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4話
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バイトが終わり一人で家に帰った。一人だと食べる気も起きなかったため、適当にスープだけで済ませた。夜遅く帰ってくるだろう碧人のために梅おにぎりと昆布の佃煮のおにぎりを作り、埃がかぶらないようにラップをかけ丸い食卓の上に置いた。
蒼太は一人でいるときはテレビをつけない。テレビがついているときは碧人が見ているときだけだ。いつもはソファーに碧人が座っていてDVDを見ながら食後のデザートを食べている。おかげで冷蔵庫の中はプリンやチョコレート、アイスだらけになっている。
蒼太がソファーに座ると体を引っ付けてきて、時々太腿に頭を乗せて寝たりする。男の太腿など柔らかくもないし硬くて痛いだろうが、碧人いわく硬めの枕が好きらしい。
碧人は髪を撫でられるのが好きで、特に膝枕している最中に髪を撫でられるのが好きらしい。気持ち良さそに目を細め、猫のようにごろごろ言い出すんではないかというほどリラックスしている。時々手にすりすりと擦り寄られ、本物の猫のように思えてくる時もあった。
自分だけに見せてくれる特別な姿だと思っていたが、多分、碧人は他の人にも同じようなことをしていると思う。
普段の経営者の姿とはまるで違うギャップに女も男もコロリと心を奪われてしまうに違いない。
時計を見ると23時を過ぎていた。いつもなら22時までには帰ってくるのに遅すぎる。やはり夜遊びをしているのだろう。碧人は仕事だといっていたが、あの受付嬢はデートと言っていた。あの受付嬢と碧人は前も体の関係を持っていた。性的な経験は未経験である蒼太だが、知識くらいはある。今頃、碧人は受付嬢と濃厚な夜を過ごしているに違いない。想像しただけでぶわっと涙が溢れてきた。
碧人のやることに口を挟むつもりもないし、蒼太は家族になることを選んだのだ。こんなことくらいで泣いてはいけないと我慢するが、涙は止まってくれない。
ソファーには碧人が朝脱ぎ散らかしたままの普段着が無造作に置かれていた。蒼太はその普段着を掴み、くんっと吸った。碧人の匂いがして安心する。蒼太は碧人の服を抱きしめながらソファーに寝転び、碧人の匂いを感じながらうとうとと襲ってくる睡魔に負けて瞼を閉じた。
朝起きると毛布がかけられていた。食卓に用意していたおにぎりもなくなっていた。蒼太はソファーから起き上がり寝室の襖を開ける。
そこには布団の膨らみが一つ。布団の隙間からぴょこぴょこ寝癖が飛び出していた。碧人の姿を確認して無意識に「……よかった。帰って来た」と出た。
一体いつ帰ってきたのだろう。蒼太が寝た時間は23時以降だったから、それ以降だ。
あの受付嬢とどこでなにをしていたのだろう。
もやっと黒い感情がわき上がり、蒼太はその感情を隠すように寝室を出て顔を洗った。
台所に戻り朝食と弁当の用意をする。無意識に考えてしまうことは碧人のことで、必死に思考を料理に切り替える。
「おはよう。蒼太」
背後から話しかけられ、蒼太はビクッと肩を震えさせた。蒼太は声がしたほうに顔を向ける。
「おはよう。碧人。はやいね」
無理やり笑顔を作る。
「あのさ……」
「なに?」
「……昨日、何時に帰ってきたの?」
「1時半過ぎくらいだけど」
「仕事だったんだよな?」
「そうだよ。電話しただろ?」
「……うん」
嘘をつかれた。
本当はデートだったくせにと唇を軽く噛む。
いつもはダラダラ食べるくせに今日は食べるのがはやい。そんなにはやく会社に行きたいのだろうか。
(あの人にそんなにはやく会いたいのかよ……)
受付嬢の顔が浮かび、ちりっと胸が痛む。
「今日張り切ってるね」
「そうかな」
「いつもサカキンがくるまで仕事行きたくないって言ってるのに」
「僕だって仕事したいときもあるよ。社長だしね」
「なにかはやくいかないといけない理由でもある?」
蒼太が尋ねると碧人は黙った。目をきょろきょろと泳がせて、なにかを隠している様子だった。
「特にないよ」
「……ふーん」
「今日も帰りが遅くなりそうなんだ」
「仕事?」
「うん。先に寝てて」
「……うん」
「あと、ちゃんと布団で寝ろよ。ソファーで寝るの禁止ね。風邪ひくよ」
「うん」
碧人は蒼太の頭を撫でた。
「じゃあ、行ってくるよ」
蒼太は玄関のドアを開けて出て行く碧人に手を振る。
扉が閉まった後、蒼太は我慢の限界を迎え消え泣き崩れた。
いつまで嫉妬心を隠し通さないといけないのか。
碧人のそばで碧人が他の誰かのモノになっていく過程を見ることがたまらなく苦痛だ。
蒼太はこの生活に限界を感じ始めていた。
蒼太は一人でいるときはテレビをつけない。テレビがついているときは碧人が見ているときだけだ。いつもはソファーに碧人が座っていてDVDを見ながら食後のデザートを食べている。おかげで冷蔵庫の中はプリンやチョコレート、アイスだらけになっている。
蒼太がソファーに座ると体を引っ付けてきて、時々太腿に頭を乗せて寝たりする。男の太腿など柔らかくもないし硬くて痛いだろうが、碧人いわく硬めの枕が好きらしい。
碧人は髪を撫でられるのが好きで、特に膝枕している最中に髪を撫でられるのが好きらしい。気持ち良さそに目を細め、猫のようにごろごろ言い出すんではないかというほどリラックスしている。時々手にすりすりと擦り寄られ、本物の猫のように思えてくる時もあった。
自分だけに見せてくれる特別な姿だと思っていたが、多分、碧人は他の人にも同じようなことをしていると思う。
普段の経営者の姿とはまるで違うギャップに女も男もコロリと心を奪われてしまうに違いない。
時計を見ると23時を過ぎていた。いつもなら22時までには帰ってくるのに遅すぎる。やはり夜遊びをしているのだろう。碧人は仕事だといっていたが、あの受付嬢はデートと言っていた。あの受付嬢と碧人は前も体の関係を持っていた。性的な経験は未経験である蒼太だが、知識くらいはある。今頃、碧人は受付嬢と濃厚な夜を過ごしているに違いない。想像しただけでぶわっと涙が溢れてきた。
碧人のやることに口を挟むつもりもないし、蒼太は家族になることを選んだのだ。こんなことくらいで泣いてはいけないと我慢するが、涙は止まってくれない。
ソファーには碧人が朝脱ぎ散らかしたままの普段着が無造作に置かれていた。蒼太はその普段着を掴み、くんっと吸った。碧人の匂いがして安心する。蒼太は碧人の服を抱きしめながらソファーに寝転び、碧人の匂いを感じながらうとうとと襲ってくる睡魔に負けて瞼を閉じた。
朝起きると毛布がかけられていた。食卓に用意していたおにぎりもなくなっていた。蒼太はソファーから起き上がり寝室の襖を開ける。
そこには布団の膨らみが一つ。布団の隙間からぴょこぴょこ寝癖が飛び出していた。碧人の姿を確認して無意識に「……よかった。帰って来た」と出た。
一体いつ帰ってきたのだろう。蒼太が寝た時間は23時以降だったから、それ以降だ。
あの受付嬢とどこでなにをしていたのだろう。
もやっと黒い感情がわき上がり、蒼太はその感情を隠すように寝室を出て顔を洗った。
台所に戻り朝食と弁当の用意をする。無意識に考えてしまうことは碧人のことで、必死に思考を料理に切り替える。
「おはよう。蒼太」
背後から話しかけられ、蒼太はビクッと肩を震えさせた。蒼太は声がしたほうに顔を向ける。
「おはよう。碧人。はやいね」
無理やり笑顔を作る。
「あのさ……」
「なに?」
「……昨日、何時に帰ってきたの?」
「1時半過ぎくらいだけど」
「仕事だったんだよな?」
「そうだよ。電話しただろ?」
「……うん」
嘘をつかれた。
本当はデートだったくせにと唇を軽く噛む。
いつもはダラダラ食べるくせに今日は食べるのがはやい。そんなにはやく会社に行きたいのだろうか。
(あの人にそんなにはやく会いたいのかよ……)
受付嬢の顔が浮かび、ちりっと胸が痛む。
「今日張り切ってるね」
「そうかな」
「いつもサカキンがくるまで仕事行きたくないって言ってるのに」
「僕だって仕事したいときもあるよ。社長だしね」
「なにかはやくいかないといけない理由でもある?」
蒼太が尋ねると碧人は黙った。目をきょろきょろと泳がせて、なにかを隠している様子だった。
「特にないよ」
「……ふーん」
「今日も帰りが遅くなりそうなんだ」
「仕事?」
「うん。先に寝てて」
「……うん」
「あと、ちゃんと布団で寝ろよ。ソファーで寝るの禁止ね。風邪ひくよ」
「うん」
碧人は蒼太の頭を撫でた。
「じゃあ、行ってくるよ」
蒼太は玄関のドアを開けて出て行く碧人に手を振る。
扉が閉まった後、蒼太は我慢の限界を迎え消え泣き崩れた。
いつまで嫉妬心を隠し通さないといけないのか。
碧人のそばで碧人が他の誰かのモノになっていく過程を見ることがたまらなく苦痛だ。
蒼太はこの生活に限界を感じ始めていた。
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