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特別な人
特別な人 第5話
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「樹里斗さんには俺も結構怒られてな。そういえば」
「あはは。そうだね。母さんってか弱くて大人しいイメージ持たれがちだけど、ああ見えて結構強いんだよね」
昔を思い出してか、ちょっぴり遠い目をする虎君に僕は声を出して笑う。
僕の母さんは何年たっても少女のように可憐で柔らかい雰囲気を持っていて、その見た目は年をとっても全然変わらないから周りから永遠の美少女と言われている。
周囲はその見た目と線の細さから気弱で病弱とイメージされがちな母さんだけど、実は芯が強くてちょっぴり強情なところがあるしっかり者だと知っているのは僕達家族と極一部の友達だけ。
母さんの親友の子供である虎君は当然その真実を知っていて、昔は姉さんと茂斗と四人で悪戯してよく怒られたりもしたっけ。
「何気に母さんより樹里斗さんに怒られた回数の方が多い気がする」
「えー? それは言い過ぎじゃない?」
「いや、本当に。怒られた回数だけでいうと、樹里斗さん、茂さん、母さん、父さんの順だと思うし」
自分の親に怒られた回数より葵の親に怒られた回数の方が絶対多い。
そう言い切る虎君に僕は「うちの親ってそんなにうるさい?」と苦笑いを返してしまう。
「うるさいとは思ってないよ。茂さんと樹里斗さんの事は俺にとって父さんと母さんとは別の親みたいな存在だし」
その言葉に、僕は納得。僕も虎君のお父さんとお母さんに対しては同じ想いを抱いていたから。
虎君が同じ想いを抱いてくれていたことに安心して笑えば、虎君はおちゃらけて言葉を続ける。
「まぁ、父さんと母さんのことだから躾とか全部葵んちに丸投げしてた感はあるよな」
と。
虎君のお父さんとお母さんは、実は芸能人。あまりメディアに露出しない人たちだけど、その知名度から雑誌記者に追いかけられることも度々あって、二人の子供とは言え一般人である虎君はその度大変な目にあっていた。
だから虎君のお父さんとお母さんは虎君の事を一番に考えて、雑誌記者とかマスコミから虎君を守るために知り合いの家に虎君を預けたりしていた。それが、僕の家。
確かにそういう経緯があるから虎君がこんな軽口を言うのは分かる。でも、分かっても注意はするというもので……。
「もう! またそんなこと言うんだから! その言葉、お父さんとお母さんが聞いたら悲しむよ?」
「父さんと母さんが悲しむ、か。ちょっと想像できないなぁ」
僕の反応は予想通りだったのか、虎君はクスクスと笑ってまた軽口を返してくる。当然僕はそれも窘めるんだけど、虎君は身を引くと椅子にもたれて笑うだけ。
「虎君!」
「大丈夫。ちゃんと分かってるよ」
唇を尖らせて怒れば、虎君は「わざとだよ」って悪戯に笑う。
「父さんと母さんが忙しいことは分かってるし、俺の事を一番に考えてくれてることもちゃんと分かってるつもりだよ」
「本当に?」
「本当に」
長期休暇だけじゃなくて暇があれば必ず顔を見に来てくれる両親の愛を疑ったことは一度もない。
そう頷く虎君に、僕はからかわれたと今度は拗ねる。でも、虎君はからかったんじゃないよって言ってきて……。
「からかってないなら、なに?」
「葵がそうやって怒ってくれることが嬉しいから、かな」
「!」
虎君はこの上ないほど優しく笑って僕を見る。その笑顔は『お兄ちゃん』っていうよりももっと親密な関係の相手に向けられるべきものな気がしたのは、僕の気のせい……?
(な、何その笑い顔っ! 初めて見たよっ?!)
きっと……ううん、絶対、僕の顔は真っ赤になっているに違いない。だって顔、すっごく暑いから。
「な、な、なに、何言ってるの!? や、やだな! 虎君ってばそんな冗談言って!」
不意打ちで初めて見る表情を見せられたら、狼狽えて当然だと思う。そう。今の僕のように。
平静を装ってみるけど、全然うまくいかない。声は裏返るしどもるし最悪だ。
(あ、虎君笑ってる……)
肩を震わせて笑う虎君を見て、僕の顔はますます赤くなる。居た堪れなくて。
「虎君っ……!」
「ごめんごめん。葵の顔、今まで見たことないぐらい真っ赤だったから」
僕の顔を見て吹き出すなんて失礼にも程がある。
僕は赤い顔のまま頬をパンパンに膨らませて怒りを露わにして見せる。
「赤いフグ発見」
身を乗りだして手を伸ばす虎君は、人差し指で僕の頬を突っついてくる。
「僕、そういう冗談好きじゃない……」
「うん。知ってる」
「知ってるなら、どうしてそういう冗談言うの?」
頬から息を吐き出すも、虎君はなおも僕の頬をツンツンって突っつきながら笑う。
「あはは。そうだね。母さんってか弱くて大人しいイメージ持たれがちだけど、ああ見えて結構強いんだよね」
昔を思い出してか、ちょっぴり遠い目をする虎君に僕は声を出して笑う。
僕の母さんは何年たっても少女のように可憐で柔らかい雰囲気を持っていて、その見た目は年をとっても全然変わらないから周りから永遠の美少女と言われている。
周囲はその見た目と線の細さから気弱で病弱とイメージされがちな母さんだけど、実は芯が強くてちょっぴり強情なところがあるしっかり者だと知っているのは僕達家族と極一部の友達だけ。
母さんの親友の子供である虎君は当然その真実を知っていて、昔は姉さんと茂斗と四人で悪戯してよく怒られたりもしたっけ。
「何気に母さんより樹里斗さんに怒られた回数の方が多い気がする」
「えー? それは言い過ぎじゃない?」
「いや、本当に。怒られた回数だけでいうと、樹里斗さん、茂さん、母さん、父さんの順だと思うし」
自分の親に怒られた回数より葵の親に怒られた回数の方が絶対多い。
そう言い切る虎君に僕は「うちの親ってそんなにうるさい?」と苦笑いを返してしまう。
「うるさいとは思ってないよ。茂さんと樹里斗さんの事は俺にとって父さんと母さんとは別の親みたいな存在だし」
その言葉に、僕は納得。僕も虎君のお父さんとお母さんに対しては同じ想いを抱いていたから。
虎君が同じ想いを抱いてくれていたことに安心して笑えば、虎君はおちゃらけて言葉を続ける。
「まぁ、父さんと母さんのことだから躾とか全部葵んちに丸投げしてた感はあるよな」
と。
虎君のお父さんとお母さんは、実は芸能人。あまりメディアに露出しない人たちだけど、その知名度から雑誌記者に追いかけられることも度々あって、二人の子供とは言え一般人である虎君はその度大変な目にあっていた。
だから虎君のお父さんとお母さんは虎君の事を一番に考えて、雑誌記者とかマスコミから虎君を守るために知り合いの家に虎君を預けたりしていた。それが、僕の家。
確かにそういう経緯があるから虎君がこんな軽口を言うのは分かる。でも、分かっても注意はするというもので……。
「もう! またそんなこと言うんだから! その言葉、お父さんとお母さんが聞いたら悲しむよ?」
「父さんと母さんが悲しむ、か。ちょっと想像できないなぁ」
僕の反応は予想通りだったのか、虎君はクスクスと笑ってまた軽口を返してくる。当然僕はそれも窘めるんだけど、虎君は身を引くと椅子にもたれて笑うだけ。
「虎君!」
「大丈夫。ちゃんと分かってるよ」
唇を尖らせて怒れば、虎君は「わざとだよ」って悪戯に笑う。
「父さんと母さんが忙しいことは分かってるし、俺の事を一番に考えてくれてることもちゃんと分かってるつもりだよ」
「本当に?」
「本当に」
長期休暇だけじゃなくて暇があれば必ず顔を見に来てくれる両親の愛を疑ったことは一度もない。
そう頷く虎君に、僕はからかわれたと今度は拗ねる。でも、虎君はからかったんじゃないよって言ってきて……。
「からかってないなら、なに?」
「葵がそうやって怒ってくれることが嬉しいから、かな」
「!」
虎君はこの上ないほど優しく笑って僕を見る。その笑顔は『お兄ちゃん』っていうよりももっと親密な関係の相手に向けられるべきものな気がしたのは、僕の気のせい……?
(な、何その笑い顔っ! 初めて見たよっ?!)
きっと……ううん、絶対、僕の顔は真っ赤になっているに違いない。だって顔、すっごく暑いから。
「な、な、なに、何言ってるの!? や、やだな! 虎君ってばそんな冗談言って!」
不意打ちで初めて見る表情を見せられたら、狼狽えて当然だと思う。そう。今の僕のように。
平静を装ってみるけど、全然うまくいかない。声は裏返るしどもるし最悪だ。
(あ、虎君笑ってる……)
肩を震わせて笑う虎君を見て、僕の顔はますます赤くなる。居た堪れなくて。
「虎君っ……!」
「ごめんごめん。葵の顔、今まで見たことないぐらい真っ赤だったから」
僕の顔を見て吹き出すなんて失礼にも程がある。
僕は赤い顔のまま頬をパンパンに膨らませて怒りを露わにして見せる。
「赤いフグ発見」
身を乗りだして手を伸ばす虎君は、人差し指で僕の頬を突っついてくる。
「僕、そういう冗談好きじゃない……」
「うん。知ってる」
「知ってるなら、どうしてそういう冗談言うの?」
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