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5話
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治療を初めて半年が経った。未だに治療の効果は現れていない。検査データは少しずつだが良くなってきているらしい。しかし、身体的な変化がなく、よくなっているという実感がわかない。
「一ノ瀬。落ち込むことはない。ちゃんと治療の効果は出てるよ」
「……はい」
「根気強く治療していこう」
この治療のデメリットは精神的にくることだろう。目に見えて効果が現れないというのは結構しんどいものだ。幸福な気持ちから一転、どん底に突き落とされた気分になる。
このまま治らなかったらどうしよう。新は愛想ついてどこか行ってしまうだろうか。やはり自分は治らないんじゃないかと、ネガティブな妄想ばかり広がる。
「一ノ瀬くん。ストレスが治療の一番の大敵だ。ストレスを感じるなというのは酷な話だと思うが、なるべく思い悩まないこと。新に思ってることは言ってスッキリしろ」
「……はい」
「それと前にも話したが、この治療は突発的にヒートがくることがある。いつどこでどのタイミングでくるかわからない。だから、抑制剤を処方しておくよ。何かあったら使うといい」
普通のオメガはヒートがくるタイミングを周期で把握しているため、その時期には家に引きこもる。ヒート時のオメガのフェロモンを嗅いだアルファはラット状態になりオメガに襲いかかる。ラット状態になったアルファには理性などなく無我夢中でオメガに子種を植えつけて繁殖行動に徹する。それが未だに社会問題であり、襲われたオメガは深い心の傷を負い自害する者もいると聞く。
考えただけでもゾッとする。
葵は病院を出ると歩いて家まで帰る。帰っている途中、なんだか熱っぽくて体が重く感じた。頭もぼーっとする。風邪でもひいたのだろうか。新に移ったら大変だ。はやく帰って風邪薬でも飲もう。
少し早足で帰り道を歩く。何故だろうか、道行く人が次々と葵に目を向ける。どうしたんだろう。
そのとき、腕を掴まれた感覚がした。掴んでいる手を辿り見ると葵の腕を見知らぬサラリーマンが掴んだ。
「やあ、こんにちは」
「……こんにちは?」
なぜ腕を掴まれてるのだろう。この人になにかしてしまったのだろうか。
「君、誘ってるの?」
誘ってる? なんのことだろう。葵は首を傾げる。
「こっちへおいで」
男が葵の腕を掴んで引っ張る。いつもなら簡単に振り解いて蹴りを入れるのに、今日に限ってはなぜだか力が入らない。腕を引かれ向かった先はラブホテルの前で、葵は咄嗟に恐怖を感じた。
「どこに連れて行く気だよ、おっさん!」
「どこってホテルだ。欲求不満なんだろ?」
「誰が‼︎ 離せ‼︎」
「うるさいな。そんな甘い匂いぷんぷんさせてなにするんだはないだろ」
男が振り向いた。その男の顔を見て葵はぎょっとした。目はギラつき獲物を狙う目だった。掴まれている手は痛くて堪らない。
そこでようやく自分がヒートになっていることに気付いた。
「初モノの匂いだ。君、最近発情期が来たばかりなんだね。初々しい匂いがするよ」
男はくんくんと葵の匂いを嗅ぐ。
「やだっ、嗅ぐな…!」
葵は近寄ってきた男の顔を叩いた。力が抜けた隙に掴まれていた腕を払い除け、すぐに男から離れた。
爪で頬を傷つけてしまったらしく、男の頬には血がたらりと流れ落ちる。
「あーあ。このキズどうしてくれんのかなー」
男は葵を上から見下すような目で睨みつける。
「威勢のいいオメガは嫌いじゃないが、アルファの前ではオメガはただの性欲処理のオモチャなんだよ。黙って足を広げとけば気持ちよくしてやるから」
嫌だ。
「それとも道端で犯して欲しいかい?」
怖い。
「フェロモンダダ漏れさせてる君が悪いんだよ」
上から下まで舐めるように向けられる性的な視線。
気持ち悪い。
思わず胃液が逆流しそうなった。
「君、ほんといい匂いだね。もう我慢できそうにないよ。ここでいいよね」
鼻息も荒く、息が荒い男。かつて自分を襲った叔父を思い出し、カタカタと体が震える。
「震えちゃって可愛い♡」
怖い。怖い。怖い。
葵は腰が抜けその場に座り込んだ。男は見下ろし舌舐めずりをする。
ゆっくりと伸びてきた手。
葵は思いっきり目を閉じた。
「一ノ瀬。落ち込むことはない。ちゃんと治療の効果は出てるよ」
「……はい」
「根気強く治療していこう」
この治療のデメリットは精神的にくることだろう。目に見えて効果が現れないというのは結構しんどいものだ。幸福な気持ちから一転、どん底に突き落とされた気分になる。
このまま治らなかったらどうしよう。新は愛想ついてどこか行ってしまうだろうか。やはり自分は治らないんじゃないかと、ネガティブな妄想ばかり広がる。
「一ノ瀬くん。ストレスが治療の一番の大敵だ。ストレスを感じるなというのは酷な話だと思うが、なるべく思い悩まないこと。新に思ってることは言ってスッキリしろ」
「……はい」
「それと前にも話したが、この治療は突発的にヒートがくることがある。いつどこでどのタイミングでくるかわからない。だから、抑制剤を処方しておくよ。何かあったら使うといい」
普通のオメガはヒートがくるタイミングを周期で把握しているため、その時期には家に引きこもる。ヒート時のオメガのフェロモンを嗅いだアルファはラット状態になりオメガに襲いかかる。ラット状態になったアルファには理性などなく無我夢中でオメガに子種を植えつけて繁殖行動に徹する。それが未だに社会問題であり、襲われたオメガは深い心の傷を負い自害する者もいると聞く。
考えただけでもゾッとする。
葵は病院を出ると歩いて家まで帰る。帰っている途中、なんだか熱っぽくて体が重く感じた。頭もぼーっとする。風邪でもひいたのだろうか。新に移ったら大変だ。はやく帰って風邪薬でも飲もう。
少し早足で帰り道を歩く。何故だろうか、道行く人が次々と葵に目を向ける。どうしたんだろう。
そのとき、腕を掴まれた感覚がした。掴んでいる手を辿り見ると葵の腕を見知らぬサラリーマンが掴んだ。
「やあ、こんにちは」
「……こんにちは?」
なぜ腕を掴まれてるのだろう。この人になにかしてしまったのだろうか。
「君、誘ってるの?」
誘ってる? なんのことだろう。葵は首を傾げる。
「こっちへおいで」
男が葵の腕を掴んで引っ張る。いつもなら簡単に振り解いて蹴りを入れるのに、今日に限ってはなぜだか力が入らない。腕を引かれ向かった先はラブホテルの前で、葵は咄嗟に恐怖を感じた。
「どこに連れて行く気だよ、おっさん!」
「どこってホテルだ。欲求不満なんだろ?」
「誰が‼︎ 離せ‼︎」
「うるさいな。そんな甘い匂いぷんぷんさせてなにするんだはないだろ」
男が振り向いた。その男の顔を見て葵はぎょっとした。目はギラつき獲物を狙う目だった。掴まれている手は痛くて堪らない。
そこでようやく自分がヒートになっていることに気付いた。
「初モノの匂いだ。君、最近発情期が来たばかりなんだね。初々しい匂いがするよ」
男はくんくんと葵の匂いを嗅ぐ。
「やだっ、嗅ぐな…!」
葵は近寄ってきた男の顔を叩いた。力が抜けた隙に掴まれていた腕を払い除け、すぐに男から離れた。
爪で頬を傷つけてしまったらしく、男の頬には血がたらりと流れ落ちる。
「あーあ。このキズどうしてくれんのかなー」
男は葵を上から見下すような目で睨みつける。
「威勢のいいオメガは嫌いじゃないが、アルファの前ではオメガはただの性欲処理のオモチャなんだよ。黙って足を広げとけば気持ちよくしてやるから」
嫌だ。
「それとも道端で犯して欲しいかい?」
怖い。
「フェロモンダダ漏れさせてる君が悪いんだよ」
上から下まで舐めるように向けられる性的な視線。
気持ち悪い。
思わず胃液が逆流しそうなった。
「君、ほんといい匂いだね。もう我慢できそうにないよ。ここでいいよね」
鼻息も荒く、息が荒い男。かつて自分を襲った叔父を思い出し、カタカタと体が震える。
「震えちゃって可愛い♡」
怖い。怖い。怖い。
葵は腰が抜けその場に座り込んだ。男は見下ろし舌舐めずりをする。
ゆっくりと伸びてきた手。
葵は思いっきり目を閉じた。
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