新のようないいアルファもいるのは確かだが、やはりトラウトのほうが勝つ。
新にはたまに冗談っぽく、好きだの結婚してだの言われるが適当にあしらっている。いい人だからこそ、ちゃんとした相手と結ばれて幸せになってほしいと思う。
だから、今日新が美女と一緒にいる場面を見た時、ほっとしたのだ。
このまま葵からあの美女に気持ちが移って幸せになってほしいと願った。
「あんた今日暇でしょ? 暇よね? 暇だよな。暇って言え」
「へ?」
まるで脅迫するかのように牧原は葵に迫る。
「戦場へ行くわよ」
「戦場?」
葵はクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げた。
「戦場ってどこ?」
「とにかく行くわよ‼︎ 戦いはもう始まってるの‼︎」
有無を言わさず強引に連れてこられたのは原宿。牧原の好きなブランドが今日セールらしく、葵は荷物持ちに抜擢されたらしい。
「オラァ‼︎ 退きなさいよ‼︎ これは私のよ‼︎」
目の前で繰り広げられている女同士の戦いに葵は、思わず「うわぁ…」と言う。
女たちから勝ち取った戦利品の入ったブランドのロゴが載っている紙袋を牧原は葵に渡し、再び別な店へと行く。
次から次へと店をはしごし、荷物は増えていく。大荷物を持たされ、次の店に行く途中だった。たまたま通りかかったカフェに新らしき人物がいた。しかも、向かい側には知的な雰囲気を醸し出す美女がいる。
毎日新を見ている葵が新と他人を間違えるはずもないし、新のような整った容姿はそうそういない。新は笑ったり、驚いたり美女と楽しそうに会話していた。
「なに見てるのよ」
突然足を止めた葵に牧原が不思議そうに尋ねる。葵の視線の先には五十嵐新がいた。
「生五十嵐新‼︎ サインもらおうかしら‼︎」
「プライベートだろ。あんまり関わるなよ。ほら、早く行かないと売り切れるぞ」
「そうだった‼︎ 一ノ瀬、走るわよ‼︎」
葵は牧原に言われるがまま走った。走りながら、先程の光景を思い出す。新と向かいに座っていた女の人は美男美女のカップルのようで、葵はその光景を見てお似合いだなと感じた。
新には番になってほしいと言われたが、葵は新と番になる気などさらさらない。自分のような欠陥オメガより、普通の健康体の人と幸せになってほしい。
出会いは最悪ではあったが、葵は新のことを嫌ってはいない。むしろ、最悪なイメージからどんどん高感度はアップしてきている。
見た目はあんなにカッコいいのに、ダラシないところや、アルファだからと見下す態度もとらない。ご飯だって、毎日美味しいと言って食べてくれる。
チョーカーも葵のことを考えてプレゼントしてくれた。発情期がこない葵にとって、チョーカーなんて自分には不必要なものだ。フェロモンが出ない体はベータと同じだ。違うのは妊娠できる機能があるのに発情期が来ないから使えないというだけだ。
以前、親戚の家に預けられたとき、強引に襲われそうになったことがあった。
『発情期がこないだと⁉︎ なんのためにお前を養ってたと思ってるんだ‼︎』
頬を殴られ、強引に服を脱がせようとする叔父に必死に抵抗する。
『いいことを考えた。発情期がこないなら、ヤればそのうちお前の病気も治るんじゃないか?』
ビリビリと破れる服の音に葵は恐怖心を抱く。嫌だと言ってもやめて貰えず、目の前が涙で滲む。
『その怯えてる表情はいいな。オメガなんてアルファに抱かれるためだけに存在するようなもんだ。せいぜい楽しませてくれよ』
フーフーと荒い息をする叔父が覆い被さり、強姦しようとした。葵はその後のことはあまり覚えていないが、強姦しようとしてきた叔父の腹を殴り、一心不乱に逃げた。
それ以来、アルファのことはあまりよく思ってはいない。潤や新のようないいアルファもいるのは確かだが、やはりトラウトのほうが勝つ。
新にはたまに冗談っぽく、好きだの結婚してだの言われるが適当にあしらっている。いい人だからこそ、ちゃんとした相手と結ばれて幸せになってほしいと思う。
だから、今日新が美女と一緒にいる場面を見た時、ほっとしたのだ。
このまま葵からあの美女に気持ちが移って幸せになってほしいと願った。
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